ハニービームトラップ その②
1986年 10月10日 6時00分
「はっ!」
目覚まし時計で目が覚める。今何時だ?
麻里を殺しに会社に行かなくては。時間が無え。
私達は佐々木ひろしが見える屋根の上で話していた。
「ねえ、ハルカ?」
「なに?イオリ。」
「1日に人は何人くらい死ぬと思う?」
「さぁ、考えたことも無い。」
「15万人、そのすべての死の傍に僕らが居る。僕らは人の死期を決める権利を得た存在なのさ。病気も寿命も事故も自殺も。全て僕らが決めているんだよ。」
「そうなんだ。」
「喋りすぎたかもね。この地球からしたら、僕らは悪魔と言うよりは掃除人さ、動物のように他種族同士で殺し合わない人間の数が増えすぎないように、僕らが数の管理をしているんだよ。」
「あらイオリ?また新入りにデタラメ教えてるのですか?」
白い翼の上下白の格好をした金髪の少年が飛んできた。誰だろうか。
「やぁ、悪魔の新入りさん。ぼくの名前はシュキ。天使と説明すれば話は早いかと思われます。」
「シュキ、てめえが来ると会話がつまんねえから帰れよーー。」
「イオリ、新しく入った仲間には真実を教えないと。悪魔は人間の数を管理しているのではありません。人間の数の管理は僕たちの長である神様が請け負っており、悪魔が出る幕はそもそもないのですよ?イオリ、こんな誰でもバレるような嘘をつくほど、君は頭は弱くないはずですよ。」
「はい始まりましたくそ説教。だから天使は嫌いなんだよ、腹黒くって。」
「口が悪いですよ。さて、今はどんなお仕事の最中で。」
「こいつの担当を見張ってんだよ。要するに暇だ。」
1986年 10月10日 8時00分
本当に麻里を殺さなくちゃいけないのか?そもそも俺は死ぬのに、誰かを巻き添えにする必要があるのか?
俺はタイムカードをきり、何事もないように自分のデスクに着く。
「あと少しで、父親になるのに、、、。」
残酷な運命を呪った。あの糞ガキの生意気女に会わなければ、俺の人生は華やかだっただろう。
「佐々木主任、コーヒーです。」
「あ、置いといて。」
麻里だ、これからお前を殺すかもしれない奴に優しくしないでくれ。
他のやつにするか?おかしくなっちまいそうだ、、。
「佐々木主任、顔色悪いですよ?熱でもあるんじゃ無いですか?」
麻里が顔を近づけてきた、まただ。
「いやいや!大丈夫だから!」
思わずデスクから立ち上がり大きな声を上げてしまった。おれは壁際に追い詰められるような形になった。
「佐々木主任、赤ちゃんもうすぐなんですよね、これ!赤ちゃんにと思って、作ったんですよ?」
麻里はそう言うと、手作りだと思われる子供服をひけらかしてきた。
「う、あ、ありがとう、。」
正直いって気持ちが悪い。顔も大して可愛くない、35の期限切れだ!俺より2つも年上のくせして恥ずかしくないのか?
「佐々木主任?お昼よければ、、」
「構わないでくれ、仕事に戻らなくちゃ。」
「そうですか、、、。」
時間が無い、夜までにこいつを殺すことが出来るのか?
麻里が何を考えてるのかもいまいち分からないし、昼休み前に殺さなくてはいけないなんて。
あの悪魔の話が本当なら俺が向かう無間地獄は、、想像しただけで恐ろしい!!安らかに死にてえもんだ。魂でもなんでもくれてやるから、あの記憶だけは!
直接自分で手を下すのは気味が悪い、ここは飲み物になにか入れて殺すことにしよう。
「よし、コーヒー入れてくるかな。」
不自然じゃあないだろうか、、、今俺ドンな顔してんだろ?
俺はコーヒーにお菓子の防腐剤を10袋分いれた。
こんだけの量を入れれば流石に死ぬだろう。
すまない、麻里。俺のために死んでくれ!
「麻里。コーヒー入れたぞ。」
仕事をする麻里のデスクに防腐剤入りコーヒーを置いた。
「あーー!さっきのお返しですね!ありがとうございますっ佐々木主任!」
さぁ、早く口をつけてそいつを飲むんだ、。
「今立て込んでるので、後で頂きますね。」
くそうっ!どのくらいの時間で死に至るかも分からないんだ!今飲むんだ!
「おい佐々木?どうした?」
同僚の小島だ!察されたらまずい。
「あぁ、今、高橋にコーヒーを入れてやったんだよ。」
「お前奥さんいるのに女性社員にベタベタしすぎじゃないか?気をつけろよー?」
くそう、小島め。ついこないだまで主任だったくせに係長になった瞬間舐めた態度とってきやがる、、。
いっそこいつでも、、、、?
「うっ!?」
ガシャアーーン!
「おい!高橋!おい!」
麻里が床に倒れ込んだ。
麻里がコーヒーを飲んだのか?、いつの間にのんだんだ?だがこれはチャンスだ!こいつがこのまま死ねば俺はあと数時間で、、あれ
「おれ、なんで死ぬんだ?」
「おい佐々木!!なに突っ立ってんだ!救急車呼べ!」
「なぁ、、小島よぉ、俺はなんで死ななきゃ行けないんだ?」
「何、意味わかんねえ事言ってんだ!高橋が痙攣してやがる!」
「小島!俺は死にたくねえよ!麻里!ごめんな!麻里!なんで俺は人を殺しちまったんだ!」
これはなんだ、もしこれで俺が死ななかったら俺は殺人者か?そうなったら生まれてくる子供は?由香里は?仕事はどうなる?懲役はどんくらいだ?全く分からない。
ん?
麻里のデスクの上にコーヒーがない、
麻里は飲んだのだろうか?飲んだところを見ていない。もし別の理由でまりが倒れたとしたら、俺は無限地獄に行くのか?あの記憶を永遠に。それだけは御免だ。
「殺してやるぅ、、、」
死にたい、死にたい、このおんなを、殺さなくては、俺は死ななきゃ行けないんだ!
「あーあ、完全に狂ってるね、悪の華が暴走してるみたいだね。ハルカ、ちゃんと1輪だけにした?」
「うん、多分。」
「麻里ぃっ!俺のためによぉ!死んでくれよォ!」
「なんなんだおまえ!高橋を離せ!」
オフィス中の人間が俺たちの惨劇を見ているなぁ、もうどうでもいい、おれは安らかに死にたいんだ、もう許してくれ。
「きゃあーー!!」
うるさいなぁ、これから俺は天国に行くんだよ、もうどうでもいい、人を殺した記憶も消えるのかな?もうそろそろ麻里が、
グサッ
「ひぃ、刺しちまった、。」
脇腹に刃物が刺さっている。小島が俺のことを刺したのか?
「こじ、、ま、、、、」
1985年 12月25日
「ねえ、ひろし?」
「なんだ?由香里?」
クリスマスに賑わう町を俺たちはら歩いていた。
「あたしね赤ちゃんが欲しいの。ひろしと結婚してもう1年経つでしょ?お父さんも孫みてえぞーーってうるさいんだよ?」
「そうだな、そろそろ考えないとな。」
「うん!」
俺はその夜間違いをした。高橋麻里を抱いたのだ。由香里と早くに解散したあと、約束の場所でまりと密会した。
「佐々木主任、、来て?」
ホテルの玄関で、麻里が手を引いてくる。
会社で誘惑されていたことは薄々勘づいていた。高橋麻里。1回きりのくそみたいな関係だ。だがその日から会社での誘惑はより強いものへとなっていった。
必ず毎朝コーヒーを入れられ、ジロジロと舐めるような視線で俺を見てくる。ボディタッチだって多くなったし、噂も経つくらいに俺たちふたりは目立ってしまっていた。
俺は1回きりの過ちを後悔したが、それ以上にこの女に嫌悪感を覚えた。
どこかで俺たちのあの夜のことがバレるんじゃないかと、由香里に知られてしまうんじゃないかと思うことが怖かった。
俺は平静を装っていたが完全に脅えていた。心の中であの起こった事実さえ消し始めていた。
そんな時、妻の由香里が妊娠した。
由香里には、後ろめたい気持ちで、産まれてくる子供にも申し訳ない気持ちになっていた。だが、俺が黙って居ればばれないだろう、証拠も無いし。安直な考えで俺はいた。
きっと大丈夫だ。
1986年 10月10日
「この子の名前は由美にする。ひろし、元気な子になるといいね。」
「女の子だよ!女の子!沢山洋服着せたいな。」
あぁ、ごめんな、由香里、由美、俺は
「失敗したようだな。」
悪魔だ、最初に会ったガキだ。
気がつくと俺は病院のベッドの上にいた。
今何時だ、、?
「お前には選択させた。人を殺して安らかに死ぬか。誰も殺さず永遠の苦痛を味わうか。お前は永遠を選んだ。」
「おい、まってくれ、、まだ時間は、あるはずだ!」
「お前は小島という同僚に刺されこの病院へ運ばれた。もうそれから何時間たってると思う?」
「おい!まってくれ!冗談じゃねえ!麻里は死んだんじゃねえのかよ!」
「佐々木ひろし。残念だよ。お前をこれから地獄へ堕とす!」
「やめっ」
その瞬間、俺はホテルの部屋の玄関にいた。
ここはクリスマスの夜に麻里と来たホテルだ。
「なんで、なんでだよ。」
やっぱりこの記憶だ。ここを永遠に繰り返すなんて。
「佐々木主任、、来て?」
麻里が手を引いてくる。
「うわぁぁぁぁああああ!」
傍にあった灰皿で麻里の顔をグチャグチャにした。その瞬間。部屋の玄関に麻里と一緒にもどっていた。
「佐々木主任、、来て?」
「うっ、うわあああああ!」
また同じように、記憶の中の行動を変えた。だが俺はホテルの玄関に立っていた
「佐々木主任、、来て?」
「もう許してくれ!!」
もう娘にも妻にも会えない。ここから出る方法は恐らくないのだろう。
悪魔の声もしない。ここには俺と麻里しか居ないのだ。
「佐々木主任、、来て?」
「佐々木主任、、来て?」
「佐々木主任、、来て?」
「佐々木主任、、来て?」
俺は麻里を、抱いた。何度も抱いた。果てる時にはまた玄関にたっている。なんども同じ光景を繰り返した。ここはどこなのだろう。誰かに説明して欲しかった。麻里に質問したり会話を変えても、話すパターンは一切変わらなかった。自分の行動を変えれば、玄関に戻される。もう抵抗することは出来ない。ここは無間地獄に違いなかった。
「佐々木主任、、来て?」




