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「稲穂ちゃん、おめでとう!」
1か月後、稲穂は見事に宰相の妻の座を手に入れた。
人間、諦めずに努力すれば叶うものである。
……すでに人間ではないが。
魔王の爀火自らが祝う結婚式あーんど披露宴は魔族総出行われ、メインは「宰相の最強新妻とのトーナメント」という結婚とは全く関係ないイベントであった。
爀火からトーナメントで優勝すれば、藍水のドびっくりの秘密を教えてもらえると言われ、魔族になった最強の新妻・稲穂は、聖剣ではなく魔剣をもって魔族の軍勢に挑む。
藍水の血の効果か、稲穂は本物の魔力を得た。それはかなりのもので、その辺の魔族には到底手が届かぬレベルであった。
「え?宰相様?」
「稲穂……。藍水と呼びなさい」
ぎったんばったん魔族をなぎ倒した稲穂であったが最後に現れた対戦相手を見て、及び腰になる。
藍水には爀火が持っている自分の秘密が何かわからないが、余計なことを吹き込まれても困るので、こうして妨害のためトーナメントに参加したのだ。
「遠慮はいりませんよ。どうぞ。かかってきてください」
「そ、そんな!宰相様には手を上げられません!!」
結局、藍水命の稲穂はそのまま戦うことを放棄して、藍水の不戦勝となった。
かなり面白い戦いが見られると期待していた魔族たちは不満そうであったが、藍水が一睨みするとそれも収まり、何百もの酒樽を開放すると披露宴は単なる宴会と化す。
「つまらないなあ。対戦期待してたのに」
「期待しないでください。まったくどうして披露宴なのにトーナメントなのですか?」
「だって面白いだろう?」
爀火は藍水の問いに悪びれることもなく答え、高らかに笑う。
「陛下。宰相様の秘密が知りたかったです」
「うーん。君が一晩僕に付き合ってくれたら教えてあげてもいいよ」
「本当ですか?」
「却下です。私には秘密などありません」
爀火の誘いに食いついた稲穂を藍水が制して、彼女の肩を抱く。
「大丈夫。今夜、秘密がわかるから」
「え?」
「陛下!」
結婚式の夜は、初夜となる。
それは魔族にも変わりなく、その夜に明らかになる事実とは……。
天真爛漫な娘・稲穂には理解できず、けれどもその周りにいた者たちは藍水に少しばかり同情的な視線を送ったという。
そんな視線を向けたものは翌朝には酷い有様で地面に転がっていたようだが……。
こうして、一途な少女の想いは叶えられ、魔族となった稲穂は、魔王の宰相と生涯仲良く暮らしました。
(おしまい)
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