【上位魔族の恐怖。ヴァールとの契約】
前回の続きです。病魔との戦いの最中、病魔はさらに上の領域へ進む。ボロボロのリーオはどうやってこれを突破するのか?
...というのが、今回のテーマです。リーオ君はこれからどれだけ強くなるのか、乞うご期待ですね。
「ハ、ハハハ...マジかよ、お前...!」
眼前に広がった悪夢のような光景に、俺は自分の目を疑った。今まで不定形な黒い煙のような姿だった病魔が、巨大な蝙蝠のような姿に変わっていく。風の刃で切り裂いたはずの病魔が、激昂の風を飲み込みより巨大な、凶悪な姿に変化している。
「キケケケケケッ!」
「...竜の風を食いやがるのか...?ッ!!」
目の前の光景に唖然としている俺に、黒い煙の矢が飛ばされてくる。それをスレスレで避けながら頭を必死で回転させる。
何が起こったんだ!?あの時俺は竜の風で病魔の身体を拘束して、風を纏わせた剣でとどめを刺したはずだ。なのに奴は無傷でそこに居やがる...まさか、攻撃が通用していなかったのか!?竜の風を纏わせた剣でもアイツに攻撃が通らなかったっていうのか...なら、俺にはアイツを倒せる手段がない......どうする!?
「キケケッ!」
「ッ!クソッ...!」
迫りくる黒い触手を残った風で何とか弾き、距離をとる。今の俺には魔力も竜力も体力も気力も残っていない。荒い呼吸を繰り返しながら白く染まりかけた頭で考える。
どうすればいい!?風も、魔剣も効かないとなると、もう俺に奴と戦う術は、ない...。
そうこう悩んでいる間に、病魔が伸ばしてきた触手の攻撃をレムレースで受け止めるが、先ほどより明らかに威力が増している攻撃に、レムレースが砕かれてしまう。
「キケケカカッ!」
「ぅあッ!」
何とか、伸びる触手から距離を取り、砕けたレムレースを投げ時間を稼ぐが、何も策はない。唯一効くと思っていた竜の風が通用しなかったせいで、万策が尽きてしまった。このまま奴の攻撃を避け続けてもいつかは俺の根負けで終わってしまう。
かといって、ここで撤退したらもっと多くの人間に死病の種が飛ばされてしまう。それは、絶対に嫌だ。絶対に、絶対にここで殺さなくてはいけない。それが、俺の使命だ!
「...ヴァールッ!!」
外にいるヴァールの元へ空間魔法を繋げ、大声で呼ぶ。待ってましたと言わんばかりに飛んできたヴァールを掴み、空間からマナポーションを取り出し、グイっと一気にあおる。
「...んぐっ...ふぅ...よく来てくれた、ヴァール。」
”......またそんなにボロボロになるまで...なんで早く呼ばなかったんですか!?”
「...できるだけ、お前に頼りたくなかったんだ。弱い俺に、お前を使う資格はないからな。」
”...私は、リーオ...アナタのことを主として認めています。変に遠慮する必要はありません。”
「......そうか...ッ!」
俺とヴァールの長い会話に我慢できなくなったのか、病魔が黒い触手を伸ばして攻撃してくる。それを後退しながら避け、攻撃範囲から抜ける。
「...ゆっくり会話を楽しんでる時間はなさそうだ...ヴァール。」
”何ですか?”
「......このまま『契約』を結ぶぞ。」
”な!?何を言っているのですか!?”
『契約』とは契約と制約の女神ヴァールだけが所有している契約した相手の『何か』を代償に望む力を持つスキルを与えるユニークスキル。初代勇者アラド=シオンもこの契約で『人間に悪意、敵意を持つ者に対する特攻』を手に入れていた。
「それしかないだろ。それはお前にも分かっているはずだ。」
”ッ...それは...そうですが...!”
「契約内容は仮契約の時と同じだ。」
”それではアナタの身体がッ!”
...俺が仮契約の時に貰った力は『神の加護を持つものに対する特攻』...提示された代償は『自分の寿命』だ。俺がこの契約を使えば使うほど、人として生きる時間が消費されていくことになっている。まぁ、契約の内容が内容だから仕方ないんだが。
『神の加護を持つもの』、これはこの世界に生きる『竜種』や『精種』以外のことだ。例えば、この世界に生きる俺たち人間、エルフ、ドワーフ、魔族や魔物、さらには神々全てが加護を持っている。そうなれば、俺の契約での特攻を得られる対象はこの世界に生きる全ての生物となってしまう。代償が寿命なのもこれなら納得がいく。むしろ少ないと言えるほどだ。
「いいから!早くしてくれ!」
”ッ!...分かり、ました...では、私の言う通りにしてください。”
「...分かった。」
そこまで話したところに、病魔の黒い触手が飛んでくる。まぁ、あそこまで話し込んでいたら攻撃範囲まで近寄っては来るわな。おっと納得している場合じゃなかった。縦横無尽に飛んでくる黒い触手を残った最後の竜の風で弾きながらヴァールの指示通りに行動を起こす。
”先ずは、私の柄頭を上に、刃を下にしてください。”
「ッと!次は!?」
”そのまま地面に突き刺して、私の後に続いて詠唱をお願いします!”
「はぁ!?この状況でッ...出来るわけねぇだろ!?」
”それは私が障壁を張ります!”
言われた通り、ヴァールを地面に突き刺す。黒い触手が攻撃をしようと飛んでくるが、まるで何かに阻まれたように俺たちの眼前で制止する。だが、あまり長くは持たないだろう。病魔の激しい攻撃でヒビが入ってきている。
だが、時間は十分に稼げる。今なら行ける!
”では、私の後に続いてください......我、契約と制約の女神ヴァールが...”
「...我、契約と制約の女神ヴァールが...。」
”汝、リーオ=クシィを唯一の主として認め...。”
「...汝、リーオ=クシィを唯一の主として認め...。」
ここまで詠唱し終えたところで、ヴァールを突き刺したところから地面に眩く光る魔法陣のようなものが浮かび上がってくる。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。ヴァールの言葉に集中し、それに続くようにつぶやく。
”ここに、古の契約を結ばん...。”
「...ここに、古の契約を結ばん...。」
そこまで言い終えたとき、広がっていた魔法陣がより強く眩い光を放ち始める。その光に包まれながら、ヴァールが言葉を紡ぐ。
”...私は、アナタを死なせたくないんです。だから、絶対に無茶はしないで下さい...!”
「...ヴァール...分かった。俺は絶対に死なない!」
光と魔法陣が消えると同時に、今まで守ってくれた障壁が大きな音を立てて砕け散り、障壁を砕いた黒い触手が、俺たちを引き裂こうと迫る。
「......『契約』、発動ッ!」
____その瞬間、胸に激しい熱が宿る感覚があった。燃える炎のような、熱く、激しい、俺の身体を内側から焦がすような、これが恐らく俺が受け持った『制約』その代償のなのだろう。
胸の奥に宿る代償の炎を感じながらヴァールを閃かせる。今までは空を切るような感覚だった斬撃が、しっかり肉を断つ感覚があった。それと同時に、病魔の空気を引き裂くような悲鳴が洞窟の中に響き渡る。
「......これが、契約の力か...?」
”それもありますが、これは私の...神剣全てが持つ、『神の刃』としての力です。”
「神剣の力?」
”えぇ、私たち神剣には神の刃というスキルがあります。”
「へぇ?一体どんな...っとあぶねッ!?」
ヴァールと会話していると、先ほどまで満面の笑みを浮かべていた病魔が鬼のような形相で黒い触手と矢が飛ばしてくる。それは避けようにも避けられないほどの全体攻撃、いくら契約を使っている俺でも全ての攻撃を弾くことは難しい......そうだ、昔『師匠』に教わったことがあったっけ。
_____二年前、俺が旅に出てから一年くらいのこと。俺は山奥で今使っている技の剣を、ある人物から教わっていた。長い黒髪と白い肌が印象的な美しい女性だ。
俺が木刀を腰もとに構え、まだ拙い縮地で突っ込む。だが、気づいた時には身体が地面に倒れて真っ青な空を見上げていた。
『リーオ、攻撃を避けるのは目で見るだけでは不十分です。』
「はぁ?目で見なかったら攻撃が見えなくて余計に避け辛いだろ?」
『...そういうことではなく、なんでも目から見た情報を信用してはいけないんです。視界から見える情報ではなく、音や匂い、肌の感覚など、様々あります。例えば____』
......そうだ、目で見るんじゃない。自分の、『心』で見るんだ。
_____そう思い浮かべると同時に、視界が変わる。先ほどまで多すぎて捉えきれなかった攻撃が、静止画のようにゆっくり、段々と見えてくる。そのおかげで、今まで避けられなかった攻撃を避けられるようになる。心で見る能力、師匠はこれを『心眼(真)』と呼んでいた。
「キギャア!?ギャガガガガッ!!」
攻撃を避けられ頭に来たのか、病魔の攻撃がより激しくなる。
しかし、その攻撃はすでに見切っている。
激しさを増す攻撃の嵐を涼しい顔で避け、そのまま縮地で病魔の懐に入り込む。
「......ッツェア!」
勢いをつけた状態でヴァールを振り抜こうとしたとき、手元のヴァールに違和感を覚える。先ほどまで居合の要領で引き抜くのに多少の抵抗を感じていたのが、今は滑らかに、素早く引き抜けるようになっている。まるで、師匠が使っていた『刀』のような感覚に少し驚きながら、渾身の『居合』を病魔に叩き込む。袈裟気味に放たれた居合を察知し、後ろに下がるような形で避けようとした病魔の触手を寸断する。
「キギャアアアアアアアアッ!!」
相当痛かったのだろう、激しく暴れる病魔から距離を取り先ほどのことをヴァールに尋ねる。
「ッ...ヴァール、今のは?」
”神の刃の三つある力のうちの一つ、使い手の思い描いた通りの形状に変容する力です。”
「...神剣ってスゲェんだな...。」
”神ですから。”
「......神ってスゲェ...ッと!」
改めてヴァールの凄さに驚いている俺に向かって、黒い煙の矢が飛んでくる。それを形の変わったヴァールで切り裂き、飛んできたほうを見る。
そこには、完全に正気を失った病魔が荒い呼吸を繰り返しながら無差別に攻撃を放っていた。
「...痛みで正気を失ったか...無理もねぇな。」
”...このまま放っておくわけにはいきませんね。”
「...あぁ、早急に片付けるぞッ!」
ヴァールを腰の鞘に仕舞い、ゆっくり姿勢を低くしていく。しっかりと柄を握り、縮地を使って病魔の懐に潜り込み、今ある力を全て込めた一閃、居合、魔力撃(龍)、心眼(真)を組み合わせた一撃を叩き込む。
「......ッツェアァァァッ!!!」
俺の全力の一撃は、病魔の身体を一刀両断する。斬られた病魔の身体がゆっくりと空気に溶けるようにしながら倒れていく。これで終わった。その場にいた俺もヴァールもそう思った。洞窟に満ちていた死病の種もだんだん薄くなっていくのを感じ、口に巻いていた対魔の布を外した。その時だった。
「......キケケケケッ!!」
「んな!?」
”まさか!?”
今までビクともしなかった病魔が、身体を霧に変えながら俺の顔めがけて突っ込んでくる。そのまま無防備になった口の中に入り込んでくる。
「キケケケケケッ!!」
「んがっ!?くぉぉぉ!!」
”リーオさん!?”
身体に入り込んでくる病魔を手で掴もうとするが、霧状になった病魔を掴むことはできず、そうこうしている間に入り切ってしまった。その瞬間、体の内側を今まで感じたこともないような痛みが襲う。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
”リーオさん!!ど、どうすれば!?”
内側から来る食い尽くされるような痛みに耐えながら地面に落ちた対魔の布を鼻と口を覆うように巻く。そして、ヴァールにテレパシーで話しかける。
ヴァ、ヴァール...契約の特攻を俺にかけてくれ。全力で...!
”な!?何を言っているんですか!?そんなことをすればアナタの身体が!!”
大丈夫だ!今こうして議論している時間はない。さっさとしろ!!俺は死なない!
”!......分かりました...お願いですから死なないでくださいねっ!”
ヴァールの刃を小型ナイフくらいの大きさに変え、内側から食い破られるような痛みに耐えながらゆっくりと振り上げる。
「......病魔ぁ...我慢比べと行こうぜ...俺とお前、どっちが強いかをなぁ!!!」
そのまま勢いをつけヴァールを腹に突き刺す。その瞬間、刺した痛みと同時に全身を焼くような熱が俺の身体を襲う。同時に、身体の中で病魔の苦しむ叫びが聞こえてくる。
「キギャァァァァァァァ!!!??」
「グァァァァァァァ!!!!」
全身を焼く熱と、身体の中を食い尽くそうとする痛みに必死に歯を食いしばりながら耐える。口から目から鼻から絶え間なく血が溢れ出る。だが、決してヴァールを握る手の力は抜かない。
”ッ......耐えてください...!”
「ガァァァァァァッ!!」
「ギギギギギギギギギギガガガガガガガァァァァァァ!!!!」
病魔が俺の身体から出ようと暴れるが、対魔の布で口と鼻を覆っているため出ることはできない。全身から血が噴き出す。だが絶対に力は抜かない。ここで俺の命を引き換えにしてもこいつを殺す。そのために俺はここに来たんだ!
「ア゛ァァァァァァァァァァァァ!!」
「ガガガガガガガガガガガガガッ!!」
最後の力を振り絞って力を込める。その瞬間、俺の中で何かがフワッと消えたのを感じた。同時に俺の体内を襲っていた激しい痛みが消える。ヴァールを引き抜き、地面に放る。 口を覆っていた対魔の布はいつの間にか焼けてなくなっていた。
空気が足りない。荒い呼吸を繰り返しながらギリギリの意識で何とか持ちこたえる。
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
”...大丈夫でしたか?生きてます!?”
「ハァッ...ハァッ...ハァッ......あぁ...。」
激しい呼吸を繰り返しながら返答する。だが、もう完全に出し尽くした...何も、搾りカスすら残っていない。ヴァールを引き抜き、形状を元に戻して鞘にしまう。そういえば、さっき形を刀に変えたとき、この鞘も形が変わっていたなぁ...やっぱ...神って...すげぇ、やぁ...。
全身から力が抜ける。それと同時に頭の中が、目の前が白濁していく。そのまま崩れ落ちるようにして倒れる。遠くのほうからヴァールの声が聞こえてくるが、もう、何も聞こえない...。
もう、なにも......きこえ......な...。
次回は3月15日までに投稿いたします。
次回もお楽しみに。




