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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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39/84

教えたい欲がある人が教師に向いているとは限らない

「中野くんは分からないところはないかしら」

「大丈夫だよ佐倉さん」


 休憩時間のあとの勉強中。たまに僕のことを気遣って聞いてくれるひうりだけど、今やっているのは得意分野なので質問することはない。

 ただひたすら演習をし続けているだけだが、得意分野だからこそこういうところでは点数を落としたくない、という気概でやっている。


「ひう、ここはー?」

「えっと…」


 林さんは、相変わらずひうりに質問し続けている。たまに忠もひうりに質問しているが、やはり林さんの質問回数がダントツで多い。

 でもよく聞いてみると、同じところで質問することはなく、一度の応答だけで理解しているようだ。理解力は高いってことなのだろうか。授業で理解できないということは、相当授業形態が林さんに合っていないようだ。


 忠も段々と集中できるようになってきた。最初はソワソワしていたものだが、今では必要な時以外は喋らない。


 もしかしたら、現時点で一番集中していないのは僕かもしれないな。


「中野くん…」

「ん?特に質問はないよ」

「そう…」


 ひうりが気を使って僕に訊いてくるけど、今のところ問題はない。


「本当に何もないの彼氏くん?」

「得意なところだからね」


 そこに林さんが訊いてくるけど…そんなに僕は理解力がないように見えるのだろうか。成績が良いとは言わないけれど、悪いとも言えないような成績なんだけどな…


「じゃあさ、苦手なところやろうよー」

「え?」

「折角ひうっていう素晴らしい先生がいるんだから、苦手なところは今のうちにやった方がいいと思うなー」


 僕は夢の中で質問できるから、無理して今できるようになる必要はないんだけど…まあでも一理あるか。もしかしたらひうりにも分からないことがあるかもしれないし、その時は他の人に頼れるという現状は苦手克服にも向いている。

 僕は別の教材を取り出した。うーむ、一気にやる気がなくなったな。


「へー、彼氏くんって数学苦手なんだー」

「というか理科系科目全般だね。応用が苦手で…」


 過去のテストでも、そういった応用系の問題で惨敗している。

 夢の中での勉強のおかげで、ある程度は解けるようになったものの、未だに苦手意識は抜けない。


「ほら、ひうの先生タイムだよ」

「りんりん、集中なさい」

「はーい」


 そうして林さんはおとなしくなった。神無月さんが怒る寸前という表情だったので、助かった。


「それで、中野くんはどこがお困りなのかしら?」

「えっと、この式の応用が…」


……


「ふー!終わったー!」

「忠、家に帰ってもちゃんと勉強してよ?」

「任せろ!」


 本当だろうか。不安だなぁ…


 夕方になって、僕たちの勉強会は終わった。


「ひう以外と勉強するって久しぶりだから新鮮だったー」

「林さん、友達と勉強会とかしないの?」

「ほかの人だと私遊びたくなっちゃうんだよねー。適度に休憩と集中をさせてくれるひうが一番!」


 なるほど。確かに林さんは遊びたがりだし、集中できないかもしれない。

 それに、ひうりの他に神無月さんがいた影響もあると思う。神無月さんは勉強会中ひたすら一人で勉強していたが、それが逆に僕たちに緊張感を与えていたように思える。


「今回のテストは行ける気がするぜー!」

「ちゃんと勉強しなさいよ進藤くん」

「はいっ!」


 返事はいい。本当に勉強するかはどうかは別だ。


「また集まりたいねー。流石に一日じゃ終わらないし」

「そうね。どこか空いてる日はあるかしら?」


 林さんの一言で、みんなのスケジュール調整と、次の予定が決まった。来週の日曜日だ。


「テストまであまり時間はないけど、頑張りましょ」

「「おー!」」


 林さんと忠の声が、近所に響いた。


……


「一樹くん、察しなさいよ!」

「え、何が?」


 僕よりも先にひうりが寝たらしく、僕が夢の世界に来た時にひうりも同時にやってきた。そして、現在進行形で怒られている。


「勉強会よ、勉強会!」

「えっと…コーヒーの代わりにジュースはあげたけど…」

「あれは嬉しかったけど…そうじゃなくてっ」


 うん?あれ以外に何かあっただろうか…


「私、何度も質問させる機会を作ったじゃない」

「うん」

「質問しなさいよっ!」


 興奮しているひうりを落ち着かせて話を聞いてみると、どうやら僕に勉強を教えたかったらしい。


「そんなに教えたいなら…」

「そもそも私は、りんりんに一樹くんに教えられるからって行ったのよ?」


 教室で林さんがした助言、それは僕への教鞭権だったようだ。


「それを期待してたんだけど…」

「僕は夢の中で教えてもらえるからいいかなって…」

「現実の私はそう思ってないから…はぁ、まあいいわ。確かにこの私は一樹くんと一対一で勉強できるものね」


 現実のひうりに夢の記憶はない。夢の出来事は覚えていないのが普通だ。

 なので、僕とひうりの二人っきりの勉強会を覚えていないのも普通のことなのだ。その点で、僕とひうりの認識の違いあったらしい。


「というか、僕に教えたかったの?」

「ええ。言っちゃうけど、現実の私は相当一樹くんに絆されているんだから。仲良くなれるチャンスがあるなら、結構積極的に動くわよ私」


 現実でもカップルになれる可能性は高いらしい。ひうり曰く、もうちょっとということなので、焦ることなく頑張ろう。


「ま、それはともかく、今日からここでも勉強よ」

「よろしくね、先生」

「任せなさい」

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。作者は理系ですが、そこまで点数はよくなかったです

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