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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話
17/84

成り行きの逢瀬は、緊張せずに済む

 なんとなく街に来たら、中野くんいた。

 それで、遊びに誘われたから、なんとなく了承した。


 そのすべてはなんとなくだったけど、同時に必然だったようにも思える。私が今日、この街のあのドーナツ屋にいたことは、多分ただの偶然じゃなかった。


……


 これってデートと言うのだろうか。


 僕とひうりは、現実では未だにただの友達だ。だから、男女が一緒に遊ぶだけでは、これをデートを言うのは躊躇われる。

 しかしながら、今の僕たちを周囲から見れば、それはデートにしか見えないことだろう。高校生くらいの男女が、街を二人で歩いているところなんて見たら、少なくとも僕はデートだと思う。


「それで、どこか行きたいところがあるのかしら?」

「え?あぁ…」


 実は、これを機に夢の中のひうりに、デートならどこに行きたいかを聞いておいた。

 本当は僕が考えた方がいいのだろうけど、僕としても初めてなので失敗したくなかったのだ。夢の中のひうりには、少し苦笑いをされながら教えてもらった。


「ゲーセンとかどう?佐倉さんはあまり行かないイメージだけど」

「…初めてよ。行ってみましょ」


 最初の目的地はゲーセン。先日忠と一緒に行った場所だ。


 夢の中のひうり曰く、ゲーセンに行ってみたいとは思っていたけど、学校での態度や性格的にゲーセンで楽しんでると変に思われるだろうからと、ずっと遠慮していたらしい。

 僕がいるから大丈夫…とは言えないけど、少なくともひうりだけが変に思われることはないだろう。まあその時は、僕とひうりの仲を疑われるだけだ。


「これが、ゲーセンね。噂に聞いていたほどうるさくないわね」

「このゲーセンはあまり音ゲーを置いてないからね。もっと中央のゲーセンだとうるさいと思うよ」


 ここに置いてある音ゲーなど、あの太鼓のやつくらいしかない。洗濯機っぽいやつとか、ピアノっぽいやつとか、腕を上げ下げするやつとかは、もっと中心街のゲーセンに行かなければ置いていない。


 まずは無難にクレーンゲーム。

 忠と来たときは、大きなものばかりだった景品も、今日はイヤホンや音楽プレイヤーなどの小さめの景品に変わっていた。


「百円…高いわね」

「数回で取れれば利益だよ」

「分かってるけど…そうならないように店側は設定してるんでしょ?」


 冷めてるなぁ…まあ実際そうなんだけど。

 人によっては、一回の挑戦で景品を取れるらしいけど、僕もひうりもそんな凄腕ではないので、何回もかかってしまうことは確実だろう。


「でもまあ、初体験だし、一回やってみようかしら」


 ひうりが挑戦するのは、イヤホン。小さい箱に輪っかがついていて、そこに引っかけて落とすものだ。

 僕これ取れたことないんだよなぁ…


 ひうりは不慣れながらも、頑張ってクレーンを操作し、景品の上までクレーンを持っていった。アームよ、めちゃめちゃに強く掴んでくれ!


「「あぁ」」


 だが、非情にもアームは輪っかを掴むことはなかった。

 このタイプのクレーンゲームで景品を取っている人を見たことないのだけど、これ本当に取れるのか?


「中野くんもやってみなさいよ」

「できるかな…」


 特筆なし。失敗。


「これ割に合わないわ」

「まあそういうもんだよ…クレーンゲーム以外にも色々あるから、ちょっと見てみよう」


 僕とひうりは、少しだけ広いゲーセンの中を歩く。夏休みということもあって、ゲーセンの中には学生らしき姿が多い。

 一瞬ひうりのことを見る男子たちは、隣の僕を見ると恨めしそうな顔で顔の向きを戻した。ごめんね。


 ひうりの目に留まったのは、ちょっと大きな筐体のゲーム。


「ガンシューティング…」


 僕の得意なゲームだった。


 ひうりが銃を持って戦う姿はあまり想像できないけど、でもなんか似合うなとも思った。


「中野くん、これは?」

「そこの銃型のコントローラーで敵を撃つゲームだよ。これは…ゾンビかな」


 画面に映っているデモムービーには、大量のゾンビに襲われている映像が流れている。


 こういうタイプのシューティングには、敵の種類がいくつかある。定番のゾンビから、機械のような敵、ものによっては戦争もののシューティングもあるらしい。


 そしてこの中で、ゾンビというのはひうりが最も…


「いいわね、やりましょう」


 得意とするジャンルだ。


 ゾンビ系のゲームが得意な者と、苦手な者がいるが、ひうりは前者だ。夢の中のひうり曰く、人型だけど躊躇する必要がないという点で、容赦なく出来るらしい。


「二人だから…二百円。初めてだろうから、チュートリアルから行くよ」

「お願いするわ」


 操作は単純。エイムを合わせてトリガーで発射し、画面外に向けるとリロードする。

 武器はハンドガン、マシンガン、ショットガンの三つから選べる。僕は爽快感があるのでマシンガン、ひうりはハンドガンを選択した。


 まずはちょっとした映像が流れる。筐体のゲームなので、重厚なストーリーなどない。なぜか武器を持って歩いていた男女が、なぜか現れたゾンビに相対するところからゲームが始まる。


「これっ…いいわねっ!」


 ひうりはガンガン点数を重ねていく。初見とは思えないほどエイムが良い。


 対する僕も、得意ジャンルとしての自負があるので敵を難なく倒していく。このゲームは初見じゃないので、爆発などの演出があっても驚かない。


「ボスね…どこ撃てばいいの?」

「これはまず足を狙うんだ。しばらくしたら怯むから、その時に頭」


 僕は経験者として、スムーズなアドバイスをする。

 ひうりも、僕の言葉を聞いてすぐに標準を足を合わせて連射する。僕は長押しで連射できる。


 ボスが怯んで、頭を下げた。


「ひうり、今!」

「ええ!」


 二人で一気に攻撃を仕掛ける。ほどなくして、ボスは撃破された。


 このゲームは三ステージまで。第二ステージは分岐があるので、ひうりに任せて次のステージへ。


 第二ステージは、一気に難易度が跳ね上がる。僕もサポートするが、やはり初心者のひうりには難しく、ボスに辿り着く前にゲームオーバーになってしまった。


「初心者で第二ステージまで行くのはすごいよ。お疲れ様」

「…まあ、こんなものよね。面白かったわ」


 ひうりは満足そうにしている。意外とガンシューティングが好きなのかな。


「疲れたわね。休憩しましょ」

「そうだね」


 僕たちはゲーセンを出た。

 僕もひうりもシューティングの間、やたらと静かに撃っていたが、それでも体を使ったので疲れてしまっている。


 僕たちは、ゲーセンの近くのカフェに寄った。僕たちのようなゲーセンで疲れる人がいるから、こんなに近いところにカフェがあるのだろうか。


「中野くん、どうする?前と同じでもいいのかしら?」

「んー、今日はアイスコーヒーにしようかな」

「じゃあ私はアイスカフェオレで」


 更に、ひうりは小さいケーキも頼んだ。あまり外で甘いものは食べないようにしてるらしいけど、良いのかな。


「いただきます」


 ひうりがケーキを食べ始めた。嬉しそうだ。


「なんだか、中野くんといると甘いものが食べたくなるのよね…」


 それは多分、夢の中で僕と一緒に甘いものを食べているからだと思います。


「あと…さっき、私の下の名前で呼んでなかった?」


 …あ。


 先ほど、僕はゲーム熱中していたので気が付かなかったが、確かに呼びかけのときに下の名前を呼んでいたような気がする。


 周囲に知り合いがいないという環境と、ゲームに集中していた状態が相まって、夢の中のようにひうりのことを呼んだ。どうやら聞き逃してはくれなかったようだ。


「いつも私のことを苗字で呼んでるわよね?」

「いや…それは…あはは」


 過去に夢の中のことを話したとき、ひうりに白い目で見られた。なので、もうあの説明はしたくない。


「…まあ、中野くんならいいんだけど」

「え?」

「なんか、名前で呼ばれた方がしっくり来るのよね。二人っきりなら、名前で呼んでもいいわよ」


 え、まさかの許可。それは…予想外。


 しっくりくる原因は、確実に夢の中でのやり取りだろう。僕と夢の中のひうりが恋人になって、それなりにすぐ名前で呼び合うようになった。なので、夢の中だけで見れば、僕はひうりのことを二か月近く名前で呼んでいることになる。


「えっと…ひうり?」

「ええ。私も名前で呼んだ方がいいかしら?」

「それは、そっちの自由に…」


 別に、夢の中でも強制はしなかったし。いつの間にか、名前で呼んでくるようになってたけど。


「じゃあ…一樹くん」

「っ!」


 ちょっとびっくりだな。躊躇いもなく来たのは正直だ。


「二人のときは…名前で、ね?」

「う、うん」


 ひうりが見せた笑顔が、とてもドキドキさせる。


 僕とひうりには、こうしてちょっとした秘密ができたのだった。

面白かったら評価や感想をお願いします。作者はあまりエイムがよくありません

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