【ウェントの決意。鬼炎のヴァリアス】
今回はウェントの戦闘メインの回です。
次回か、その次くらいにはリーオの方へ戻りますので、もう少しだけお付き合いください。
カバルがそう叫ぶより少し前、ウェントはヴァリアスと名乗った鬼と対峙していた。ウェントの身体は溢れる光に包まれており、背中に差していたシュナイドとリッヒテンを抜き放っていた。
二本の剣を携えたウェントの姿にヴァリアスが小さく苦笑しながら問いかけた。
「…?なんだそりゃ?隠し玉だってか?」
「……僕は、護る…姫を…護るッ!」
ウェントはそう叫ぶと同時に加速し、シュナイドとリッヒテンに全身から溢れる光を注ぎ込む。
そして一気にヴァリアスとの距離を詰めて、真逆の性質を持つ『剣術(剛)』の『剛斬』と『剣術(柔)』の『連撃』を重ね合わせ、そこへさらに『魔力撃』を加えた渾身の連続攻撃を叩き込もうとした瞬間、二人の横の茂みから≪何か≫がこちらに向かって飛んできた。
「ッ!?あっぶない!」
「____てやぁぁぁぁぁッ!!」
その飛んできた何かは結構な速度でヴァリアスとの距離を詰め、手に持った煌めく直剣での一撃をヴァリアスに叩き込む。
「____あぁ?」
ウェントの新しい攻撃を楽しみにしていたヴァリアスは、イラつき気味に直剣の一撃を構えていた大剣の柄頭で受け止め、そのままの勢いで邪魔者の身体を後方へ押し返す。
「ぐぉぉぉぁぁぁーーーッ!?ガハァッ!」
押し返されたそれは、真面な受け身も取れず背中から地面に落下し、苦し気に息を吐き出す。
ウェントはその姿に見覚えがあった。
「……ザイアさん?どうしてここに?」
「ぐぅっ…ウェントか…お前は邪魔だ、さっさとこの場から消え失せろ。」
未だに衝撃から立ち直れないのか、少しふらつきながら立ち上がった闖入者ザイアは煌めくミスリル製の直剣を構え直し、眼前のヴァリアスを睨み付ける。
その様子にヴァリアスも苛立ちを隠しきれない様子で構えた大剣に燃え上る青い炎を纏わせると、融け落ちた隕鉄が地面に滴り、刀身がぐつぐつと煮え滾りながらその形を変容させはじめた。
「……てめぇみてぇなカスに見せたくはなかったんだが…まぁ、一瞬で終わらせてやる…。」
元々分厚かった刀身が薄く、鈍器のように鈍っていた刃が薄く鋭利に、全体が黒に近い鈍い灰色だった大剣全体が月の光を反射するほどの輝きを持つ、いつか見た記憶のある片刃の直剣に姿を変えた。
「____感謝しろ。これがお前たちを切り裂く、空が創り出せし星の焔を形にした大太刀…≪星焔≫だ…!」
_____底冷えするような青い炎に包まれながらも、降り注ぐ月の光を反射するほどの美しい刀身を持つ大太刀・星焔を構えたヴァリアスがそれを一振りすると纏っていた青い炎が散り、その刀本来の輝きが、青い炎を反射するその輝きにウェントは見とれてしまっていた。
「………綺麗だ…。」
「な!?何をバカなことを言っているんだウェント!お前は邪魔だと言っただろう、さっさとこの場から消えう…」
「_____消えるのはてめぇだ。」
いつの間にか距離を詰めていたヴァリアスの一撃が、ザイアの身体を直撃し、身に着けていたユニークアイテム≪白銀の魔力鎧≫を横一線に切り砕いた。その衝撃でザイアの身体は大きく吹き飛び、砕け散る鎧の合間に切り裂かれた胸部からの出血が見て取れるが、余り深くまでは入っていないようだった。
「うっ、あぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
「ザイアさんッ!」
「ちょいと待ってなウェント=クリザ。もう直ぐアイツをバラしてやるからよ。」
「そんっ…させないッ!」
ヴァリアスが加速するのと同時に、ウェントも全身の筋繊維一本一本にまで力を入れ、凄まじい加速でヴァリアスが辿り着くよりも早くザイアの前まで飛び、構えた二本の剣でヴァリアスの一太刀を何とか受け止める。
「ぐぅッ!!」
「おっ…止める、か…。」
ヴァリアスの一撃は、先程より剣が薄くなっていることもあってとてつもなく重いということはなかったが、接触している二本の剣から伝わってくる感覚に、ウェントは身震いした。
その感覚は、ウェントが初めてシュナイドを手に取った時と同じ、あの≪重い≫感覚だった。
「……魔、剣…?」
「お?少し違ぇ気もするが、よく分かったじゃねぇか。お察しの通り、此奴は正真正銘の≪妖刀≫…大昔に大国を丸々一つ崩壊させた巨大な隕石っつう巨岩の中核から打ち出された大太刀さ。」
「……道理でっ…重い、わけだ…!」
何万人もの人間を消し去った巨大隕石に掛けられた人々の≪重さ≫。触れているだけで圧し潰されてしまいそうになるほどの重圧、とてもじゃないがシュナイドでは比べ物にならないほど、これは直感が無くても容易にわかる。
____こいつはヤバい。
身の危険を感じたウェントは『受け流し』で上手く星焔を受け流し、ザイアの襟を掴み上げ、そのまま距離を取る。そしてそのままザイアの前に陣取るように再び二本の剣を構える。
「……まだ、そいつを庇うつもりか?」
「…こんなのでも、僕の仲間なものでね…!」
「………くぅぅっ…!お前なぞに庇われるほど、俺は零落れちゃいないッ!!」
そんなことを恥ずかし気もなく叫んだザイアは、ウェントが救った命を投げ捨てるようにヴァリアスの方へ走っていき、突き出した右手に魔力を集中させ、それを弾丸のように撃ち出した。
「_____『放出』ッ!」
両腕に装備したユニークアイテム≪増魔の籠手≫の能力で威力が多少上昇した魔法『放出』をヴァリアスに向けて連射する。
「ハァァァァァァアアアアーーーッ!!」
「……?」
しかし、とうのヴァリアスは全くのダメージを負っていない。それどころか『放出』の当たったところを痒そうに掻いている有り様だ。
「なっ!俺の魔法が効いていないだと…!?」
「……お前、まじめに戦う気あるのか?」
「………馬鹿に…馬鹿にするなぁぁぁぁぁーーーッ!うぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
ヴァリアスの言葉に怒り心頭のザイアは、『放出』の連射速度を飛躍的に上げ、それに伴い一撃の威力も倍増させる。連射される放出が、ヴァリアスだけでなく周囲の地面まで抉り、激しい砂埃をまき散らす。しかし、そのザイアの連射も時間が経つごとに弱まり、次第に勢いも減衰していった。
「ハァ、ハァ、ハァ…どうだ?」
魔力の切れたザイアの両手に装備してあった増魔の籠手は、放出の連射が止むと同時にばらばらに砕け散った。流石に負荷を掛けすぎたようだ。
しかし、そんなザイアの全力攻撃もヴァリアスの前では蚊に刺されるよりも軽い、何かが触れた程度の感覚しかない。
その証拠に、砂煙の中から出てきたヴァリアスはつまらなさそうにこきこきと首を鳴らすと、手に持った星焔を一振りし、未だに煙っている砂埃を払う。完全に見えたその姿は一切の傷はなく、ザイアの全魔力を総動員しての攻撃は無意味であったことがその様子から確認されてしまった。
「……ハァー…お前本当につまらねぇ奴だな。本当にそこのウェント=クリザの仲間なのかぁ?」
「ッ……俺をハールゼン家の次期当主にして勇者候補であるザイア=ハールゼンと知っての愚考かぁッ!!」
「いや、知らねぇし。それにお前、なんか勘違いしてねぇか?」
そうヴァリアスはザイアの台詞を一蹴すると、砂埃を払った星焔を肩に置き、空いた手で後頭部を掻きながらゆっくりと言い聞かせるように口を開いた。
「____戦いには、血統も家柄も、貴族も平民も勇者候補も何も関係ねぇ。この戦場っつう世界には強者と弱者、その二種類しか存在しねぇんだ。そして、お前はゴミだ。この世界にいる価値がない…。」
肩に置いた星焔をゆっくりと下ろし、そこへ魔力を流し込む。すると、爆発的に燃え上がった青い爆炎が周囲の木々を一瞬で炭化させ、少し離れた場所にいるウェントにすらその凄まじい熱を感じさせた。
青い爆炎は、先程の星焔を錬成した時に使用した炎とは比べ物にならないほどの高圧縮された魔力と、触れるだけで灰になってしまうと感じさせるほどの熱を纏っていた。
「……『鬼炎』、お前を焼き尽くす、俺だけの『鬼火』だ。」
「…………俺が、弱者…?俺が…?この、俺が…!?」
再びまぁまぁの速度で飛び上がったザイアがミスリルの剣を振り上げ、そこに『剛斬』と『魔力撃』を乗せてヴァリアス目掛けて振り下ろす。
「____俺を馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
「駄目だ!ザイアさんッ!!」
「…そういう所がゴミだって言ってんだよ、バーカ……フッ!」
ウェントの制止の声を無視し、五月蠅く喚き散らしながら剣を振り下ろすザイアの身体を、閃光のような一薙ぎが通り過ぎ、青く燃える一筋を残しながら、ザイアをその振り下ろしていた剣諸共、一刀の下に切り伏せた。
鎧の砕かれた部分を狙ったヴァリアスの一薙ぎは、ザイアの身体と剣を綺麗に両断し、斬った切り口は『鬼炎』で焼かれ、所々が炭化していた為血は一切流れなかった。。
「_____ぁ…ゃ…だ……しにた、く…ない……!」
両断された上半身を必死に動かし、半分潰れかけた瞳から大粒の涙を流しながら直ぐ隣に居たウェントの足を、震える両手で弱弱しく掴み、か細く消え入りそうな声で、助けを求めた。
しかし、いくら優秀な治癒魔法の使い手でも両断された人間の身体を繋ぎ直すことなど出来ない。ましてや、傷口を焼かれた患者を治し切れるものなど、それこそ神の魔法でないと治療することなど、出来はしない。
「…ザ、イアさん……!」
______守れなかった。助ける余地はあった、でも身体が間に合わなかった。頭に答えは浮かんでいた。でも、それに身体が着いて来なかった。
…僕は、救えた命を見捨ててしまった…!
「……くッ…!」
余りの悔しさに奥歯を噛み締める。膝を地面に着け、僕の足をか細く握りしめるザイアさんの手を、優しく離し、そのまま優しく握り返す。
苦しいのだろう、痛いのだろう、掠れた声で「ごめんなさい…。」と謝りながら、止めどなく大粒の涙を流すザイアさんになけなしの魔力を注ぎ込んであげる。
何か言いたいのか、ぱくぱくと口を開け閉めしながらこちらを恨めし気にじっと見つめていたザイアだったが、ついに事切れ、ぎゅっと握られていた手の力がフッと抜けた。
「………ザイアさん…。」
最後に、せめてもの償いに開いたままの両目を、涙を拭って優しく閉じてあげる。
_____守れなかった。ごめんなさいザイアさん。僕にもっと、もっと力があれば…貴方のことを助けられたはずです。でも、僕にはそんな力はなかった。
両の拳に力が入る。ギリギリという音が聞こえてくるほど、強く握りしめられた拳は血が止まり真っ白になっていた。
…何が勇者候補だ。何がリーオさんから貰った剣を使いこなすだ…!何も、何も出来てないじゃないかっ!何も…何も…!気持ちだけが先走って、目の前にいる仲間を護れなかった…!
情けない。情けなくて自分を殴りつけてやりたい。でも、今は…
決意を心に秘め、立ち上がったウェントは目の前で不敵に笑っているヴァリアスの方を睨み付け、地面に突き刺していた二本の剣を引っこ抜き、深呼吸をしながらゆっくりと構える。
_____考えろ。考えるんだ。どうすればアイツに勝てる?焼き切れてもいい、今この瞬間使えない頭なら必要ない。考えろ!
ウェントの全身から光が溢れる。心の中の言葉が強くなればなるほど溢れる光は強く、周囲を照らした。
アイツに勝つ方法、みんなを救う方法を、考えろ、考えろ!考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!考え尽くせッ!
今の僕にできる最善を、考えて考えて考え尽くして、やり切るッ!
______その瞬間、ウェントの身体から森全体を明るく照らす様なほどの眩い光が溢れ出し、それが全身に集約し、纏わり、揺らめく光のオーラとなった。
「……何だ、さっきよりも強そうじゃねぇか。仲間を殺されてイラっときたか?」
「…そんなことより、ちゃんと構えた方がいいですよ。」
「あぁ?」
「僕も、今の状態で力を制御できるか、自信がないんで…ねッ!」
グンッと加速したウェントの身体が、消えた。
「ッ!きえ……」
≪____敵の一瞬の油断、揺らぎは最大の好機。そこに付け入る隙がある。≫
これはアリシアさんの教え。敵と戦う時の心構え。油断が最大の好機。
_____今が、その時だ。
思い切り良く敵の懐に飛び込み、光を譲渡した両手の剣に『剛斬』、『連撃』、『属性強化』、『魔力撃』を重ね合わせ、嵐のような連続攻撃を叩き込む。
「_____ハァァァァァァアアアアアアアッ!」
「ッ!ぐぅぅぅぅッ!」
金属同士がぶつかり合う甲高い音が連続的に周囲へ響き渡る。剣がぶつかり合う度、青い火の欠片と赤い火花が散る。
ウェントの光を纏った二刀による剣戟を、ヴァリアスの『鬼炎』を纏った星焔が受け止める。暫くは何とか持ち堪えていたヴァリアスだったが、徐々にウェントの剣戟に押され始める。
「ッ!そこぉッ!!」
「ぐぅッ!クソっ!」
一瞬の隙を突き、シュナイドの切り上げで星焔を弾いたウェントだったが、瞬時に対応したヴァリアスによって距離を詰める前に立て直されてしまう。
「喰らえェッ!!」
「!くっ!」
斬り返しの一撃が地面を割り、青い炎を周囲にまき散らす。振り下ろしの一撃を何とか躱したウェントだったが、少し掠ってしまったのか巻き込まれ落ちた髪の毛が青い炎でチリチリと燃えていた。
……さっきのは危なかった…判断が一瞬でも遅ければ、もろに喰らっていた…。
「…今のを躱す、か……本当にさっきとは大違いだな。まるで別人…とまではいかないが、数段上まで上がっている。やはりその≪光≫が原因か…?」
「……っ…!」
その問いかけにウェントは口を固く結び、再びゆっくりと二刀を構える。
その様子にヴァリアスは「ふむ…。」と納得したように頷いた。
「………答える気はない、か…いいだろう。そんなのは些細なことだ。」
ヴァリアスも星焔を構えなおし、先程よりも濃い青の『鬼炎』を纏わせる。
二人の間に流れる一触即発の空気、それを破ったのはウェントだった。光の軌跡を残しながら加速したウェントは、ヴァリアスの懐に飛び込み、二刀による渾身の力を込めた『剛斬』を叩き込む。
「_____フッ!」
「ぐッ!うぐぅっ!」
白い光の軌跡を残しながら近づいてくる二刀の『剛斬』を、ヴァリアスは星焔で何とか受け止めると、そのまま腕力で弾き飛ばし、体勢を崩しかけたウェントに先ほどと同じような反撃を喰らわせる。
「…デァァァァァアアアーーーッ!」
「なんっ!ぐぉぉぉぉーーっ!?」
崩しかけた体勢のまま、体重の乗せられた反撃を受け止めたウェントだったが、その一撃のあまりの重さに苦し気な声を上げる。
_____≪重い≫。やっぱり、この剣は重い。シュナイド以上の重圧、それに加えヴァリアスの体重と力が込められたこの一撃。少しでも力を抜いたら、一瞬で持って行かれる…!
「……く…ォォォォオオオアアアアーーーッ!!」
精一杯の声を上げ、身体が出せる力の限界を無理やりに引き上げる。
ミシミシと骨が軋む音がする。筋肉が悲鳴を上げている。
このままじゃ、持って行かれる…!
ダメだ、考えるな。
マイナスなことは考えるな。心に余裕を持て!考えろ!思考回路を回し続けろ。筋繊維一本一本に力を入れろ。じゃないと圧し潰されるぞ。
「なんだ?吠えて自分を奮い立たせてるのか?それくらいしないと潰されそうでヤバいってのか?もう少し楽しませろよっ!」
先程よりも剣にかかる重圧が強くなる。
筋繊維が千切れる感覚がした。骨にひびが入る感覚もあった。
でも、緩めるわけにはいかなかった。少しでも緩めた瞬間、僕の身体は真っ二つに両断されてしまうのが容易に想像できたからだ。
段々と近づいてくる青い炎がチリチリと髪の毛を焦がす。二刀を持っている手も火傷をしてしまったのか半分感覚がなく燃えているような熱さしか感じない。
でも、耐えろ!耐えて耐えて耐え続けろ!僕がここでコイツに倒されたら姫様たちの命が危ない。
頑張れ!頑張れっ!もっと、もっと力を入れて、コイツの剣を耐えるんだっ!
「くっ……ア゛ァァァァアアアアーーーーッ!!」
「ん!?光が、強く…!」
ウェントの身体から溢れる光がより強くなり、光の強さに押され、ヴァリアスの身体は徐々に後退していく。
まとわりつく光を振り払うように距離を取ったヴァリアスが、頭を鳴らしながら星焔に纏わせた鬼炎をより強くする。
「……お前も、そろそろ限界だろ?」
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……んっ…フー…!」
満身創痍のウェントに、星焔を構えたヴァリアスが問いかける。
「……今から俺は、今持てる全力をお前にぶつける。だからお前も、全力でそれを受け止めてみろっ!」
ウェントは言葉では返さないが、光を纏わせた二刀を構え、いつでも迎撃できる姿勢を整える。
その様子を肯定と受け取ったヴァリアスは、星焔に纏わせた鬼炎をより大きく、荒々しく燃え上がらせる。
……あれは、受け止めなきゃダメだ。僕がここで食い止めないと、姫様が危ない。僕が、僕があれを止めるんだッ!
それを見たウェントも、構えた両手の剣に自分の身体から溢れる光を全て纏わせ、今にも爆発しそうなほどに膨れ上がった鬼炎を迎撃しようと試みる。
「_____喰らえ、『鬼炎斬』ッ!」
極大の鬼炎で巨大な刃を形成するユニークスペル『鬼炎斬』が、周囲の空気を青く燃焼させながらウェントに迫る。
「…ッ…ハァァァァァァアアアーーーーッ!!」
一瞬、余りの強大さに怯みかけたウェントだったが、声を出して無理やり身体と心を奮い立たせ、迫る鬼炎の巨塔を眩い光に包まれた二刀で受け止める。
両者の剣がぶつかり合った瞬間、凄まじい爆炎と衝撃で地面は割れ、噴き上がった砂埃に巻き込まれた鬼炎が宙に舞った。
激しく燃え上がる鬼炎が光を纏った二刀を飲み込み、ウェントの身体を燃やし始める。つけていた籠手は燃え尽き、素手になった両手が鬼炎で黒く焦げていく。
「ぐぅぅぅぅぅっ!!」
熱い!痛い!剣を持つ手が段々と焦げていくのが分かる。でも、力を抜くわけにはいかない。
今僕が止めないと、皆がこの炎に焼かれてしまう。それだけは、絶対に防がなければならない。
「_____ア゛ァァァァァァアアアアアーーーーッ!!
叫んでもいい。泣いてもいい。だから、今は頑張れ!今この瞬間に全てを懸けろ!
僕の命なんて、≪村出の勇者候補≫の命なんて安いものだ。だから、僕の命に代えても、この一撃だけは、絶対に、絶対に防ぎ切って見せるッ!
ウェントの身体から溢れる光の量が、一気に跳ね上がる。半分まで飲み込まれかけていた両手の剣に纏っていた光がそれに呼応するように再び輝きを取り戻した。
「……まだ、上がるってのか!?」
「アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァーーーーーーッ!!!」
爆発的に膨れ上がった光の奔流が、閉ざしていた青い炎を掻き消し、光を纏い一層黄金に輝くリッヒテンによる攻撃が星焔を弾き、光に包まれても尚紅く輝き続けるシュナイドによる一撃がヴァリアスの身体を肩口から大きく切り裂いた。
「_____これが、僕の出せる、全力…だぁぁぁーーーーッ!!」
「ぐぉぉォォァァァァァーーっ!?」
光を纏ったシュナイドによる袈裟切りが、ヴァリアスの身体を大きく切り裂いた。傷口からは血が噴水のように噴き出し、ウェントと周囲の地面を紅く染める。
「おっ…とぉ……これは、余裕だなんて言ってられないなぁ…。」
膝をつき、自分の胸に刻まれた右肩から左の脇腹にまで続くほどの大きな傷を左手で擦りながら苦しそうに呟くヴァリアスの前で、両手を黒く焼かれたウェントが神経系までおかしくなってしまったのか、酷く震える手で握った二本の剣を、慎重に背中の鞘に仕舞い、同じように膝をつく。
「…は、はは…真っ黒だ…炭みたいに、堅いなぁ…少しくらいしか、開けないや…。」
半分炭化してしまった両の掌を見つめながら、ぽろぽろと涙をこぼす。無理やり動かそうとする度に小さくひびが入り、ぼろぼろと、つい先程まで手だった炭の欠片が地面に零れ落ちていく。
「……いい、戦いだった。俺も、お前も、全力でぶつかり合った、魂の籠った素晴らしい、楽しい戦いだった。」
ヴァリアスはそう独り言ちると、力の入らない右手で星焔を引き摺りながら、森の奥の方へ踵を返した。
「……残念、とても残念だが、時間の様だ。こんなに楽しい戦いは初めてだった。叶うなら、永遠に戦い続けたいと思えるほど、素晴らしい時間だった。」
そう大声で紡ぎながら、森の奥の暗闇へ消えていくヴァリアスが、最後に一つ、ウェントに向けて言い放った。
「…次に、次に会う時までにその手を治しておけ。絶対だぞ…。」
そう言い終え、森の暗闇に消えていくヴァリアスの後姿をぼーっと見つめていたウェントが、顔からそのまま地面に崩れ落ちる。
_______痛い。そう認識することすら、出来なくなってしまっている。手の感覚がない。ただただ、熱い。今でも燃えている感覚だけが、両の掌にずっと残っている。
「_____ひゅ…かっ……あっ……。」
声を出そうするが、何かで喉が詰まっているのか掠れた息しか出てこない。
あぁ、どうしようか。身体を動かそうとしても全く動く気配はなく、力も全く入らない。
千切れた筋繊維と神経が絡まり合ってびりびりと痺れるような痛みが全身に走っている。砕けた骨が食い込み、柄も言えないような激痛が地面に接している部分に居座っている。
頭もまともに回らない。酸素が足りないんだ、息が苦しい、胸が焼けそうになる、必死に酸素を取り込もうと口をパクパクとさせるが、ただただ虚しくあるはずのない水を求める砂漠の民のように、あるいは打ち上げられた魚のように何も得ることは出来ない。
段々と視界が暗くなっていく。脳に酸素が行っていない、酸欠状態だ。意識が遠のいていくのが分かる。
身体が重い。まるで重力に圧し潰されているような感覚だ。このまま眠れたら、どれだけ気持ちがいいだろう。感覚が途切れた指先から段々と冷たくなっていくのを感じる。
これで自分も死ぬのか。仕方がないな、目の前で殺されていく仲間の姿をただ見ていただけの自分に、救いなど来るはずがない。
______あぁ、神様。願うことならば、ザイアさんの魂に安らぎを…与えて…くだ…さ……。
ウェントはそこでようやく瞳を閉じた。空にはそれぞれの無事を伝える緑色の信号弾が二つ輝き、足音が一つ、ウェントのすぐ横で立ち止まった。
突然現れたフードを目深に被った不思議な空気を纏う青年は眠るウェントの頬に手を添えると、何かに頷き、そのままウェントの身体を魔法で持ち上げ、連れ立つようにして現れた扉の奥へ消えていった。
その場に一つの≪紅い真珠≫を残して…。
次回は11月中に




