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二度目の人生が終わるところでした。



「ねーみてミルシア、これ東方の食べ物なんだって!」


「わぁ見たことないです、美味しそう!!」


…って、何を普通に楽しんでいるんだ私は。


左手には鶏ももの串、右手には綿飴と全力で楽しんでしまっていた。(てかこの世界にも綿飴ってあるんだね!)


斜め後ろを歩いているリーディアは、先程私とエドヴィンが射的で取った景品を抱えている。


どんな光景だ。


いやだって、歳の近い子と街に来たのって初めてだし!


まぁたまにはいいか、面倒くさくても殿下の相手するのも悪くないかも、なんて思いながら綿飴にかぶりつた時だった。



「きゃああああ!!」



女性の悲鳴が聞こえてきて振り返ると、そこには倒れた人が数人とナイフを持って暴れる男がいた。


倒れた人も驚いたりぶつかられただけで、まだ誰かのことを刺したわけではないようだけれど、ナイフを持って暴れている姿は尋常じゃない。


倒れた人たちはみんな貴族のようで、暴れるその男は貧しいのかボロボロの服を来ていた。


「……うぇ、」


その男とばちりと目があってしまって、驚いた私は手に持った綿飴と焼き鳥の串を落としてしまう。


やばい、と私の予想は的中して、その男はこちらにナイフを向けて走ってきた。



「ミルシア!」


エドヴィンの声が聞こえる。



腰に短剣を隠しているけれど、そんなのを取るほどの余裕はなかった。


まさかこんな所で襲われるなんて。


殿下の言うことなんて聞かずに、騎士を連れてくるべきだった。


でも、襲われるのが王子殿下の二人じゃなくて良かった____


そうぎゅっと目を閉じた、その矢先だった。


微かに何かを唱えるような声が聞こえて。



キィィィン


と。聞いたことのない異質な音がした。



そっと目を開ければ、目の前に広がるのは誰かの背中とよく分からない魔法陣みたいな盾のようなもの(青くてちょっと透けててめっちゃかっこいい)で。


「………え、」


状況が把握出来なかった私は、視線をぐるぐると行き届かせた。


盾の向こう側には間抜けな顔をした男が尻もちをついていて、少し離れたところには飛んだのかナイフが落ちている。


「兄上。」


ほっとした声が隣から聞こえてきて見ると、エドヴィンだった。


彼も同じように、盾に守られていた。


リーディアはちら、と横目で私たちを見ると、再び背を向ける。


リーディアの背中から除くと、そこに居るのはさっきまでの威厳はどこに行ったのか震え上がる男。


「異国の方ですか____残念です。」


綺麗な声でそうぴしゃりと言い放つと、周りの大人たちがナイフを回収し男の両手を縄で縛った。


周りにいた大人や子供たちから歓声が沸き起こって、すごいだのやるねお兄ちゃんだのいろんな声が聞こえてくる。


「………かっこいい。」


「大丈夫ですか?エド 、ミルシア嬢。」


思わずぽつりとこぼして、そしてリーディアは私たちを振り返った。


「すまないね兄上、助かったよ。」


死ぬところだった、と笑いながらエドヴィン殿下は立ち上がる。


……いや、なんでそんな平然としてんの。


「ミルシア、大丈夫?立てる?」


私なんて腰抜かしちゃってますけど。


「すみませんちょっと、驚いてしまって…」


エドヴィンの手を借りながら、私はなんとか立ち上がることができた。


「……おぶろうか?」


「いえ全然大丈夫です結構です。」





「すみません急いでるので。」と人だかりから逃れてきたリーディアと合流して、とりあえず人の少ないところへ移動した。


前世ほど科学は発達していないけれど、便利なことに自動販売機は存在していた。


横にあるベンチに倒れるように腰を下ろす。


「はい。」


「ありがとうございます。」


エドヴィンから水を受け取って、私はそれを喉に流し込んだ。


「ごめんね、変なのに巻き込んじゃって…」


「いえ殿下が謝ることでは…」


「もとは僕が誘ったからだし。」


…たしかに。


いやそうじゃんエドヴィンのせいじゃん。


「…あの、さっきのって……」


私は立っているリーディアに視線を送った。


「あぁ、あれは一種の防御魔法です。」


「ぼ、防御魔法…?」


防御魔法って確かかなり難度な魔法だった筈なんですけど。


魔法が得意な大人ですら使えない使える人は極僅かなはずなんですけど。


え、私が間違ってる…?


「兄上は魔法がすごいんだよー、防御魔法とか普通使えないもんね?」


良かった私が間違ってたんじゃなかった。


この子ほんとに12歳なの?年齢詐欺?


「…すみません、怖かったですか?」


「そりゃあ勿論怖かったですけど…でもありがとうございます、助けて下さって。」


もしエドヴィンに誘われていなくとも、今日は街に来ていただろうし。


もしかしたらそこで刺されていた可能性もあったと考えると、逆に良かったのかもしれない。


兄上が守ってくれる、とはこのことだったのか。


「…異国の者でした。生活が貧しくて金目のものを狙っていた、あるいは自暴自棄になってしまったんでしょうね。」


この国は他の国に比べて、随分平和だという。


もちろん貧しい家がないわけではないけれど、国からの補助もあったりと最低限の生活は出来るようになっている。


だけど庶民が苦しんでいる国も少なくないようだ。


リーディアは苦々しくそう言うと、僅かに笑みを浮かべた。


ずっと無表情で怖かったから、笑わないと思ってた。


初めて見る笑顔が辛そうなんて、やめてよ。


なんか…なんか母性が生まれてきたじゃないか。


守ってあげたい的な?


「あの人は…どうなったのですか?」


「牢獄へ行きました。殺人未遂ですので死刑ではないですが、一生牢獄で暮らすことになるでしょうね。」


情が湧くわけではないけれど…怖かったし。


でも、公爵家に生まれた私は充分に恵まれてるのだと実感する。


その分お勉強と作法が大変だけどね。


「あっどうしよう!」


「なになになにどうしたの。」


「綿飴落としちゃったままだ!」


誰かが片してくれている可能性もあるけど、ポイ捨ては良くない。


もともと焼き鳥は食べ終わったあとだったから串を捨てるだけだけど、綿飴は溶けてしまっているかも…と。


正直戻りたくなかったけど___私たちは先程の場所へ戻り。


想像通り溶けている綿飴は蟻さんに掃除を任せることにして、棒だけ捨て、その日はもう街を出ることにした。


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