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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話
3/84

夢で起きたことを覚えていられるのは精々一日

 学校に行くと、忠がいつものように僕の机に座っていた。

 高校生にもなって、注意されても永遠に治らないっていうのは深刻だと思うんだけど、多分忠はわざとやっているのでどうしようもない。


「そうそう、さっき黒棘姫が来てたぜ」

「そうなの?」

「でもお前がいないと分かるとすぐに自分の教室に戻っちまったけどな」


 ひうりは僕と違って優等生なので、僕よりも早く学校に来て自主的に色々活動している。

 しかしながら、僕のところに朝から来るときは、基本的に僕が来るまでここで本を読んだりして待っているのだ。そんな彼女が、僕がいないと分かるとすぐに戻った?

 ひうりがここに来る目的は、大抵何かあったときだ。ただの雑談目的でここに来たことは、今のところ数回しかない。昨日は、一緒に桜を見ただけで何か相談事があった様子はないんだけど、どうしたんだろうか。


「ま、気が向いたら会いに行きな。愛しの姫様によ」

「…そうだね」


 ひうりがお姫様扱いされているのは、本人も望むところに近いので問題ないのだけど、それ以上に僕がひうりに会いに行くことはちょっと考え事だ。

 ひうりは隣のクラスなので、会いに行くとなると僕が隣のクラスに行くことになる。元より友達が多くない僕が、ひうりに会いに行ったとなれば男子たちの殺気が大変なことになる。

 本当は僕が会いに行かないといけないんだけど、流石にひうりがまたこっちに来るか夢の中で話すまで待った方が良さそうだ。


「そうだ。夏休みはどうするよ」

「夏休み?」

「そうだ。そろそろだからな。早めに予定を作りたいわけよ。来年にゃ忙しくなってるだろうし、今年は遊びまくろうぜ!」


 忠はそう言ってるけど、僕は遊びに行く予定がない。

 ひうりと出かけるならまだしも、そうでないのならばわざわざ炎天下の外に出る理由はないのだ。そうするくらいなら、夢の中でひうりと一緒に遊ぶ。


「どうせお前のことだから家から出ないとか言う気なんだろ?」

「よく分かってるじゃないか。僕は出かけないよ」

「ところがどっこい。そうはいかない!」


 なぜか自信満々な顔をしている忠。考古学者って、もうちょっと落ち着いた人のイメージがあるんだけど、親もこんな感じの性格なのだろうか。それとも忠だけなのだろうか。


「なんと!俺たちが企画している海水浴に、あの黒棘姫が来てくれることになりましたー!」


 …それは、すごいな。

 ひうりは成績もいいが、それ以上に運動神経が良い。しかしながら、本人はそこまで外に出るタイプではないのだ。理由を聞いてみると、外には誘惑(おいしそうなもの)がいっぱいあるかららしい。

 そういうわけで、ひうりが休みの日に外に出ることは非常に少ないのだ。夢のひうりが意識誘導して、眠気を誘発することで、僕と一緒に夢で遊んでいることが多い。


「俺たちって何?」

「二年生合同海水浴企画運営の俺たちだ!」


 そんな当然のことのように言われても、僕はその集団のことを一ミリも知らない。


「どうやって誘ったの?」

「それは俺も知らねー。運営の中にいる女子たちに、黒棘姫の勧誘は任せたからな」


 うーん、だとしても女子たちがどうやってひうりを誘ったのか気になるな…

 夢の中で聞いてみてもいいかもしれない。


「ともかく!一樹も行くよな!?」

「えぇ…まあ、そうだね。行くよ」

「やっぱりな!姫を交渉材料にすれば上手くいくと思ってたぜ」


 海を夢の中で再現することもできるけど、実際の海に行くのがもう何年振りというレベルなので、ここらへんで一度記憶を更新しておくのもいいかもしれない。

 これで僕が泳げないとかだと、ちょっとばかり嫌なのだけど、普通に僕は泳げるので問題ない。


「んじゃ詳しくは後日な」

「分かった」


 どうせ課題をする以外は基本毎日空いているのだ。急用でもできない限り、日程がいつになっても僕にとって障害にはならない。

 しばらくすると担任がやってきたので、話はここで終わりになった。


……


 昼休み。僕は、ひうりが一人で外のベンチに座っているところを見つけた。

 朝に忠から言われたことを思い出し、ちょうどいいと思って話しかける。ひうりは近寄りがたい雰囲気を出しているので、男子も女子もあまり近付かないのである。


「佐倉さん」

「…?中野くっ!」


 その瞬間、ひうりの顔が一気に赤くなった。

 そして、その反応を見てとあることを思い出す。

 夢の中での記憶というのは、基本的に現実のひうりに引き継がれない。どれだけ強く念じたところで、思考誘導程度にしか影響しないのだ。しかし、何事にも例外があり、夢の中のことが強く現実に影響を及ぼすことがある。

 その最たる例が、キスである。初めてひうりとキスした時に分かったことなのだけど、どうやら僕とキスをしたという感覚が残るらしい。はっきりと、ではなくぼんやりとしたものらしいのだけど、キスをしたという事実を認識できてしまうらしい。

 そのせいで、キスをした次の日はこうして現実のひうりが顔を真っ赤にしてしまうことが多いのだ。夢の中では僕とひうりは恋仲だけど、現実ではただの友達だからね。

 とはいえ、それを話すわけにはいかない。そもそも、僕はひうりの夢など知るはずもないのだから、知らないフリをしないといけないのだ。


「大丈夫?」

「ええ…大丈夫よ」


 顔を赤くしながらも、毅然とした態度を作るひうり。ここらへんの切り替えの早さはすごいと思う。


「朝に僕の教室に来てたらしいけど…」

「ああそのこと…特に用事はなかったのだけど、ちょっとだけ聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「ええ。中野くんは、海に行くのかしら?」


 忠が言っていた、海水浴企画の話かな?


「うん、行くことにしたよ」

「そう…ならいいわ」


 それだけ言うとひうりは黙ってしまった。こうなった時は、僕は何も言わずにそっと離れるのがいい。

 それにしても、夢の中のひうりならまだしも、現実のひうりが僕の予定を気に掛けるなんて珍しい。毎晩夢の中のひうりが、僕を意識するように念じているらしいから、その影響が出始めてるのかな?

 まあ、色々と詳しい話は夜に聞けばいいだろう。

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