炎天下での運動、それ即ち日射病となる
体育祭の練習が始まった。
と言っても、集団演技や応援合戦などはこの高校にはないので、練習が必要な競技は自分が出る競技だけだ。
その理由もあってか、この高校での体育祭に対する練習時間はそこまで多くない。
「早く外でてぇ…」
つまり、今の忠みたいな運動したい系男子が発生するというわけだ。
「僕はあまり出たくないかな。暑いし」
「一緒に海に行っただろー?お前も運動好きになっただろー?」
「なってないよ」
確かに、海で遊んだのはとても楽しかった思い出だ。
それ以外にも、ひうりと一緒に外で遊んだりもしたので、外に出ること自体はそこまで嫌いでもない。
しかし、この暑さは別だ。
未だに太陽は肌を焼くし、空気はジメジメしている。そんな中で、運動なんてしていられないのだ。僕は運動しないタイプの人間なので、練習だけでも体力は削れる。
「ほら、次数学だよ」
「うぇーい…」
元気のない忠の声が返ってくる。
運動していないときの方が元気がないとは…僕には考えられないコンディションである。
……
「ひうりはどう?」
「まあまあね。夏休み中も少し運動してたから、そこまで体力は衰えてないわ」
「それはすごいなぁ…」
ところ変わって夢の中。
僕とひうりは近況報告をしていた。この頃の話題は、専ら体育祭の練習についてだ。
運動というのは注意していても、怪我を負うことがある。そういう時にすぐ気が付けるように、こうして出来についての報告をするのだ。足を怪我した状態で運動したら、悪化しちゃうからね。
自分では大丈夫だと思っていても、客観的に見て体調が悪いということも多々ある。報連相は大切なのだ。
「一樹くんも練習してるんでしょ?」
「僕は走らないからね。綱引きでは他の人とのコミュニケーションを取る必要があるけど、練習らしい練習もしてないよ」
そもそも、綱引きは赤組全体で一チームなのだ。他の学年との練習時間の兼ね合いもあるので、中々まとまって練習することはできない。
僕の赤組、ひうりの所属している青組の他に、黄組と緑組が存在する。
この四つの色が、それぞれ場所を取って練習するので、大きなグラウンドで練習する機会はどうしても減ってしまうのだ。
「借り物は?走らないの?」
「ちょっとは練習したけどそれくらいだなぁ。カードを拾って、内容を読み取って、条件を探して走るから、練習したところで本番には活きないんだよ」
練習で簡単なお題が出たところで、本番で同じものが出るとは限らない。
借り物競争の練習は、走る順番とかレーンのミスがないかを確認するだけで終わる。それ以上練習したところで意味がないのだ。
そういう練習する必要がない競技よりも、リレーとか短距離・長距離走の練習に回した方が、結果的にいい試合を作り出してくれるだろう。
「ひうりは走るのばかりだから、頑張ってね」
「敵同士だけどね」
僕がひうりと走るのであれば、負けたくない気持ちもあるけれど、そうでないなら彼女を応援してもいいだろう。
「それで…ひうりは、家族は来るの?」
「…来ないわ」
ひうりの家族仲は、お世辞にも良いとは言えない。暴力こそないけど、会話もない。
「一樹くんのところは?」
「僕のところも来ないって。どうしても仕事抜けられないみたい」
可能なら来るとは言ってたけど、いつ来るかも分からないし、期待しない方がいいだろう。
ひうりの家とは違って、僕の家族はそれなりに仲がいい。
それでも、共働きということもあってか、こうした学校のイベントに必ず来てくれるという保証はないのだ。入学式などの大切な行事のときは必ず来るけど、そうでもないなら五分五分といったところだ。
「じゃあ、一緒にお昼食べない?体育祭のときは、自由に外でご飯食べてもいいみたいだし」
「僕はいいけど…ひうりはいいの?何か言われたりしない?」
「気にしないでいいわ。私が一樹くんと仲良くしていることは、それなりに周知の事実だもの」
そうなのか…そうだろうなぁ…
ひうりはあまり男性と話したがらない。なのに、僕にはああやって積極的に話しかけてくるのだから、話題にならないわけがない。
それで、ひうりに不利益がなければいいけど、今のところは問題ないらしい。
「じゃあ、当日はとっておきの場所に連れて行ってあげるわ」
「とっておき?」
「ええ。少なくとも、他の家族が来ることはないから安心してちょうだい」
そう言ってふわっと笑うひうり。
最近のひうりは、こうした柔らかい笑みを浮かべるようになった。かわいい。
「楽しみにしててね」
「うん。練習も頑張れる気がするよ」
体育祭の目標は、現時点をもって勝つことから、ひうりと一緒に昼を過ごすことに変更された。
「そろそろ朝ね。頑張りましょ」
「うん。怪我しないようにね」
……
朝、起きる。
顔を洗って、髪を梳かす。
「なんだか今日は、やる気があるわね」
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