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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
番外編:刹那の狩人
52/54

【イチカとアゲハの邂逅。初めまして妖精さん】

皆様、如何お過ごしでしょうか。近頃は寒くなってまいりました。いよいよ秋といった感じですね。


8月は投稿できずに申し訳ありません。色々仕事が立て込んでしまって、筆を持つ時間というか、執筆に割く時間が取れませんでした。本当に申し訳ございませんでした。


その代わりと言っては何ですが、今回は8月分と9月分で2話連続で投稿します。内容に割く時間がなく少し拙くなってしまうと思いますが、なるべく皆さんに読みやすい形にしたつもりです。


まぁ、番外編なので読まずに飛ばしてもらっても大丈夫です。本編に関わる内容ではありませんので。10月分はもう少し内容を濃くしたいと思っていますので、頑張ります。

「_____ご、ごちそうさまでした…。」

「あぁ、お粗末様。随分賑やかだったな。」

「あ、あはは…申し訳ないです…。」

「まさか一口ごとに絶叫しながら食べるなんて思わなかったな…でも、それだけ美味しかったってことだもんね?」

「は、はいっ!色々幸せ過ぎて蕩けそうでした…ほんとうに…。」



一口噛み締めるごとに構内から全身、脳へと広がる芳醇な肉の味。「至福」というものに味を付けたらこういうものになるであろう、と容易に想像が出来てしまう程の美味しさだった。


私は今の今まで食というものにあまり興味が無い人生を送ってきたが、初めて自分が食べたものに感動を覚えた。無意識のうちに涙が零れ、漏れ出る声と幸福感が止まらない。


先程のお胸枕とどっちがいいかと言われたら甲乙つけがたいと考えてしまう程の、16年生きてきて初めて覚えた幸せ過ぎる葛藤だった。



「…よし、そろそろ寝ろ。まだ傷は癒え切ってないんだ。少しでも安静にしとけ。」

「え、でも皿洗い…。」

「大丈夫よ。私たちがやっておくから。イチカちゃんは休んでて。」

「で、でも…!」

「気にするな。ケガ人はおとなしく寝とけ。アゲハ、後は頼む。」

《はーい。》



アゲハという謎の人物に声をかけると、食器を抱えたリーオさんたちは何処か夜の闇の中へ消えて行ってしまった。追いかけようにもこの闇の深さでは一瞬の内に迷ってしまうことは想像に難しくない。…言われた通りに寝るか…。


眠くはないけど、目を瞑って毛布に包まろう…。



「…………。」



………。



「………。」



……。



「………。」

《……。》



…眠れない。ダメだ。ついさっきまで気絶してたからか、一切の眠気が湧いてこない。暇を潰そうにも本も何もないこの場では…することすらない。…ていうか本なんて持っててもさっきの戦闘で燃えカスになっちゃってるか。


……それにしても不思議だ、リーオさんたちって。感じることの出来るオーラというか気配は何の変哲もない冒険者と変わりないのに、底が見えない。まるで深海を覗いている気分になる。



それに、あの目。


何よりも濃い深紅の瞳。


初めてあの目を見た時に感じた、吸い込まれてしまうような感覚。


恐怖と一緒に感じた、初めて感じる感情。でも、ダメ。これを抱いちゃ。この感情は、多分私を滅ぼす。忘れよう。忘れよう。


私に、これは必要ない。



「………。」

《……。ねぇ。》

「…ん?」

《ねぇってば。》

「……疲れてる。それはそう。幻聴かな…?」

《ねぇってば!ねぇっ!》

「疲れって脳に来ることってあるんだ……一度死にかけた反動であの世の声が聞こえるようになったとか?……やだぁ…。」

《ねぇっ!聞こえてるんでしょ!転移者さんっ!》


ペチっ


「ヒィッ!?」



______イィヤァァァァァァァァァァーーーーーーーッ!!!!??



「……悲鳴?」

「イチカちゃんの声だね。」

「…そう言えばアイツ、妖精って見えるのか?」

「…さぁ?」

“妖精を見るには目に魔力を集めないと見ることが出来ませんよ。あの転移者さんに、そんな技術あるようには思えませんが…。”



そうだった。妖精を見るには目に通っている魔力回路を起動させないといけないんだったか。俺らは常に入っているから気付かなかったが、普通はそうはいかないのか。



大変だな、一般人って奴は。



「……早く戻ってやるか。」

「…うん、そうしよっか。」



_____数分後、食器などを洗い終えてから野営場所に戻ると、毛布に包まりながら気絶するイチカの姿と、その周りを困惑気味に飛び回っているアゲハの姿があった。



《ご、ご主人…!えっと、その…どういうこと?》

「それは俺が知りたいと言いたいところだが、どうやらイチカにはお前の姿が見えてなかったみたいだな。悪いことをした。」

《…?》

「あはは…アゲハちゃんは気にしなくていいよ。それより、リーオ。イチカちゃんの力、分かった?」

「…あぁ。」



あの時、倒れたイチカを『鑑定眼(かんていがん)』で見た時に映った彼女のユニークスキル『刹那(せつな)(きわ)み』については、大分昔に読んだこの世界に存在する全スキル・スペルが載っている本『異能(レコードオブ)全集(アビリティ)』の中には一切の情報が載っていなかった。まぁ、あれは新たなスキル・スペルが増えれば書き換わっていくから何とも言えないんだが、俺の記憶にはなかったはずだ。



だが、『鑑定眼』のお陰で何とか『刹那の極み』の概要くらいなら読み取ることが出来た。



『刹那の極み』は簡単に言えば自己強化スキルだ。自身の全ステ―タスの上昇、更には使用スキル・スペルの変化、大分バラエティに富んだテンコ盛りスキルだな。転移者って何でもありか?本当によくわからない奴らだ。



「…イチカの持つユニークスキル『刹那の極み』は、所謂自己強化スキルだ。自分のステータスと所有スキル・スペルに変化を加える強力なスキルだ。」

「そっか…でもその分…。」

「あぁ、メリットに対するデメリットもしっかりと強力だ。まずは制限時間。スキルを発動していられる時間は10分。さらにスキル発動中は他一切の支援を受けられない。そして、一番きつい条件は、相手と一対一の状況でしか、スキルは発動できない。」

「…タイマン専用スキルって感じだね。」

「近接タイマン…それで『剣術(技)』か…。」

「え、イチカちゃんって『剣術(技)』の使い手なの!?めっずらしい!」

「『刹那の極み』発動中だけだがな。だが、せっかく同じ技を使うんだ、ちょっとくらい協力をしてやるか。…特別講義だ。」



洗い終えた食器類を『空間』の中に放り込みながら、普段あまり浮かべることのない心底楽しそうな笑みを唇に薄く浮かべたリーオが小さく呟いた。


…______クルルッポーッ…..クルルッポーッ


……どこかで聞いたことのあるような、ないような、そんな鳥らしきものの鳴き声らしきものが聞こえる。でもこれじゃ、何を言いたいのか日本語的に正しく伝わんないな。それにちょっと反響して聞こえてくるからここは何処かの室内?…ダメだ。全っ然頭が回ってくんない。


まずさっきの鳴き声らしきものは鳥?それともモンスターか何かなのか……ん?モンスター…?



「______…知らない天井だ…って言ってる場合じゃない!?」

「お、おはよう。目が覚めたな。」



寝ていたベッドから飛び起きて、混乱気味に周囲を見渡すイチカの斜め上から声が掛けられる。



「リーオさん?は、はい、おはようございます…ってそうじゃなくて!」

「あぁ、いや、あれはこちらの不手際だ。少し失念していた。」

「…!?どういうこと…?」



状況が呑み込めていないイチカがとうとう頭を抱えてうずくまる。それを横目に見ながら少し面倒臭気に溜息を吐いたリーオが話を続ける。



「さっき…というか、ほら、昨日お前が気絶する前に話しかけていた奴な。あれ、俺の契約している妖精なんだ。ほら、アゲハ。挨拶してやれ。」

「よ、妖精…?」

《……昨日は、ゴメンね?私が見えてないことわかってなかった…。普通の人間さんだもんね?》

「…?…??ど、どこ?妖精さん!?」



?食いつき具合が凄まじいな。一般人の中にも妖精が見える者はいるが、転移者の中にはそういう奴はないのか?というか、転移者の居た世界に妖精って奴がいるのか?この食いつき加減を見る限り、元居た世界に妖精っていう奴はいなさそうだ。


いずれ、というかこの後嫌でも使うことになるだろうし、今の内に教えておくことに損はないな。



「…イチカ、自分の目の周りに魔力を集中させてみろ。最初は難しいかもしれないが、少しずつ、ゆっくりでいい。」

「魔力を、目に…?分かった………ゆっくり、魔力を目に…。」



身体の中の魔力の流れを出来るだけ具体的にイメージする。そして魔力の流れる回路を少しずつ目に繋げる。


じわっと、温かい感覚が両目の周りに広がると同時に両目の奥にじくじくとした鈍い痛みが走る。


この痛みは魔力を初めて通した時と同じものだ。公国の訓練でも同じような痛みを感じた。身体の奥にまで響く、重く、淡い痛み。


それが少し引いたタイミングでゆっくりと瞼を上げる。瞬間、鮮烈な光と共にいつも見ていた視界とは違う、様々に彩られた世界が飛び込んできた。



「…?…!?え、なんか、視界が、まぶしい…?あたまくらくらしてきた…。」

「初めて目の魔力回路通したんだ。色々情報量が多くて酔っちまうのはしゃあない。ってことで、アゲハ。」

《はーい。人間さーん、こっち見てー?》

「?……ッ!よ、妖精さんッ!!!」



可愛い!妖精って本当に小さいんだ。手乗りサイズだ手乗りサイズ。何ていうんだろう、すっごく精巧に作られたフィギュア?って言えばいいのかな。でもそんな感じだ。細い腰、サイズ感でいえば私の親指くらいの大きさの腰くらいで伸びる艶っ艶の黒髪に微光を発する黒紫の蝶のような羽。くりくりっとした黒い宝石のような瞳が私の目を真っ直ぐに見つめていた。



「かっ……可愛いッ!!え!?本物の妖精?人形みたいな造詣の美しさ…!」

「……何かイメージと違ったな。」

《…ご主人、なんかちょっと怖い…。》

「妖精が珍しいんだろ。初めて見るらしいからな。」

《う~ん…まぁ、下手にべたべた触ってこないだけいいか…。》

「本当に宝石みたい…綺麗な羽だなぁ…光に透かすと色んな宝石が散りばめられた夜景みたいな…綺麗…。」

《………何か、くすぐったい…。》



イチカの口説き文句にアゲハが頬を紅く染めたところで、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。その場にいた全員がそちらに注目すると、エプロン姿でご飯を乗せた盆を持ったシェランが、注目されていることに少し驚きながら部屋に入ってきた。



「リーオ、イチカちゃん起き…え?何、え?」

「シェ、シェランさん!」

「あ!起きたんだイチカちゃん!お腹空いてるかわからなかったけど、取り敢えず消化に良いもの作ってきたから、食べる?」

「は!ハイ!いただきます!」

「…となると、俺達っつうか、俺が邪魔だな。少し外に出てくるから、留守番頼むぜ。」



そう言い、少し伸びをしながら立ち上がったリーオに、シェランが料理を乗せたお盆をイチカに手渡しながら問いかける。



「え、何処か行くの?」

「散歩だよ。それとイチカ。」

「は、ハイ!」

「それ、食べ終わってからでも、身体が動かせるようになってからでもいいし、外に来てくれ。ちょっと、話しておきたいことがある。」

「え、あ、はい、わかりました…?」



その返事を聞いたリーオは、自分が座ってた椅子の横に置かれていた綺麗な意匠の凝らされた銀色の剣を手に取り、シェランとアゲハに一言言った後に静かに部屋を出て行った。


次は10月中に何とか...!


次回もお楽しみに。

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