成り行きの逢瀬は、緊張せずに済む
なんとなく街に来たら、中野くんいた。
それで、遊びに誘われたから、なんとなく了承した。
そのすべてはなんとなくだったけど、同時に必然だったようにも思える。私が今日、この街のあのドーナツ屋にいたことは、多分ただの偶然じゃなかった。
……
これってデートと言うのだろうか。
僕とひうりは、現実では未だにただの友達だ。だから、男女が一緒に遊ぶだけでは、これをデートを言うのは躊躇われる。
しかしながら、今の僕たちを周囲から見れば、それはデートにしか見えないことだろう。高校生くらいの男女が、街を二人で歩いているところなんて見たら、少なくとも僕はデートだと思う。
「それで、どこか行きたいところがあるのかしら?」
「え?あぁ…」
実は、これを機に夢の中のひうりに、デートならどこに行きたいかを聞いておいた。
本当は僕が考えた方がいいのだろうけど、僕としても初めてなので失敗したくなかったのだ。夢の中のひうりには、少し苦笑いをされながら教えてもらった。
「ゲーセンとかどう?佐倉さんはあまり行かないイメージだけど」
「…初めてよ。行ってみましょ」
最初の目的地はゲーセン。先日忠と一緒に行った場所だ。
夢の中のひうり曰く、ゲーセンに行ってみたいとは思っていたけど、学校での態度や性格的にゲーセンで楽しんでると変に思われるだろうからと、ずっと遠慮していたらしい。
僕がいるから大丈夫…とは言えないけど、少なくともひうりだけが変に思われることはないだろう。まあその時は、僕とひうりの仲を疑われるだけだ。
「これが、ゲーセンね。噂に聞いていたほどうるさくないわね」
「このゲーセンはあまり音ゲーを置いてないからね。もっと中央のゲーセンだとうるさいと思うよ」
ここに置いてある音ゲーなど、あの太鼓のやつくらいしかない。洗濯機っぽいやつとか、ピアノっぽいやつとか、腕を上げ下げするやつとかは、もっと中心街のゲーセンに行かなければ置いていない。
まずは無難にクレーンゲーム。
忠と来たときは、大きなものばかりだった景品も、今日はイヤホンや音楽プレイヤーなどの小さめの景品に変わっていた。
「百円…高いわね」
「数回で取れれば利益だよ」
「分かってるけど…そうならないように店側は設定してるんでしょ?」
冷めてるなぁ…まあ実際そうなんだけど。
人によっては、一回の挑戦で景品を取れるらしいけど、僕もひうりもそんな凄腕ではないので、何回もかかってしまうことは確実だろう。
「でもまあ、初体験だし、一回やってみようかしら」
ひうりが挑戦するのは、イヤホン。小さい箱に輪っかがついていて、そこに引っかけて落とすものだ。
僕これ取れたことないんだよなぁ…
ひうりは不慣れながらも、頑張ってクレーンを操作し、景品の上までクレーンを持っていった。アームよ、めちゃめちゃに強く掴んでくれ!
「「あぁ」」
だが、非情にもアームは輪っかを掴むことはなかった。
このタイプのクレーンゲームで景品を取っている人を見たことないのだけど、これ本当に取れるのか?
「中野くんもやってみなさいよ」
「できるかな…」
特筆なし。失敗。
「これ割に合わないわ」
「まあそういうもんだよ…クレーンゲーム以外にも色々あるから、ちょっと見てみよう」
僕とひうりは、少しだけ広いゲーセンの中を歩く。夏休みということもあって、ゲーセンの中には学生らしき姿が多い。
一瞬ひうりのことを見る男子たちは、隣の僕を見ると恨めしそうな顔で顔の向きを戻した。ごめんね。
ひうりの目に留まったのは、ちょっと大きな筐体のゲーム。
「ガンシューティング…」
僕の得意なゲームだった。
ひうりが銃を持って戦う姿はあまり想像できないけど、でもなんか似合うなとも思った。
「中野くん、これは?」
「そこの銃型のコントローラーで敵を撃つゲームだよ。これは…ゾンビかな」
画面に映っているデモムービーには、大量のゾンビに襲われている映像が流れている。
こういうタイプのシューティングには、敵の種類がいくつかある。定番のゾンビから、機械のような敵、ものによっては戦争もののシューティングもあるらしい。
そしてこの中で、ゾンビというのはひうりが最も…
「いいわね、やりましょう」
得意とするジャンルだ。
ゾンビ系のゲームが得意な者と、苦手な者がいるが、ひうりは前者だ。夢の中のひうり曰く、人型だけど躊躇する必要がないという点で、容赦なく出来るらしい。
「二人だから…二百円。初めてだろうから、チュートリアルから行くよ」
「お願いするわ」
操作は単純。エイムを合わせてトリガーで発射し、画面外に向けるとリロードする。
武器はハンドガン、マシンガン、ショットガンの三つから選べる。僕は爽快感があるのでマシンガン、ひうりはハンドガンを選択した。
まずはちょっとした映像が流れる。筐体のゲームなので、重厚なストーリーなどない。なぜか武器を持って歩いていた男女が、なぜか現れたゾンビに相対するところからゲームが始まる。
「これっ…いいわねっ!」
ひうりはガンガン点数を重ねていく。初見とは思えないほどエイムが良い。
対する僕も、得意ジャンルとしての自負があるので敵を難なく倒していく。このゲームは初見じゃないので、爆発などの演出があっても驚かない。
「ボスね…どこ撃てばいいの?」
「これはまず足を狙うんだ。しばらくしたら怯むから、その時に頭」
僕は経験者として、スムーズなアドバイスをする。
ひうりも、僕の言葉を聞いてすぐに標準を足を合わせて連射する。僕は長押しで連射できる。
ボスが怯んで、頭を下げた。
「ひうり、今!」
「ええ!」
二人で一気に攻撃を仕掛ける。ほどなくして、ボスは撃破された。
このゲームは三ステージまで。第二ステージは分岐があるので、ひうりに任せて次のステージへ。
第二ステージは、一気に難易度が跳ね上がる。僕もサポートするが、やはり初心者のひうりには難しく、ボスに辿り着く前にゲームオーバーになってしまった。
「初心者で第二ステージまで行くのはすごいよ。お疲れ様」
「…まあ、こんなものよね。面白かったわ」
ひうりは満足そうにしている。意外とガンシューティングが好きなのかな。
「疲れたわね。休憩しましょ」
「そうだね」
僕たちはゲーセンを出た。
僕もひうりもシューティングの間、やたらと静かに撃っていたが、それでも体を使ったので疲れてしまっている。
僕たちは、ゲーセンの近くのカフェに寄った。僕たちのようなゲーセンで疲れる人がいるから、こんなに近いところにカフェがあるのだろうか。
「中野くん、どうする?前と同じでもいいのかしら?」
「んー、今日はアイスコーヒーにしようかな」
「じゃあ私はアイスカフェオレで」
更に、ひうりは小さいケーキも頼んだ。あまり外で甘いものは食べないようにしてるらしいけど、良いのかな。
「いただきます」
ひうりがケーキを食べ始めた。嬉しそうだ。
「なんだか、中野くんといると甘いものが食べたくなるのよね…」
それは多分、夢の中で僕と一緒に甘いものを食べているからだと思います。
「あと…さっき、私の下の名前で呼んでなかった?」
…あ。
先ほど、僕はゲーム熱中していたので気が付かなかったが、確かに呼びかけのときに下の名前を呼んでいたような気がする。
周囲に知り合いがいないという環境と、ゲームに集中していた状態が相まって、夢の中のようにひうりのことを呼んだ。どうやら聞き逃してはくれなかったようだ。
「いつも私のことを苗字で呼んでるわよね?」
「いや…それは…あはは」
過去に夢の中のことを話したとき、ひうりに白い目で見られた。なので、もうあの説明はしたくない。
「…まあ、中野くんならいいんだけど」
「え?」
「なんか、名前で呼ばれた方がしっくり来るのよね。二人っきりなら、名前で呼んでもいいわよ」
え、まさかの許可。それは…予想外。
しっくりくる原因は、確実に夢の中でのやり取りだろう。僕と夢の中のひうりが恋人になって、それなりにすぐ名前で呼び合うようになった。なので、夢の中だけで見れば、僕はひうりのことを二か月近く名前で呼んでいることになる。
「えっと…ひうり?」
「ええ。私も名前で呼んだ方がいいかしら?」
「それは、そっちの自由に…」
別に、夢の中でも強制はしなかったし。いつの間にか、名前で呼んでくるようになってたけど。
「じゃあ…一樹くん」
「っ!」
ちょっとびっくりだな。躊躇いもなく来たのは正直だ。
「二人のときは…名前で、ね?」
「う、うん」
ひうりが見せた笑顔が、とてもドキドキさせる。
僕とひうりには、こうしてちょっとした秘密ができたのだった。
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