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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
第三章:無限の器、竜を廻る。
33/54

【妖精の母ティターニア。漂う嫌な気配】

遅れて申し訳ございませんッ!!

リアルの方でとても忙しくなってしまい、小説を書く時間を取ることが出来ませんでしたッ!

これからは今以上に忙しくなってしまうかもしれませんので一か月に一話は必死に書くことを誓いますッ!改めて、こんなに遅れてしまったこと、本当に申し訳ございませんッ!



ということで、今回からはようやくリーオ達の物語を進めていきます。

まぁ、思ったより王国編が長引いてしまったので、予定より執筆に大幅な遅れが出ています。

ですが、何とか物語を終えられるように努力していきますので、何卒応援よろしくお願いします。


深い深い森の中、一人の少年と小さな黒い妖精が身の丈よりも高い草木を掻き分けながら道なき道を進んでいた。≪妖精の故郷≫と呼ばれる、ここ≪リズヴェーン大森林≫は流れる空気や吹く風にまで、普通の人間だったら中に入り込んだだけで魔力過多になり卒倒してしまうほどの濃い魔力に満ち溢れていた。



そんな森の中を何食わぬ顔で進んでいく少年に、彼の肩に座っている小さな黒い妖精が、そのアゲハ蝶のような美しい羽根を揺らしながら問いかけた。



《……マスター、これからどうするの?》

「ん?まぁ、取り敢えずの目標は妖精女王の居城まで行くことだな。」

《…でも、今マスター丸腰でしょ?いきなり攻撃でもされたらどうするつもりなの?》

「……そんなことされない、と言いたいところだが、あの人アゲハとの一件で俺のこと相当嫌ってるからなぁ…。」

《……そうなんだよねぇ…。》



嫌な記憶を思い出し、苦虫を噛み締めたような顔をする少年リーオ=クシィは先程空間から取り出した魔剣レムレースを腰に差し、腰のホルスターに仕舞った黒揚羽を抜き、いつでも戦闘に入れるように準備しておく。


この森に入ってから暫く経つが、前に来たときの記憶とはだいぶ違っていて、若干戸惑っている。



……霧が薄い。



本来このリズヴェーン大森林には、普通の人間や魔物等が間違っても入ってこられないように女王の魔力で創り出された霧の結界『拐かしの霧』が、前が見えなくなるほど立ち込めている筈だ。

しかし、今周囲を見渡しても霧が薄く、木々の緑や地面の色がよく見えてしまっている。



…一体何があったんだ?



そんな疑問の色が濃くなってきた頃、俺の肩に乗っていたアゲハがその黒く美しい羽をはためかせながら俺の前まで飛んできた。



「…どうした、アゲハ。」

《……女王の力が薄くなってきてる…。》

「…やはりそうなのか。」



森を満たしていた霧は、女王の力が行き届いている証拠にもなる結界のようなものだ。現状、それが薄まってきているということは女王の力、魔力が弱まってきていることを表している。



《…お母さん…。》

「…取り敢えず、女王のところへ急ごう。ちゃんとした情報が欲しい。」

《…そうだね。じゃあ、ボクが案内するよ。ついてきて。》



そう言って、揚羽蝶のように美しい羽をはためかせ、アゲハは道を先導した。確かに、俺が魔力感知を使って道を探すより、アゲハに案内してもらった方が確実だ。

アゲハはここで生まれ、黒揚羽に入るまで他の妖精と同じように生活していた。ならば、ここの土地勘はアゲハの方があると言っていいだろう。


そう納得した俺はアゲハの提案に乗り、先導するアゲハに付いて行くことにした。


それにしても、やはりここはおかしい。先程から森の奥に進む道中に妖精の姿が一つもない。それどころか、魔力すらも感じることが出来なかった。



「……おかしいな、妖精の姿が一つもない…。」

《…少し、スピードを上げるよマスター。》

「お、おう…?」



グンッと加速したアゲハのスピードに付いて行く為、竜力を少し纏い、身体能力を向上させておく。これなら、直ぐに戦闘に入っても十分な動きが出来るだろう。


薄く霧が満ちている森の中をアゲハの先導に従って進んでいると、俺の魔力感知が不穏な魔力を感じ取った。

色に例えるなら黒か赤。敵意に満たされた危険性の高い魔力。俺は、この系統の魔力をよく知っている。



この魔力は……



「……魔物の魔力だ。」

《…え?》



俺の呟きにアゲハが弾かれたように振り向き、驚きを隠せない様子だった。



…まぁ、驚くのは当たり前だ。

このリズヴェーン大森林には先程言った女王の霧の結界『(かどわ)かしの(きり)』によって、魔物などの敵意に満たされた魔力を持つ者は立ち入ることが出来なくなっている筈だ。

しかし、現在この森には魔物が入り込んでいる。それどころか魔物以上に危険な魔力を持つ化け物まで入り込んでいる。

魔物より黒く淀んだ、魔族特有の異質な魔力を感じ取ることが出来た。そして、ここまで強く淀んだどす黒い魔力を持っている魔族はそうはいない。恐らく、今この森にいるのは魔族の中でも少数しかいない特異個体【上位魔族(じょういまぞく)】だ。



この状況で上位魔族と戦うとなったら、こちら側の被害は回避できないだろう。今の俺にはヴァールがいない。切り札である『契約』も使えないこの状況で魔族との戦闘…少し覚悟をしておかなければならない。



……余裕がなくなってきたな。



「…少し急ぐぞ…!」

《えっ、きゃぁっ!?》



右足で強く踏み込み、加速する寸前にアゲハを置いていかないように両手で優しく包み込み、俺の魔力感知を頼りに深い森の中を突っ切っていく。

道中、すれ違った木々の幹に鋭利な爪で引き裂かれたような跡が多く残され、その近くに元は妖精のものであっただろう美しい羽が無残にもバラバラの状態で地面に散ばっていた。



「……ッ!」



踏み込む足に力が入る。

さらなる加速により、かかる力に手の中にいるアゲハから抗議の声が聞こえてくるがそれを無視して魔力感知で見える道筋に従って森の木々を掻き分けながら入り組んだ木々の迷路を、魔力感知を張り巡らせながら進んでいくこと数十分、突然見えていた道筋が途切れ、何か膜のようなものを突き破ると同時に目の前の空間が深い森の映像から切り替わり、不思議な魔力に満たされた、少し開けた場所に出た。



「っおっと!」

《きゃうっ!?》



突然のことにバランスを崩しかけ、手を突こうとしたがアゲハがいるのを思い出し、瞬時にアゲハを上空に放り投げ、左足で何とか踏ん張って耐える。


先程出てきた場所を振り返ると、薄い結界のようなものが深い森の映像を映し出していた。



「……今のが『妖精(ようせい)たちの(いざな)い』か。」

《その通りでございます。》

「ッ!……。」



突然聞こえてきた心の中に直接響いてくるような不思議な声に、俺はゆっくりと振り返った。


透き通るような、澄み切った朝霧のような純粋な魔力。しかし力強く上から抑え付けられる様な威厳に満ちた魔力。こんな珍しい魔力を持つ者を、俺は一人しか知らない。



「……久しいな、≪妖精女王ティターニア≫。」

《えぇ、お久しぶりですね…無限の器様。》

「っ…それは分かるわなぁ…。」

《…前にお会いした時よりも竜の気が強くなって御有りでしたから…火の竜をお従えに?》

「…そこまで察しが付くとは…流石は妖精女王だな。」



女王とちょっとした小話をしている最中、先程上空に投げ飛ばしてしまったアゲハが涙を浮かべながらティターニアの胸元に飛びついた。



《____お母さんッ!!》

《あら…アゲハ、お帰りなさい。》



ティターニアもそれに応えるようにアゲハの小さな身体を優しく抱きしめた。


大人びた印象のあるアゲハだが、母親の前では年相応の反応を見せるものだな。

≪破滅の黒≫という二つ名まで付いているアゲハは生まれて直ぐに不吉な魔力を持っているとして、この森から追放されてしまった過去がある。


今のように親子同士で抱き合えるようになったのは、前回俺とヴァール、そしてアゲハがこの森を訪れた時だった。



《…うん、ただいま…お母さん…。》



母の胸に顔を埋めながら涙を流すアゲハの姿に、目頭が熱くなる。


さて、これ以上親子の感動の再会を眺めていられる様な余裕は、今の俺達にはない。



「…感動の再会をしているところすまないが、この森の現状を教えてくれ。」

《…それもそうですね。アゲハ、顔を上げてちょうだい?》

《…はい…。》



ティターニアは涙を浮かべるアゲハの顔を、取り出したハンカチで拭いてあげながら現状の説明を始めた。



《……現在、この森には低級魔物数十匹とそれを率いる上位魔族が五体、入り込んでいます。》

「あぁ、それは俺も感じていた。…だが五体か…。」

《えぇ、上位魔族が五体となりますと、女王である私の力だけではどうすることも出来ませんでした。》



と、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたティターニアが、身に着けているドレスの袖を上げ、鋭利に切り裂かれた傷を見せてくれた。



「…戦ったのか?」

《……愛しい子供たちを護るために、最善を尽くしましたが…。》



悲し気に瞳を伏せるティターニアの姿に、先程バラバラになった妖精の羽根を見つけたことを思い出し、続けようと思った言葉を飲み込んだ。



《……泣かないで、お母さん…。》

《…そうね、お母さん頑張るわ…。》

《…うん…。》



アゲハはティターニアの目に浮かんだ涙をそっと拭うと、決意の表情でティターニアから離れ、俺の肩に飛んできた。



《……行こう、ご主人。》

「…あぁ、早めに解決して、アイツらとも合流しないとな。」

《ッ!手伝ってくれるのですか!?》

「当たり前だ。前に作った借りを返さないといけないからな。」

《行ってくるね、お母さん。下の子たちを守ってあげてね。》



珍しく気合の入っているアゲハを黒銃の中に収納し、腰に差したレムレースに魔力を込め、俺は借りを返す為、アゲハはこの森を護る為。俺達は踵を返した。


そんな俺たちの背中を見つめながら、ティターニアは何かに祈るように組んだ両手を高く上げ、小さく呪文のようにこう呟いた。



《……貴方たち二人に、妖精竜の加護があらんことを…。》



ティターニアの祈祷を一身に受け、俺とアゲハはリズヴェーン大森林を護る為に深い森の中へ歩みを進めた。


先刻通ってきた結界『妖精たちの誘い』を再び通り抜け、魔力感知で発見した淀んだ魔力の溜まり場へと歩を進めていく。


目に映る黒い魔力の道筋に従って進んでいると、張り巡らせた魔力感知に反応があった。色に例えるなら黒か赤、魔物の魔力反応だ。



「……アゲハ、敵だ。行けるな?」

《当たり前だよ。敵に勘付かれない内にさっさと片をつけようよ。

「…そう焦るな。今魔力感知で周囲を探っている。」

《……近くに上位魔族がいないとは限らないものね。》

「そうだ。目の前の獲物ばかり気にしていたら周囲に紛れた強者に喰われる。戦闘する前や戦闘中は常に周りに気を張り巡らせるようにしろ。」

《…うん。努力する!》



木の陰に隠れて、襲撃の時を腰のレムレースに手を掛けながらアゲハと共に今か今かと狙う。

今見えている魔物はコボルト、ゴブリンなどの小型な魔物ばかりだ。


しかし、それではおかしいな。俺が感じていたのはこんな小物の魔力だったのだろうか?


……いや、少し考えれば分かることだったか。俺が今まで感じていたのは、此奴ら魔物を率いる上位魔族の魔力だとすれば、色が黒か赤に見えたのも納得がいく。


だとすれば、今回俺達が戦おうとしている魔族は、≪他者に自らの魔力を分け与えることが出来るほどの強大な魔力を保持している≫久方ぶりの強者となる、か…。



《……ご主人、そろそろ行こう?》

「………ん?あぁ、そうだな。もうそろそろ頃合いだろう。」



アゲハの言葉にそう返しながら、目の前をうろついていたゴブリンの頭を目掛けて『消音(サイレント)』をあらかじめ掛けておいた黒銃を撃ち放つ。



「_____ッ!!」

「グギャッ!?」



銃口から撃ち出された黒い魔力弾が、静かにゴブリンの頭を撃ち抜き、倒れ伏すゴブリンの音をスケープゴートにしながら釣られた他の魔物の頭を的確に撃ち抜いていく。



「ッ!ッ!ッ!」

「ギャガッ!?」

「ギャウッ!?」

「グギャギャッ!?」



襲撃から数十秒後、倒れ伏す魔物の残骸を蹴り飛ばしながら、服に付いた魔物の血を水で洗い落しておく。こうしておかないと、他の魔物や魔族に臭いや残った魔力で俺の存在に気付かれてしまうからだ。


ついでに同じように血が付いてしまった黒銃を水で洗いながら、心の中でこう呟く。



…まだ、黒銃だけで問題はないだろう。



しかし、後ろに控えているだろう上位魔族たちとの戦いには、コイツを使わなければならないかもしれないな。


うろついていた魔物全てを始末し、その残骸を片付け終えたところで腰の剣の柄に手を添える。一度壊してしまったこのレムレースを再び使うことになるとは考えていなかった。



「……アゲハ、そろそろ行けるか?」

《うん、付いてた魔物の魔力と臭いは完全に取れたよ。これなら大丈夫。》

「よし、行くぞ。」

《うんッ!》



……確か、あの時も上位魔族との戦いだったな。



そんなことを思い浮かべながら俺はアゲハと共に、目に映るどす黒い魔力の筋に従って森の奥へ進んでいく。しかし、その時の俺は胸の奥に根付く嫌な予感の意味を、本当の意味で理解してはいなかった。




次回は12月中か、来年になってからかも...?

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