人には向き不向きがあるけど、不向きだからといって逃げることはない
文化祭期間中であっても、学校という場なので授業はある。
文化祭前日になれば、その授業をなくなって一日中文化祭の準備になるけど、それまでは、午前中は普通の授業だ。
「早く放課後になれ…」
目の前で潰れている忠のように、文化祭にテンションを上げまくっている人にとっては、この授業時間がとても苦痛に感じるようだ。
僕にとっては、この授業時間も大切なものだという認識なので、真面目に受けている。というか、次回のテストこそはひうりに報いないと。
あれだけひうりに助けてもらったのに、前回のテストも前々回のテストも微妙な成績だった。急に成績が良くなるわけではないと理解しているけど、もうちょっと頑張りたい。
「次は移動教室だよ。化学の実験」
「実験!?やっほう!」
そして、授業を面倒に感じている人は、往々にして実験ではしゃぐのである。
……
「昼休みのうちに伝えておくー」
午前中の授業が終わり、元気になった忠が前に立った。
まだ皆は食事を始めてもいないときで、僕も手を洗ってきたばかりだ。
「今日は班分けをするから、衣装・料理・小道具・大道具・接客の中から考えといてくれー」
それだけ言うと、忠は僕のほうにやってきた。
「んじゃ弁当食うか」
忠と僕は、一緒に食べることが多い。
「忠は何をするの?」
「俺は統括だからな。人手が足りないところを手伝うって感じだな」
忠は、頭を使うところ以外では優秀だ。
リーダーとしての素質もあるし、盛り上げる役としても完璧だ。
「一樹はなにをする?接客しないか?」
「しないよ。するわけないだろ」
そもそも、接客向きの顔でも性格でもないし。
僕が接客なんてしたら、それだけ人気が下がってしまうだろう。自己評価が低いというなかれ、事実だ。
「一樹って料理できるっけ」
「人並みには。でも、あまり洒落たものは作れないから、カフェには向いてないと思うよ」
元々家庭科での授業もあって、それなりに料理ができた。
ひうりと付き合ってからは、ひうりのために色々と料理を知った。作れるとは言わないけど、ある程度ならできると思う。
「でも小道具とか作れるのか?」
「ほかのに比べれば、まだ出来ると思うよ。ただ、そのせいで集まる人も多そうだなぁ…」
道具作りなど、いくらでもいていいし、少なくても問題はない。
しかし、接客や料理などはそれなりに人数が必要なのだ。人数が偏ってしまった場合は、希望していない仕事に割り振られてしまうこともあるだろう。
「当日はシフト制で、ほかのクラスの出し物もちゃんと見れるようにしたいからな。接客とかの人数は増やすつもりだぞ」
カフェで何を出すのかとか、そういうのは決まっていないので、まだ確定させるのは難しい。
だが、だからこその人数増員という意味もあるだろう。
「一樹も、黒棘姫と回るんじゃないのか?」
「え?どうかな」
特に約束もしてない。
それに、夢での約束が確実に現実に反映されるわけではないし、かといって現実で僕から誘うのは勇気が足りない。
「もうほとんど彼女みたいなものだろ?」
「友達だよ」
現実では。
「まあいい。考えておいてくれよ」
……
「それで…決まったの?」
「一応小道具ってことになった。でも、もしものときは料理班に入れって」
僕が思ったよりも、小道具の希望者は少なかった。なので、じゃんけんをすることもなく、すんなりと役割は決まったのだ。
しかし、僕のクラスには、思ったよりも料理ができそうな人がおらず、誰かが休みになったときは、僕が代わりに料理班に入ることになっている。
「まあ、裏方ってことね」
「そうだね。当日は、何かと雑用を押し付けられるみたい」
接客以外のスタッフだって必要だ。
僕には接客なんてできないが、まあ喋ることさえなければ前に出ることは問題ない。
「因みに場所はどこでするの?教室じゃ料理らしい料理もできないでしょ?」
「外の、火を使ってもいいスペース近くに、特別にテントを張るらしいよ。大道具の人たちが悲鳴を上げてた」
なんせ、外でも使えるような道具を作らなければいけないからだ。
それに、テントを張るのも大道具の人たちの担当らしい。その間に僕たちは、必要な道具を運ぶのだけど…確かに、テントを張るのは重労働だ。
「一樹くんが接客してるところは見れないのね」
「無理だよ。でも、料理も隠れた場所でするわけじゃないから、料理のほうなら見れるかもね」
料理担当の人に、欠席者が出ればの話だけど。
「一樹くんって文化祭を見て回る人とかいるの?」
「忠は総括だから、今のところはいないかな」
「そう」
…あ、これ誘う流れだったか!?
でも、夢の中で約束したところで、本当にそれが効力があるのかわからないし…それに、僕は記憶を持っているから合わせられるけど、ひうりは無理だ。
僕が真意を問おうとしたけど、その前にひうりは僕が渡したマカロンを食べだしてしまった。
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