表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

物語が幕を上げました。



ルフィカという帝国にある、リナード公爵家。


そこに住むのは亜麻色の髪に灰茶の瞳をした、心優しくお淑やかな美しい令嬢。


そんな令嬢は、誰もが憧れ尊敬する淑女____…のはずでした。





「ぎゃーーー!!!!!!」



そんな公爵家の邸宅の庭に、昼間っから叫び声が響いた。



「何事ですかっ!?」



庭に響いた叫び声に数人の使用人と侍女が駆け寄る。


そこには、目に涙を浮かべながら白いガーデンテーブルのほうを指さす亜麻色の髪に灰茶眼の令嬢がいた。


慌てて立ったのであろう、近くに椅子が転がっている。


「む、虫がでたの!みどりのやつ!」


いかにも令嬢らしくない叫び声をあげる令嬢に、使用人はなんだ、と息を漏らした。



「虫ですか…驚かさないでくださいよ。」


「む、虫なのよ!」



あんなに叫んだら不審者に襲われたのではないかと思うじゃないか。



「ぼさっとしてる暇があるなら早く退治して!」


「はいはい。」


「…今日はもう部屋へ戻るわ。」



侍従が虫を退治し侍女が飲みかけの紅茶(殆ど零れて残っていない)とテーブルや椅子を片付ける。



雲一つない青空には太陽が照りつけていた。



いつものお馴染み、使用人は令嬢を怒る。


「もう… あなたは公爵家の令嬢であり王子殿下の婚約者 、ミルシア・リナードなのですから!ご自分の身分を自覚してください。」


使用人の言葉に令嬢、ミルシアは頬を膨らませた。


「もう10なのですから、いつまでも甘えたままではいけませんよ。」



そう、私は先月10歳の誕生日を迎えて____



細かく言えば、高校生で死んで新たに迎えた人生の10年目を迎えました。



つまり中身は高校生。


あー、計算したら26歳ってことになるのか?



「罰として今日は地理と歴史のプリントを20枚と…」


「まって罰ってなんの罰!?」


「喋り方に礼儀がなってません。先程もはたしない叫び声を上げられました。」



お願いします地理と歴史だけは勘弁して下さい。


数学と理科なら得意だよ前世では高校生だったし。


でもこの世界のの地理と歴史とかわかるかっての。



「いやいやいや、代わりに罰として走ってくるから!じゃあね!」


「あっミルシア様!…あーもうっ」



私はそう言うと急いでその場を去った。



プリント20枚って少なく感じるかもしれないけど、1枚がぎっしりなんだよなぎっしり。


それに比べてどうやら今世の私は運動が得意な方らしい。


若いっていいね!




邸宅の周りをざっと1周半走ると(まだいた使用人のところは避けた)、私はぜぇはぁと膝に手をついた。


「はー、死ぬ…」


広すぎるよこの公爵家。

前世の私の家の100倍は確実に超えてる。


東京ドーム3つ分くらいじゃない?


まずまず東京ドームがどれくらい広いか知らないけど。

出身も育ちも東京ですけどねまぁはい。



「それにしても異世界に転生とか…漫画じゃん?」


異世界には憧れていた。


小説や漫画、アニメは異世界ものが一番好きだったし。


しかもこの世界には魔法が存在するんだよね。


チートじゃん?


しかも生まれた家は超お金持ちだし家は広いし、そんなに上手く行くってほど王子との婚約は決まるし。


景色はすごく良いし建物も自然も綺麗だし、見かける人たちはかっこいい&かわいい人しかいないし。



この世界に写真というものがないのが惜しい。



私が記憶を思い出したのは、9歳になって数日が経った頃だった。割と最近。


前世の記憶が結構強くて、当時はパニクって何度もぶっ倒れたけれど。

もう読み書きは既にマスターしていたから、困ることはとくになかった。


ただ苦痛なのは、地理や歴史の勉強と作法の練習だ。


作法なんてとくに、前の人生じゃ考えられないくらい細かいし。


まだ10歳だから良いけれど、社交界に出るときを考えるとぞっとする。


これでもこの国は身分の差はまだマシな方で、作法も緩い方らしい。



正直婚約どうこうなんて難しい話をするまえにこの世界を満喫したかったのだけれど、婚約は私が前世を思い出す前に決まったのだ。


5歳で婚約とか恐るべし社会。



ちなみに魔法はというと。


折角なら魔法で争う世界だったらもっと楽しめただろうに、この世界の魔法は不必要すぎた。


全員が魔法を使えるわけではないし、使えると言ってもとくに役に立たない魔法ばかり。


まあその魔法がわくわくするのだから、それはそれでいいのだけれど。


ちなみにこの世界は二属性とかは全然珍しくないようで、この私も風と水属性の持ち主である。


風よかは水の方が得意かなーとか。



魔法が使えると言っても。


私は歩きながらすっと右手を掲げると、パチンと指を鳴らした。


途端に、感じるか感じないか程の僅かな風か吹いて、芝生と木々の葉が揺れる。



「……これぐらいなんだけどねー」



実に役に立たない魔法である。


物を飛ばすほどの風力はないし。使うこともないな。


まあ今のところはまだ社交界に出ていないのもあるし、勉強や作法が大変である以外は主に自由だから、平和な人生だ。


結構楽しかったりする。



劣っているところといえばアニメと漫画がないことかな。


あのゲームとスマホがない。つまり暇。



あぁ、ないのなら生み出せばいいんだ。



そんなことを思いつつ部屋に戻り、ベッドにダイブする。



まあそんな異世界で、私の人生はまだまだ始まったばかりなのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ