【リーオの特訓。魔剣エクリプスとの出会い】
今回は主にイチカの武器に関する内容になります。
それから数十分後、ご飯を食べ終えたのであろうアゲハを肩に乗せたイチカが家から出てきた。
「…随分、打ち解けたみたいだな。」
「?えぇ、妖精を見たのも触れ合ったのも初めてですが、とてもいい子ですね。」
《当たり前でしょ?ボクは『黒』を与えられた特別な存在なんだからねっ!》
「…『黒』…?」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。」
《ご主人!どうでもいいって…っ!》
「まぁまぁ、落ち着け。……イチカ。」
スッと、リーオの纏っていた空気が変わる。
「____…っ!!」
…これは分かる。戦いの空気。殺気だ。常人なら当てられるだけで心の底から震え上がってしまいそうになるほどの濃密な殺気。
そして同時に、一つ分かったことがある。
これは試しているんだ。私の事を。
この濃密な殺気の中で正気を保っていられるか。生命的な恐怖を自分の力で制御することが出来るのかを。
あの魔族と闘うためには、まず大前提としてそれが必要になる。『刹那の極み』に頼り切った戦い方じゃあ、身体の方が持たない。無理して発動してもまともに戦うことは叶わないだろう。
だから、まずは心。心を強く持つことが必要。恐怖に負けない強い精神力、苦痛に負けない胆力を身に付ける、これがその第一歩なんだ。
荒くなる呼吸を落ち着けて、崩れ落ちてしまいそうになる身体を心で何とか支える。視線は逸らさず、真っ直ぐにリーオさんの目を見る。
私は負けてない、そう伝えるために。
「………うん、まぁ、及第点って所だな。」
フッと、満ちていた殺気が掻き消える。安堵のあまり崩れ落ちる身体が、何かに吊り上げられるようにして止まる。
《ご主人!いきなり酷いじゃないか!!》
「それは謝る。すまない。だが、必要なことなんだ。あの魔族と闘うために。」
《あのパンドラっていう魔族の事?それならご主人が一人で…っんむ!?》
「はい静かに。俺がやっちゃあ面白くないだろ。それに、これはイチカの戦いだ。俺が手を出すのは不粋ってもんだろ。」
「…私の、戦い?」
「あの魔族、パンドラ=ブラッドハーツに戦いを挑んだのは他ならないお前だ。それに俺が横槍を入れるのは失礼だ。戦いっていうのは、始めた当人たちが決着を付けなければならない。…だが、今のお前では戦いの体にすらならないだろう。」
「……それは、確かに…。」
私は、負けた。あの魔族に。それも、完膚なきまでに。言い訳もできないくらいに、私は負けた。
でも、まだ戦いは終わってない。だって、私は死んでない。どちらかが諦めない限り、戦いっていうのは終わらないんだ。
私はまだ、戦える。
「お前はまだまだ弱い。だから、俺が鍛える。」
「…え?」
「戦いの…殺し合いの仕方をちゃんとその心と身体に叩き込んでやるよ。」
「…戦い方を、教えてもらえるんですか?」
「お前のユニークスキル発動中の動き。あれは『剣術(技)』だな?」
「!?知ってるんですか?あのスキルを!?」
「知ってるも何も、あれは俺の十八番だ。丁度いいから、一度手合わせでもしておくか?」
手合わせ。それは願ってもない提案だ。でも、私の『刹那の極み』は一対一の状況じゃないと発動できない。リーオさんとアゲハちゃんがいるこの場では一対一にはなれない。
私は、全力で戦えない。それに、腰の鞘に納めてある『黒鉄の剣』も、先の魔族との戦いでボロボロになっている。このままじゃ、私は…。
「……それは…その…。」
「…そうだった。アゲハ、少し黒銃の中に戻っていてくれないか?」
《え、何で?私もイチカちゃんの戦いみたいんだけど?》
「イチカは一対一の状況じゃないと本気で戦えないんだ。黒銃の中からだったら判定に引っ掛からないと思うから、見たいなら中で見ていてくれ。」
《えぇ~?…分かった。頑張ってね、イチカちゃん。》
「う、うん。ありがとう、頑張る…っ!」
……何で、何でリーオさんは私の『刹那の極み』の発動条件を知っている?私が彼に教えたわけでもない。なら、どうして?もしかしたらリーオさんは、私以外の『刹那の極み』の使い手に会った事があるのかも知れない。それならまだ納得がいく。
「あともう一つか…ほら、イチカ。」
「え?あ、はい…っと!」
リーオさんから投げ渡されたものを受け取り、あまりの重さに腰から崩れ落ちる。白い布に包まれた棒状のそれは、今まで感じたこともないような重量と、少しの違和感を覚えさせるものだった。
この長さの剣では絶対に感じることのない重量、一体どんな素材を使えばこんな重量の武器になるのか。余りの重みに膝から崩れ落ちるなんて初めての体験だ。
「おっもい…っ!これ、なんですか!?」
「何って、武器だよ武器。お前の使ってた『黒鉄の剣』は根元から見事に折られちまってたし、あれ以外の武器も持ってないだろ?選別だ選別。」
「選別って…それにしても、おっもい…っ!」
気合を入れて何とか立ち上がり、武器であるというそれを包んでいる布を少し外したところで、手が止まった。いや、止めるしかなかった。
これ以上、この布を外してしまったら、私は絶対に後悔する。そう『直感』で感じ取ったからだ。
「…どうした?抜かないのか?」
「…いえ、その……一つ質問してもいいですか?」
「あぁ、構わんよ。」
「……これは、なんですか?」
「いや、さっき武器だって…。」
「武器なことは分かってます。でも、普通ではありませんよね?これ。」
「普通……どんなものを普通だというのかが分からんが、そいつは所謂魔剣に属するもんだよ。」
「…魔剣…これが…?」
触れている手から感じる言い表しようのない感覚。まるで、魂がこの剣に吸い取られているような、そんな、異様な感覚。
意を決して、包んでいる布を取り払っていく。段々とその全貌を見せていく魔剣の姿に背筋から全身に冷たいものが伝っていく。
見えてきた魔剣の柄頭は少し特徴的な形をしていた。例えるなら、馬の頭?黒く光沢のある物質で形作られた凛々しい馬が彫刻された柄頭に続く柄も、同じく黒。
……綺麗。
思わずそう、心の中で呟いてしまった。黒は黒でも透き通るような、光沢のある綺麗な、というか、凛々しい黒?といった感じで、全体的にシンプルに、ゴテゴテしいといった感じはなく、どちらかというとシャープな印象。
魔剣というと、よくゲームなどで見られるゴテゴテしく禍々しい印象があったのだが、この剣は一切そのような形ではなく、見た目だけで見るなら私の使っていた黒鉄の剣とあまり相違はない感じもあった。そう、刀身を鞘から抜いてみるまでは。
黒の下地に少しくすんだ金色で細部まで細かく意匠の凝らされた鞘から、刀身を少し引き抜いたところで、手が止まった。
感じたのは圧倒的な『恐怖』。ほんの少ししか見えていない刀身から放たれる威圧感に、私は思わず息を吞んだ。そして、それと同時に私は、呼吸を忘れてしまう程に、その美しさに見惚れてしなった。
透き通って見える程に真っ白な刀身。一切の穢れも何もないゾッとするほど美しく、研ぎ澄まされたその姿に、私は思わず息をすることすら忘れて、完全に見惚れてしまっていた。
「______イチカ。」
トンッ、と肩に置かれたリーオさんの手の感触で、私はようやくその呪縛から逃れることが出来た。直後に来る身体の底まで冷え切るような寒気に息を呑む。
「少し、早かったな。お前にそれを渡すのは。」
「…リーオさん、これは…?」
「これの名は《エクリプス》。かつての名工《ノーザン=ダーレー=ゴドルフィン》が作り上げた至高の名作《極剣》に分類される一振りだ。」
「…極剣?」
「ダーレー=ゴドルフィンが打った武器の中で際立った性能を発揮した武具のことを言う。特にこのエクリプスは『抜きんでて並ぶものなし』とまで言われるほどに極剣の中でも抜きんでた性能を持った一振りだ。」
「……抜きんでて、並ぶものなし…。」
「まぁ、その分じゃじゃ馬みたいに扱いにくいところがあるんだがな…。」
「じゃじゃ馬?」
「あぁ、言ってしまえば、さっきみたいなもんだな。持つものを異様なまでに魅了してしまう。使い手の心を掌握してしまうところだあるんだ。後は魔剣としての性能だ。」
「魔剣の性能?普通の剣とは違うの?」
「魔剣はその名の通り魔の剣。使い手の魔力を吸って力を発揮する生きた剣だ。」
「…生きてるの?剣が…?」
「あぁ、生きてる。生きてるからこそ魔力を欲する。お前も感じ出ただろう?そいつの異様な重さを。」
「………。」
生きている。その言葉に不思議と納得がいった。あの細身な形状からは全く想像できないほどの重量を持っていることに疑問だったが、あれが生きているのならば何となくだが合点がいく。
達人の作には魂が宿る。真なる打ち手ならばものに魂を宿らせることも出来るのだろうか。
「まぁ、いいや。取り敢えず、魔剣の使い方から教えていこうか。ちょっと貸して。」
「は、はい。」
リーオさんは手渡されたエクリプスの柄頭である馬の彫刻に手を添えると、何らかの小さな魔法陣を刻み、こちらへ投げ渡してきた。
「ほれ。」
「え、あ…っ!」
突然のことに驚きながら、あの重みに耐えるために身体に力を入れて魔剣を受け止めたが、身構えていたあの腰から崩れ落ちる程の重みが襲ってくることはなかった。
「…あれ?重く、ない?」
「『封印』の魔法をかけておいた。これでそいつは魔剣としての効力を失った。今のイチカにそいつの力を使いこなすことは難しいだろうからな。ちょっとの間眠って貰ってるわけだよ。」
「…『封印』…。」
確かに、鞘から抜いてもあの時のような引き込まれる感覚はなくなっていた。
改めてこの剣を観察すればするほど、美しいということを再認識する。
ゾッとする程白く美しい刀身。薄く研ぎ澄まされたそれは、風を切る感覚すら驚くほどに軽く、凄まじい程の切れ味を持っていることを容易に想像させた。
魔剣としての効力を失ってもなお、普通の剣とは比べ物にならないほどの性能を持ったこの剣が、極剣と呼ばれる武具の中でも抜きん出た性能を誇っているのならば、一体どれほどの能力を秘めているのか、少し怖くなった。
「んじゃ、そろそろ始めるか。修練。」
「っ!は、はい!よろしくお願いします!」
リーオさんの言葉に思わずピンっと身体が強張る。とうとう始まるんだ、修練が…!
「うん。いい返事だ。じゃあ、まずはスキル、スペルの理解から始めようか。」
「はい!……はい?」
次は10月中に...!
次回もお楽しみに




