削られる!
ホラー短編を書く時は、まず大まかな流れを作る。
そして書く。
頭には映画のように映像が浮かぶ。それを文章に落とし込んでいく。
その時の気分と勢いに任せて書くから、どんどん文章量は増える。
一万字。
自分としては、沢山書いた方だ。
早速、読み返す。
字の間違いや語尾の揺れ、似た内容の繰り返しを見つける。
苦笑しながらそれを直す。
会話も簡潔にテンポ良く。説明くさいセリフは括弧の外に出す。なんなら消してしまう。
説明は少ない方が怖い。
そうやって削ぎ落としていく。
八千五百字。
色や形の描写は不要。読者が自由に色付けしてくれる。最低限だけを残す。
音の表現は動きを出せて良いが、多すぎると邪魔になる。残すのは緊張感を煽る音だけでいい。
六千字。
一晩寝かせる。
間を空けて読むと、また違った視点になる。
この物語に登場人物は三人も要らない。二人に変えよう。
頭から会話を見直す。
人数が減ったことで、より密な会話をさせることができる。いや、会話も不要だ。
四千二百字。
そもそも前半は必要だろうか。ここに来た理由なんて、友達に誘われたからで十分じゃないか。
どんな友達だったとかは、読者が自分の周りの友達を当てはめてくれれば良い。
二千八百字。
まだ削れる。
しかし、お気に入りの一文がある。消すのがもったいない。別の短編に再利用しよう。
切り取る。
無駄な副詞や形容詞も消す。だが、消し過ぎるとつまらなくなる。
千二百字。
もう一度読み返す。
二人が名前を呼び合う必要がない。「私」と「あいつ」で分かるから。
名前を消す。
千字。
後は、読者の想像力に任せる。
***
薄暗い森の中、気配だけがヒタヒタと近づいてくる。
あいつは姿が見えない。
逃げても逃げても、私を襲ってくる。
私をここに連れてきた友達はもういない。
あいつに消されてしまった。
もう、どんな人だったかも思い出せない。
倒木の陰に隠れて、乱れた呼吸を整える。
だが、次の瞬間。
「うっ!」
また襲われた。
私は…誰だ?
さっきまでは名前があったはずだ。
記憶を奪われる?
違う。そんな生易しいモノじゃない。
私という存在自体を削られる感覚。徐々に切り取られ、削ぎ落とされていく。
私はまた走り出す。
背後から、あいつの声が聞こえてきた。
「後は、読者の想像力に任せる。」
そうか…。
あなたがこの物語を読んで、私の事を想像してくれたら良いんだ。
削られてしまった私に、姿を、色を、過去を、友達を与えてください。
「読んでくれて、ありがとう。」