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蜘蛛の故

作者: 琵琶法師

昔、猛き者旅して、土佐なる小さき村に至りぬ。この村、狸汁の高名にて数多なるを狩りにければ、姿見ゆるはありがたきものになりぬ。


さて、男食はんとて或る店に入りぬ。されど、入りぬるより女の一人して泣くを聞きぬ。

寄りて「こはいかに」と問へば、「我が夫、食はれにけり」と言ふ。

「熊ぞ、猪ぞ」と問へば「いみじう多きなる蜘蛛なり」と言ふ。

「此処より酉へ三里ばかり行くに、蜘蛛あるめれば行くを禁む。されど、狸もまた数多あり。

いかでか得ばやと思ふ人ども諌め破りて入る。その後ぞ食はるる」


男その由聞きし後、殺さんとて女の言ひぬるまま三里歩きつ。何れの所にか蜘蛛あらんと求むれど、あるは古き寺のみなり。人あらず。求めに求めどあらずして、日暮れて、現はるるようも無ければ、寺へ入りぬ。


酒飲みて明日もぞ現はれざると飲みぬ刀を修しぬしければ、天井より三味線の白き糸より繋がれたるがやはら落ちつ。上見れども、暗きのみ。

「蜘蛛、かくをこなるよしして我をば偽はれんとや思ふ、来」と罵れば

落ちて来たり。

げにありし女の言ひぬるが如しとて鞘より刀をば出でつる。蜘蛛、白き糸吐きて捕らへんとすれども、避きて斬りぬ。


蜘蛛逃げて追へば、死ぬべかんめる狸伏したり。

「そこ蜘蛛に化しけん、などや」と問へば、

「汝、この村狸汁高名と知りぬべし。それ故にや、人ども我々殺しわたれば、殺されずして住みぬべき所求みにけり。それぞかの寺なる。愈々食はれぬが為、寄らせぬが為、化して人食ひぬ」とて死にけり。


その由しかと長に伝ふれば、後にその村、狸と共存したりと聞く。

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