【水竜へ至る。感じる大いなる流れ】
リーオの物語、水竜編の最終回です。
この章はあんまりがっつりした戦闘回がなく方向性もまとまっていない感じがしましたが、まぁ、何とか終わらせることが出来ました。
次回からは番外編となります。そうなるとおそらく今年はその番外編で終了かな?って感じです。
早めに仕上げられるようなら頑張って投稿します。
目指せ!10月中投稿!
『……あ、帰って来た。』
“リーオさんッ!?大丈夫でしたか?いきなり出ていったときは心配で心配で…。”
「…ありがとうヴァール。もう、大丈夫だ。」
あれからすぐに洞窟へ戻ってきたリーオとシェランは開口一番、水竜へ「もう一度やらせてくれ」と頼み込んだ。若干渋い顔をした水竜だったが、二人に根負けし、渋々了承した。
すぐにある程度の服と靴を脱ぎ、水竜とシェランに教わった通りに全身、そして両足へ竜力を集中させる。
「……ダメだ、もっと…もっと…。」
両足へ集中させていた竜力を再び全身へ戻し、またそれを両足へ、また全身へと繰り返す。
循環する竜力が始めはぎこちなく、途切れ途切れだった流れが、回を重ねるごとに滑らかに、流れる水のようにリーオの身体を、全身をくまなく巡り始める。
「……そうだ。イメージは、『流れ』…『繋がり』…滞りなく、もっと滑らかに…。」
集中しろ。そして思い浮かべるんだ、頭の中に。
楽しかったこと。みんなとの旅の記憶を。俺が、他でもない自分自身が感じ取った『楽しい』という感情の全てを。巡る竜力へ伝達する。
自然に満ちた『楽しい』をもっと感じ取れ。今この空間で奏でられる雫たちの三重奏、地底湖から溢れ出る清水の流れ、そしてこの空間、俺達を包み込む清らかな空気。
それらを全て感じ取るんだ。耳で、鼻で、目で、肌で、自分の感覚全てを使って。
そして、イメージするんだ。俺の全身を巡る竜力が、この自然のように滞りなく、流れる水のように続いていくことを。決して途切れることのない、自然だけが持つ大いなる『流れ』をイメージ…イメージ……。
『……なんだ、心配することなかったみたいじゃん。』
「だから言ったでしょ?あの子なら…リーオなら大丈夫。多分、私より扱いが上手かもしれないよ?」
『いやぁ…それは……そうかもねぇ…。』
“……リーオさん、凄い…!リーオさんの全身に満ちる竜力が、とても綺麗…!”
《……ご主人の周りの空気、水竜さんみたい…。》
「_____…フー……。」
______一歩、踏み出す足が竜へ変わる。胸の紋章がドクンと波打ち、段々と熱くなっていく感覚と水に着いた部分から浮かび上がっていく鱗の感覚が火竜とは違うことに少し驚く。変わる竜によって成る時の感覚とか違うものなんだな。
火竜の竜化は全身が熱く、燃えるような感覚なのに対し、水竜の竜化は全身が水になっていくような、溶けていくという感覚とは違う…と思うが、なんていうか、こう…この身体が大いなる自然の流れに混じっていくような、こう、不確かな感覚。でも、明確に俺の身体が大きな流れの一部になっていくのを感じる。
…やっぱり違うな。でも、嫌なわけじゃない。流れに身を任せるのは嫌いじゃない。それに、この竜化はみんなとの『楽しい』記憶で形作られた、俺の、感情そのもの。
心臓がドキドキと波打ち、心がワクワクと躍動する。止めどない激しい感情の渦、火竜の怒りなんて目じゃないほどの、とても大きな、飲み込まれてしまうほどの、大きな流れ。
全身が水色の鱗で覆われ、指の間には水掻きのような薄い膜が張り、爪は鋭く鉤爪のように、長い尻尾の先には魚のようなヒレ、背中の翼は空を飛ぶためというより、『流れ』を捕まえてより早く加速するために小さく変化している。
肘のところには大きなヒレのようなものが生え、研ぎ澄まされたそれは武器としての役割も果たせそうだ。
「……どう?リーオ。初めて水竜に成った感想は?」
「…あぁ、悪くはない。むしろ心地いいくらいだ。火竜の時とは大分違うな。」
『アイツと一緒にしてもらっては困るよ!』
「あれ、ウォーって火竜のこと苦手だったっけ?」
『…何となく合わないんだよ。アイツと私は…。』
「…まぁ、いい。で、どうだ?俺には、お前の言う『資格』というものが無かったらしいが?」
『…正しくは『見失っていた』かな?ちょっと吹っ掛けるつもりだったんだけど、それがいい方向へ転がったみたいだね。』
「……大変だったよ?すっごく怖かったし…。」
『…まぁ、だろうねぇ…。でも多分、シェランちゃんじゃないといけなかったと思うよ?』
「…ハァ、丸投げは止めてって前にも言ったでしょ…?」
「…そんなことはどうでもいいが、どっちでもいい、俺と一戦やらないか?この状態でどれだけやれるか確かめたいんだ。」
「……私は前にやったからなぁ…?」
『……私、戦闘苦手なんだけど…。』
「どっちでもいいぞ。何なら、二人いっぺんに相手してくれるのか?」
まぁ、正直に言うと今俺の中に戦いたいという気持ちは微塵もない。初めて火竜になったときと比べ、身体が、心が闘争を求めていない。ちょっとくらいは力試ししたいって気持ちがないわけじゃないが。
心は静かな落ち着きに満ち、見えない力が身体中に溢れかえってるような、満たされているような、そんな感じ。
「……やる?」
「…いや、やっぱりいい。やめておくよ。」
『ふむ、リーオ君にしては珍しいね。』
「なんていうか、戦いたくない。心が、身体が闘争を求めていない。」
『…一応、何処まで引き出せるかは試してみたら?一回やっておかないと、いざって時に使えなかったら困るでしょ?』
「……まぁ、それもそうか。」
今の俺が水竜の力をどこまで引き出せるか試しておくのは、悪くない。シェランのように90%以上の力を引き出せるのなら、ある程度は戦っていられる。これから先もこの前の上位魔族のような強敵と戦うために重要なことは契約した七竜の力をどこまで引き出せるか、だ。
「……試してみるか。」
『壊さないでよ?』
「分かっている…ヴァール。」
“…はい。”
俺はシェランのように竜力のみを操るのは苦手だ。前にシェランが使っていたらしい『水色の咆哮』とやらのような強大な竜力を放出するスキルなんて全く使えない。それよりも拳や剣に竜力を纏わせて扱う方が無駄なく竜力を使うことが出来る。
俺の『魔力撃(龍)』や『竜穿火』がいい例だ。竜力を直接操るのではなく、何かに纏わせる方が俺としては扱いやすい。
「……フー…。」
鞘から抜いたヴァールを腰元に構え、刀身に水竜の力を少しずつ、ゆっくりと纏わせていく。
イメージは…取り敢えず最初は火竜の時と同じ要領でやってみるか。
竜力を直接他の物質に変換する。火竜の時は魔力を喰う炎『火焔』に変換して使っていた。
なら水竜は水か?…取り敢えず、一度試してみよう。
「……ん?」
…剣に纏わせられない?それどころか水に変換した途端に刀身から流れ落ちてしまう。コントロールが難しいのか?確かに『火焔』の時とは大分感覚が違うが、それだけでここまで変わってしまうものなのか?……ダメだ。何度試しても出来ない。やり方が間違っているのか?
「……シェラン。」
「ん?どうしたの?」
「…お前が水竜の力を使うとき、どうやってるんだ?俺のやり方じゃあダメらしい。」
「う~ん…私の場合は大体そうなんだけど、竜力自体に色付けをしちゃうんだよ。」
「…色付け?それだけか?」
まず竜力に色付けって出来るのか?基本無色透明だぞ?
「あ!今バカにしたでしょ!?そんな人には教えてあげないよ?」
「いや、そういうわけじゃなくてだな…色を付けて、どうするんだ?」
「えぇっとぉ…私の『水色の咆哮』は…受けたことあるよね?」
「…らしいな。記憶はないが。」
「…これ口で説明するの難しいな…ちょっと見てて。」
シェランはそういうと、俺と同じように水竜へ竜化し、水の上へ俺の正面に立つように移動した。
そして身体に纏っていた竜力を俺に認識しやすいように球状に収束させ、ゆっくりと両手で掬い上げた。
「見える?球状にした竜力。」
「あぁ。」
「じゃあ、ちゃんと見ててね?これを今から色付けするから。」
シェランはそういうと、掌に掬い上げた球状の無色の竜力に自分の魔力を混ぜ始めた。
「…魔力を混ぜるのか?」
「今は見やすいように魔力を使っているだけで、普段はやらないよ。イメージを認識しやすいようにしてるだけ。ほら、『竜の眼』で見てみて。」
「…分かった。」
シェランに言われた通りに『竜の眼』を発動させ、シェランの手の中でゆったりと回転している水色に色付いた竜力の球を見る。
「……これは、凄いな…!」
回転する竜力に編み込まれるようにシェランの魔力が混ぜ込まれている。おそらくこの魔力はシェランのイメージ、認識だ。シェランは竜力に自らのイメージを編み込んでただの竜力を水竜の力として認識しているんだと思う。
「これはリーオだってやってるでしょ?火竜に成る時竜力を紅く染めてるじゃん。あれと一緒の原理。」
「…俺そんなことしてたのか?」
「さっきだって水竜に成る時同じことしてたよ!?自分じゃ分かってなかったんだ…。」
『多分無意識でしょ?竜力って感情に大きく左右される性質があるから。火竜に成る時に心に灯す感情って怒りでしょ?ほら、怒りって紅ってイメージない?』
「…確かに、初めて火竜に成った時、紅い竜力を纏っていた気がする。」
竜力は感情に左右される性質がある、か…。少し厄介な性質だな、それは。
「単純に言えば、無意識でやっていたことを意識してやるようにするってだけ。結構慣れが必要だけど、出来るようになっちゃえば後は簡単だよ。」
…慣れ、か。それはつまるところ、
「……鍛錬あるのみ、ということか…。」
“私もお手伝いしますよ。”
《あ、ボクもボクも!》
「…あぁ、頼む。」
…竜力に色付け、無意識でやっていたことを意識してできるように…何十回でも何百回でもやって、感覚を身体に刻み込む。剣術と一緒だ。つまり…
鍛錬あるのみッ!
徹底的にやるか。次の目的地も、この時期ならあんまり離れているわけじゃない。確かこの時期だと…メリアナトレー周辺にあるはずだ。メリアナトレー行の馬車が出ている町ならフィスィ連合から歩いて1週間も掛からないはずだ。
つまりは、ちょっとぐらい時間がかかっても大丈夫ッ!無理しても休む時間くらいはあるッ!さぁて、ちょっと死ぬ気で頑張るかァッ!
「…よし、じゃあ頼んだぞ。ヴァール、アゲハ。」
“はい!”
《うんっ!》
_____1週間後、俺達は次の目的地である中都市『メリアナトレー』へ行くために荷造りをしていた。メリアナトレーはフィスィ連合から南東へ行ったところにあるウィンリック大陸最東端にある中規模都市で、大国『フローリア王国』に次いで漁業が盛んな中都市だ。
メリアナトレーへ行くためにまずはそこ行の馬車が出ている小都市『アリアドル』に行くことになっている。ここもフィスィ連合に近いことから亜人も多く住んでいる冒険者の町だ。
何もなければ3週間くらいでメリアナトレーまで行くことが出来るはずだ。何もなければ。なぁんか嫌な予感がするんだよなぁ…?
「それじゃあ、ありがとうねウォー。色々手伝ってもらっちゃって。」
『別にいいよ。無限の器に色々言えるなんて今しか出来ないことだし。御蔭で結構楽しめたよ。』
“本当にご迷惑をお掛けしました…私も、もっと力をつけて見せますっ!”
『程々にね?女神さまも女神さまで色々大変なんだから。』
「____おい!もうそろそろ行くぞ!日が暮れちまう!」
「あ、はーい!んじゃ、またねウォー!」
『うん!またねぇ!…あ!リーオ君ちょっと待って!』
「…ん?どうした、そろそろ出ないと夜通し歩くことになるんだが…。」
『これ。渡し忘れちゃってた。』
街で出会った時と同じ少女姿の水竜が、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべて右の掌を差し出した。掌の上には水竜の鱗と同じ水色の結晶のようなものが乗っていた。
「…これは、確か火竜も同じようなものを…?」
空間の中から火竜と別れるときに貰った紅い結晶を取り出し、見比べる。
…全く同一の形状だ。二つの違いは色だけ、あとはほぼほぼ同じ。
『火竜も渡したと思うけど、仕来りみたいなものなんだ。無限の器と認めた者に私たち七竜が渡す証、みたいな?まぁ、私も良く分かってないんだけどさ。』
「…そういうものなのか?まぁ、貰えるものは貰っておこう。」
『うん。あ、無くさないでね?何か大事なものらしいし?』
「…分かった。大事にしまっておこう。」
受け取ったそれをすぐさま空間の中へ紅い結晶と共に放り込み、何となしに水竜の身体を抱き寄せる。
「_____ん?」
『………え?』
「ちょ、リーオ!?」
《ご主人!?》
“リーオさん!?”
……ん?何してんだ俺?何で水竜のこと抱きしめてんの!?
そう心の中で叫びながらも右手は優しく水竜の水色の髪の毛を梳き、左手は優しく背中を撫でている。…あ、何となく分かった。
『…あ、あの、リーオ君?』
状況の理解が出来ていない様子の水竜が不安げに揺れる、髪と同じ清い水色の瞳でこちらを見上げる。
俺は多分、その瞳の奥にある感情が気になったんだ。不安げに揺れる瞳の奥、押し込められるようにしてそこにあった感情。『寂しい』という見た目相応のあって当たり前な感情。
「……また来る。また絶対に会いにここへ来るから、だからそんな寂しそうな顔すんな。」
『………うん。』
一瞬驚いたような表情を浮かべた水竜が、すぐに俺の肩口に顔を埋め、小さく呟いた。微かに震える肩を抱き締め、ゆっくりとあやす様にして、俺は水竜の涙を受け止めた。
次回は10月中か、出来なければ11月中には投稿します。
次回からの番外編もお楽しみに!




