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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話
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桜並木とロマンチック

 今日の夜もまた、ひうりと共に夢の中にいた。しかし、今日はいつもとテイストを変えて、白い部屋ではない。


「やっぱ桜ってきれいよねぇ」

「僕も桜が好きだよ」


 白い空間は、僕の考え次第でいくらでもその姿を変える。

 今はながーい桜並木を作り出した。桜が咲くような季節は、まだ僕とひうりは恋人ではなかったので、こうして今になってお花見をしようという話になったのだ。

 現実はもう七月に入るというタイミングなので、桜が咲いているのは違和感があるけど、ひうりが見たいと言ったので僕は従うまでだ。好きな理由は、苗字の佐倉と同じ名前だから、らしい。


「今日は甘いものじゃなくて、弁当みたいなのを食べましょう」

「どんなのがいい?」

「卵とかウィンナーとかハムとか…」


 ひうりは、甘いもの好きの影響かそもそもの食べ物の好みが幼い。きんぴらごぼうとか、煮つけとかはあまり好んで食べないのだ。ひうりは偉いので、苦手なものでもちゃんと出てきたら食べるらしいけど。

 でも何でも出せる、好きなものを食べれる夢の中で、態々ひうりが苦手なものを出したりはしない。要望通り、ひうりが好きなものと、僕が好きなものをいれた弁当箱を出現させた。


「いいわね」

「あ、レジャーシートも出すよ」


 広い道の真ん中、大量の桜が咲き誇る並木の中央に、二人っきり。

 普通なら、人通りが多くて他の花見客も多くて、なんていう少し大変な場所だけど、夢の中には僕とひうりしかいないので思う存分楽しめる。


「ん~、美味しい!」

「それはよかったよ」


 とはいえ、ひうりは花より団子らしい。一応花見もしているけど、どちらかと言えば食べることの方が好きのようだ。現実ではスレンダーな体系を維持してるから、現実は我慢ばかりなんだろうなぁ。


「…一樹くん、はいあーん」

「あーん」


 周囲に人がいれば恥ずかしくなるところだけど、僕とひうりだけならこういうことも思う存分できる。

 食べさせ合いくらいは、今までも何度もしてきた。気恥ずかしさは未だにあるけど、それを理由に拒絶することはない。

 ひうりが、僕が出した弁当を見ながら言った。


「いつか私も、手料理を振る舞ってあげたいわね」

「そうだね。ひうりの料理、楽しみだよ」


 試したことなかったけど、この空間にキッチンを出現させて、材料を出現させれば料理ができるのだろうか。完成品が出せるのだからあまり意味はないけど、ひうりの料理が食べられるのならやってみる価値はある。

 そも、僕の出す料理は僕が食べたことあるやつだけなのだ。もしここでひうりが料理が作れるのなら、僕が出せるもののレパートリーも増やせるかもしれない。


「それに、いつか現実でも花見に行きたいわね」

「それは、もっと現実でも親密にならないといけないかなぁ」


 現実の僕と佐倉さんの関係は、よくて仲の良い友達である。

 友達同士で花見に行くことも、別におかしなことではないのだけど、多分ひうりが言っているのは僕と二人っきりでってことだろうから、それは流石にただの友達同士では叶わない。


「現実の私に告白してもいいのよ?」

「それでちゃんと受けてくれる?」

「……意気地なし」


 でも、多分そういうことを言うってことは、僕の告白をひうりが受けるかどうかは分からないということだろう。

 夢の中のひうりと、現実の佐倉さんは別人格のようなものだ。中々どうして上手くいくことは少ない。


「ま、今はあなたとの花見を楽しみましょうか」

「そうだね。何かしたいことでもある?僕が知っているものであれば、大体何でもできるけど」


 車に乗りたいとか言われても、僕は車を運転したことがないので車っぽいものしか生まれない。他のものも同じように、僕が知らないならあくまでそれっぽいものしか生み出すことはできない。


「んー、じゃあ花吹雪がみたいわ!」

「了解」


 僕は頭の中で花吹雪をイメージする。強すぎず、見ていてきれいだと思えるような…僕が見てきたものの中で、一番きれいな花吹雪を…

 すると、風が吹き始めて、周囲の桜の木が揺れ始めた。それと同時に、空に桜の花弁が飛び始める。


「わぁ…」

「うん、いい感じ」


 目の前には、僕とひうりを包むように吹雪く桜が。

 僕はあまりアウトドア派じゃなかったので、こういう花見とかはしたことがなかったけど、前に一度川辺に植えてあった桜の木々が、桜吹雪を起こしているのを見たことがある。


「ひうりにも、見てほしかった光景だよ」

「うんうん!流石ね、一樹くん」


 ひうりにも満足していただいたようで良かった。

 夢の中ならこういう、奇跡的な光景が何度でも生み出せるから便利だ。希少性は減るけど、美しさが減ることはないので、たまに見せるくらいがちょうどいいだろう。

 いつかひうりと実際の光景も見てみたいけど…それにもやはり、現実で僕とひうりが恋人になる必要があるだろう。


「いつか一緒に見に行きたいわね…」

「…っ!そうだね」


 どうやらひうりも同じことを考えていたらしい。以心伝心みたいな、ちょっと違う気もするけど、そういう感覚だ。

 ついでとばかりに、僕は桜の木の周りにイルミネーションを置いて、空を星空にした。

 考えるだけで、瞬きする間に夜桜の風景となる。


「夜桜も良いわね。夜は…恋人になっても難しいだろうから」

「流石に男女で夜出歩かせてくれるような親じゃないからね。僕も、ひうりも」


 でも、ここならそれができる。

 光景が変わる瞬間っていうのは、完全に認識することはできない。夢らしく、気が付いたら風景が変わっていた、程度の認識しかすることができないのだ。でも、そのおかげで僕たちは違和感なく美しい光景を見ていられる。


「ね、一樹くん」

「ん?」


 気が付いたら、ひうりは僕の隣に立って、僕の手を握っていた。


「夜に二人っきりって、とってもいいムードだと思わない?」

「そうだね。ロマンチック、って言えばいいのかな。まだ学生の僕が分かるようなものでもない気もするけど」


 僕の返答にひうりは少し不満そうだ。

 尚、僕は別に鈍感系主人公ではない。ひうりが、今本当に何を望んでいるのかは分かっている。ただ、恥ずかしくなって僕の方から言うようにアピールする姿が可愛くて、ちょっとだけ揶揄う。


「ほら、夜空を見て…」

「違うわよ!」


 とうとう我慢できなくなったのか、僕の手を引っ張った。そのせいでバランスを崩しかけるが、なんとか耐える。目の前にはひうりの顔があった。


「私を、見てよ…」

「ごめんごめん。揶揄っただけだよ」

「分かってるけど、ずるいわ」


 ひどい、ではなくずるいと来たか。

 元々、そこまで他人と関わるようなタイプではないらしいひうりは、コミュニケーションがそこまで上手ではない。僕の夢に来た最初の頃は、僕との会話も多くはなかった。

 でも、恋人になってからはひうりがどんどんそういうアピールを覚えてきている。世の中の男子よ、これが僕の彼女だ。可愛いだろう。


「ちゃんと、私の目を見て」

「うん、見てる」

「…」


 そのまま僕とひうりは、唇を重ねた。


「これが、ロマンチックってやつよ」

「なるほど。勉強になったよ」



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