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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
第三章:無限の器、竜を廻る。
34/54

【分かたれた二人。巡り会う二人】

明けましておめでとう御座います。本年も様々なことがあり慌ただしい一年となると思いますが宜しくお願いします。


一月はこれが限界です。現在身体を壊しておりまして、一月はこの一話が限界です。

二月になれば多少良くなると思うので、頑張っていきたいと思います。


今回のストーリーはリーオの妖精の森編とシェランの故郷巡り編の同時進行になります。

一話ずつ切り替わっていくので書くのに少し時間がかかってしまうと思いますが、ご了承ください。




リーオ達が目指していた目的地≪フィスィ連合国≫の南にある入国門前にある茂みの中に座り込んだシェラン=ヒューレーと契約の神剣ヴァールの二人。イグニート火山からの飛行中、調子に乗ったリーオの竜化が切れかけ、急いで『転移(テレポート)』の魔法を使ったところ、何者かに干渉され、リーオとはぐれることになってしまった。



「……リーオとはぐれた…んだよね?ヴァールさん…?」

“…はい、そのようです…。”



現状が完全には理解できていない様子のシェランはゆっくりした動作で立ち上がると、隣に倒れているヴァールを腰に差す。



“……どうするのですか?これから…。”

「…取り敢えず、フィスィ連合国の国王に会いに行こう。目的地で待っていれば流石のリーオも帰ってくるでしょ?」

“……どうでしょうか…私、リーオさんの気配を感じられないんです…いつもはどんなに遠くへ行っても感じることが出来るのに…!”

「……何かに邪魔されてるのかもしれない。だったら尚更、下手に動くことは出来ないよ。今は、待つことに徹底しよう。」

“……でもっ!”

「ヴァールさん。焦りは禁物だよ。さっき言った通り、今下手に動くのは危険だ。今は、待つことが最善の策だよ。」

“……分かり、ました…!”



とても悔しそうな声色で了承したヴァールは、表情は分からないが心なしか柄頭が下に垂れ下がって見えた。まるで落胆する人間のように。


そんなヴァールを宥めるように柄頭を撫でるシェランは、意を決した表情で南の大門をくぐった。


フィスィ連合国は、様々な種族が混ざり合い、一つの連合となって誕生した亜人国家。それぞれの種族の中で盟主と呼ばれる代表を選び、その盟主たちが中心となって政治を行っている。


豊かな自然と大陸で最も広い国土、さらに地方ごとに四季が別れていることからフィスィ連合国は別名≪四季(しき)(くに)≫と呼ばれ、北の都市≪セルドラ≫にはドワーフが、東の都市≪ミブリオ≫には獣人が、西の都市≪エルドリエ≫にはエルフが暮らし、南には広大な緑が広がっている。

さらに国の中心都市≪アリアン≫には水竜ウォーバイトが住む≪清水(しみず)(ほこら)≫と呼ばれる洞窟から湧き出る清水により幾つもの運河が創られ、人々はその運河を利用し、生活や商売を営んでいる。


門を抜けた先に広がった緑の世界に、シェランは嬉しそうに目を細めた。

元々シェランはこの国の前身である≪アリアン共和国≫の生まれで、200年前に起こった≪落とし子(神々の戦争で生まれた哀れな神の成り損ない)≫達との戦争において、シェランはそこで人族軍の一人として、生き抜いたまさに生ける伝説としてエルフに伝わる絵物語に綴られている、所謂英雄なのだ。



「……ここに帰ってくるのも、もう何年ぶりかな。でも、あまり変化がないみたいで少し嬉しい…。」

“…相変らず綺麗な国ですね、ここは。空気も透き通っていて、流れる魔力も澄んでいます。”

「……うん。これもウォーの御蔭なのかな?」

“そういえばシェランさんは水竜ウォーバイトさんのお知り合いなんですよね?”

「えぇ、彼女が竜になる前からの…親友よ。」



ヴァールの言葉に、シェランは少し遠い目で空を見ながら答えた。その時右耳につけられた水色の耳飾りが仄かに光を放った気がした。


南の大門を抜け、続く石煉瓦造りの道を真っ直ぐに進んでいくと、国の中心都市アリアンに出ることが出来る。



「……帰ってきた。」

“…中央都市アリアン。この世界一美しい場所と言われるだけあって、自然と涙が溢れてきてしまうほどの美しさですね。”

「…うん。凄く、すっごく綺麗だ……ウォー、私帰ってきたよ…。」



アリアンは、清水の祠から流れる澄み切った水に満たされた美しい街で、そこでは清水から作られた運河を利用した運搬業や商業が盛んに行われている。街の中を流れる幾つもの運河は、それぞれ東西南北にまで伸び、国内の大切な運路として利用されている。


この清水は直ぐに飲むこともでき、国外でも人気の飲料水として結構な高値で取引されている。


南の入り口から街の中へ入ると、人々のせわしない喧騒が聞こえてくるようになった。聞こえてくる商人の客引きの声、町人の話し声、子供たちの元気な声に、シェランの顔が綻ぶ。



「…なんだかこうやって人々の元気な声を聞くのって、久しぶりな気がする。」

“そうですね。最近はずっと山籠もりでしたから…。”

「……まぁ、いいや。取り敢えずエルフの代表に会いに行こうか。彼に頼めば数日間の宿とか紹介してもらえるだろうし。」

“あぁ、宿も考えないといけないですものね。リーオさんのことを待つのですから。”

「うん。こっちにいる間は、私ウォーバイトのところにいる予定だから、ヴァールさんはどうするの?」

“付いて行きますよ。今はリーオさんもいませんし、宿屋で燻っているわけにはいきませんからね。”

「そっかぁ……祠の中にある源泉ならそこいらの教会で貰える聖水よりも清く澄み切った水だから、ヴァールさんの整備も出来るね。」

“え、そうなのですか?”

「うん。リーオはあんまり使わないけど、水竜の水ビンから出る水も源泉と同じ清水なんだよ。」

“あぁ、確かにあの水は澄んでますからね。浄化に近い効果があっても相違ありません。”



ヴァールと会話をしながら城へ続く道を進んでいくシェラン。その途中、とても良い仕立ての鎧を身に着けた騎士たちが、向かいの道からやってきた。彼らはシェランの姿を見ると、驚いた顔で立ちどころにシェランの前で膝を地面に着けて首を垂れると、中心にいた他の騎士より仕立ての良い鎧を着ている老騎士が震えながら声を上げた。



「し、し、しぇっシェラン様ッ!!」

「うぇ!?」

“ほう?”



えっと、これはどうすれば?この街中で、こんなことをされてしまっては…静かに過ごすことは出来そうにない。


そうこうしている間に、周囲に人だかりができ始めていた。集まった人だかりからは「シェラン様だ!あのシェラン様っ!」と興奮した声が飛んでくる。



「えっとぉ…どうしよう…!?」

“……状況はよく分かりませんが、あの老騎士に付いて行った方が良さそうですね。”



城へ案内してくれるという老騎士の後ろを付いて行く形で城まで続く長い街道を進んでいく。その途中、様々な人から呼び止められたり、物を頂いたりと手厚い歓迎を受けた。


そうしながらやっとのことで城に到着したのは天辺に上っていた太陽が北西にまで傾いたころだった。



「……やっと着いたの?」

“…えぇ、そうみたいですね…。”



揉まれに揉まれ満身創痍の体で城の城門を見上げたシェランは、ふと嬉しそうに息を漏らした。



「____ふふっ!」

「?いかがしたのですか?」

「あぁ、いえ…ただ、ちゃんと護ってくれているんだなぁって思って。」

「…護ってくれている?」



城を護る城門。その頂点に城下町を見守るように填められた翡翠の精霊石を見ながら、シェランはそう呟いた。


翡翠色の精霊石は、そんなシェランの声に反応したかのように小さく仄かな光を宿すと、石と同じ翡翠色の風がシェランにじゃれつくかのように吹き抜けた。



「あははっ!もう、相変わらず悪戯が好きなんだから!」

「ぬぉ!?か、風ですかな!?」

“ッ!これは……旋風?……いえ、≪妖精の柔風(フェアリーズウィンド)≫ですか?”

「うん。私と契約していた妖精の…シルフィの風だよ。」



そうシェランが答えるのと同時に、先程より強い風が吹き抜ける。



「お、嬉しいのか?こいつぅ~!」

「妖精…風のシルフィですか!?」

“確か神代の妖精…いえ、≪神霊(しんれい)≫に近いものですね。”



神霊とは、妖精の中でも竜種と同時期に発生した特に強い力、魔力を持ち合わせた妖精のこと。その中でも火、水、風、雷、大地、光、闇を司る神霊のことを≪原初(げんしょ)神霊(しんれい)≫という。



「まさかシェラン様が神霊と契約をなさっているとは…流石は英雄…。」

「っと、戯れるのはここまでにして、代表に会いに行こうか。」

「そ、それもそうですね!では、私が案内いたします。」



シルフィとの久方ぶりの戯れも終わりにし、シェランとヴァールはこの城の主、エルフ領の代表≪ミラス=ミスティル≫に会いに行くことにした。

木材で作られた温かみの感じられる長い廊下を進んでいくと、突き当りに意匠の凝らされた木製の扉が見えてきた。

エルフをあらわす森と水、そして風が見事に彫られた扉を開けた先に、エルフ領の代表を務めるミスティルが茶の用意をしながら待っていた。



「お!いらっしゃいませシェラン姉さん!お久しぶりですねぇ!」



ミスティルは、シェランのことを認めるとその美しい空色の長髪を犬のしっぽのように揺らしながら声を上げた。



「うん。久しぶり、ミスティル。ちょっと大きくなった?」

「はい!先月測ったら0.2mm伸びてました!」

「あ、そうなの?良かったじゃん。」



自分の身長が伸びたことをぴょんぴょんと跳ねながらとても嬉しそうに話すミスティルとそれをとても優しい目で見ているシェランの姿は弟の成長を喜ぶ姉のように見えた。


シェランの手が頭を撫でるたびに、目を弧のようにして喜ぶミスティルが、シェランの腰に差してあるヴァールのことを認め、不意に周囲を見渡した。



「…?どうしたの?」

「えっと、リーオさんは?その腰に差している剣って、リーオさんのですよね?」

「…うん。今ちょっと預かってて…もうちょっとすればこっちに来ると思うから…。」



少し悲しそうに目を伏せたシェランの姿にミスティルも感じるものがあったらしく、「わかりました。」と言った後、後ろに控えていた老騎士を下がらせると、シェランをソファーの方へ誘導した。



「シェラン姉さん、こちらへどうぞ。姉さんの好きな茶葉を淹れておいたんです。」

「…ありがとう。頂くよ。」



誘導されるままソファーに座り、テーブルに出されたティーカップを手に取り、一口口に含む。



「……うん、美味しい。」

「良かった。一緒にこちらのクッキーも如何ですか?こっちもボクが焼いたんです。」

「そうなの?ミスティルって料理できたっけ?」

「そりゃあ、出来るようにもなりますよ。……あの日から随分時間も経ちましたしね。」

「……それは、そうだね。」



そう言うとシェランは紅茶をズズッと一口啜り、ソファーから立ち上がって対面に座るミスティルの横に腰を下ろすと、ミスティルの小さな身体をギュッと抱きしめた。



「…ごめんね。本当に、案外時間掛かっちゃってさ…リーオも頑張ってくれたんだよ?」

「……はい、それは彼から聞いていました…でも!でも…シェラン姉さんがあの森に残る必要はなかったんじゃないですか…?」



涙を流しながら訴えるミスティルの頭を優しく抱き寄せながら、シェランは小さく何度も何度も「ごめんね。」を繰り返す。



閑散とした部屋の中にはミスティルのすすり泣く声と、シェランの繰り返す「ごめんね。」だけが響いていた。




次回は二月中...できれば二話...。


次回もお楽しみに

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