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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
間章:忍び寄る魔物の影
31/54

【魔物の軍勢。宵闇の襲撃・後編・】

何とか10月中に上げることが出来ました。最近仕事が忙しくなってきたので、上げられるか不安でしたが何とかなりました。


今回はウェント中心ではなくカバルやアリシアの陣営の襲撃を書きました。自分でもこの辺は分かりにくいと思える部分でしたので、何か不備があれば教えていただきたいです。


ウェントがようやく覚悟を決めた頃、リアナ姫は飛んでくる『鬼火(おにび)』による青い火球から騎士たちを護るために魔導士部隊と協力して魔法『障壁(プロテクション)』を展開していた。しかし、その障壁も幾度となく放たれる火球による攻撃でひび割れ、今にも砕けてしまいそうだった。



「っ…このままじゃ…壊れてしまう…!」



両手を前に突き出し、障壁へ精一杯魔力を注ぎ込むが、鬼火による攻撃は止むことなく無慈悲にも障壁を打ちのめしていく。ひび割れはさらに広がっていき、砕けた障壁の欠片が光の粒子となってリアナに降り注ぐ。その隙間からなだれ込んできた火球が奮闘する騎士たちを直撃し、激しい炎と悲鳴がリアナの胸に深く突き刺さる。



「くぅっ……ウェント…!」



リアナが目を瞑る。そして、飛んできた特大の火球による攻撃で無残にも最後の障壁が砕け散り、飛んできた火球が護衛隊全体に降り注ぎ壊滅的な被害を受ける…筈だった。しかしそれは突如現れたこの場を覆いつくす程巨大な水のヴェールによって防がれ、降り注ぐはずだった数多の火球も全て、その巨大な水のヴェールによって掻き消されていった。


その光景にリアナが呆然としていると、背後から聞き覚えのある優しい声がかけられる。



「……申し訳ありません、リアナ様。少し、遅くなってしまいましたね。」

「………お、遅いわよ…シエル…!」



優しく微笑むシエルの姿に安堵したのか崩れ落ちたリアナの目から大粒の涙が零れ落ちる。

先程からずっと堪えてきた感情の波が決壊したらしい。

シエルはリアナを優しく抱きしめると、決意の籠った目で火球が飛んでくる方向を睨み付け、左手をリアナから離し、掌を暗い森の方へ向け、小さな声で詠唱を紡ぐ。



「……≪我が契約の精霊に祈る。汝、我らが打ち滅ぼさんとする者、これ清廉なる水の刃を持ってかの者を打ち貫く力を≫…『流水の連弾(アクア・バレット)』ッ!」



シエルがそう唱え終えると同時に、この場一帯を覆っていたヴェールの一部に水が収束し、巨大な一つの槍が形成される。シエルが伸ばした左手を握ると、その水槍は高圧縮された無数の小さな弾丸となり暗い森の中へと撃ち込まれていく。直後、水弾が着弾した場所から森の木々を巻き込みながら巨大な水柱が立ち上った。



「……凄い…!」

「___フゥー……姫様、これをお飲みください。」



シエルは、腰のポーチから透明な液体の入った小さな瓶を二本取り出すと、その内の一本をリアナに手渡し、自分は残ったもう一本の方をくいっと一気にあおる。

それを見ていたリアナも意を決したように瓶に入った透明な液体を一気に飲み干す。リアナは市販されているマナポーションの味を想像したのだろう、あの口に残るような独特の苦みを覚悟して飲み干した液体の味にリアナはひそめた眉を戻し、首を傾げた。



「……水?」

「えぇ、水です。最も、普通の水ではありませんが。」

「…確かに、ほぼ尽き欠けてた魔力が回復してる…これは一体?」

「……それはおいおい説明いたします。今は目の前の戦闘に集中してください、リアナ様。」

「っ!わ、分かっているわっ!」



鬼と戦闘を繰り広げている騎士たちに向き直ったリアナが、右手の人差し指に填めた≪紋章の指輪≫に左手を添えながら、魔力を乗せた≪号令≫を放った。


「…スゥー……≪我がインテグラル王国に忠誠を誓う騎士たちに命ずる!目の前にいる敵を、己が命を狙う者を、倒しなさいッ!そして、絶対に…絶対に生き残りなさいッ!!≫」


リアナの放った≪号令≫は、この場で戦う騎士たちの心を、強く揺さぶった。それと同時に騎士たちの身体から金色のオーラが溢れ出す。それは、王女リアナが先ほどの号令に乗せた≪生き残る≫ための力だった。


そこからの戦いは先程までのオーガによる一方的な蹂躙ではなく、白熱した、拮抗した激戦が繰り広げられていた。リアナの持つユニークスペル『王女(おうじょ)号令(ごうれい)』により強化された騎士たちの勢いは凄まじかった。つい先程まで圧倒的に劣勢だったはずの戦況を一気に覆したのだ。



「「「ウオォォォォォォォォォーーーッ!!」」」

「「「ガルルルァァァァァーーーッ!!」」」



____まさに、気迫と気迫のぶつかり合い。剣と剣がぶつかり合う激しい音が森中に反響する。前方の森から飛んでくる青い火球はシエルの『水の緞帳(ウォーター・ベール)』により全て打ち消され、オーガ達による火球と同じ青い炎を纏った攻撃は、騎士たちの白い光を纏った剣に受け止められる。



そんな一進一退の攻防を、リアナたちが繰り返している頃、アリシアが率いる国王護衛部隊も同じように敵襲を受けていた。



「_____フッ!ハァッ!」



暗闇から飛んでくる矢を撃ち落としながら、アリシアは周囲の警戒を解かなかった。背中にぴったりと張り付いたような、嫌な予感。そして一向に姿が見えない敵の戦法に、アリシアは不安を隠せなかった。



「…皆!警戒を解かないで…何か、嫌な予感がする…。」



周囲の騎士たちと連携を取りながら、『気配察知(けはいさっち)』と『(えん)』を最大出力で発動し続ける。一瞬の油断も命取りになるような張り詰めた空気の中、≪それ≫は動き出した。



「_____ッ!!」



キンッ



気配察知には、何の反応もなかった筈だった。しかし≪それ≫は確かに、そこに居た。

篝火に鈍く光る鋭利な刃を振りかざした≪それ≫は的確に人間の急所を狙って刃を振り下ろした。それに直感で何とか反応したアリシアは盾でその攻撃を受け止める。


篝火に照らされた≪それ≫の姿は、まさに獲物を狙う狼のそれだった。狼のような顔立ちに子供のような肉体の魔物、その検索結果に当てはまる魔物は一種類しかいなかった。



「…コボルトッ!」



そう呼ばれたコボルトの暗殺者は再び篝火の届かない暗闇へと逃げていった。

それが合図だったかのように、暗闇からの弓矢とコボルトによる奇襲の同時攻撃が始まった。

いきなりの奇襲に驚いた騎士たちは暗闇からの見えない攻撃に、精神的に追い詰められ始めていた。



「これはマズい…!王ッ!!」

「分かっておる!……くっ…!」



アリシアの声に反応した王は、握りしめた杖の持ち手に手を掛けかけるが、直ぐに止め指示を飛ばした。



「…魔導士部隊よ、ここを囲うように『障壁』を貼れッ!」

「皆!天幕の前に集合して!早くっ!」

「「「りょ、了解ッ!」」」



アリシアと王の素早い指揮で天幕の前に集結した騎士たちを囲うように魔導士部隊が障壁を貼る。これで、王と護衛部隊への被害はほぼなくなったと言っていい。


……よし、これで多少はまともに戦える!



「さぁ!かかっておいでよッ!」



ただ一人障壁には入らず、その前に立ち塞がるような形で陣取ったアリシアは盾を前に構え、剣先を天高くかざすと、水晶剣を通して周囲を照らす光が溢れ出す。



「…こっちにも有利にしていかないとね…『閃光(フラッシュ)』ッ!」



天に掲げられた剣先から、周囲を真昼のように照らす光の玉が射出され、それが放つ光によって周囲の暗闇が一瞬で晴れ、敵の姿が露わになった。


暗闇に隠れるように動いていたコボルト族と、そのさらに後ろで矢を番えていたゴブリン族の姿が閃光によって露わになった。



「ぐッ……この明るさでは奇襲もくそもないな…。」



先程アリシアに奇襲を仕掛けてきたコボルトが、いきなりの眩しさに目を抑えながら口を開いた。



「……人間の言葉が話せるってことは、君『名前持ち(ネームド)』?」


_____『名前持ち(ネームド)』、一部の魔物が得ることが出来る最大の栄光であり、その名が刻まれた魔物は通常の魔物よりも強大な力を扱うことが可能。名前を付けた者の力、魔力によって名前持ちの伸びしろと成長する能力が変わってくる。


「_____えぇ、私とそこのコボルトは共に名前持ちです。」

「っ…ゴブリン?」



暗闇から悠然と歩いてきたゴブリンが手に持った弓と矢を仕舞いながら深々と頭を下げた。



「お初にお目に掛かります。インテグラル王国騎士団団長アリシア=ガブリエールさん。」

「…私のことは…いや、私たちのことは既に調査済みってわけ?」

「えぇ、アナタとカバル=ミュオト、ウェント=クリザのことは既に調査済みです。あぁ、自己紹介がまだでしたね。」



軽い謝罪を口にするとゴブリンは居住まいを正し、もう一度腰を折り深々と頭を下げた。



「私、ゴブリン・リーダーの『クォラゾ』、そちらは…。」



そういうと、コボルトの方に視線を向けるクォラゾと名乗ったゴブリン、それに応えるようにコボルトが口を開いた。



「…コボルト・アサシン、『ティンダロス』…。」



ティンダロスと名乗ったコボルト・アサシンは、手に持った鈍く光る短剣を腰の鞘に仕舞うと、踵を返して森の方へ歩き出す。



「…どこへ行くの?」

「……ハズレだ。帰還する。」

「…ハズレ?」



アリシアの疑問に、ティンダロスは顔だけ振り向かせ、アリシアの後ろへ視線を向ける。



「…?王?」

「……俺らの目的は、王じゃねぇ…。」

「王じゃない?じゃあ、一体何が…?」

「ネタばらしはここまでにしましょう。ティンダロス、アナタも喋りすぎないように。」

「……了解。」



クォラゾは最後に、深々と礼をするとティンダロスの後へ続く様に森の方へ歩んでいき、次第に見えなくなっていった。


アリシアは深追いすることなく、構えていた盾と剣を仕舞い、ゆっくりと空を見上げ、深く溜息を吐く。


_____一体、魔物たちの目的は何だったのか。それを知る術はないが、今は危機が去ったことに安堵するしかない、かな?



「……カバル君たちは、大丈夫かな…?」



アリシアがそう呟くと、東と西の方角からほぼ同時に凄まじい爆音と砂煙が上がった。



「っ!…あっちって、確か…!」



アリシアが気付いた爆音の少し前、カバルは絶体絶命の状況に立たされていた。周囲の地面には大きなクレーターがいくつも開き、ボロボロになったカバルがジ=オを杖代わりにして辛うじて立っており、目の前にいるこの状況を作り出した張本人を睨み付けていた。


それは、身の丈以上もある巨大な槌を軽々と扱うオーク族だった。豚の顔を持ち、人間よりも恵まれた体格を持つ魔物。普通のオークは知恵が回るのが特徴だが、このオークは違った。


小細工なしの力勝負、その瞳には理性の色は感じられず、毎秒凄まじい量の蒸気が全身から溢れ出ている。その様子はまさに≪狂戦士≫だった。



「……チッ、…得意の力勝負で押し負けるなんて、随分焼きが回ったもんだなぁ、俺も…。」

「ぐっ……な、何を言っているんですか…隊長っ!」

「…待て、喚くな。傷に障るだろ。お前は休んどけ。」



カバルはフラフラと不安定に揺れながら立ち上がると、傷を負っている自分の部下の方へ回復ポーションを投げ渡し、自分もスタミナポーションを飲みながら圧し潰されそうなほどのプレッシャーを放つオークの前に立ち塞がるようにしてジ=オの柄を握りしめ、立ち上がる。



「uuuuuuu……GAaaaaaaaaaa―――――ッ!!」

「……『巨人(きょじん)一撃(いちげき)』…。」



立ち上がったカバルを敵とみなしたオークが、振り回していた槌を周囲の風を巻き込むほどの勢いで振り上げる。それを迎え撃つかのようにカバルも巨人の一撃を発動させる。


カバルの纏っていた空気が一変し、身体から白いオーラのようなものが溢れ出す。

そして、地面に突き刺したままだったジ=オを引っこ抜き、刃先を地面に着けるように腰の下に構え、『集中(しゅうちゅう)』を発動する。



「____GRaaaaaaaAAAA―――――ッ!!」

「_____ッ!ゼアァァァァァアアアアーーーーーッ!!」



凄まじい重圧感を保ちながら振り下ろされるオークの槌と全身全霊の力が込められたカバルのジ=オが衝突する。地面を裂きながら振り上げられたジ=オと空気を裂きながら振り下ろされたオークの槌が両者の間で衝突し、その衝撃は凄まじい爆音と共に地面を削り、激しい砂煙を巻き上げながら両者の間で破裂した。



「ッ!____ガハッ!」



衝撃に吹き飛ばされ、背中から大木に激突し、口から血を吐きながらカバルは尚立ち上がろうと両足に力を込める。



「っ…は、はは…足が、震えて…!」



半分言うことを聞かない足を叱咤し、ジ=オを杖代わりに再び立ち上がったその背後から、セーレイン王妃の声が聞こえてくる。



「カバルさんっ!大丈夫なのですか!?」



カバルはその声に少々驚いたが、直ぐに立ち直り頬の傷から垂れる血を拭いながら言葉を返す。



「……大丈夫ですよ。王妃も、お怪我はありませんか?」

「わ、私の方は大丈夫です…しかしカバルさんが…!」

「…大丈夫です…っと…。」



立ち上がったその身体がぐらりと揺らぐ。恐らく足の骨が折れたかひびが入りでもしたのだろう、思い出したかのように走り始めた痛みに気合で耐え、震える腕でジ=オを構える。



「…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…。」



息が乱れる。息を吸う度に胸が痛い。多分、ろっ骨が折れて肺に刺さっているんだ。口の中が血の味で満たされている。物凄く口をゆすぎたいが、今そんなことしている余裕はないし、考えている余裕もない。



「グッ…ぅぅぅぉォぉおおおおオオァァァァーーーーッ!!」



全身の震えと痛みを雄たけびを上げて誤魔化しつつ、オークの方を全力で睨み付ける。

先程の衝撃から未だに立ち直っていないオークは、右手に持った大槌を杖代わりに立ち上がり、こちらに敵意を向け続けるカバルに向かって咆哮する。



「guuuuu……Graaaaaaaaaaa―――――ッ!!」



咆哮を終えたオークの身体から黒に近い血のように濃い赤のオーラが噴き出し、全身の筋肉が隆起していく。そのオーラは大槌にまで及び、その形状を大きく変化させた。



「……おいおい…さっきのは手加減してたってのか?」



オークは身の丈以上もあった大槌の形状を斧のように変化させ、それを軽々と振り回す。その姿はまるで≪破壊者≫のようであった。



「……これは…こっちも色々覚悟しないと、マズいみたいだな…。」



カバルはそう呟くと同時に、腰のポーチから回復ポーションとスタミナポーションを取り出し、それらを一気にあおるとジ=オを地面に突き刺し、自分の全てを総動員する勢いで魔力と気力を全身に張り巡らせる。



「ぐっ…ふぅぅぅ……!」



メキメキと全身の筋肉が隆起し、骨は軋み、全身についた無数の傷からは血がスプリンクラーの如く噴き出し続ける。しかし、それに比例するようにカバルから溢れるオーラの量が跳ね上がっていく。



「____ダメですッ!カバルさん、それ以上は貴方の身体が持ちませんッ!」

「…は、はは…大丈夫ですよ…っ…このくらいっ……慣れてますから…。」



セーレインの叫びにそう答えた時、ぐらついたカバルの膝から鮮血が噴き出る。もう身体は限界をとうに超え、崩壊を始めていた。折れて肺に刺さったろっ骨がさらに深く突き刺さり、口から黒い血の塊が吐き出される。



「ガハッ!……あと…一発…!」



カバルは呪文のようにその言葉を繰り返し呟きながら、力の放出を止める様子は一切ない。

しかし、そうしている間にもカバルの身体からは鮮血が噴き出し続け、足元には立っていられるのが不思議なくらいの量の血液が水たまりの如く溜まっていた。



「っ……ぁ…っ!」



その惨状にとうとう耐えきれなくなったセーレインが天幕から身を乗り出す。そして、周囲からの制止の声を振り払い、右手の中指に填めた≪紋章の指輪≫に左手を添えながら、魔力を込めた≪歌≫を歌い出した。



「_____a――――――♪」



セーレインの≪歌声≫は、この場にいる全ての騎士たちの合間を潜り抜け、前線でたった一人孤独に戦い続けるカバルの全身を優しく包み込んだ。



「ッ!!」

「…!?こ、れは…?」

「a――――――、a―――――――♪」



セーレインの歌声に包まれたカバルの傷付いた身体が段々と回復していく。あんなにボロボロだったカバルの肉体がセーレインの歌声に包まれた途端に、無数に付けられた全身の傷が修復されていく。



「____Gyaaaaaaa――――――――ッ!!」



その光景を見ていたオークがセーレインに向かって今までで最も大きい咆哮する。まるで目的の獲物を見つけた肉食動物のように、自らを鼓舞し、精神を落ち着ける讃美歌のようだった。


これが王妃セーレインの持つユニークスペル『王妃の歌声』、範囲内にいる味方全員の疲れと傷を癒す、神々に愛された歌姫セーレインに許された天からの寵愛である。



「……治った。」



治った箇所を触り、握力の戻った手を握ったり開いたりしながら修復の具合を確認する。どうやら肺に刺さっていたあばらも修復されていたらしく、呼吸をするたびに走っていた痛みが無くなっていた。



「____a――――………よか…た…!」

「王妃様っ!?」



セーレインは、カバルの傷が治ったことを確認すると同時に、その場に倒れ込んでしまった。騎士の一人が駆け寄って確認するが、どうやら魔力切れで気絶してしまったようだ。


カバルは、身体に漲るセーレインの歌の魔力に少し苦笑しながら、後ろで気を失ったセーレインと傷付いた騎士たちに向かって、前を向いたまま礼をするように右手を上げた。



「____フッ!」



その直後、一呼吸の内に凄まじい加速でオークとの距離を一瞬で詰めたカバルのジ=オが、驚愕の表情を浮かべるオークの脇腹から肩口までをバッサリと切り裂いた。


自分の身体から噴き出す夥しいほどの血液に困惑の表情を隠せないオークは、手に持っていた大槌を地面に落とし、ずるずると後ずさっていく。



「!?…!?」

「……おい、オーク野郎。」

「!」



カバルの声に反応したオークが、咄嗟に落としていた大槌を拾い上げ、大上段に構えようとするが、肩口からバッサリと切り裂かれているためか腕が思うように上がっていない。



「…Fu―――!…」



……情けねぇなぁ…もう少し楽しませてくれる奴だと思ってたっつうのによう…


右手に握ったジ=オを両手で構え、王妃に貰った魔力と巨人の一撃で残った気力を剣に流し込んでおく。これで後一発くらいなら『ジオ=ブレイク』が使える。



「……てめぇらは、一体何が目的で俺らを襲ったんだ?」

「____Ksya――――――ッ!!」



……応える気はさらさらないわけね。まぁ、分かっていたことだ…。


そう思い、止めの一撃にジ=オを振り上げた時、俺はオークの異変に気が付いた。

今さっき付けたはずの肩口まで伸びる傷がもう塞がりかけていたのだ。



「ッ!」



殺気を感じ、その場から離脱する。直後、俺が立っていた場所が大槌の一撃によりクレーターと化した。もし、さっきに気付かずその場にとどまっていたら今頃俺の身体はトマトのようにはじけ飛んでいたことだろう。



「___あっぶねッ!」



今度は『直感』で殺気を感じ取り、空中で受け身を取りながら『集中』を使い、ジ=オを頭上で盾のように構える。その直後、凄まじい衝撃がジ=オと両足から伝わってきた。



「Graaaaaaaaa―――――ッ!!」

「ッ!!」



何とか受け止めたオークの一撃だが、ほんの1%でも気を抜いたり力を弱めたりしたら潰される。全身に魔力と気力を漲らせ、残った最後の一撃を放つために今は耐えるしかない。


……もしこれを外したら一瞬で俺の身体はミンチになる。だが、今はこれに賭けるしかないッ!



「_____フッ!」

「Graッ!?」



大槌を受け止めたジ=オを少し傾け、大槌の軌道を無理やりに逸らす。その瞬間決して潰されぬように全身の筋繊維一本一本にまで力を入れ、その場から抜け出す。そして、突然標的を失くしたオークの無防備になった脇腹に、最後の最後まで残しておいたとっておきの『ジオ=ブレイク』を解き放つ。



「_____ハァァァァァァアアアアアアアーーーーーッ!!!」



_____渾身の力が込められたカバルのジオ=ブレイクは、オークの脇腹を大きく切り裂きながら大地の奥深くまでを粉砕した。凄まじい衝撃がこの場だけでなく一帯を埋め尽くし、破裂した。


爆音と共に森の木々を超えるほど高くまで立ち上った土煙が、カバルの放ったジオ=ブレイクの威力を容易に想像させるに足るものだった。



「……最後の方、手応えがなかったな…逃げたか?」



立ち上った土煙を掻き分けながらオークの姿を探すが、見つかるのは夥しい量の血液とオークではない者の痕跡だけだった。



「……仕留めきれなかったか…。」



カバルが仕留めきれなかった悔しさを一人ぼやいていると、耳に填めた通信機からアリシアの声が聞こえてきた。



『――――――――カバル君!聞こえる!?』

「……あぁ、聞こえてるよ。」

『っ!良かった…無事だったんだね…!』

「…まぁ、あんまり無事とは言い難い気もするがな…。」



ボロボロになった自分の身体と血に染まった装備を見ながらカバルは呟いた。



『そう…でも、カバル君が無事で、良かった…。』

「……まだ、任務は終わってねぇんだ。気を抜くんじゃねぇぞ?」

『…分かってるよ。それよりウェントく――――』



アリシアがそう言いかけた瞬間、東の森から巨大な青い炎の爆発が起こり、その衝撃と爆音が森全体に響き渡った。



「……なんだ?何が起こっているんだ!?」



次回は11月中に。出来れば二話上げたいです。

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