【いざ王城へ。勇者候補の実態】
前回の続きです。
今回は殆ど説明回となってしまいました。が、物語は進行しています。
新たな国や武器、人物などが出てきますので、後々解説回なども挟み挟み進行していきます。
あわただしい一年でしたが、見てくださった皆さんありがとうございました。
来年も誠心誠意頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
では、よいお年を。
____カバルとの5年ぶりの再会を祝い、二人の友情を再確認したところで俺達は改めて王城を目指して歩き出した。王都の街もすっかり静まり返り、朝の人々の活気あふれる声が響き渡る太陽のような印象とは違い、月が照らし出す静まり返った聖堂の様な印象を覚えた。
「……すっかり遅くなっちまったなぁ…」
「……まぁ、お前のせいだがな。」
「あはは、悪かったって…次の飯奢ってやるからさ。」
「それで手を打とう。」
「喰いつきいいなオイ。」
「飯を奢るって言うなら、許してもいい。」
別に、金に困っているというわけではない。ただ、人の金で食べる飯程美味いものは無いからな。
それに無駄な出費をなくすことにも繋がるから節約にもなるしな。
しかし…
「…なぁ、こんな時間に城を訪れても入れないよな?」
「……そうだな…どうするか…。」
だよなぁ?こんな時間まで王の住まう城の門が開いているわけない。それに開いていても入ることは叶わないだろう。しかし、どうしたものか。取り敢えず、野営用の道具は一式揃っているが流石に国の、それも中心部の王都で野宿はいかんでしょ。俺は別にいいが常識的に駄目だろう。
しかし、今日の内に王都を出る予定だったから宿を取っていない、今から取ろうと思ってもほぼ満員の宿屋が大半だろうし、かといって一般の住宅に泊まるわけにはいかない。
ふむぅ…どうしたものか…。
「……リーオ、今日泊まる宿屋は?」
「…ない、が、大丈夫だ。」
「大丈夫?」
「あぁ、今夜は野営する。」
「はぁ?お前…何言って…!」
「別に心配する必要はない。野営する場所はさっきの森だ。明日の朝、何処に集まるかを教えてくれればいい。」
幸い、野営道具一式はある。此処から見て野営が出来るところはさっきの森か?あそこなら人に見られる心配は少ないだろう。それに、明日何処に集まるかが分かればスムーズに事が進む。
「おまっ…なっ……はぁ、分かったよ。明日の朝、喫茶店に来てくれればいい。」
「分かった。では、また明日。」
呆れた様子のカバルだったが、無理に家に泊めてもらう必要はない。軒先を貸してもらえるだけでもいいのだが、今夜は野営の気分だったのだ。
カバルと別れ、一路森への道を戻る。空を見ると時間は既に0時過ぎ、魔の者が活動を始める時間帯だ。早く野営の準備を整えなければ。
森へ着くと同時にスペル『空間魔法C』で作成した空間の中から野営道具一式を取り出し、その場に展開する。夕食用の保存食と、身体を温めるためのスープを作るための鍋と水を出すための『水竜の水ビン』と具材、それに火を付けるための『蛍火のライター』を取り出して集めた枝類に火を付ける。
この『蛍火のライター』で出てくる炎は、人の身体にダメージを与えることはない特殊な炎で、この炎で燃やした物は水を被っても炎が消えなくなるという性質がある。
『水竜の水ビン』は、無限に水が湧き出すビンのことで、そこから出てくる水は『水竜ウォーバイト』が住んでいる空間にある湖と繋がっていて、蓋を取れば水が止まることなく溢れ出すという代物だ。因みに、『水竜ウォーバイト』とは契約を結んでおり、その時に受け取った契約の証なのだ。
「……スープは、適当でいいな。何かあったか…?」
空間の中を漁って、適当な具材を取り出し鍋に入れ、煮る。一応味が出るような具材だったからコンソメスープのようになってくれればいいか。
「……。」
スープが煮えるまで暇だな…武器の手入れでもしておくか。
再び空間を漁り、中にあった手入れ道具を取り出す。まずは手入れが厄介な『黒揚羽』から片付けちまうか。
“私からではないのですか?”
「ヴァールの手入れは簡単だから最後だ。その前に『黒揚羽』から片付けないと後がつかえるだろ?」
“…むぅ、分かりました…待ってます…。”
ヴァールには悪いが、『黒翼』の手入れだけは怠ることが出来ない。
『黒揚羽』とは、世界でも希少な『魔導銃』の1つで、その中でも『選色十二丁』という世界に12丁しかない魔導銃の内、『破滅の黒』を割り振られた世界でも1丁しかない魔導銃だ。
大事な時にこいつが使えないと、もしもの時、負ける以前に死ぬ可能性がある。何より、大事な時にこいつが暴発なんてことになったら目も当てられない状況になる。それだけは避けなければならない。その為に、手入れを欠かすことは出来ないのだ。
「……お、スープも出来たみたいだな。」
少し手入れに集中していたら案外すぐだったな。さて、味の方はっと…まぁ、及第点か。
スープをちびちび飲みながら銃の手入れをしていく。まぁ、手入れと言っても汚れ、ごみの掃除、動作確認と修正、魔法陣の展開速度の確認くらいなんだが。
「…よし、完了だ。問題なし。おい、ヴァール!終わったぞ。」
“…やっとですかぁ?待ちくたびれましたよぉ!”
おいおい、女神が手入れを待ち侘びるなんて、慎みが足りないんじゃないか?
そう、心の中で考えながら空間を漁って手入れ用の布と聖水を取り出す。
ヴァールの手入れは少し特殊で、神性を編み込んだこの『刻印布』に教会から貰った聖水を染み込ませたもので刀身を拭くだけでいい。
だが、少しでもそれを怠ればなにも切ることのできない鈍らになってしまうので真剣にやらなければならない。
「…どうだ?気持ち良いか?」
“…はい、とても心地いいです…やはり、リーオの手入れが一番です…”
「…そう言ってもらえて光栄だよ。」
しかし、今日の王都の雰囲気を見るにそれ程勇者候補が重要だと言う感覚はない。
むしろ、あまり歓迎していないとすら思える。
昔に立ち寄った街で、勇者候補は貴族の階級から生まれる事が多いと聞いた事がある。
俺のように、一般の家庭から生まれる事自体が稀らしい。
それが、勇者候補があんなに腐っている一番の理由か。
貴族は、生まれた時から基本ステータスが高い。
一般人の初期ステータスの上限がDまでだとしたら貴族はCまで上げる事が出来る。
さらに、教育課程で『剣術』や、『魔法』などのスキルを習得することが出来る。
一般人とは生まれた環境が違い過ぎるのだ。故に、神も優秀な人材に加護を与える。だから貴族から勇者候補が生まれることが多いのだ。
「…まぁ、そのせいで国の上層貴族が腐っているんだがな。」
“…今は『テルビューチェ』で起こった市民革命の影響で王の権限が低いですから、貴族の横暴を止めることが出来ないのですよ…”
「…はぁ、弱い国だな。俺はそこまで踏み込むことはしない。だが…」
“今回は事情が違いますね。”
「あぁ、ここはカバルとリッカが住んでいる国だからな。それなりのことはするつもりだ。」
“…無理は、なさらないで下さいね?今の貴方は…”
「分かってる。俺も無理はしないよ。まだ、死にたくないからな。」
“……なら、いいのですけど…”
心配そうな声を出すヴァールを鞘に仕舞い、スープと保存食を片付け、寝る準備に入る。
空間から『火竜の外套』を取り出し、枝を火に放り込んで火力を上げる。まだ春先の夜は冷える。
この『火竜の外套』は、俺が『火竜ノヴァヴルム』と契約を結んだ時に受け取った代物で、火と水、氷属性の攻撃を完全に無効化する力を持つ。それ故か、寒さなどの環境の変化を受けることがないから、こういう時の毛布代わりになるのだ。そこら辺の毛布より、こっちの方が暖かい。
未だ眠くはないが、少しでも寝ておかないと明日に響く。さっさと寝よう…
近くの木に寄りかかり、目を瞑る。寝るまでは行かなくても体と目を休めておかなければ。
明日は王城へ行くんだ。国王に挨拶をする予定だし、王城に住む勇者候補も見ておかないと。
そいつを殺すか放っておくかは、その時に決めるか。
大体は殺すのが普通だが、今回出てきた勇者候補は俺と同じ辺境の村から出てきた奴らしい。
それも、俺が気になった理由なのだが…嫌な予感がする。
おっと、こんなに考えていては眠れないな。頭を空にしてさっさと寝るか…。
次の朝、日が昇るのと同時に起きた俺は、朝食の準備をし、王城へ行くための準備を終えて、足早に喫茶店へ向かう。道の途中、朝早く起きてきた八百屋の店主と軽く挨拶をしたり、民家の塀の上で寝ていた猫と挨拶したりしながら喫茶店への道を進む。
森から喫茶店までは結構な距離がある。道すがら挨拶などをしている内、喫茶店へ着いたのは太陽が多少上ったころだった。
喫茶店の前には既に準備を終えたカバルが腕を組みながら仁王立ちしていた。
「よう、早いな。」
「…ん?あぁ、そうだな。」
おっとぉ?何だか眠そうだな。こいつあれか、いつもはもっと寝てるのか?仮にも騎士団の部隊長がこんなんじゃあ、隊員にも示しがつかない気がするが…いいのか?
「ふぁ…ねむ…。」
あ、駄目だこいつ。完全に休日の父親モードだ。まぁ、休日の父親がどんな感じかは知らないが。こいつも歩いているうちに目が覚めるだろう。さっさと王城へ向かうか。
「…おい、カバル。さっさと行くぞ。案内しろ。」
「……おう…。」
寝惚け眼のカバルを起こしながら王城への道を進む。あたりを見渡すと、昨日見た活気溢れる街の大通りになりつつあった。露店なども立ち並び、さながら祭りの様な雰囲気だ。
「…んんっ!…やっと目が覚めてきた…。」
「今まで半分寝てたからな。倒れないようにするので忙しかったぞ。」
「ごめんな!俺、朝弱くてよ…。」
隊長がそれでいいのかと思いつつ、苦笑いを浮かべるカバルの背中を叩きながら進んでいると、王都の中心部である『ヴィヴリオ広場』に出た。そこは、先程の大通りよりも人が多く、人が波のように押し寄せ、前へ進むことすら難しいほどの賑わいだった。
「っ…人が、多すぎやしないかっ!?」
「っ…いつもこんな感じだぞ…っと!」
人の波を掻き分けながら前へ進んでいると、不意に津波の様だった人の群れが途切れた。
「おっと…着いたか?」
「あぁ、ここがインテグラル王国の中心、大陸を代表する白亜の城『インテグラル城』だ。」
カバルが示した巨大な白亜の城、『ユーフェルト大陸』最大の城『インテグラル城』、まだそこの城門だったが、それだけでも圧倒されるほどの威圧感を持っていた。
「_____デカいな…。」
そんな感想しか出てこなかった。これほど大きなものを見たのは世界樹以来だったが、やはり圧倒されるな。
「だろ?俺も、これほどデカい建物はこいつ以外見たことがない。」
少し得意げに話すカバルの元に、城門の前にいた兵士が駆け寄ってきた。恐らく、カバルの部下だろう。『観察眼』で見たが、こいつもかなりのやり手だ。ステータス値が高い。
「隊長!昨夜はどちらにいらっしゃったのですか!?」
「あぁ、すまないな。まぁ、こちらも色々あってな。」
「…では、そちらの方が…?」
兵士がこちらを怪訝そうな目で見てくる。
「…あぁ、新しい『勇者候補』だ。国王陛下への報告は?」
「はい、こちらの方で既に。」
「よし…では、来てもらおうか、『勇者候補』殿?」
…カバルも立場的にこのような言い回しをしなければならないことは分かるが…少々、込み上げてくるものがあるな。『勇者候補』という言葉がこちらへ向けられることに対して強い拒絶感と嫌悪感が全身を駆け巡る。
「…あぁ…。」
絞り出すような声で答え、先導するカバルの後に続いて城門を通る。兵士には聞こえない距離まで進むと、カバルの方から謝罪の言葉がかけられた。
「……すまない、リーオ。あんな風に呼んじまって…。」
「……いや、いいんだ。お前の立場的にああいう言い回しが必要なことは、理解している。」
それに、さっき俺をあんな風に呼んだ時のこいつの表情が、とても辛そうだったから、カバル自身こんな言い回しをしたくないという気持ちが伝わってきたからな。俺も、我慢しないと。
城の中は、外から眺めた時に感じた高潔な雰囲気がそのまま具現化したような感じだった。
とても清潔的な空間だったが、俺には凄く息苦しい。此処に長居は出来ないなと考えながら先導するカバルの後についていく。途中、何人かの兵士に怪訝な目で見られるのを感じながら、やはり兵士でも『勇者候補』に対してあまりいい感情を持っていない様子が見て取れる。
何処の国でも、勇者候補って奴は変わらないな。図々しくて、傲慢で、醜悪な『世界のゴミ』、まぁ、中にはまともな奴もいたが、そういう奴は真っ先に貴族出の勇者候補に消されるのが大体だ。
前にも田舎出の勇者候補を貴族出の勇者候補が殺したという事件があった。その時の貴族出は俺が殺したのだが、驚くほどに『弱かった』のだ。
仮にも勇者候補であろうものが、鋼の剣一つまともに使いこなせていなかった。むしろ、どうやって村出の奴を殺したのかというほど、弱すぎたのだ。
後に聞いた話では、貴族出の勇者候補は自分が神の『加護』を受けているという他の者よりも圧倒的優位な立場に甘んじて、通常受けることが決められている兵士達との訓練にまともに参加しないらしいのだ、逆に村出の勇者候補は本当の勇者になろうと日夜訓練に勤しむ。
権力を振りかざし、兵士から嫌われている貴族出に対し、日夜訓練に勤しみ、兵士達と友好な関係を築いていく村出、まさに対照的なものだった。
その貴族出が村出を殺した理由は、嫉妬と焦りだ。いつか自分を超えてしまうかもしれない存在が現れ、自分以上に周りの人間に信頼されていることに、強い嫉妬と焦りを感じたのだろう。
そんな事件もあったから、これほど兵士たちに嫌な視線を向けられているのだろう。俺自身、勇者候補という存在に強い恨みと嫌悪を抱いているから分かる。まぁ、今では自分がその勇者候補になってしまったのだが。
そうこう考えているうちに、豪華な装飾のされた見上げるほどの扉の前に着いていた。恐らく、この扉の先に、このインテグラル王国の国王『マティス四世』がいるのだろう。
先程の門を護っていた兵士より一層屈強な兵士が扉を守護している。恐らく彼らが近衛兵なのだろう。『鑑定眼』で見ただけでもその強さが分かる。扉を護る近衛兵でさえ第二部隊の隊長であるカバルと同等の強さを持っているのだ。近衛兵長は一体どんな化物なんだ?
ここ、インテグラル王国は大陸でも最大と言われるほど強大な国だ。そこの国王を護る近衛兵ならこれくらいの実力が無ければやっていけないだろう。ただでさえ今は魔族の動きが盛んになってきているのだ。城の兵士達の空気がピリピリしていたのもそのせいだろう。
なら、なおさらここの勇者候補の実態を確かめなければ、要の勇者候補がゴミクズではこの国も終わりだろう。そんな風になる前に、何とかしなければな。
「…勇者候補殿。こちらに…。」
扉付きの近衛兵と話が済んだらしいカバルが、モードを切り替えて案内する。それに無言で答え、先導する近衛兵とカバルの後に続きながら、巨大な扉を通る。
扉を通り抜ける際、多少の魔術的な干渉があったのを感じる。直感スキルがある程度無いと分からないくらいの小さく、微弱な干渉。
恐らくあの扉に仕掛けられていた『神聖魔法』の一種だろう。神聖魔法とは、聖職者や賢者などが扱う
『癒治』や『浄化』などの神から与えられた特別な魔法のことで、ある程度神からの『加護』を受けていないと使えない神聖なもの、らしい。まぁ、俺も知識でしか知りえないが。
先程受けた干渉は恐らく『魔族感知』の一種だろう。俺達人間が信仰している『平等と調和の女神ハーモニクス』とそれに連なる大系の神々からの加護を受けていないものに対して多少の痛みを与える程度のものだ。俺達人間は少なからず神々からの加護を受けて生活している。勇者候補とはそれを特別強く受けたもののことで、それにより一般人からはかけ離れた力を振るうことが出来る。魔族や魔物は『混沌と死の女神アムネスティ』の加護を受けている者たちのこと。
他にもエルフの『神秘と自然の女神ティーリア』やドワーフの『鍛冶と祭事の神ドライグ』など、様々な神の大系が存在している。
まぁ、これ位の干渉、気にすることは無いのだが、他の者に怪しまれる訳にもいかないので、至極自然な振る舞いをしておく。一応、『契約の女神』であるヴァールは女神ハーモニクスの大系なので何も無いのだが、分かってしまうのは仕方がない。
扉を通り抜けてからは真っ赤なカーペットがずっと引いてある廊下を真っ直ぐ進み、先程よりは一回りほど小さな扉をいくつか通り抜ける。段々、周囲の景色が荘厳な雰囲気になっていくのを見て、国王がこの先にいることをひしひしと感じる。
「……勇者候補様は、貴族の出なのですか?」
前を歩いていた近衛兵が問いかけてきた。やはり、どちらか気になるのだろう。すでにこの国には貴族出の勇者候補が数人いる。これ以上増えるのは、近衛兵としても、国民としても嫌なのだろう。
その気持ち、すごくわかるぞ。
「…村出だよ。」
「…そう、でしたか…。」
何となく、近衛兵の声色が変わった気がする。やはり、村出の勇者候補が増えることは国の兵士にとってとても嬉しいことなのだろう。声が若干上擦っているぞ。
「…近衛兵殿、少しいいか?」
「なんだ、カバル殿。」
「…こちらの勇者候補殿は、未だ旅の途中だ。我々のエゴでここに引き留める訳には…」
「分かっている。陛下もそれは承知しているはずだ。」
カバルの部下はちゃんと報告をしてくれていたらしいな。やはりカバルの部下はいい奴だった。不安に何て微塵も思っていないぞ。
「……俺は、勇者候補という肩書なんて必要ないが、貰えるものは貰っておくだけだ。」
「……こちらとしては、王国に残ってもらいたいのですが…それは叶わないのでしょう?」
「あぁ、無理だ。」
まだ、旅を止める訳にはいかない。俺は英雄にはなれない。だが、誰かの為に戦うことは出来る。俺の様な人を増やさないように、勇者候補の横暴を許さないために、俺は旅を続けるのだ。
それを、ここで止めるわけにはいかないからな。まだ、立ち止まれない。
「……そう、ですよね…分かってます…。」
おいおい、露骨にテンションを下げるな。心が痛くなるだろ。まぁ、ならないんだが。
そうこうしている内に、先程の大扉よりさらに豪華な装飾が施された扉が見えてきた。
恐らく、あそこに国王がいるのだろう。自然と周囲の空気が重苦しくなってくる。
「…勇者候補殿、あちらが国王陛下のいらっしゃる王の間の扉です。では、近衛兵殿、よろしくお願いします。」
「カバル…さん?」
「私は部下との訓練の時間ですから。ここで失礼いたします。後は、こちらの近衛兵殿に。」
「…分かった。おま…そちらも頑張って。」
「…えぇ。では…」
ここでカバルとはお別れか。部下と訓練をするって言ってたな。挨拶が終わったら見に行ってみるか。
近衛兵の後ろについていきながらヴァールに少し問いかける。
ヴァール、この城の中に神々の『加護』を強く受けている人間は何人いる?
“…国王と貴方を含めずに見ると…6人ほど、でしょうか?”
この城の勇者候補は6人か。内一人は村出、他は全部貴族出だ。また、無駄に多いな。
“神々も結構必死ですから。新たな勇者を生み出さないと魔神との戦いに勝てませんから。”
……戦争の準備、か。最近、勇者候補がそこら中で発現している理由はそれか。
“えぇ、『あの方』は、そういう方ですから。”
…本当に、腐った世界だ。
ヴァールに向けていた視線を前へ戻すと、豪華な装飾のあしらわれた扉が目の前まで迫っていた。
扉の前まで行くと、先導していた近衛兵が扉の前に仁王立ちしていた屈強な騎士に話しかける。
「…ウェルス、異常はないな?」
「ハッ!異常は在りません!」
「そうか、では勇者候補様をお通しする。」
「?あぁ!そちらの方ですかい?」
「あぁ、昨日報告があった新しい勇者候補様だ。陛下へ挨拶に参ったらしい。」
「分かりやした。」
屈強な騎士が扉の取手に手を掛けてグイッと力を入れて押すと、ゴゴゴと音を立てながら扉が開いていく。中はまるで神殿の様な雰囲気で、部屋の奥には大きな玉座に座った国王『マティス四世』とその隣に座っている王妃『セーレイン』、一人娘の『リアナ』姫の三人がいた。
こちらに気づいた国王が、玉座から立ち上がりこちらへ歩いてくる。目の前まで来た国王が、俺の両手を握ってゆっくりと上下に振る。
「おぉ!ようこそ!我が国へ!新たな勇者候補よ!我らは、其方のことを歓迎しよう!」
「お、お?お、おぉ…?」
ず、随分熱の入った歓迎だな?後ろを見て助けを求めようとするが、近衛兵は我関せず、騎士は気の毒そうな視線を向けていた。おい、お前ら止めろよ!
次回もお楽しみに




