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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話
23/84

体育祭の熱は際限なく

「選手宣誓!」


 あっという間に、体育祭当日になった。


 僕は傍から見ていただけの、言うなれば脇役だったけど、運動部の人々はそれはもう青春を凝縮したような練習をしていたのを覚えている。


 二学期が始まってから、体育祭までは実のところ二週間程度しか時間がないのだ。その短い期間でも、短編小説が書けるようなやり取りをした運動部を、僕は尊敬する。

 君たちが頑張っている間、僕は日陰で休んでたよ。


「退場!」


 開会式が終了し、競技が始まる。


 一番最初は、男女の短距離走だ。

 距離の問題か、盛り上がりの問題かは知らないけど、先に女子が走り、その後に男子が走るという順番になっている。


 女子の四レーン目にひうりが並んでいる。

 本来は同じクラス、もしくは同じ色のチームメイトを応援すべきなのだろうが、まあ周囲では既に騒ぎ始めている男子が多いし、僕がひうりのことを応援していても誰も咎めないだろう。


 パンッ


 ピストルの音が響き、第一走者が走り出した。

 実況は放送部。特に面白みもない、テンプレのような実況が場内に響く。


 僕の学校は正直言って、あまり面白みのない学校だ。

 校則が緩くて、その点では他の学校よりも自由な校風ということになっているが、実際はそれ以外特筆するようなこともない学校なのである。


 これで面白い競技や実況があれば、僕も楽しく観戦する気が起きるのだけど…残念ながら、僕はひうりが出る競技と、忠が出る競技にしか興味がない。

 そして、ひうりが出る競技と忠が出る競技はほとんど同じである。


「あ、ひうり」


 ぼーっとしていたら、いつの間にかひうりの出番がやってきていた。

 その表情に緊張はなく、いつものコンディションという感じだ。昨晩も、コンディションチェックはしているので、問題なく走ることができるだろう。


「頑張って、ひうり」


 僕の声は、周囲の喧騒に紛れて消えた。でも、まあ、僕の声が聞こえなくてもひうりは大丈夫だ。


 パンッ!


 ピストルの音が響き、ひうりと共に数人のランナーが走りだす。

 短距離走ともあって、カーブはなくただの直進なので、長距離走に比べても断然実力差がはっきりと出る。


 ひうりは学年全体で見ても、運動神経が良い方だ。少しずつ、前に出てくる。

 そして、そのままゴールした。


「よしっ」


 僕は小さくガッツポーズをする。

 僕のチームは三位だったので、喜べる順位ではないのだけど、僕にとってはひうりが勝ってくれるだけで嬉しいものだ。そもそも、あまり総合成績とかは気にしていない。


「うーん、うちの女子の順位は芳しくないな…一樹、姫が勝って嬉しいのは分かるが、俺の勝負もちゃんと見てくれよ」

「分かってるよ。忠、頑張ってね。てか早く集合場所に行け」


 女子の短距離走の次は、すぐに男子の短距離走が始まる。

 

 忠の出場競技は、短距離走とリレーの二つだ。多分準備担当の人が困っているから、ニヤニヤしてないで早く行きなさい。


 忠が他の選手と並んでスタート地点に移動した頃、ひうりたちが戻ってきた。

 とはいえ、ひうりは別のクラスなのでテントが違う。話しかけることはできるけど、僕はそこまでの勇気を持ち合わせていない。


仕方なく、忠の様子を見守ることにする。仕方なく。仕方なく(不服)


 パンッ!


 男子も女子も短距離走の長さは変わらない。故に、平均して足が速い男子の方が競技がスピーディに進む。

 忠はひうりの時よりも後ろで、六列目にいたが、時間的にはほとんど同じタイミングでスタートを切った。


 僕はあまり忠に対して、足が速いという印象はなかったのだけど…結果は二位だった。


 びみょー…


「どうよ、はぁ、一樹」

「息を整えているところ悪いけど、微妙だよその順位」

「だよなあああ!!」


 うがーと声をあげる忠。一位か、そうじゃないなら最下位だったらまだ何か言えたのに。

 勿論、総合成績からすると、二位でも十分な成績である。しかし、感想を求められた以上は「微妙」より良いコメントも思いつかないものだ。


「くそぉ、リレーじゃぶっちぎってやる…」

「はいはい頑張れ」


 忠が出る競技はリレーと短距離。ひうりが人数調整のために長距離走に出ることを考えると、元々の出場競技は二人とも同じということになる。


 短距離走の次は二人三脚。ここに僕の知り合いで出場する人はいない。


「佐倉ひうり!見ててくれ!この加賀龍人の雄姿を!」


 知り合いは、いない。


 その次は綱引きの時間だ。そう、僕の出番である。


「ちゃんと勝ってこいよー」

「まあ、ほどほどに頑張るよ」


 僕だけが頑張っても勝てない競技だ。それは、僕が手を抜いていい理由にはならないが、疲労困憊になるまで頑張る理由もないだろう。

 僕は気楽な感じで集合し、綱の前に立つ。


 赤組綱引きチーム、総勢三十五名で緑組のチームと戦う。

 この綱引きは、トーナメント制なのだ。順番は前もって抽選で決められている。五チームなので、シードが存在してズルいようにも思えるが、この綱引きは最終順位だけではなく試合ごとに点数が入るので、例え一位だったとしてもシードチームは、他のチームよりも点数が低くなる可能性が高いのだ。


 シードなのは、ひうりの所属している青チーム。折角なら戦ってみたいけど、相手はシードなのでここで負けると戦う機会は得られない。


 パンッ!


 合図が鳴って、双方が綱を引き始める。


 数少ない練習の中で、掛け声を決めた。それに合わせて、皆で引っ張る。


「頑張れー!」

「引けー!」

「頑張ってー!」


 様々な学年が混ざっているからか、応援も豪華だ。男子も女子も参加しているということで、垣根なく応援してくれている。


 目立ちたくないとか、失敗してもバレないとかいう思いで参加したものの、ここまで応援されるとやはりやる気になる。

 去年もそうだったのだけど、この皆に応援されているという感覚が、存外モチベーションを高めてくれるのだ。


 パンパンッ!


 二回ピストルの音が鳴る。これは、終了の合図だ。


 結果は…赤チームの勝ち。引っ張っているときは無我夢中だったけど、こちらは終始勝っていたようだ。


……


「残念だったな。惜しかったが」

「思ったより悔しいね、これ」


 次の試合、黄組との勝負だったが、そこで負けてしまった。残念ながら、青チームとの勝負は出来なかった。


「にしても、俺が思ってた以上に頑張ってたな一樹」

「うん、なんかやる気が出たよ」


 でも、去年はここまでじゃなかったんだけど…やはり目標があったからだろうか。

 それとも、ひうりに見られているという環境だからだろうか。クラスの友達の数も、去年より多いのでそれもあったかもしれない。


 なんにせよ、去年よりも印象に残る試合だったということだ。


「俺も頑張らねえとなー!」


 忠が声をあげる。


 体育祭は、まだ続く。

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。作者は綱引きに何度も出場した記憶があります

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