【尽きる竜力。極めし技の奥義】
遅れてしまい申し訳ございません。
様々なことが積み重なって、それに対処するのに時間を取られてしまいました。
謝罪はこのくらいにして、今回はリーオ編一応最終回の予定です。この後はシェラン達と合流し、フィスィ連合を巡らせる予定です。
「…なら、貴方を殺してからその妖精を頂くことにしますかね。」
その瞬間、上位魔族の身体から常人なら一発で気を失ってしまうほどの威圧感を持つ強大な魔力が周囲にばら撒かれる。
今までとは明らかに違う、圧し潰されそうになるほどの威圧感、圧迫感に、リーオとアゲハは自らの“死”を想起した。
「_____ッ!?」
≪きゃうっ!?≫
一瞬の空白、『直感』で何かを感じ取ったリーオがアゲハを掴み、思いっ切り横へ飛んだ。その直後、先程までリーオ達がいた地面がまるで鋭い刃物で切り裂かれたかのように抉り取られる。
「……ふむ、避けます、か…。」
「っぶねぇな…すまんアゲハ、説明してる余裕なかった。」
≪…?あ、うん。大丈夫。≫
若干状況が理解しきれていないアゲハに謝罪をしながら、取り敢えず使えそうな得物を引っ張り出して構える。しかし、唯一使えるものだった魔剣が砕けてしまった今、アイツの攻撃を防ぎ切れるものは俺の持ち物にはない。
「……仕方がない、やれるところまでやるか。アゲハ、黒銃の中に入っておけ。」
≪?う、うん…?≫
アゲハを黒銃の中に仕舞い、引っ張り出した武器をその辺へ投げ捨て、上に着ていた服を脱ぎ捨てる。
「ん?それは一体、何をしているのですか?」
「……邪魔だったんだよ。『コイツ』を使うには…な。」
今までは全身に薄く纏っていた竜力を魔族でも視認できる程の濃度に倍化させる。そして全身に絡めつかせるように、オーラの鎧を纏うように、徐々に肉体へと馴染ませていく。
「…….それが、竜力ですか?」
「そうだ。そしてこれが……。」
全身に漲らせた竜力を肉体へと馴染ませ、身体を中身から作り替えていく。肌には鎧のような紅い鱗が生えだし、背中には空を引き裂くような鋭利な翼が生え、全身の骨格が竜のものへと変換されていく。
口には鋭い牙、黒かった髪は赤みがかった銀へ、胸に刻まれた蜷局を巻く黒い蛇のような刻印はその中心に火竜の鱗と同じ紅色の光を放っていた。
「______火竜から受け継いだ、竜化だ。」
…全身が燃えるように熱い。残っていた竜力を全て使い、ギリギリ竜化を保てているって感じだ。持って後10分前後ってところか?早々に決着をつけて、早い所シェラン達と合流しないとな。
「………竜化、もしかしてと思いましたが、本当に人間が竜へと変わるなんて、にわかには信じがたい事実ですね。」
「実物を目の前にして何言ってやがるんだ?」
「……それも、そうですね。ではこちらも、全力で挑ませていただきましょうか…!」
構えていた漆黒の剣を振り上げた魔族は何やら呪文のようなものを呟くと同時に、その剣を自らの腹部へ突き刺した。
「ガファッ!!」
「!?」
その瞬間、突き刺された刃からどす黒い魔力がまるで栓を切ったかのように放出され、魔族の肉体へ泥の様にドロドロと纏わりついていく。
「ぐッ!グァァァァァァァッ!!」
「何だってんだ!?」
どす黒い魔力は、次第に球状へと変形し渦を巻く竜巻の様に周囲へ凄まじいほどの圧迫感を振り撒き始める。
氷獄の中に閉じ込められたかのような異様な寒気が周囲だけでなくこの森全体へと広がる。それと同時に上から抑え付けられる様な強い威圧感と身体の内側から締め付けられる様な圧迫感が同時に襲い来る。
闇夜でもはっきりと見える黒い卵のように変形したどす黒い魔力の球体が不規則に変形し始める。ボコボコと泡立つ表面が次第に何かを形作っていく。
_____そして、それは現れた。
ぐちゃっ、と黒い卵の殻を破って出てきたものは、先程までの魔族とは全く違う姿をしていた。
死体のように青白い肌、全身に伸びる黒いひび割れのような紋様、月光を反射する艶のある濡れ羽色の翼、その禍々しい姿を言い表す言葉があるとすれば『魔』、この一言だろう。
「………おいおい、聞いてないぜ!?そんなの!」
≪ご主人!何なの、この禍々しい魔力は!?≫
周囲に満ちる禍々しい魔力に混じる氷獄のような冷気と突き刺すような殺気、上から抑え付けられる様な圧迫感の中、俺はここで初めて戦慄を覚えた。
……竜化していられるのは持って10分、今出来る最善を尽くしてもアイツを殺し切れるかどうか…かくなる上は暴走を覚悟しなければな。
俺が心の中で泣き言に近い愚痴を吐いていると、完全に変身を終えた魔族が口を開いた。
「______この姿になるのは、生まれて初めて、ですね。こうも苦しいものだとは思いませんでしたが、力の増幅は想像以上です。今の私なら、竜となったアナタと対等に戦うことが出来るでしょう。」
「…随分喋る奴だな。その姿になってさらに舌が回るようになったか?」
「そういうアナタは、かなり余裕がなさそうですね?竜となるにはそれ相応の代償でも必要なのですか?」
「…いい加減口を閉じろ。こっちは時間がないんだ。さっさと終わらせるぞ。」
「そうですか…それは残念です。あ、では最後に、お互い自己紹介がまだでしたよね?私の名は、≪キアロ=ベルグ=エルスゲート≫上位魔族エルスゲート家が現当主、魔族最高峰の空間魔法を操る『門の番人』です。」
「……無限の器、リーオ=クシィ。お前を殺す者だ。」
そこまで答えると、俺は拳を構えた。ノヴァの力はスキル『竜拳』を使ってこそ、その本領を発揮する。構えた拳に『火焔』を纏わせ、直ぐにでも動けるように軽く跳ねながら相手の出方を窺う。
「……お前を殺す者、ですか…フっ、随分面白いことを言ってくれますね。」
薄い口元に笑みを浮かべたキアロが、自ら開いた虚空の中から異形化前に持っていた黒い剣を取り出し、ニタッと笑いながら切っ先をこちらに構える。
「………。」
「………。」
一瞬の空白の後、最初に動いたのは俺だった。『縮地』と翼による加速で、拳に纏った火焔の尾を引きながらキアロとの距離を詰め、一気に懐へ飛び込む
「ッ!速い…!?」
イグニート火山での一か月、俺がノヴァから教わったのは竜化や竜力の使い方だけではない。この拳を武器として戦う徒手空拳の基礎、イロハを全て教わった。
姿勢は常に低く、いつでも動けるように足はつま先だけを地面に着け、飛ぶように移動、拳は顎元に据え置き、防御から反撃へスムーズに移行できるように、視線は相手の目や身体の動きそのものをしっかりと捉えられるように、一瞬の隙も無駄にしない。
今この瞬間、キアロは明らかな動揺を見せている。つまり、重い一撃を撃ち込めるのは動揺している今しかない。
「…『竜拳』ッ!」
拳を撃ち込むイメージは、全身の筋肉から伝わる力を足から腰、背中、肩にまで伝達し、全体重と筋肉の力を拳に全て乗せて撃ち出す。
ビュンッと空気を貫く甲高い音と共に撃ち出された拳が、キアロの無防備な腹部に突き刺さる。その瞬間、拳に纏っていた火焔が爆発的に膨張、破裂しキアロの身体を後方へ大きく吹き飛ばす。
「ゴハァッ!?!」
再び加速、吹き飛ぶキアロに追いつき、竜拳をさらに二発撃ち込もうとした時、ようやく俺は異変に気が付いた。先程竜拳を撃ち込んだ場所に、何か紋様のようなものが浮かんでいることに気が付いた。さらに、俺はその紋章に見覚えがあった。
「______『反射』。」
「ッ!ぐぅッ!?」
凄まじい衝撃が、俺の腹部を襲う。まるで拳を撃ち込まれたかのような、そんな重い衝撃。何とか反応できたが、あばら数本は逝ったな、これは…。
吹き飛ぶ身体をコントロールしながら、思考を巡らせ続ける。
さっきの紋章は恐らく『反射』魔法特有のものだ。しかしあれは黒魔法ではなく普通の人族が扱う魔法のはずだ。魔族が使えるものではない…筈だ。
考えたくはないが、奴はこちらの魔法も扱えると思っている方が良さそうだ。さて、どう打ち破ればいいんだ?
地面に爪を立てて勢いを殺し、反射を喰らい剥げ始めた腹部の竜化を何とか再生し、再び拳を構える。奴に有効打を与えられる武器がない今、俺にはこの拳しかない。
「ちょっと、驚かせちゃったかな?」
「……『反射』か。」
「うん、僕の家に伝わる人族側から奪った防御魔法なんだけど、ちゃんと発動してたかな?」
「……あぁ、それこそ殺したくなるほどに、なッ!」
竜力を足に集中させ、開いた距離をグンッと一気に詰める。俺の攻撃は至近距離でしか当たらない。拳が届く距離まで近づく必要がある。幾ら相手に俺の攻撃を防ぐ手段があろうとも、それを上回れるだけの拳を叩き込めばいい。というか、今の俺にはそれしかない。
「フッ!」
前へ行く勢いと体重移動を織り交ぜて放つ俺の全力の拳を、掌に展開した『吸収』と『反射』の魔法陣で防いだキアロが、呆れた様子で口を開いた
「また性懲りもなく拳ですか?」
『反射』で弾け飛ぶ右腕の痛みに顔をしかめながら、それでも拳に力を、竜力を込め続ける。
「…今の俺にはこいつしかないんでな…!」
「?……ッ!?」
_____火竜が纏う炎『火焔』は、他者の魔力を喰ってその勢いを増す。つまり、魔法陣なんていう魔力の塊を食い尽くせば、炎の勢いは爆発的に増幅する。それを利用すれば、強固な防御魔法すら食い破ることが出来る。
「_____捕まえたぜ…!」
魔法陣を食い破り、掴んだキアロの腕を紅い火焔が這い回る。全てを焼き尽くす竜の炎がキアロの青白い肌に黒い火跡を残す。
「ッ…コイツッ!」
リーオの手と這い回る炎を振り払うように腕を振り払ったキアロが展開した黒い魔法陣から態勢の整っていないリーオに向けて黒い魔力の塊を撃ち放つ。
「ッ!くそっ…」
無防備な身体に降り注ぐ雨の如く叩きつけられる黒い魔力の塊。当たる度ビキビキと砕ける竜の鱗をその都度修復しながら最後の一発を放てるだけの力を、右の拳に収束させる。
……今の俺にはもう竜化を保っていられるだけの竜力は残っていない。この竜力が、今の俺が放てる最後の一撃だ。絶対に外すわけにはいかない。
この一撃で終わらせる。終わらせて見せるっ!
「ぐぅっ!」
黒い魔力弾が当たる度に鱗がビキビキと砕けていく。もうリーオには解けかけた竜化を保つだけの竜力は残ってはいない。しかし、攻撃を受け続けるその目から光が失われることはなかった。
「っ…なんなんだその目は!?これだけの攻撃を喰らっておいて何故そんなにも強い眼ができるんだッ!!」
「くっ……!」
キアロの攻撃が重く、激しくなる。もうとうに竜化は解けた。全身を覆っていた竜力はすっかりその勢いをなくし、無防備になった身体に黒い魔力弾が降り注ぐ。正直、立っているだけでもつらい。だが、その膝を落とすわけにはいかなかった。
………守らなければならない者がいる。助けなければならない者たちがいる。自分を待ってくれている者たちがいる。だから、折れるわけにはいかない。倒れるわけにはいかない。
だって俺は…俺は…!
_____俺は、無限の器だッ!!
『______仕方のねぇ奴だ。』
そう心の中で叫んだ時、突然聞きなれない声が頭の中に響き、右手に触りなれない、しかし懐かしい感触があった。それと同時に腰にも同様の違和感が走る。
『_____今回は貸しだ、次はねぇ。』
頭の中に響いた声の主は最後にそう言い残すと、サーッと霧のように頭の中から消えていった。
…今の声は一体何だったのか、そして何故また『これ』が手の中に現れたのかは定かではない。しかし、正直とても助かったのは言うまでもない。これでようやく、奴とまともに戦える手段ができた。
「……どこの誰だか知らねぇが、今度ばかりは助かったぜ…!」
飛んでくる黒い魔力弾を『刀』で弾きながら、右手に残った竜力を全身に再度巡らせる。
今残った竜力は普段の10分の1もない。魔力も併用したとしても撃てるのは2か3か…どちらにせよ、出せる力は限られてくる。
「…今出せる最大の一撃を、叩き込む…!」
『刀』を鞘に納めて柄をしっかりと握り、姿勢を低く、『縮地』で両足に力を込めてグンッと加速する。
「____フッ!」
「ッ!また速く…!」
前後左右へ身体を動かし、飛んでくる黒い魔力弾を躱しながら、キアロとの距離を着実に詰めていく。
______技の剣、その真髄は相手を一撃で殺す為の技術だということ。まずは速さで相手の目をかく乱し、隙を見て懐に入り込み、その首を一撃で斬り飛ばす。
「……ッ」
師が初めて技の剣の奥義『一ノ太刀』を見せてくれた時に言っていたことを思い出した。
「______『一ノ太刀』は、まぁ単純に見れば単に高い『一閃』に見えないこともない。でも、この『一ノ太刀』はどちらかっていうと、スペルではなくスキルなんだ。『相手をこの一撃で殺す』、この言葉を体現する為のユニークスキル…これは組み合わせることで真価を発揮する。」
……単純な力業では到底達することは出来なかった。いや、出来るわけがなかった。師匠が言っていた『組み合わせることで真価を発揮する。』この言葉を忘れていた自分が使えるわけもなかった。ヴァールには悪いことをさせてしまったな。
「クソッ!チョロチョロ羽虫みたいな動きしやがって!」
軽い足取りでキアロとの距離を詰める。こちらの動きに翻弄されるキアロが、俺を迎え撃とうと焦った表情で黒い剣を構える。
あの剣がキアロの手にある限り、俺の攻撃が奴の首を掻っ切る確率は著しく下がる。だが、大丈夫だ。
「______『一ノ太刀』、発動。」
ゾクッと心臓から全身に冷たい力が広がっていくのと同時に、両腕と両足が燃え上がるように熱く、軽くなっていくのを感じる。
両手と両足にいつも以上に力が入り、頭と心の中が嫌に冷静なのが分かる。
ただ頭の中にあるのは『眼前の敵を一刀の元に切り伏せる』ことだけ。
『刀』を握る手にはいつも以上に力が入る。まるで全身に竜力が漲っている時のように身体が軽く、素直に動く。
「くっ、少しは大人しくしろッ!」
キアロの後ろで空間がガパリと大きな口を開け、そこから飛び出してきた無数の腕がリーオを捕らえようと動くが、俊敏に動くリーオに全くついていけていない。
「何故だ!何故お前は止まらないッ!」
リーオは『心眼(真)』で、展開された魔法陣から放たれる数多の魔力弾を避け、迫りくる無数の腕を躱しながら着実に、確実にキアロとの距離を詰める。
そして、キアロの視界からリーオが消えた。
「ッ!?奴は何処だッ!」
視界を巡らせるキアロ、しかし時すでに遅し。
「____『居合』『一閃』。」
_____シュピンッ
鋭く短い音が耳に聞こえた。キアロはその時やっと、リーオが自分の懐に入り込んでいたことを悟り、構えていた剣を振り下ろそうと腕に力を込める。
しかし、返ってきた感覚は自分が思っていたものとは、遠くかけ離れていたものだった。
ズルッと、何かがズレる感覚。次第に視界がいつもの位置とは違うことに気づいた。ずっと見下ろしてきたはずのリーオを、自分が見上げ始めているのだ。
おかしい。これはおかしい。そう思い、視線を少し上へ動かしてみる。
そこでようやく、キアロは理解した。自分の身体が、幾つにも分断されていることに。
「……あ…。」
ズレていく喉で絞り出した声が、小さくこだまする。次第に落ちていく視線を目いっぱい上げ、眼前の敵を、リーオを必死に睨み付ける。
そして最後に残ったキアロの欠片が、森の涼やかな風に攫われて消えるまで、リーオはキアロだった白い灰を掬い上げ、その視線を受け止めていた。
次回もお楽しみに




