パンフレットは効率を求めるのに必須
ひうりが逃げて行ったあと、ひうりがいた影響か、客が増えた。
あと、ひうりが着た影響で、メイド服を着てみたいという人が減った。多分、ひうりと比較されるのを恐れて、着たくなくなったのだろう。
あと、ひうりが着たメイド服はなぜか知らないけど、別途で管理されている。多分、男子の視線が妙だったからだと思うけど…理由は女子のみぞ知る。
「一樹!足りない材料持ってきて!」
「う、うん!」
客が増えた影響で、僕も仕事に駆り出されることになった。
料理班も忙しそうではあるけど、キッチンに入れる人数には制限があるので、僕は材料の運搬と下処理をすることになった。判定で言うと、ギリギリ料理班。
「今はバフがかかってるだけだから、しばらくすれば落ち着く!それまで頑張るぞー!」
忠が声掛けをしている。ああいうことをすると、とてもリーダーらしい。
忠も見ているだけではなくて、仕事をし始めた。一応いつでも問題に対応できるように雑用ばかりだけど、それでも忙しそうである。
……
「おい、一樹」
客も少しずつ減ってきた頃、僕は忠に話しかけられた。
「ほれ見ろ。時間を作ってくれたみたいだぞ」
忠が指さした先には、いつもの制服に着替えたひうりが立っていた。
僕は忠に一言言ってから、ひうりに近づく。
「佐倉さん、早かったね」
「ええ。どうやら私の宣伝がうまくいったらしくて…おかげで早めに休憩をもらえたわ」
時間は大体昼。忙しく働いたから、僕はそれなりにお腹がすいていた。
「忠、えっと…」
「気にすんな!一樹休憩にはいりまーす!」
忠の一言で、男子の視線が一気にこちらを向いた。どうやら、僕がひうりと一緒に文化祭を周ることは既に周知の事実らしい。
「んじゃ行ってこい!」
「…うん」
なんとも言えない気持ちで、僕はテントの外に出た。
「さ、行きましょ」
「うん」
ひうりは嬉しそうにこちらの手を引いてくる。
それを見た男子の視線がさらに険しく…帰り道で僕は今日殺されてしまうかもしれない。しかも、一人じゃなくて複数人によるリンチで。
……
「…一樹くん」
「えっと…ひうり?」
急に名前で呼ばれて、僕は驚きながら返事をした。僕たちは今、仮設されたグラウンドのベンチで休憩中だ。
僕たちは、販売されていたフランクフルトを食べていた。ソーセージを焼くだけの簡単なもの…だけど、色々な種類を用意していたらしく、そのせいで忙しそうにしていた。
値段は安く、食べやすいものなので、結構人気の商品となっていた。
そこから近場のベンチなので、ここには人が多い。名前呼びは二人のときだけだと言っていたけど…
「今日は、名前で呼びましょ」
「それはいいけど…ああいや、僕はよくないかもしれないけど、どうして?」
もし僕がひうりのことを名前で呼んでいるところを男子に発見されたら、僕は帰り道ではなく、その場で殺されることになるかもしれない。
「文化祭なんだから、私たちが名前で呼び合っていても誰も気づかないわよ」
それはどうだろう。僕はそうは思わないけどな。
「それに、折角なら、ね?」
でもひうりが可愛く言ってくるので、僕は拒否せずに了承した。
名前で呼んだところで、被害にあうかもしれないのは僕だけなのだ。ひうりが楽しそうにしているので、僕は拒否する理由がない。
「あとで骨は拾ってね…」
「え?」
不思議そうな顔をするひうり。
取り敢えず、僕はフランクフルトを食べきってしまうことにした。この文化祭中の覚悟を決めるためである。
「そんなに気迫がある食べ方初めて見たわ…」
「覚悟だから」
……
ご飯を食べたら、ひうりと一緒に色々と出し物を見ることにした。
入口のところで配っていたパンフレットによると、今年は結構出し物に被りがない。
食べ物屋という括りで言うと、いくつかの被りがあるものの、同じ商品を売ってしまって客がバラけるようなことにはならなかったようだ。
「去年は綿菓子が二つあった気がするわ」
「なぜか知らないけど、綿菓子機を持ってる人が校内に二人いたみたいだね」
そのことがあったからか、去年綿菓子機を持ってきた人は、今年は綿菓子以外にしたらしい。
今年は綿菓子を売ってるところがないから、今年売れば客がバラけずに済んだだろうに。
「…一樹くん、甘いものが食べたいわ」
「自制心は?」
「あなたといると食べたくなるの。前にも言ったでしょ?」
それは夏のお出かけのとき。
あのときも、ひうりは甘いものが食べたくなると言っていた。夢の影響なのは間違いないだろうけど、夢で楽しんだ結果現実に悪影響があるのはどうなんだろう…
夢の中での甘いものを制限するか…でもそれだとひうりが不満げになるしなぁ…
「あ、これ見て。チョコバナナが売ってるらしいわよ」
僕がそんなことを考えている間に、ひうりは甘いものを見つけたらしい。
パンフレットによると、校舎の二階の教室でチョコバナナを売っているらしい。流石にチョコを外で売るわけにはいかなかったのだろう。
「行ってみよっか」
「ええ、楽しみだわ」
夢の中で、ひうりにチョコバナナを与えたことは一度もない。一個で完全に満足できないものは、あまり渡さないんだよね。
教室に行ってみると、確かにチョコバナナを売っていた。
シンプルなやつ、キラキラしてるやつ、カラフルなやつ…チョコバナナ一つで勝負するにあたって、ちゃんと準備をしていたらしい。
「ひうり、どれにする」
「このカラフルスプレーのやつにするわ」
カラフルスプレーとは、カラフルなチョコのトッピングのことである。スプレーというと霧状のものを想像するが、そうでなくてもスプレーと言うらしい。
「僕はシンプルなやつでいいかな…店員さん」
僕は店員さんに話しかけた。
「なるほど、シンプルカップルですね。先輩たちのコンビに比べると普通ですが、これはこれで面白いことに…」
「あのー」
「あ、失礼しました。二つで三百円になりまーす」
こちらを見てトリップしていた女子を正気に戻して、お金を払う。
なんか視線が怖いから、さっさとここから離れてしまおう。
「面白い子ね」
「うーん…」
一年生の子だったけど、あれはちょっと将来が心配になるタイプの面白さだ。
「この学校には色んな人がいるのね」
「あー…そうだね」
夢操作ができる人がここにいるのだ。ああいうタイプの子なんて、むしろ普通だろう。
超能力者とか、幽霊とか、転生者みたいなのじゃないと、僕ほど変な人にはなれないだろう。
謎のマウントを取りつつ、僕たちは教室を後にした。
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あと、作中の学校には一樹くんと並べるくらい変な人がそれなりにいます




