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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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26/84

名前の由来など機会がなければ一生知らない

「一樹くんの名前の由来って何かあるのかしら?」


 ある夜、スムージーを飲んでいたひうりからそんな質問をされた。


 今日用意したスムージーは、果物をベースに甘いものをこれでもかと詰め込んだスムージーで、ひうりは気に入っているけど、僕にはちょっと甘すぎる飲み物だ。


「名前の由来?僕の?」

「ええ」


 何を思って、突然そんなことを聞きたくなったのかは不明だが、知っていることを話す。


「一本の樹のように、真っすぐ成長しますように…みたいな由来だったと思うよ。小学校の時に聞いたのが最後だから、ちょっとうろ覚えだけど」


 親の願い通り真っすぐ成長しているのかと問われると…正直ちょっと自信はないな。

 夢の中でのみの彼女と、こうして話しているあたり、真っ当ではないということは確実だろう。僕は現状に満足してるからいいけど。


「急にどうしたの?」

「気になっただけよ。深い意味はないわ」


 グラスの中に残った、少しのスムージーを飲み干しながら、そんなことを呟くひうり。


 これは…ひうりの由来も尋ねろという意味なのだろうか。僕は、ひうりの親の現状を知っているので、名前の由来は一つの地雷のような気もするけど…


「ひうりは?ひうりって名前にも何か由来があるの?」


 僕は聞くことにした。これでひうりが不機嫌になってしまったら、謝ることにする。

 恋仲だから、少し踏み込んだ質問をしてもいいはずだ。


「私は…響きじゃない?親に尋ねたこともないの。小学校でも、そういう課題はなかったし」


 地雷ではなかったけど、特に面白みのあることもなかった。


 自分の名前の由来は、そういった機会でもなければ知ることなどほとんどない。親及び名付け親にしか、その由来は分からないのだから、もし由来を聞く前に別れることになれば、一生知る機会は訪れない。


 ひうり…平仮名の、この世に存在しない名前を付けた理由を知りたいところではある。響きは確かに良いと思うけど、それだけなのだろうか。

 名前の種類なんていくらでもある。漢字の名前にしなかった理由もあるとは思うんだけど…如何せんあの親なので、深い意味がないかもしれないというのが厄介なところ。


「えっと…」

「聞いてみたら?なんて言うんじゃないでしょうね」

「それはないよ。有益な答えが返ってくる保証はないし」


 むしろ、親の機嫌を損ねてしまう可能性だってあるわけで。


「ひうりは、親とはあまり話したくないもんね」

「話したくない…とはちょっと違うかも。そもそもとして、話す機会がないわ。最後に親を見たのはいつかしらね」


 なんでもないように、ひうりは言う。実際、ひうりにとってはなんでもないのだろう。


 傍から見てる僕からすると、そんな寂しい家族は嫌だ。忙しくても、ちゃんと一緒にご飯を食べる僕の家とは大違い。

 いつ会ったのかも覚えていないのは、果たして家族と言えるのだろうか。


「家族の話をすると、一樹くんはいつも悲しそうな顔をするわね」

「まあ、そりゃね…」

「気にしなくていいのに。ここで、ストレス発散に付き合ってもらってるだけで嬉しいのよ」


 ひうりの、こういう反応を見ると、僕の家に住まわせたくなる。

 どうせひうりの親は帰ってこないのだから、それでもいいとは思うんだけどなぁ…


 僕が悩んでいると、ひうりは話題を切り替えるように話し始めた。


「うーん、今日は甘いもの以外が食べたいわ」

「え?えーと、何がいい?」

「パスタ。ペペロンチーノとか、それなりに好きなの」


 ひうりは嫌いなものがあまりない。だが、好きなものはそれなりにある。

 僕はその、それなりの多さの『好き』を覚えている。


「じゃあ、僕が駅前で見つけたパスタ屋のペペロンチーノを…」

「ふふ、ありがとう。そこの店のパスタ、好きなのよねぇ」


 どうやら、ひうりは僕がこの店のパスタを出すことを分かっていたらしい。

 なんだかちょっと悔しいな。


 ひうりがパスタを食べ始めた。

 その隣で、僕はサイダーを飲んでいる。


 ひうりの家族のことは、まだ僕はどうしようもない。現実で、ひうりから教えてもらわなければアドバイスもできない。

 また、ひうりからその話をしてもらうには、先に恋仲にならなければならない。


 前途多難である。


「あまり一樹くんが私のことで悩まないでほしいわ。気楽にしてくれればいいのよ」

「…うん」


 僕は、弱々しい返事しかできないのであった。

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