【霧雨一狩の異世界転移。冒険者リーオの仕事】
皆さん、明けましておめでとうございます。
今年も何卒よろしくお願い申し上げます。
ちょっと遅くなってしまいましたが、番外編【刹那の狩人】第三話です。
今回は準主人公である『霧雨一狩』の過去、この世界に転移してきたときのことを中心に書きました。転移者であって転生とは違うのでその辺は何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。
私は、望んでこの世界に来たわけではない。
この世界に来る前の私≪霧雨一狩≫は、ただのどこにでもいるような女子高校生だった。
所属していた部活は剣道部。趣味はゲームに読書、音楽鑑賞など。暇なときは古本屋に入り浸るような普通の、所謂文学少女という奴だろう。
クラスでもあまり目立つ存在ではなかった。でも友達と言える存在はいた。まぁ、友達と言う言葉の定義はよくわからないが。普通に話すクラスメイトはいたし、クラスで孤立していたわけではない…と思う。
学校は別に嫌いというわけではない。でも楽しかったわけでもない。取り敢えず高校は卒業しておこうという程度の気持ちで、偏差値もあまり高くない地元の普通高校を選んだ。
無為に過ごす高校生活は『退屈』の二文字でしかなかった。退屈しのぎに経験のあった剣道部に入ったりもしたけど、それは変わらなかった。
適当に進学でもして、そこそこの会社に入って、小さなアパートの一室で一生を終えるのかなぁ…と、そんな風に呆然と将来のことを考えていた。
しかし、ある日突然そんな代わり映えのしない毎日が終わりを迎えた。
あれは忘れもしない高校生活2年目の10月14日。文化祭もそろそろという季節で、クラス内の雰囲気は浮足立ち始めていた頃だった。
その日の放課後、多分16時を少し過ぎた位だったと思う。短くなった日が少しずつ西の空に沈んでいくのを横目に見て、私はそろそろ部活に行こうと、何の気なしに暇つぶしとパラパラ捲っていた小説をカバンに仕舞い、未だ賑わっている教室を後にしようと席を立った。
クラスメイトに挨拶をしながら教室の後ろのドアを開ける。丁度そのタイミングで、前のドアを家庭科の先生が開けた時に、ぐらっと、目の前の世界が変わった。
不規則に揺れる視界と突然その場に倒れこむ身体の感覚に、若干の驚きと「これが眩暈か。」と初めての体験に感心していると、一瞬身体が軽くなる感覚があったと思った瞬間、目を焼く眩い光と共に再び目の前の世界が変わった。
まず目に入ったのは、自分と同じように床に倒れこむクラスメイト達と、家庭科の先生。おそらく石レンガ?で作られているであろう磨き上げられた鼠色の石床。そして自分たちを囲むように展開されている複数の様々な色や形をした、漫画やゲーム、アニメなどで見たことのあるような魔法陣と、その周囲で歓声を上げるローブのようなものを身に纏った人物たち。
未だはっきりしない視界と意識の中で、まず無意識のうちに心の中に湧き出た感情が『歓喜』。
『退屈』を絵にかいたような私の、何の代わり映えのしない毎日が、その日突然終わりを告げた。
私たちを呼び出したのは、大陸の中央にある『テルビューチェ公国』という比較的小さな国。人間至上主義を掲げる人間国家だ。
呼び出されてから私たちは、テルビューチェ公国の君主である大公『アリバン=ダレクス』から呼び出された理由や国の情勢など面倒なことをつらつらと説明されたが、特に興味が無かった為全て無視した。
その後は、一応国賓としてそれ相応のもてなしをされた。出された料理も悪くはなかったし、公国の国立図書館も制限なく利用できたこともあって、元居た世界と同じ『退屈』を感じることはなかった。
ただ一つ、多分唯一不満があるとすれば、呼び出されて3カ月程経過した頃に国を出て冒険者になるか国に残って公国騎士となるかの二択を迫られ、よくも知らない奴らとパーティを組まされたことくらいか。
元々はこの国に残って適当に過ごそうかと思っていたが、とあることがきっかけで今すぐにでもこの国を出よう、そう思うようになった。
それは、面白い本を見つけてしまい、遅くまで図書館に籠ることになってしまった夜のことだった。
魔力の照明でうっすらと照らされた城の廊下を、なるべく音を消して歩いていた時、いつも通りかかった一室から珍しく誰かの声が聞こえてきた。
普段なら誰も入らないような、物が雑多に置かれた物置部屋…だったはずの部屋から、それもこんなド深夜に人の声が聞こえてくるなんて、と思いながらゆっくり、中にいる誰かに気付かれないよう気配を出来るだけ消して、ほんの少しだけ戸を開けて中の様子を探る。
そこにいたのは鎧を着こんだこの国の騎士…装備の感じからして近衛兵辺り?が、別の誰かと話している。
陰になって見づらかったが、よく目を凝らして見てみると、近衛兵たちの間から光沢のある紅いシルクのローブが見て取れた。
…おっと、驚いたことにこの国の君主である大公様じゃないか。
こんな時間にこんなところで一体何を話し込んでいるのか?大変に興味が湧いたので、最近覚えた魔法『広聴』の魔法陣をこっそりと後ろを向いていた近衛兵の一人に貼り付けて自分はさっさと退散する。こんなところを誰かに見られたらあらぬ誤解を生んでしまう可能性もあるし、そろそろ身体の活動限界時間も迫ってきていたのもある。
とどのつまり、眠い。睡眠は大事。健康にも美容にも。夜更かしは出来るだけ控えるべきだ。
その日は『広聴』で大公たちの会話を聞きながら、その日は寝ようと思ったのだが、聞こえてきた内容が内容だったので、その日は一睡もできなかった。
『インテグラル王国及びフローリア王国に戦争を仕掛ける。』
この言葉が聞こえてきたとき、私は耳を疑った。いや、何となくは察していたというべきか。この国が外の世界から戦力を求める理由、そして忙しなく動く城の兵たち。さらには私たちに生きる力を与えると言って魔法、剣術、盾術、弓術など、それぞれの才能にあった訓練を受けさせる。
そして、一度秘密裏に城を抜け出した時に見たこの国の現状。≪奴隷制度≫、≪人間至上主義≫、≪貴族の腐敗≫、≪権力の集中≫、元居た世界で見た中世の欧米諸国が滅んだ理由のすべてがそこには凝縮されていた。
だから私は何も悩むことなく、この国を出ることに決めた。
国を出るときに国王に言われたが、私たち(一応この世界の呼ばれ方では『転移者』と呼ばれるらしい。)には、こちらへ呼び出されたときに神から特別な力が与えられているらしい。
『ユニークスキル』と呼ばれるそれは、この世界における特殊能力『スキル・スペル』の上位版?となっているらしい。この辺はゲームやアニメで聞いたことのある単語だったから何となくは理解できた。
そして、私に与えられたユニークスキルは『刹那の極み』。これについて図書館などで調べてはみたが、どの文献にもそんな名前のスキル・スペルは載っていなかった。
他のクラスメイト達はどこかの文献に載っているような有名スキルのオンパレード。
『能力不明のユニークスキルを持っている。』
これにより私は周囲から少し浮いた存在になってしまった。
別に浮いていても構わないのだが、無理やり組まされたパーティメンバーからもそういう目で見られるのはちょっと勘弁してもらいたかった。というか、元々私は一人でこの国を出るつもりであって、こんな奴らと一緒に冒険者になるなんて聞いていなかった。
あの家庭科教師、面倒くさい奴だとは思っていたがこうも余計なことをしてくれるとは、次会った時には拳の一発くらい入れてやりたいくらいだ。
自分は国賓どころか公国の貴族と結婚しやがったし、こっちに来て多分5カ月くらいしか経ってないぞ?生徒の見本たる教師があんなことになるとは、溜息しか出てこないよ…。
「……お前、いい加減に慣れろ。」
「しょうがないでしょ!?別の名前で呼ぶなんてそうそうないんだからさぁ!ていうか偽名を使う必要あった?別に元のままでもいい気がするんだけど!?」
「バレたら面倒だろ。多分ちょっとした騒ぎでは済まないぞ?」
「今更でしょ!?最悪バレたらダッシュか竜化して飛んでいく手段だって…。」
「バカ。また墜落したいのかお前は。」
“流石に二回目は私も嫌ですよ…。”
《前みたいに何かの干渉を受けたら、どうする気なの?シェランさんは。》
「うぐっ!…ヴァールさんだけならまだしもアゲハちゃんにそこまで言われたら、諦めるしかないなぁ…。」
あの転移者に絡まれた騒ぎから数時間、俺達は前以て受けておいた魔物の討伐依頼へと赴いていた。依頼の内容は『ワイバーンの討伐』。ワイバーンは竜種に非常に近しい存在として知られている魔物で、非常に凶暴かつ獰猛。自分達のテリトリーに入った者に誰彼構わず襲い掛かり、生まれる雛の餌としてしまう危険度の高い魔物。
竜種との違いはそれだ。
まず竜種は雛、つまり子供は滅多に作らない。というか生殖機能があるかすら不明だ。そしてワイバーンの最も厄介なところは、そのテリトリーが案外デタラメなところだ。前までは大丈夫だった場所がいきなり危険域になったり、明らかにテリトリーから遠いであろう村や町を襲うことがあったり。
まぁ、所詮は魔物だ。確固たる自我があるわけでもなし、徒に生命を弄ぶことに罪悪感を抱くこともない。さっさと駆除しないと村を丸々一個乗っ取られるという最悪の状況にもなりかねない。今回の依頼を見る限り、そこまでは行っていないようだが、もう少し放っておくとそうなりかねない状況だ。そうなればこの依頼は金等級ではなく一気に白金等級、もしくは龍等級の依頼へ引き上げられてしまう可能性が出てくる。危険な芽はさっさと摘み取らないとな。
「あ、そういえばリーオ…じゃなくてリィク。」
「…もう街は出てるから、リィクと呼ばなくて大丈夫だぞ?誰かにつけられたり、『広聴』をかけられたりもしていないからな。」
「あ、そっか。んじゃ改めて、リーオはさ、あの転移者の子たちをどう見る?」
「…どう、とは?」
「いや、あの子たちというか、あの、えーっと…。」
“もしかしてあのイチカという少女のことですか?”
「あ、そうそうその子!リーオはどう見る?というかどう感じた?」
「……さてな。思う所は色々あるが、面白い奴だ、という印象だな。」
「面白い?どういったところが?顔とか、性格?」
「?いや、そういう点ではなく目だ。イチカは面白い目をしていた。」
「…確かに、他の転生者に比べると纏っている空気が違うよね。」
「案外大物になるかもな、イチカは。」
あの目は、よく身に見覚えがある。
力を求めている者の目だ。どうしようもない現状を己の力だけでどうにかしようとしている愚か者の目だ。今の俺と同じ。
やり合う機会があれば是非と言いたいくらいだ。線は細いが、殺す為の力は十分に身に着けているように感じる。
あぁ、楽しみだな。アイツなら竜と契約することも将来あるかもしれない。そのくらいの伸び代はある。楽しみだ。あぁ、楽しみだ。
「…リーオ、今ちょっと怖い顔してるよ?」
「おっと、顔に出でいたか。すまない。」
「あの子、そんなに気になるの?」
「あぁ、ちょっと楽しみな奴だ。是非一度手合わせをお願いしたい。」
「……えっち。」
「…あ?」
「ううん!なんでも!ほら、あの辺とか野営地としていいんじゃないの?」
若干苦笑いを浮かべながら、川が近くにある少し開けた場所をシェランが誤魔化すように指さす。確かに正規の道からも離れていて、周囲も雑木林で囲まれている。川にも近いし、何より広い。野営地としては文句のないところだろう。
「…あぁ、確かに。水場も近いしな。この辺にしておくか。というか、野営したいのか?てっきりさっさと帰って宿で休みたいもんだと思っていたが…。」
「『転移』が使えないかもしれないこの状況で早く街に戻る方法って竜化くらいしかないでしょ?竜力を無駄に消費するのは得策じゃないし、一日挟んでからのほうがギルドの方も落ち着いているでしょうし。」
「…あー、確かに。そうするか。そうと決まれば早いとこ依頼終わらせて野営の準備をしないとな。飛ばすぞ。」
「誰に物言ってんの?リーオより私のほうが足速いでしょ?」
「いつの話だよそれ。…ほら、行くぞ。」
「…りょうかーい。よーい…どんっ!」
…後日聞いた話だが、俺達が8割の力で駆け抜けたその道には、まるで強大な生物が通ったと思われる大きな足跡や、突然の凄まじい突風で周囲の木々が吹き飛ばされたりしたらしい。
何かの間違いで風属性を持つ竜がその道を歩いたりしたのか?
いや、そんな気配なかったと思うんだが…うん、謎だ。
次は2月中に投稿いたします。
次回もお楽しみに。




