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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
番外編:刹那の狩人
49/54

【霧雨一狩の憂鬱。魔族との邂逅・前編・】

何とか2月中に書き上げることが出来ました。

今回も番外編【刹那の狩人】第四話です。今回は番外編主人公である『霧雨一狩』に重きを置いた内容となります。それと思いがけず長くなってしまったので、今回のタイトルは【・前編・】とさせていただきます。後編にはリーオ達も登場する予定ですので。今しばらくお待ちください。

_____その数時間前、ギルド本部で起こしたいざこざの事後処理を終えたイチカ達は、前々から受けていた依頼へ向かう為、いつも使っている馬車に乗り込んでいる所だった。


先のいざこざでギルドから厳重注意を受けたトウドウ達は苛立ちを抑えきれない様子で馬車の中で何やらぶつくさ文句を言っているようだった。


偶にこちらを睨みつけてくるが、イチカはそれを全く気にすることなく自分の武具≪黒鉄(くろがね)(けん)≫の整備をしていた。



「……おい、イチカ。」

「………。」

「…何?アンタみたいなのが東堂君を無視していいと思ってるの!?」



そう悪態をつくのは魔法使いの『佐川千央(さがわちひろ)』。長い黒髪を一纏めにしているのが特徴の高身長美少女だ。私が言うのもなんだけど、ここにいる人間は大体顔が良い。私は例外だけど。



「アンタのせいで東堂君はあんなに怒ってんのよ!?」



同じく喚き散らかしているのは神聖魔法使いの『大山佳澄(おおやまかすみ)』。綺麗な栗毛のショートヘアーが特徴的のロリ系美少女だ。



「自分がちょっと強いからって調子乗ってんじゃないわよっ!」



同じく喧しい声を上げるのはこれまた魔法使いの『松村姫都美(まつむらひとみ)』。茶髪のツインテールが特徴的なツンデレ系美少女だ。


こいつ等三人は東堂のことが好きらしい。まぁ、態度を見れば誰でもわかると思うけど。こういうのなんて言うんだっけ。生死の境を一緒している男女がそのうちに好き者同士になってしまうこと……あぁ、吊り橋効果、だったっけ。勝手に死にそうになっているのはあの四人だったけど。あれ、ストックホルム症候群だったっけ。あ、あれはちょっと違うか。


まぁ、取り敢えずこの4人に言いたいというか、言えることは。



「…めんどくさ…ハァ…。」



あ~あ、あの時さっさと逃げておけばよかったかも。

元々組む気のなかったパーティ内で、こんな謂れのない罵詈雑言を受けるなんて…。

元居た世界にいた時、やっていたネトゲで入ってたクランでもこんなことはなかったな。それを考えればあっちの方がまだマシだった気がする。

まぁ、色々面倒くさくなってすぐにぬけちゃったけど。



「な、何!?もういっぺん行ってみなさいよっ!!」

「……うるさ。私上にいるから。これ以上こんなところいたら頭痛くなりそう。ていうか実際今頭痛いし。」

「なっ…アンタねぇッ!?」

「何だったら、今すぐにでもパーティから抜けてもいいのよ? っていうか、この依頼終わったら私、ここ抜けるから。」



元々考えていたことだ。シオーさんに会って、決心がついた。ちょっと遅すぎたかもしてないけど、いい加減、疲れちゃった。



「…ハァッ!?お前っ…何勝手なこと言ってんだよッ!!」

「ほ、本気で言ってるのアンタ…!」

「本気。というか元々パーティなんて組む気なかったし。無理やり組まされたものだもの、お互いに鬱憤も諸々溜まってたし、いい機会なんじゃない?それじゃ。」

「お、おいっ!待てよっ!」



吠える東堂を無視してひょいっと馬車の屋根に登る。下でガチャガチャ聞こえてくるけど、アイツ等にここまで上がってくる勇気もないって知ってるし、気にすることでもないかなぁ…。


さてと、≪黒鉄の剣(あいぼう)≫の整備もなんでかんで終わってたし、目的地に到着するまで暇だなぁ…。



「…いい機会だし、受けたクエストの確認でもしておくか。」



腰のポーチに入っている依頼書を引っ張り出して内容を改めて確認する。


今回受けたクエストは近頃街道近くの森で目撃される『不思議な光の調査』というクエスト。近くでモンスターが目撃されているという報告はなかった為、戦闘が起きる可能性は低いと考えられる。まぁ、用心するに越したことはないけど。


私は元々、戦闘能力が低いほうではない。元居た世界でやっていた剣道の動きが身体に染みついているからだ。公国で身に付けた『剣術(けんじゅつ)((じゅう))』と『魔力撃(まりょくげき)』も相まって、一対一の戦闘ならば公国騎士にだって引けを取らない立ち回りが出来ると自負している。公国で読んだ本に書いてあったスキル『魔法(まほう)(治癒(ちゆ))』を習得したお陰で、ある程度の怪我や傷も治すことが出来る為、長期戦になっても大丈夫。


私の得意とする戦法は集団になって行う戦闘、つまりパーティ戦闘ではあまり光るものではない。むしろ集団での戦闘は不得手だ。


『私の剣は一対一の戦闘でのみ輝くもの。』


これは私に『剣術(柔)』の指南をしてくれた公国の騎士の人も言っていた。


実際私もそう考えているし、周りにいる仲間を気にして戦うより、自分一人で伸び伸びと戦った方が性に合っている。まぁ、昔やっていたネトゲでも基本はソロだったし、それが染みついてるのかなぁ…?


まぁ、いいや。しょうもないこと考えても何の得にもならない。今は取り敢えず、武器の整備でもして森に到着するまでの暇つぶしでもしますか。




その数時間後、調査依頼のあった森へと到着した私は馬車の屋根から降りて、パーティメンバーとは少し離れた場所で周囲の警戒をする。これはいつもの私の役割だ。


このパーティの中で唯一、スキル『直感(ちょっかん)』があるのは私だけ。『直感』は周囲の気配を探るのには少し不便なスキルだが、ある程度の気配は感じることが出来る。


そして、私とは少し離れたところで準備をしている東堂達から様々な感情の込められた視線が来ているのをありありと感じるが、反応してやる興味も気力も湧かない。


向けられる視線の一切を無視して周囲の警戒をしていると、突然東堂達の方から大きな叫び声が聞こえてきた。



「_____『武神(ぶしん)御手(みて)』ッ!」



そんな叫び声が聞こえてきた直後、東堂が構えている≪(はがね)曲剣(きょくけん)≫に光が収束し、一本の光の剣へと変わった。



これが東堂の持つユニークスキル『武神の御手』。自分の手に持っているものを『ありとあらゆるものを切り裂く刃』へと変えるという能力。


実際このスキルで作り出した光の刃で巨大な岩を一刀両断している所を見たことがあるので、『ありとあらゆるものを切り裂く』というのはあながち間違いではないのかもしれない。


しかし、というべきか当然というべきか、ちゃんとデメリットも存在する。このスキルで作り出す光の刃の耐久力はベースとなった武器の三分の一にまで低下する。


木の棒をベースにすれば木の棒の三分の一の耐久しかない光刃になる。木の棒の三分の一では紙一枚だって切れはしない。というか一振りしただけで砕けてしまう程の脆弱な武器にしかならない。さらに、ベースに使用した武器はスキルが切れた途端に掛かっていた負荷に砕け散ってしまう。燃費のすごく悪いスキルだ。


というかそんな欠点の多いスキルをこんなところで発動してどうするつもりなのだろう?まだ敵の気配も感じ取れていないし…あぁ、そういうことか。


東堂達は自分達だけでさっさと森の中へ入って行ってしまった。私の手を借りずともこんな依頼達成できるというわけか。


まぁ、いくら銅等級の冒険者でも調査クエくらいなら簡単に達成できるでしょ。だって4人もいるんだから。


私は私で、周囲の探索でもしておきますか。何か良いアイテムを落とすモンスターとかいれば狩っておきたいし、丁度いい小遣い稼ぎにもなる。ついでに剣術の鍛錬も出来るし、一石二鳥じゃん。



「…一人って、気楽だなぁ…。」



そんなことを呟きながら一人で伸び伸びと森の探索を始めたイチカとは別に、4人で『不思議な光』の調査をしている東堂達の雰囲気は最悪だった。


全員が全員お通夜状態。誰一人口を開くこともなく、いつもならうるさいくらい喋る取り巻き3人娘も全く口を開こうとしなかった。


そんな中、4人の近くにあった背の高い草むらが不自然に揺れた。ガサガサっと何かが草をかき分けてくる音と共に、魔物特有のべったりと張り付くような不快な魔力を感じ取ることが出来た。そう、魔物だ。魔物が現れたのだ。


しかし4人の中に誰一人として感知系のスキルを持っている者はいない。


敵の気配を探る『気配感知(けはいかんち)』も感覚を鋭敏にする『直感』も周囲の魔力反応を感知する『魔力感知』も何一つ持っていない。つまり、誰の一人も敵の気配に気づける人間がいないということ。それは、戦いにおいてほぼ確実に一手遅れる。


つまり…


ガサッ



「グルルルァァァァァァッ!!」



ほぼ確実に先手を取られてしまうということだ。



「モ、モンスター!?」

「クソッ…お前らは下がってろ!」

「狼…!?獣型のモンスターってわけ?」

「回復は私がする!皆、頑張って!」



現れたのは強い魔力の影響を受けて変異した≪魔狼(まろう)≫。通常の狼より耐久と敏捷が上がっており、中にはコボルト族のユニークスキル『毒牙(どくが)』を獲得しているものもいる為、他の魔物に比べてある程度の注意を払って戦わなければならない相手だ。



「グルルルルルルルルル…!」

「…下手に近づいたら一瞬で持っていかれる…。」

「じゃあ、私から。『火球(ファイヤー・ボール)』ッ!」



そう千央が唱えると、突き出した掌に赤褐色の魔法陣が展開され、その中心部にバレーボールくらいの赤い炎の球が形成されていく。


それを見た魔狼は一瞬怯えたような表情を浮かべたが直ぐに立ち直り、純粋な殺意のみを込めた視線を千央へと向けた。



「ッ…!」

「……?おい、どうしたんだ千央?」

「っ……っ…!」



初めて自分のみに向けられる純粋な殺意の込められた視線。いつもなら前衛の東堂、または一狩が敵の注意を引き付けてくれているが、今日の前衛は一人きり。


敵から自分へ純粋な殺意を向けられるというのは、こんなにも怖いことなのか。千央は恐怖してしまった。そして想像してしまった。自分がこの魔狼に食い殺される未来を。抵抗も出来ず惨たらしく殺されてしまうところを。


獲物の目に恐怖の色が見える。自然界において、獲物から感じられる恐怖の感情は、「殺してくれ」と自分から告げているようなものだ。千央が抱いた恐怖の感情を魔狼は敏感に感じ取った。



そこから魔狼が行動に移るまでは一瞬だった。



「____グルルァァァァッ!!!」



一呼吸の内に定めた獲物との距離を詰め、東堂が反応する暇すら与えず恐怖で足の竦んだ千央の突き出された腕へ魔狼の『毒牙』が深々と突き刺さる。



「____千央ッ!!」

「ッ!…ぁああああああぁぁぁぁぁーーー!!!??」



突然奔った激痛に絶叫しながら必死になって深々と突き立った魔狼の牙を振り解く。

噛みつかれたことによる激痛と、止まらない出血に段々と迫ってくる死への恐怖。ありありと感じる自らの無力さと、不自然な脈動を繰り返す心臓。

激しくなる呼吸と、明滅する視界。毒だ。毒が効いてきているんだ。そう考えている内に段々と吐き気も出てきて、真面な呼吸すら危うくなっていく。



「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

「千央!しっかりしろ千央っ!」

「グルルル…。」

「東堂君!前っ!」

「チッ!この犬っころがッ!!」



瀕死の千央を抱きかかえながら、今なお向かってこようとする魔狼に光刃の切っ先を向けて威嚇する。しかし、この状況はこちら側が明らかに不利。初めて味わった身近な死。これを自分達だけで解決しなければならない。



…無理だ。恐怖で足が竦む。剣を握る手がどうしようもなく震える。


怖い。呼吸が荒くなる。向けられる肌で感じることが出来るほどに濃密な殺気。こんな下級魔物にも恐怖してしまう程、自分はちっぽけな存在だったのかと、身体が、心が考えてしまう。頭がどうしようもなく真っ白になってしまって、何も考えることが出来ない


逃げようにも足が動かない。後ろから掛けられる声も全く耳に入ってこない。今感じることが出来るのは、左腕に掛かる死の感触と、向けられる濃密な殺気。


……何故だ?何故こんなことになった?いつものクエストと何が違うんだ?ただの森の調査クエストだぞ?いつもならこんなモンスターくらい、俺一人で…一人で……アイツか?そうだアイツがいないせいだ。アイツが俺達と一緒に来ないから、こんなことになっているんだ。アイツのせいだ。俺は悪くない。俺のせいじゃない。俺は、俺は……。



「_____それは、暴論じゃない?トウドウアキラ君。」

「ッ!誰だ!」



明確に聞こえてきた声に、咄嗟に反応する。聞いたことのない男とも女とも判断がつかない声。聞こえてきた方へ切っ先を向けると、薄い笑みを浮かべた中世的な人物が太い木の枝に腰かけていた。容姿を一言で言い表すとすれば、『美』。これに尽きる。もしこの人物が女性なら『絶世の美女』という言葉が当てはまる。それほどまでに人間離れした美しさを、その人物は持っていた。



「だ、誰アナタ!さっきまで居なかったのに…!?」

「東堂君!そんなことより千央を離して!このままじゃ本当に死んじゃうっ!!」

「あ、あぁ、すまない…。……それで、お前は誰だ…?」



姫都美に言われて、千央を抱きしめていた左腕を離し、いつの間にか動くようになった足で立ち上がり、なおも薄い笑みを浮かべる人物へ光刃の切っ先を向ける。



「…『お前は誰だ?』…..ふむ、そうだな…敢えて言うなら、あんな下級魔物に殺されかけていた君たち4人を助けてあげた心優しい人物…って所?」

「…助けてあげた…?」

「疑うならほら、後ろを見てご覧よ。」



言われるまま振り返ってみると、先程まで濃密な殺気を放っていた魔狼は首と胴が切り離され、見るも無残な姿で力なくぴくぴくと痙攣していた。



「……死んでる?」

「ほら、言ったでしょ?助けてあげたってさ。」

「…それについては、ありがとう。礼を言うよ。でもどうしてこんなところに君のような美しい人が?助けてくれたということは、随分腕に覚えがある人みたいだね。」

「…何?まさか口説こうとしてる?あははははっ!君面白いねぇ!まさか、僕のことを仲間に引き入れようとしてるの?無駄だよ無駄!あははははっ!」

「え、いや、僕は別にそういう考えなんて…。」

「言い逃れようとしたって無駄だよ?僕の『眼』に掛かれば、君の能力、女の子の好み、今考えている下賤なことまで全部、お見通しさ。」



その一言で、今まで浮かべていた嫋やかな笑みから一転、感情の一切読み取れない無表情へと変わった。その瞬間、その場にいた全員の背筋に冷たいものが通り過ぎた。悪寒だ。周囲の空気が一瞬で氷獄に囚われたと錯覚してしまう程に、身体が無意識に震えてしまう程に、凍り付いた。



「…別にさ、君たちに興味はないんだ。ただ君たちの近くにいれば、『彼女』に会えるかな?って、思っただけ。今回君たちを助けたのは気まぐれだったけど、その様子じゃ、彼女はこの場にはいないってことだね?」

「…彼女?もしかして『霧雨一狩』のこと?」

「そう、イチカ。キリサメイチカ。僕を魅了して止まない、『刹那(せつな)狩人(かりうど)』…。君たちとパーティを組んでいるって言っていたから、君たちがここに来るようにってこの森の調査依頼を出させてたんだけど…一緒じゃないのか…この森に入ってきたっていうのは分ったんだけど…な?」



そう東堂達に問いかけながら飛んできた『放出(ブラスト)』を中指一本で弾き飛ばすと、その攻撃を放った相手の元へ一瞬の内に移動し、その瞳を暫くじっと目を見つめてから「コテンっ」と首を傾げて見せた。



「……ね?『マツムラヒトミ』?」

「ひっ……ヒッ!?」

「姫都美っ!」



動かない身体を無理やりに動かし、握りしめた光刃を振るう。しかし、それをひらりと交わされ、地面へとぶつかりそうになる瞬間、光刃となっていた剣は、柄だけを残して粉々に砕け散ってしまった。どうやら『武神の御手』の発動限界時間となってしまったようだ。



「っ!……!」

「あら、折れちゃったね?僕に当たってもないのに…あ、それって『武神(ぶしん)』の武器?無作為に使い過ぎたんだね。」

「……『武神』の武器だって、よく分かったね。」

「有名だからね。ユニークスキル『武神の御手』。握った物をありとあらゆるものを切り裂く光の刃へと変える…面白いスキルだよね。その代わり発動限界になったら元になった武器が砕け散っちゃう燃費の悪いスキル…だったっけ?」

「……佳澄、『アレ』を出してくれ。」

「!東堂君、まさか…!」

「…アイツと闘うためには『アレ』がいる。出来るだけ耐久の高い武器が…。」

「…分かった。でも、無茶しないで…?」

「…あぁ、約束する。君たちを置いて、僕が死ぬわけないでしょ?」

「…東堂君…!」

「東堂君…!」

「……行くぞ!これが俺の本気だッ!!」



佳澄の掌に展開された『空間』から、東堂の身の丈を超える程の巨大な黒い大剣が姿を現した。東堂はその黒い大剣を両手で握りしめ、巨大な光刃とすると、その切っ先を先程までと同じ薄い笑みを浮かべた人物へと向けた。



「あぁ、≪黒鉄(くろがね)大剣(たいけん)≫ね。そこらの武器に比べて大剣は耐久が高めだし、『黒鉄(くろがね)』は武器に加工される金属の中で最も耐久の高い素材だから、『武神』の武器の元にするには丁度いい得物だね。」

「…笑っていられるのも今の内だ…行くぞッ!!」



巨大な光刃を肩口に担ぐように構え、両足に全力を込めて突進していく。その間に構えた光刃に『魔力撃』『剛斬(ごうざん)』を乗せて一撃の威力を高める。二つのスペルの乗せられた光刃は白から薄い黄色へとその色を変える。



「…向かってくる、か。うん。まぁ、準備運動とでも思えばいいかな?」



必死の形相でこちらへ向かってくる東堂を一瞥し、にこりと笑みを浮かべながら、腰に差した剣の柄へ手を添える。無駄のない所作で腰の剣を抜き、ゆっくりと向かってくる東堂へ切っ先を向けるように構える。



「ッ!…食らえっ、俺の全力…!エイヤァァァァァアアアッ!!!」



迫真の掛け声とともに振り下ろされる光刃を見ても、一つ変えることのなく向かってくる光刃に自らの剣を這わせ、滑らせるようにして受け流し、空いた東堂の首へ照準を合わせ、返す刃で容赦なくその凶刃を振り下ろそうとした時、どこかから放たれた『放出』によりそれを阻まれる。


続けて放たれた『放出』を避けながら、東堂から距離を取り、『放出』を放ってきた人物へと、自分の攻撃の邪魔をした人物へと問いかける。



「っ…っと、なぁんだぁ…いたんじゃないか。なら声をかけてくれてもよかったんじゃない?『キリサメイチカ』?」

「ぐっ…イチカ?」

「………。」



問いかけに応えるように、自らに掛けていた『隠蔽(ハイド)』と『不可視(シャットオフ)』を解き、潜んでいた草むらから霧雨一狩がその姿を現した。



「…一狩、アンタ…!」

「い、今の今までそこに隠れて私達を盗み見てたっていうの!?助けてくれてもよかったじゃない!?アンタのせいで千央が…どうしてくれんのよッ!!?」

「わぉ…なんて八つ当たり。面白い子だね、『マツムラヒトミ』…だっけ?」

「ッ…。」

「……別に、私はアナタたちを助けに来たわけじゃない。そこの人に呼ばれたから来ただけ。その男を助けたのはただの気まぐれ。…それに一つ言わせてもらうけど、私が助けなかったせいでその女が死にかけてるっていうなら、アナタたちは自分達だけの力で下級モンスター一匹すら狩れない雑魚だったっていうことでしょ?わたしにその責任を押し付けないで。」

「なっ…!アンタねぇッ!!」

「ま、まぁまぁ、落ち着いて。取り敢えず助かったよ一狩。また君に助けられちゃったね。」

「気持ち悪いから話しかけないで。それと邪魔だからさっさとこの場から消えてくれない?アナタたちがいると戦いにくくて仕方ないんだけど。」



この期に及んでヘラヘラとした態度で私の機嫌を取ろうとするなんて、本当にどうしようもない男ね、コイツ。異世界で可愛くて自分のことが好きな女の子に囲まれて、その女の子同士の間を取り持ちながら「俺カッコイイ!」をしてちやほやされて、なんて。自分のことをラノベの主人公か何かと勘違いしてるのかな。頭も顔も可哀そうな人。



「い、一狩…?僕も一緒に…!」

「あのねぇ、この際だからハッキリ言っておくけど、私アナタの事大っ嫌いだから。事故に見せかけてお尻とか胸とか触ってくるのも気持ち悪いし、付き纏ってくるのも迷惑だし気持ち悪いから、金輪際私に関わらないで。ほら、分かったらさっさと散って。邪魔。」

「ハハハッ!想像してた通り手厳しいことをいう子だね?だって、トウドウ君?僕にとっても君たちさぁ、邪魔だからさぁ…さっさと消えてくれない?じゃないと本当に…消すよ?」



その一言で「ズンッ」とその場の空気が重くなる。まるで上からすごい力で抑え込まれていると錯覚してしまう程の威圧感。そんな空気に耐えられなくなったのか、東堂達は瀕死の千央を抱きかかえながらその場からそそくさと逃げ帰っていった。


東堂達の姿が見えなくなってからようやく、展開されていた重苦しい空気が消え、真面に動くようになった身体を確かめるようにぐぅっと伸びをする一狩に、にこにこと楽し気な視線が向けられる。それを軽く受け流しながら、身体が動くことを確認した一狩は腰に差した剣の柄に手を添える。



「…それで、アナタ何者?普通の人間じゃないよね?」

「うん。まぁ、普通は分かるよね。何を隠そう、僕は≪魔族≫さ。」



…≪魔族≫。公国で読んだ書物に書いてあった、魔神の加護を最も強く受けた種族。海を隔てたところにある魔神が統べる大陸≪ダークアルカディア≫からやってくる魔の使徒。


確か、こんな風に書かれてたっけ。魔の使徒、か。うん。何となく分かる。多分、私一人で相手しきれるような相手ではない。あんな剽軽な態度の癖に、立ち姿には一切の隙が無い。


張り巡らされている力が違いすぎる。『刹那の極み(アレ)』を使ってようやくどっこいまで持っていけるかどうかだ。普通にやっても死ぬ。下手をこいても死ぬ。どっちに転んでも死しかないなんて八方塞がりにも程がある。



でも、やるしかない。この森の近くには長閑な農村があったはずだ。ここでコイツを食い止めないと、そこまで被害が広がってしまうかもしれない。私一人では力不足かもしれない。でも、助けを呼ぶことも出来ない。私の力は一人の時にこそ輝くもの。ここで助けを呼ぶことこそ下策も下策。この場を私は一人きりで片を付けるしかない。



「……魔族…知ってるよ。すっごい強いって話だよね…。」

「あれ?知っててくれたの?嬉しいなぁ…!」

「うん。だからこそ、初めから全力で行かせてもらうよ。出し惜しみしてる場合じゃないものね。」



ゆっくりと抜き放った剣を腰元に構え、ゆっくりと息を吐きながら足を開き、姿勢を低く、いつでも飛び出せるように踏みしめる足に力を込める。



「…ハハッ、君は本っ当に、面白い子だよね…!」

「………ここで、アナタを止める…ッ!」



身体に流れる力を具体的に頭の中でイメージする。力の線が滞りなく前進を流れていくイメージ。そして巡った力が身体のある一点、心臓に集まっていくイメージ。


段々と全身がぐつぐつと熱くなっていくのが分かる。ドクドクと心臓の脈動に合わせて、全身に熱いものが巡っていくのを感じる。


ドクン、ドクンという心臓の鼓動に呼吸を合わせて、全身に熱い何かが巡り切ったタイミングで静かな闘志を込めた声で呟く。



「____『刹那(せつな)(きわ)み』…ッ!」



次回は調子が良ければ2月中に。

そうじゃなければ3月中に投稿します。


次回もお楽しみに。

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