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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
番外編:刹那の狩人
47/54

【平和な朝。転移者と一悶着】

番外編【刹那の狩人】第二話です。

今回は番外編の準主人公というか、主軸となる少女≪霧雨一狩≫の登場回です。

前回でも最後のほうにちょこっと出てきてましたが、ちゃんと出るのは今回が最初になります。


いつの間にかこの【勇者候補を恨む少年が勇者だったらしい】を書き始めて二年目を迎えてしまいました。ちょっと自分でも驚きです。いつもこの作品を見ていただいている方々には感謝しています。他の方の作品のようにちゃんとしたシナリオや設定もない本作品ですが、改めて感謝を伝えたいと思います。いつもこの作品を見ていただき本当にありがとうございます!

三年目も一か月最低一話更新は守って活動を続けていく所存です。三年目の本作品も引き続きよろしくお願い致します!

「……んぁ…ふぁ~~…んぅ…。」

“あ、おはようございますシェランさん。朝食、宿の方に頼みますか?”

「んん…?…あれ、リーオは…?」

《ご主人は朝早くに「散歩してくる。」って出ていったよ。多分朝食でも買ってくるんじゃないかな?》

「ん…そっか……ふぁっぁ~…。」

“フフ、可愛い欠伸ですね。”

「んんーっ!…ふぁ……よしっ、顔洗ってくるよ。」

《行ってらっしゃーいっ!》



朝冷えも強くなってきた秋半ばの朝、未だ半分眠っている意識を叩き起こすために、水道の蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗う。



「ぅいっ…冷ったぁ…。」



冷水で顔を洗い、すっかり覚めた頭で先程のアゲハの発言について思考を巡らせる。


……リーオは『散歩』か。多分冒険者ギルドの方に行ったのかな?早々に依頼を受けて暇でも潰そうって考えかな。


元気だなぁ…流石若いっていうかなんというか。昨日あれだけ張り切ってたのに(主に私が)、腰とか痛くないのかぁ…?むしろ私の方がグロッキーな感じだけど今は。ちょっと羽目を外しすぎたかなぁ?まぁ、久々だったし、しょうがないよね!



「…よしっ、さっさと朝の準備、終わらせますかぁ!」



目もすっかり覚めた。睡眠は…あんまり十分とは言い切れないけど、しばらくここに留まるんだから、初日くらいはいいでしょう。よぉーっし!久々のお仕事、頑張りますかぁ!


顔を洗顔オイルで洗い、若干寝ぐせの付いた髪を櫛で梳かし、寝間着から仕事着へと着替えたところで、リーオが紙袋を抱えて帰って来た。



「ただいまーっと。」

“あ、お帰りなさーい。朝食、買ってきたんですね。”

「あぁ、別に宿の方に頼んでも良かったんだが、散歩中に良いのを見つけたんでな。買ってきた。」

「あ、おかえりー。何買ってきたの?」

「ビアンカっつうサックリした生地に果実のソースを絡めた豚と香草の腸詰め、葉野菜を挟んだ物だ。あんまり重くはなかったから、朝食にでもと思ってな。」

「え、めっちゃ美味しそうなんだけど。ありがとね。飲み物、何か飲む?」

「あー…じゃあ、珈琲で。」

「アゲハちゃんは?」

《ボク?ボクはぁ…ミルクティーで。》

「かしこまりぃ。」



空間の中からコーヒー用品と紅茶用品を取り出しながら、ポットにリーオから借りた水竜の水ビンの水を注いで沸かす。お湯が沸くのを待つ間に、ミルで豆を挽いてドリッパーに入れ、『空間』の中から茶葉の入った瓶を数種類取り出し、アゲハちゃんにどれがいいかを聞いて、選んだ茶葉と水ビンの水を小さめの鍋に入れて、少し煮る。



《わぁ!良い匂い!》

「アゲハちゃんが選んだのは『ニュイ』っていう茶葉でね。アロマみたいな甘い香りが特徴なんだ。これ、結構高級品なんだよ?例を挙げるならベルモンドと同じくらい。」

「うぇ!貴族御用達の茶葉と同じ価値かよ。…まぁ、この香りなら納得だな。」

「でしょ!?私のお気に入りなんだぁ~。」



その後も会話をしながら賑やかな朝食を食べ終えたリーオ達は、空いた時間を潰すためにギルドで簡単な依頼でも受けようということになり、冒険者用の装備に着替えた一行は冒険者ギルド本部へ足を運んだ。受付でどんな依頼があるのかを聞いていると、隣接している喫茶店から騒がしい声が聞こえてきた。



「?あっち、何かあったんですか?」

「あぁ、あれは恐らく転移者パーティの方々ですかね。今朝討伐依頼から戻ってきたところなんですよ。」

「転移者?リー…ィクは知ってる?転移者って。」

「あぁ、一応知識としてはな。」

「へぇ、物知りだね?」

「賢…クソうんちく野郎に散々叩き込まれたからな。無駄な知識だけはある。」



ひょこっ、とこちらを覗き込んでくるシェランへぶっきらぼうに返しながら、受付嬢にどのような依頼があるか確認を取っていると、先程の騒がしい声が段々とこちらへ近づいてくるのに気付いた。



「あれ、見ない顔ですね。新人の方ですか?」

「いや、俺達は旅の…。」

「新入りが挨拶もないの?ちょっと失礼じゃないかしら。」

「私達は銀・等・級の冒険者パーティ≪神々の猟団(ワイルド・ハント)≫。まず新人は銀・等・級の冒険者である私達に挨拶をするのが礼儀というものでしょ?」

「そうよそうよ!失礼だわ!」

「まぁまぁ、みんな落ち着いて。すみません、僕の仲間が。ちょっと酔っちゃってるみたいで…。」



青年一人に少女三…いやこの場にはいないが四人だ。こいつらは、朝にここですれ違った転移者パーティか。随分と非常識な奴らじゃないか。これじゃ、ふんぞり返った貴族か勇者候補共と何も変わらなくないか?



「何か用?私たちこれから依頼受けようと思ってたところなんだけど?」



シェランの一言に後ろで喚き立てていた少女三人が更にヒートアップしたのか、先ほどより口撃が激しくなってきた。よく分からないが、いい加減耳が痛い。キーキーと小鬼のように喚き散らす少女三人を止めるように前に立ちながら青年が申し訳ないという笑顔をこちらへ向けてきた。



「私達銀等級の冒険者なのよ!?」

「そうよそうよっ!」

「まずは挨拶でしょ!?」

「三人とも!落ち着いてっ!失礼だよ!」



青年が必死の様子で止めに入っているが、小鬼共は聞く耳持たず、か。「狩るか?」とシェランのほうへ視線を向けるが、困ったような笑顔で首を横に振られた。ちょっと残念だな。まぁ、確かにここで騒ぎを起こすのは得策じゃない。ほかの冒険者の目もある。それに、このことがアイツにバレたら少し面倒だ。いや、少し面倒どころじゃ済まなくなるな。


ここはできるだけ穏便な解決を図るか。


後ろで困惑した表情を浮かべる受付嬢に警備の冒険者を呼んで来るようにお願いし、俺達はこの場で待機することにした。


それからは、騒ぎを聞きつけてきた警備の冒険者に小鬼共が落ち着くまで別室へ連れて行くようにお願いし、俺達も人の目があるからと青年と残っていた一人の少女と別室へ行くことになった。


案内された部屋のドアを閉めて直ぐに、青年は慌てた様子でこちらへ頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。



「ほんっとうに!申し訳ありませんでしたっ!三人の暴走を止められなかった僕の責任です!そのせいで、アナタ方に御迷惑を…本当に、申し訳ございません…。」

「……別に、俺達はどうとも思っていない。ただ、あまり面倒事は勘弁してくれ。騒がしいのは嫌いなんだ。」

「…申し遅れました。僕は≪トウドウ=アキラ≫、ここで銀等級の冒険者パーティ≪神々の猟団≫のリーダーをしております。改めまして、先程は僕の仲間たちがご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ございませんでした。」

「…≪シオー=リィク≫だ。別に構わない。俺くらい、迷惑のうちにも入らない。」

「…ありがとうございます。それで、そちらの…エルフの女性は?」

「≪レーシェ=ヒューラン≫よ。あんまりよろしくはしたくないけど、よろしくね。」

「えぇ!よろしくお願いしますっ!」



…妙にテンションが上がりやがったな、コイツ。シェランがエルフの女と分かったからか?なぁんか嫌な予感がする。


そう心の中で独り言ちながら、部屋の用意されたソファーに座る少女のほうへ多少敵意を込めた視線を向ける。それに気付いた少女が鋭い目で見つめ返してくる。コイツはこの転移者パーティの中でも真面な部類らしい。多少の会話は望めるだろう。




……あのシオーって人、私に敵意を向けてきた。ここで戦闘でも起こすつもり?いや、多分そうじゃない。

『試した』んだ、私を。相手の敵意に気付ける能力があるかどうか。ちゃんと相手の気配を探れる人間かどうか。


…うん、ここで戦闘を起こしても、私ではあの人に勝てない。返り討ちどころか、あの腰に差された短剣を抜かれることもなく一瞬の内に殺されるだろう。私とは強さの桁が違う。



「…そこのお嬢さんは?」



彼からの問いかけに一瞬全身に鳥肌が立つ。これは恐怖だ。押しつぶされそうになるほどの重圧が彼から発せられている。虚偽は許されない。偽れば即、私は殺されてしまうだろう。


声の震えを必死に抑え、努めて冷静に、感情を込めない声で。



「…≪イチカ=キリサメ≫…。」



私の回答を聞いて、彼は放っていた重圧を解いてくれた。どうやら虚偽ではないと分かってもらえたようだ。というか、トウドウはあれを感じてもなおあのエルフの…えーっと、レーシェさんか。レーシェさんに見とれてるの?やっぱり嫌だなぁ、このパーティ。


無理やり組まされたものだし、さっさと抜けたい。組んでいても何の得もない。あの五月蠅い女共は銀等級の位に胡坐をかき、銀より下の等級の冒険者やあの人たちみたいな新人の冒険者に上からものをいうようになったし。ていうかパーティ内で銀等級の冒険者なのは私だけだし。この世界のパーティランクって、そのパーティ内で一番高い等級に合わせられちゃうのが悪い点。さっきみたいに馬鹿が馬鹿出来る環境を作ってしまっている。あー…さっさとソロやりたーい。


というか、あのレーシェさんも相当な手練れだ。さっきシオーさんから放たれてたすさまじいほどの重圧に気付いていながらまったく気にしていなかった。というか笑ってさえいた。


見たところ魔法職かな?武器も持ってないみたいだし。それにしてもエルフかぁ…ゲームとかで知ってはいたけど本物はやっぱり奇麗だなぁ…本当に妖精みたい。そういえばこの世界にも妖精っているのかなぁ…まだ見たことないや。この世界に来てから半年くらいは経ったけど、まだまだ知らないことが多い。ファンタジーな世界みたいだし、ドラゴンとかいるのかなぁ…モンスターとかはクエストで狩ったことはあったけど、妖精とかドラゴンとかの幻想種とかは見たことないなぁ…見てみたいなぁ…。


そんな風に私のいつもの癖を出していると、唐突に意識が妄想から現実に引き戻された。何か声をかけられたみたいだ。話し合い?が終わったのかな?



「_____カ!イチカも一緒に頼んでほしいんだ。彼女に僕たちのパーティに加わってもらえるようにさぁ!」

「…ハァ?」



トウドウの問いかけに思わず声を出して驚いてしまった。

何?何を言っているのコイツは。馬鹿にも程があるでしょ。え、何?何がどうなってこうなってるの?


助けを求めようとシオーさんたちへ助けてと視線を向けると、呆れと憐憫の籠った視線が返ってきた。あ、そういうこと。またこのトウドウの暴走?ね。


コイツは如何にも好青年という皮を被っているが、その実自分の好みの女性を自分の物にしたがる最低な人間だ。所謂女の敵。「大変でしたね。」という意を込めてレーシェさんの方へ視線を向けると、「そちらもね。」という視線をウィンクと共に返された。


トウドウの五月蠅い喚きを無視していると、徐々に化けの皮が剥がれ始めたのか先程の女たちのようにギャーギャーと騒がしい声を上げ始めた。



「何無視してんだよっ!ほらお前も協力しろよっ!」

「……五月蠅いんだけど。無駄に吠えないで。レーシェさんも困ってるし、諦めたら?」

「おまっ…俺に意見しようってのか!?あぁっ!?」

「ちょ、痛いって…!」



とうとう感情が抑えられなくなったのか掴みかかってきたトウドウの首元にいつの間にか距離を詰めていたシオーさんの指先が当てられていた。



「…いい加減、黙れ。」

「ンだテメェッ!」

「黙れ、と言った。」



当てられた指先がトウドウの首に食い込む。それでも尚暴れようとするトウドウにスゥッと目を細めたシオーさんの指先から一瞬閃光が見えたかと思うと、直後トウドウの身体は地面に崩れ落ちていた。何か魔法でも使ったのだろうか?あんなことできる魔法を私は知らないが魔力の残滓が見えた気がする。おそらくは魔法の類だ。



「…すまないな。少々手荒になってしまった。」

「…いいや、むしろこっちは助けてもらった側だ。ありがとう、シオーさん。」

「あはは…ごめんね。私のせい…になるのかな?」

「いいえ。この馬鹿が救いようのない能無しだっただけです。レーシェさんは悪くありません。むしろ、こんなことになってしまい本当に申し訳ない。」



のしかかる馬鹿をその辺へ捨て置き、二人へ向けて深々と頭を下げる。あぁ、こんなパーティさっさと抜けたい。何だったらこの人達に付いて行ってもいいかもなぁ…。



「いや、大丈夫だ。こういった手合いには慣れている。旅には付き物だ。」

「え、お二人は旅人なのですか?」

「あ、言ってなかったね。そうだよ。」

「…旅の理由をお聞かせいただいても?」

「……まぁ、なんだ…それが俺の、俺達のやるべきこと、というか。やらなければならないことなんだ。」



細められたシオーさんの鋭い視線にドクンッと心臓が脈打つ。恐怖と同時に、なんというか息苦しさ?みたいなのを感じる。こんなの初めてだ。ちょっと顔が熱く感じる。熱?



「…そろそろ出るか。すまないな、えっと…。」

「…イチカ、イチカ=キリサメです。」

「あぁ、イチカ。俺達はそろそろここを出る。さっき受けておいた依頼に間に合わなくなっちまうからな。後のことは頼めるか?」

「はい。私達のパーティの者が迷惑を掛けてしまったのが発端ですし、それくらいはさせてください。」

「感謝する。じゃ、行くかレーシェ。」

「了解、リー…ィクっ!」



足早に部屋を出ていく二人の背中を見つめながら、「さて。」と一言呟く。



「……どうしようかな。このまま逃げる?バレたら面倒だし、パーティ解散の申請でもしようかなぁ…。」



正直、もうこの連中と一緒のパーティメンバーとして数えられるのは我慢ならない。直ぐにでも抜けたい。というか抜けよう。何を悩む必要がある?クエスト中に邪魔しかしてこない連中とこれからもパーティを組み続けるなんて、害しかないのでは?


…でもパーティのリーダーはこの男だしなぁ…無断で抜けるとなると冒険者ギルドの規則に反することになってしまうし、何とかして穏便に事を済ませたいものなのだけど…。



「……ハァ…まだ、しばらく我慢しよう。最悪消息を絶って別人として活動するっていう最終手段もあるにはある。本当に耐えられなくなったら、それを使って、逃げよう。うん。」



自分にそう言い聞かせながら、騒ぎを聞きつけてきた警備の冒険者に色々説明しながら、次のクエストの時間を待つのであった。



次回は1月中には必ず!

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