街で遊ぶなら同性の方が気軽
課題もすべて終わり、ひうりもお出かけしているので遊ぶこともできず、家でゴロゴロしていた時のこと。
突然僕のスマホが振動した。
『一樹、遊ぼうぜ』
忠からのメッセージだった。
夏休み中に遊ぶとは言ったけど、本当に連絡が来るとは。ちゃんと課題はしているのだろうか…していないだろうなぁ…
『お前が課題を終わらせたらな』
『どうせ一樹暇だろ?』
まあ、そうだけども。
『それとも、もしかしてデート中かい?』
『そんなことないよ。家』
『まさか既に一緒に!?』
こいつは何を言っているのだろうか。
夢の中で、僕の家を作り出してひうりを招き入れたことはあるけれど、現実の彼女はそれを覚えていないので、僕の家に来ることはない。
「まあ、暇だからいっか」
『いいよ。遊ぼう』
『なら最初からそう言え。昼食ったあとに、一時くらいに駅前な』
集合時間に程度を使うのはどうなのだろう。
忠の課題の進捗は気になるところだけど、取り敢えず遊ぶことにした。まずは昼食でも食べるか。
……
「おー、来たな」
「やあ忠。課題は進んでる?」
「まったく!」
ニカっと笑いながらそう言う忠。何も笑いごとじゃないよそれ。
高校三年生に夏休みの課題があるかは知らないけど、来年もするつもりだろうか。もし終わらずに成績を下げられても知らないぞ。
「街行こうぜ」
「わざわざ僕を呼んだのは、どこか行きたいところでも?」
「んにゃ!ない!」
ないんだ。
「ま、到着したら考えようぜ」
僕と忠は切符を買って、電車に乗って街まで移動する。
ここらへんの住宅街には遊べる場所がない。昔ながらの駄菓子屋なんかも残っているけど、男子高校生が遊ぶには少しばかり物足りない。なので、遊ぶときはいつも街まで移動するのだ。
「そういや今日はいくら持ってきてる?」
「ん?五千円くらいは入ってると思うよ」
「重畳」
街まで着いた僕たちは、まずゲーセンに移動する。
他にやりたいことがないか考えながら遊ぶには、ゲーセンくらいがちょうどいい。忠はあまり本を読むタイプじゃないから、本屋とかには興味ないからね。
僕はそこまで頻繁にゲームをするわけじゃないけど、こうしてゲーセンに来るぐらいは好きだ。一番得意なのは、ガンシューティングと呼ばれる、でっかい画面に銃型のコントローラーを向けて敵を撃つゲーム。
対する忠はシンプルなクレーンゲーム。景品を取って、必要ないものはネットのフリマアプリで売ったりしているらしい。
まず僕たちが手を出したのは…クレーンゲーム。駄弁りながらするのにちょうどいいのだ。ガンシューティングだと、どうしても必死になってしまうからね。
しかも、大きいやつじゃなくて、グルグル回ってるお菓子たちを小さいアームで掬うタイプのやつだ。多分これもクレーンゲームの範疇だと思うのだけど、もしかして別称があるのかな。
「じゃあ、忠先生のお手並み拝見」
「お前そう言ってやらない気だろ。まあいいけど」
忠が百円を投入し、音楽が流れる。
狙うのは、お菓子。持ち歩くのに困るものを取っても、面倒なだけなので、消費できるものを取ろうという方針になった。
アームが飴らしきものと、クラッカーを掬い上げた。
それは、手前にある前後ろに動く台の上に乗り、それが台の上にある他のお菓子を押し出し…そして、何も降ってこなかった。押し出されたお菓子はサイドに落ちて、有象無象の中に溶けていったのだ。
「先生?」
「うるせえ!俺が得意なのは、あっちのクレーンゲームだ!こっちは知らん!」
忠が、大きいクレーンゲームを指さしながら怒る。
大きいクレーンゲームのお菓子は、普通にでかいので邪魔だし、それ以外だとフィギュアとかクッションとかなので、要らない。
仕方ないので、僕も挑戦。
今度はクラッカーはなく、飴を三つほど掬い上げた。
なんというか、掬い上げたものがそのまま手に入るにしても、百円で飴が三つだと正直損した気分だよね。まあ、ゲーセンに損得を求めるのは間違っているのだろうけど。
飴は他のお菓子を押し出し、外側にある景品取り出し口に飴が二つ落ちてきた。一個五十円の飴かぁ…
「お、一人一個ずつな。俺こっちのシュワシュワで」
「じゃあ僕がブドウ味」
……
飴を舐めながら街を歩く。あのあと、ガンシューティングも一応したのだけど、調子が悪くて全然進めなかったのだ。萎えた僕たちは、ゲーセンを出て街を歩いている。
「で、黒棘姫とのデートはないのか?」
「散々言ってるけど、ないよ」
忠は、ことあるごとに僕とひうりのことを聞いてくる。デートができればいいけど、現実だとただの友達なのでそこから先に行かない。
「つか、告白すればいいじゃん。黒棘姫も、OKしてくれるかもよ?」
「いや、それはどうかなぁ…」
夢の中のひうりは、「告白されたら、今の私だともしかしたら断っちゃうかも」と言っていた。
一度フラれてしまうと、もう一回というのはちょっと勇気が出ないので、夢の中のひうりから許可がない限りは告白しないつもりでいる。
「それに、恋人じゃなくても異性で一緒に出掛けることくらいあるだろ」
「だからと言って誘えたら苦労はないよ」
世の【友達だけの関係の男女】ってどうやって誘ってるんだ?
ひうりのことを気軽に誘えるようになったら、夢の中だけでなく現実でも長く過ごせるから幸せなんだけど…
「もし何かあったら俺に相談してくれていいぜ」
「有益な答えが得られるとは思えないんだけど」
「まあな。俺だって彼女いたことないし」
こいつは非リアなのだ。まあそうじゃないと、ひうりに対して色々接触しようとはしないか。
ひうりは見た目が非常に良い。なので男子たちの視線を集める…のだが、彼女がいる男子が浮気するようなことは起きないらしい。恋人の方が可愛く見えるというやつだろう。
「お前が相談してきたら、何かあったんだって知れるだろ?」
「絶対にお前には相談しない」
僕は忠には、最後まで何も言わないでおこうと決めたのだった。
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