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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
第三章:無限の器、竜を廻る。
43/54

【力と資格。リーオに足りないもの】

今回は案外早く書き上げることが出来ました。このままなら久々に1か月中二話投稿が出来る...かも?


やっとストーリーが進展しました。今回はあらすじに書いた内容に触れます。あと少しで水竜編は終わらせられると思います。これが終われば番外編を挟みたいと思っているので、お楽しみ?にしておいてください。

「……ね、ねぇ、そんなに拗ねないでよシェランちゃん?」

「………私が探してた時は見つからなかったって言うのに、リーオが探しに出た途端に見つかるなんて…何だか負けた気分になるじゃない…。」

「い、いや、私だってシェランちゃんから隠れようなんて全く思ってなくって…昨日はエルフ領(こっち)じゃなくってドワーフ領の方に行ってたから…その…ね?」

「……。」

「………リ、リーオの方からも何か言ってよぅ!私ひとりじゃシャランちゃんの機嫌なおせないんだってばぁ!」

「知らねぇよ。その辺の問題は当人たちが解決してくれ。俺には関係ない。」

「そんなぁ…冷たいなぁ…。」



水竜ウォーバイトと街でばったり遭遇してから数分後、俺たちは本来の目的である水竜の力の使い方を教わるべく、先程までいたアリアンから東に行ったところにあるウォーバイトの住処、清水の祠へ向かっているところだ。



っていうかうっさいなこいつら。痴話喧嘩なら他所でやってくれ。俺を巻き込むんじゃあない。


アハハ…まぁ、仕方ないんじゃないですか?シェランさんと水竜ウォーバイトは私たちが思っているよりも親密な関係だったようですし、昨日あれだけ探し回って見つからなかったのに、今朝になっていきなり街中で出会うなんて、それもリーオさんを連れ出した途端に。


俺は何も悪くねぇ。


リーオさんが悪いとは言いませんが、タイミングがタイミングですので…。


…ハァ、致し方なし、か。



「…シェランちゃぁん…。」

「…ふんっ…。」

「…なぁ、そろそろ機嫌直せよ、シェラン。」

「なっ!?元はと言えばリーオのせいじゃないかッ!」

“ま、まぁまぁ、シェランさん。今回はそのくらいで、ね?“

「…俺が一体何をしたって言うんだ…!?」

《…今回のことは、運が悪かったね、ご主人。》

「ふんだっ!」

「……ハァ…。」



……最近運が無ぇ気ぃするなぁ…。


前まではほぼヴァールと二人で旅をしていて、こんな風に仲間の気を損ねたりとかはなかったから、なんだか新鮮な気がする。


胸が高鳴る。いつもの締め付けられるような痛みを伴うものではなく、こう、なんて言えばいいのか…そう、気分がいい。多分これが、“楽しい”って感情なんだろうな。


シェランのことを宥めながら道を進んで、深い森へと入っていく。

その森へ足を踏み入れた瞬間、周囲の空気が変わったことに気が付いた。。

澄んだ水のような、言うならば湧き水のような感じだな。何処までも透き通った、透明で触れているだけで心が洗われるような感覚。


もうすぐだな。


そんな空気を肌で感じながら森を進み、大きな湖の湖畔を回って、さらに森の深いところに足を踏み入れた時、ようやく目的地が見えてきた。


見上げるだけで首が痛くなるほど高い岩壁に洞窟がぽっかりと口を開けている。

その周囲には周りが見えなくなるほどの深い霧に満たされており、一般人では近寄ることすら出来ないようになっている。



「間違って入って来られちゃうと、問題になっちゃうからね。」

「それでこんな…あぁ、これ妖精女王の『(かどわ)かしの結界(けっかい)』と同じ要領か。」

「正解!前にリーオ君が来た時にはなかったでしょ?これ。」

「あぁ、だから少し驚いた。」

「最近は何かと物騒だからね。間違って魔物にでも入って来られちゃったら、危ないでしょ?」

「お前の力なら魔物の一匹や百匹ぐらい簡単に消せるだろ?」

「それはそうだけど、万が一ってこともあるでしょ?街に影響を及ぼすわけにもいかないし、ここってドワーフ領にも接してるから、あんまり問題は起こせないんだよねぇ…。」

「…そうか、この森を北に抜ければドワーフ領か。」



フィスィ連合国は大陸全土でも珍しい完全な亜人国家。北のドワーフ領には大陸中の職人たちが集まる都市『セルドラ』がある。ドワーフは『鍛冶(かじ)祭事(さいじ)(かみ)ドライグ』が生み出した種族で、創造主の名にある『鍛冶』を主な職種としている祭りと酒が大好きな楽しい種族だ。


ドワーフの作る武具はそこいらの鍛冶師が作るものとは一線を画すほどの性能差がある。

耐久、切れ味、使い心地、見た目、その全てが一級品。

下手すればユニークアイテムすら超えるような性能を持つ武具も作ることが出来るドワーフも居るという。



「そ。ここら辺って、武具の加工に必要な鉱石とか素材とかが結構豊富だから、ドワーフの職人とか、素材採集の為に来る冒険者とかの出入りがまぁまぁあるんだよねぇ。」

「だから間違ってもこの場所へ入って来られないように霧を使って人避けの結界を張っているというわけか。なるほどな。」

「え、私初耳なんだけどそれ。」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「そういうことなら言ってよぉ!私この前『(りゅう)()』使いながらやっとのことで洞窟に入ったっていうのに…ハァ、無駄に疲れちゃった…。」

「わ、悪かったって!謝るからさぁ…?」

「……まぁ、いいよ。取り敢えず、中に入りましょうか。お話はそれからっていうことで。」

「そうだな。案内頼むぞ、ウォーバイト。」

「はーい。じゃあ、はぐれずについてきてねー。」



水竜の先導で、俺たちは清水の祠の奥にある開けた場所、水竜ウォーバイトの領域へと足を踏み入れた。天井から伸びる白く長い鍾乳石、そこからポタポタと零れ落ちる水滴が奏でる幻想的な三重奏が静まり返った洞窟の中に響き渡る。


ドームのように開けた空間の中心には、底の方まで見渡せるほどに透き通った清水が湧き出す大きな地底湖があった。



「……いつ見てもすげぇところだな、ここは。」

「自然はすごいよね。水の力だけでこんなに大きな空間を作っちゃうんだから。」

“偉大ですよね…。”

《……うん、心が洗われる感じがする。》

「ここは『浄化(じょうか)水域(すいいき)』触媒だからね。浄化する力はここが一番強い筈だよ。」

「この場所全部がか!?」

「うん。この…水竜の棲み処が『浄化の水域』の触媒になってるんだ。ほら、ここの地底湖から流れ出る水ってフィスィ連合国にある水路に流れてる水なんだよ。つまり、触媒であるこの地底湖の水を通して、フィスィ全体に『浄化の水域』を張り巡らせてるっていうわけ。」

「……結構規模の大きなものだったんだな。」

「そういうこと。維持するのも大変なんだから……さて、そろそろいいかな?リーオ君。」

「………あぁ。」



スッと、水色の少女が纏っていた空気が変わる。それは例えるなら透き通った、早朝に吹く爽やかな風。それを感じると同時に、俺の心臓部に締め付けられるような圧迫感と痛みが走る。



「…っ…!」



突然鉄砲水のように地底湖を満たしていた清水が少女の身体を飲み込み、地底湖の中へとまるで抱き寄せるかのように、優しく包み込んだ。


そして、少女の姿だったウォーバイトの身体が竜へと変わっていく。火竜とは違う、しなやかで小さな、一見幼いと感じてしまうほどの儚さを持った姿。


水竜ウォーバイトは竜へと変化した身体を半分水面から出し、俺へ問いかけた。



『……うん。よし、リーオ君。君の目的を聞こうかな?』

「………水竜の竜化を、教えてほしい。」

『うん、ヤダ。』

「……は?」

『嫌っていたんだよ、無限の器君?』



どういうことだ?ただ竜化の仕方を教えてくれれば、それでいい。

それを、『嫌』だ?………どういうことだ!?



「……何故か、理由を聞いていいか?」

『理由は簡単だよ。君にその資格がないから。それだけさ。』

「……資格が、ない…俺に……?」



資格……?俺は水竜との契約を果たしている。それが資格ではないのか?



『言っておくけど、契約は資格というわけじゃないんだよ。ただの手段だ。試しに…。』



そこまで言った水竜はちらっと水面へと視線を移したかと思うと、そちらを指さし、リーオへ向かってこう問いかけた。



『そこに立てる?やり方は教えるからさ。』

「…?」



…水の上に立て、ということか?無理だろ。どこかの部族ならできないこともないのだろうが、ただの人間である俺には不可能。それともなんだ?やり方さえ学べば出来るものなのか?


確認のためにと、後ろで待機しているシェランへと視線を向けると…なんというか、複雑な表情をしていた。……どういう感情だ?その顔…。



「…やり方を学べば出来るものなのか?それは。」

『うん。シェランちゃんは出来るよ。シェランちゃん、お手本見せてあげてよ。』

「……しょうがない、ね。じゃあ、レクチャーを兼ねてやって見せてあげるよ。」

「…頼む。」



シェランは着ていたマントと靴を脱いで、地底湖の水際まで行くと、こちらを振り返った。



「…じゃあ、よく見ててね?リーオ。大事なことは一つ、竜力をうまく使うことだよ。足裏に竜力を、言うなら板を一枚挟むみたいに敷くんだ。そうすれば…。」



シェランが先ほど言ったとおりに足の裏に竜力を集中させ、水面へと足を踏み出すと、普通ならドボンッと沈んでしまうであろう身体が、滑らかに水面を滑っていく。



「……すげぇ…。」

「…んじゃ、リーオもやってみようか。さっき言ったみたいに足の裏に竜力を集中させてみ?」

「…あぁ…。」



取り敢えず靴を脱ぎ、濡れると困るので腰に差したヴァールとある程度の装備を外して、シェランに言われた通り、足の裏に竜力を、板を一枚挟むように敷く。

ヒヤリとした洞窟の岩盤に着いた両足の裏に熱いものが集まっていくのを感じる。

それをしばらく続けていると、両足全体に熱が宿るのを感じる。

足全体がいつもより軽く、よく動く。



……よし、上手くいった。…しかしこれで本当に水の上に立てるのか?



若干不安に思いながら、水面へと足を進める。



…冷たいな。出来るなら落ちたくはない冷たさだ。



ヒヤッとした水の感触に身体だけでなく心まで少しヒヤッとなりながら、ゆっくりと恐る恐る足を伸ばしていくと、一瞬ピタッと足の裏と水面が重なった感覚があったと同時に、俺の身体は激しい水しぶきを上げながら水の中へと沈んでいた。



「うぉぶッ!!??」

“リーオさん!?”

《ご主人!?》

「……。」

『…やっぱりねぇ…。』




「____ゴホッ、ヴェホッ!あ゛~…冷ったぁ…。」



冷たい地底湖の水から這い出て、濡れた服や身体を『火竜』の力を使って乾かす。流石にこの場で裸になるわけにもいかないし、貰った力(使えるもの)は使っておかないと、もったいないからな。


しかし、おかしいな。シェランに言われた通りに竜力を足裏に張って、シェランと同じように踏み込んだはずなんだがなぁ…?


水竜は、少しの落胆と諦め、そして納得を滲ませた声で問いかけてくる。



『…これで、分かったかい?』

「やり方が間違っていたとか、そういうのではないんだな?」



…つまりは、俺には水竜のいう『資格』がないと、そういうことか…。



『…言うなれば…そうだね。君には、人間として、いや、生物として決定的なものが欠けている。それを見つけ出さない限り、君に水竜の力は使いこなせないよ。』

「……『生物として決定的なもの』…?それは一体?」

『残念だけど、それは君が君自身の中から見つけ出さなきゃいけないものだ。誰かに教わって分かるものじゃないさ。』

「……そう、なのか…。」



少しずつ乾いていく服と身体、そして髪の感覚を味わいながら、フッと溜息を吐く。


……『欠けている』、か…。それを竜に言われるとは思わなかった。いや、竜だからこそ、なのだろうな。確かに、俺には生物として決定的なものが欠け落ちている。


「感情」だ。所謂「喜怒哀楽」がない。最近は火竜のところで「怒り」を取り戻した?ばかりだが、「喜哀楽」は未だに欠け落ちたままだ。


おそらく、水竜の力を使いこなすには「喜哀楽」のどれかが必要なのだろう。


どうにかして、それを取り戻す方法を考えなければ…。




ウォーバイトからの言葉に一人俯き考え込むリーオを、シェランは心配そうに見つめていた。



「……リーオ…。」



リーオに足りないものは、前から分かってはいた。でも、それを告げてどうする?



『君には感情がない。』



なんて言ったところで、何の意味もない。


…私が、リーオの為にやってあげられることは、何一つない。



「…ごめんね、リーオ…。」



シェランの小さな呟きは、洞窟に響く雫の三重奏にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。




次は出来れば9月中に...


次回もお楽しみに

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