テンプレは常に起こるものでもない
拝啓、夢の中のひうりさん。僕は今、なぜか現実であなたと一緒に街を歩いています。
「ん-と、次は…ビーチボール?十個もいるかしら」
ひうりは非常にストイックなので、買い物は順調に進んでいる。これが忠なら、既に何度か寄り道しているところだが、ひうりはよそ見せずに買う必要があるものを購入していく。
対する僕は荷物持ちだ。インドアの僕が筋力がないけど、流石にひうりよりは腕力があるみたいなので。
先ほど、文句がてら忠にメッセージを送ってみたのだが、既読がつかない。多分僕の連絡自体は気が付いているのだろうが、敢えて無視していると思われる。
「…中野くん、重かったら言ってちょうだいよ?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
僕が黙っていたら、ひうりが急に振り返った。
ひうりが持っているのは軽いものばかりだ。重たい水とか大量の浮き輪とかは僕が持っている。何人くらいが海水浴企画に参加するのか不明だが、こんなにたくさん必要なのかは疑問である。
「浮き輪とかって各自で用意するものじゃないの…?」
「それはそうね。でも書いてあるし、お金も貰ってるから買わないといけないわ」
忠め。帰ったら覚悟しておけ。
その後も、特筆するようなこともなく買い物は進んだ。ラノベなんかじゃ、ここらへんでナンパイベントの一つでも起きるはずなのだが、僕がひうりの近くで分かりやすく荷物持ちをしているからか、そういう輩が話しかけてくることはなかった。
それとも、今時ナンパはあまりないのだろうか。
家からここまで大体電車で十分くらいのところにある街だが、そこまで都会というわけではない。本場の大都会ならナンパもされるのだろうか。
「中野くん、取り敢えず買い物はこれで終わりだけど…本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫…」
嘘です、腕が既に痺れまくっています。
多分僕の顔色が悪かったからだろうけど、ひうりは休憩を勧めてきた。
「ふぅ…」
「お疲れ様中野くん」
とあるカフェの中に入る。僕とひうりの二人だけだが、四人用の座席に座っている。余った二人分の座席は荷物置きとなっている。
こうして見てみると、中々に壮観だ。よくぞここまで頑張ったぞ、僕。
僕が休憩している間にひうりは注文をしてくれていた。まだ僕は何も言っていないはずだけど、僕は欲しかったものを注文していた。
「注文しといたわよ。カフェオレでよかったかしら」
「うん。カフェオレは好きだよ。よくわかったね」
「ええ、まあ。なんとなく、中野くんはカフェオレかなって」
多分夢の影響だ。
前に、夢の中でカフェを作ってひうりと雑談したことがある。その時、僕は基本的にカフェではカフェオレを飲むという話をしたのである。それを、無意識に思い出したのだろう。
夢の中のひうりがやっていることだから、僕が色々言うことはできないけれど、無意識に行動を決められるというのは恐ろしいものではなかろうか。
その行動決めているのも、夢の中とはいえ本人のせいで現実のひうりも気にすることができないのだろう。
「中野くん、このまま電車で戻るけど、大丈夫そう?」
「うん、任せてよ」
休憩すれば、多分、きっと…
「そういえば聞いてなかったけど、なんで佐倉さんが買い物係に?」
「分かんないわ。ただ、進藤くんに付き人と一緒に買い物に行ってこいって言われて…その付き人があなただとは思わなかったけど」
「僕なんて、要件すら言われず連絡されたけどね」
一応もうちょっと詳しく聞いてみると、ひうりはどうやら会議に出ていたらしい。ひうりなりに企画を楽しみにしている証だろう。
ただし、ひうりを前にすると他の人が委縮してしまうらしい。多分、それが原因で忠はひうりを会議から心象を悪くすることなく退席させたのだと思われる。忠はあれでいて、僕以外には配慮ができる男だ。
「失礼なことよね。私だって、別に怖がらせたくて話しているわけじゃないのに」
「あはは…」
その話は既に夢の中でひうりと話したことだ。
ひうりは気が強い。先輩相手にも、堂々と告白を振ったついでにビビらせるくらいはできる。それは噂となって、今では黒棘姫なんて呼ばれているわけだけど…多分その影響で、他の無関係の人々にも怖がられてしまうのだろう。
だが、ひうりはお姫様扱いされることを喜ぶ女の子なのだ。怖がられたいわけではない。その点で、前に夢で相談された。確かその時は…
『笑顔で話すといいよ』
…なんて言った気がする。当時はまだひうりは彼女じゃなかったのでそういうことも言えたけど、今は無理かもなぁ。それに現実でも言える気がしない。
「大変だね」
「そうなのよねぇ」
なので僕は相槌を打つしかない。
しばらくカフェで休憩しつつ雑談してから、駅まで行って電車に乗った。休憩したのに、電車に乗ることにはまた腕が痺れてしまったけど、あとで忠をビンタすることで代償としよう。
「おう、サンキューな!」
図書館まで戻ったら、忠を含めた数人の手によって荷物が運ばれていった。その人数を買い物の方に割けば、僕も腕が痺れることはなかったんじゃないかな。
取り敢えず忠をビンタしたうえで、僕とひうりには解散命令が出た。
「腕は大丈夫かしら」
「うん、まあ休みだしね」
夏休みなので、休憩はいくらでもできる。課題するにはそこまで影響はないだろうし。
「じゃあ、また海で会いましょ」
「うん。またね」
そして僕はひうりと別れた。
うーん、一緒に出掛けた割に、イベントらしいイベントもなかったなぁ…
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