【俺が勇者候補!?成長したカバルからの挑戦】
前回の続きです。
今回は、リーオの実力の片鱗が出てきます。一応最強クラスのキャラにはしていますが、変わる可能性があるかもしれません。その辺はご了承ください。
前回、リッカからの職業鑑定を受けたリーオは自分が勇者候補だったという鑑定結果に唖然としていた。今まで自分が憎悪に近い感情を抱いていた勇者候補。
それと自分も同じだったという事に、頭がついていっていないのだ。
「………」
「…リーオ、お前…」
「リーオさん?」
「…隊長、これは一大事ですよ…!」
「あぁ、分かってる。新しい勇者候補の誕生だ…。国王へ報告しなければ…」
「……ストップ、カバル。」
「…なんだ?」
「.........」
…ヤバい、どうしよう。俺が、勇者候補?何かの間違いだろ?オイ、ヴァール!何とか言えよッ!
“…私は『契約』の時、言ったハズですよ?貴方は新しい『勇者』だと。”
馬鹿言うなッ!俺が勇者だと!?あり得ない…そんなこと、あり得ねぇッ!!
珍しく取り乱す俺。心を壊してからというもの、感情の高ぶりは早々起こらなかったことだったが、久方ぶりの激昂、さらにここまで大きく、激しいものは初めてだ。
「……ッ!」
「リ、リーオ?大丈夫か?」
「…だ、大丈夫だ。少し…驚いただけだ…。」
…フゥ…少し、落ち着こう。だが、改めて考えると勇者候補って色々楽だよな?
勇者候補って名乗れば国王に会うことが出来るし、この国の本当の姿を見ることが出来る。
そうすれば、俺の『仕事』もしやすいってもんだ。だろ?ヴァール。
“…『契約』で力を与えた私が言うのもなんですが…アナタはもう少し力をセーブすることを覚えた方がいいと思います…”
…まぁ、確かに俺の場合『代償』がデカすぎるから簡単に連発するわけにはいかないからな。
「…カバル、俺が勇者候補だってことはどうでもいいが、出来ればでいいんだがこのことを黙りながら城まで案内してくれるか?」
「……分かった。城まで案内しよう。俺も騒ぎになるのは嫌だからな。」
「隊長!?」
「…リーオは旅人だ。それを俺達のエゴで引き留めるわけにはいかない。こいつの目的は今回の勇者候補を見ること、それだけだ。」
……苦虫を噛み潰したような顔のカバルはそう言って顔を背けた。アイツは自分の立場がある分色々大変なんだろうな。まして旅から帰ってきた友人が勇者候補だって言うんだから頭が追いつかないのも当然だ。俺だって追いついていない。
……シーン…
誰も彼もが静まり返った店内に、リッカの大きな声が響いた。
「……と・り・あ・え・ずっ!珈琲でも飲んで落ち着いてください?新しいの淹れてきました。」
喫茶店の中に重苦しい空気が充満していた時、いつの間にか居なかったリッカが珈琲で一杯になったポットを持って来てくれた。
「おっ、ありがたい。」
「…ありがとう、リッカ。」
「…ミルクと砂糖、どのくらい入れる?お兄ちゃん。」
「…タップリ目で。」
「はーい。」
…仲のいい兄妹だな。その点は、昔から変わっていない。村に住んでいた時から、兄妹仲がいいと評判だった。俺も妹のように接していた気がする…。
「…フゥ、そんでリーオ、これから城に行くのか?」
「あぁ、そのつもりだ。早いうちに旅に戻りたいからな。ズズッ…」
リッカの珈琲の御蔭で落ち着いた空気が回りに満ちた時、ずっと座っていたカバルの部下が突然立ち上がった。
「…では、隊長。私は屯所へ向かいますのでこの辺で…」
「おう、報告よろしくな。」
「分かりました。ではリーオさん、城でお待ちしています。」
「…おう。」
…少し不安は残るが、ここは信じるしかないだろう。こいつはカバルの部下だ。
一応信用はしておこう。
さて、早速王が待つ城へ向かいますか!ヴァールも、準備はいいな?
“問題はない。君の手入れが良いからね、絶好調だよ。”
脇に置いておいたヴァールを腰に差し、出立の準備を整える。リッカにお昼と珈琲代を出すと、笑顔で断られてしまった。横を見ると既にカバルが払っていたようで、得意げにこちらを見ていた。リッカに少し申し訳なく思うと同時に、カバルのイラッとするドヤ顔をぶん殴りたい気持ちになるが、心の中に仕舞って準備を整える。
「……よし、俺達も城へ向かうか。」
「…分かった。案内しよう。」
重い表情をしているカバルのことが少し気になるが、まぁ良いだろうと納得し、店を出る。
喫茶店に入ったのは昼の筈なのに、空は既に茜色に染まっていた。随分長い時間そこにいたことが窺える。
「…もう、夕暮れか…。」
「結構長居したからな。あそこのマスターにも悪いことをした。」
「…さっさと行こう。初春とは言え、やっぱ夜は冷える。」
「…そうだな。早速行くか。」
そういうと、カバルは城の方面へゆっくり歩き始めた。俺もそのペースに合わせてついていく。
途中、喧騒が溢れる王都の街を見て回ったり、カバルの新しい武器探しなどを手伝ったりして、辺りはすっかり暗くなってしまった。
「……おい、早速向かうんじゃなかったのか?」
「…ここまでは前座だ。ちゃんと向かうよ。」
少し雰囲気が変わった感じのするカバルについていく。先程とは違い、歩く速度が速くなっている。それに息遣いが若干荒い。何か緊張でもしてるのか?
そうこうしている間に、辺りはどんどん暗い森の中へ入っていく。
……あー、俺、何となく察した。場所が場所だし、森の中って言ったら俺とカバルの昔からの遊び場の代表格、そこでやっていた遊びと言ったら…
「……リーオ、こんなところに案内してすまない。」
「…いいや、大丈夫だ。で、どうした?」
「…リーオ、俺は、今のお前の強さを計りたい。今のお前に、俺の力が何処まで通用するか…剣を抜けっ!リーオッ!!」
剣を抜き、正眼に構えたカバルが叫ぶ。目を見れば、アイツがどんなふうに考えているかは大体分かる。だからこそ、俺はこの挑戦を受け止めなければならない。
それが、俺とカバルの友情の証だ。
「…分かった。」
腰の鞘に差したヴァールを引き抜く、鞘から抜き放たれた純白にも近い刀身が月の光を反射して眩く輝くそれをゆっくりと目の横に構える。
俺の得意とする剣は『技の剣』と呼ばれる特殊な剣術だ。この世界の主流な剣術と言ったら『剛の剣』か『柔の剣』の二択だ。『技の剣』は、その二つとは全く別物の剣術で、ステータスの器用がB以上、敏捷がB以上無いと使えない難しく、繊細な一撃必殺の剣術だ。
対するカバルの剣は『剛の剣』、相性的にはこちらが不利だ。カバルの筋力はA、『剛の剣』は筋力が高ければ高い程威力が上昇するという特性がある。そして俺の筋力はB+、幾ら『技の剣』が強力でも、真っ向からの打ち合いでは筋力の差がある分、あちらに分がある。
「……お前も、随分強くなったんじゃないか?身体から溢れるオーラが強者のそれだ。」
「…ハハ、お前にそう言ってもらえるのは嬉しいな。軽口はその辺にして、さっさとやるぞ。」
「……了解した。」
全身に力を籠める。俺の剣は確実に相手を殺す技が多く、暗殺には向いているが対人戦には向いていない。その為、今回は既に抜き身の状態で戦っている。
俺の得意とするスペル『居合』を使ったらケガだけでは済まされないだろうからな。
だが、俺のスペルの中には『魔力撃(龍)』という、攻撃に魔力を上乗せして威力を上昇させるというものがある。『魔力撃』は他にも使える人間はいるが、俺のは少し特殊で…
さて、説明はこのくらいにしないと、長くなってしまうな。
「……行くぞ…!」
「あぁ…来いッ!」
剣を脇構えにして、姿勢を低く、まるで地面を這う蛇のように移動するスペル『縮地』を使ってカバルの懐に入り込む。そのまま踏み込み斬の要領で左に斬り上げる。
「ッ!」
「…ッ!?速ぇッ!」
辛うじて俺の攻撃を受け止めたカバルだったが、勢いを殺し切れず、身体が大きく仰け反る。
そんなことで俺は容赦しない。続けざまに身体を回転させ、右薙ぎに斬りつける。
「セイッ!」
「クッソッ!『魔力撃』ッ!」
カバルの魔力撃と、俺の回転を加えた斬撃がぶつかり合い、散った火花が暗闇に包まれたお互いの顔を照らす。
「ッ…やはり『剛』の剣は重い…!」
「クッ…『魔力撃』を使っても同程度か…!」
暫くの間鍔迫り合いをしていたが、徐々に俺の方が押され始める。やはり筋力の差は歴然、押し負けるのは当たり前だろう。
「…マズい…っ!」
「うぉっ!?」
このままでは押し負ける、そう思った俺は、よくお世話になっているスキル『受け流しA』で、カバルの剣を刃に沿わせて受け流す。剣に力を込めていたカバルはいきなり支えとなる剣がなくなったことで大きく態勢を崩す。
倒すチャンスだったが、流石に此処で終わらせるのは勿体無く思い、少し距離を取る。
「…フゥ…。」
「おっとっと…なんだ、止め差さなかったのか?」
「…せっかくの手合わせだ。このくらいで止めてしまっては勿体無いだろう?」
「……そうだな…俺も本気で行きたいからな…!」
立ち上がったカバルが、剣を中段に構えると同時に周囲の景色が揺らめき始める。
『鑑定眼』で見ると、カバルが『集中C』というスペルを発動したことが分かった。『集中』とは、一つの行動に集中することによって自身の能力を数倍に引き上げるスペルだ。因みに、このスペルは今の時代使える人間は少なく俺も対峙するのは初めてなので若干楽しみにしている。
「……ヤバい、楽しくなってきた…!」
「………行くぞッ!!」
一歩踏み出したカバルの姿が消える。スキル『直感A』で、何とか逆袈裟切りの攻撃を避けることが出来た。目の前に瞬間移動並みの速さで飛んできたことが分かったが、使わなければ恐らく一撃いれられていただろう。
「……っと…。」
「ぐぅっ…!」
攻撃を避け、後ろに飛び、スペル『心眼(真)C+』でカバルの行動を読む。
少し目の色が変わり見え方が変わってしまうが、致し方ない。
左…右…飛んで…来るッ!
「…くっ、これを避けるか…!」
「……次…。」
『心眼(真)』でカバルの攻撃を避けながら、次の手を考える。カバルは『集中』でちょっとずつスタミナが減ってきている。このまま避けつづければ流石の耐久Aのカバルもバテてしまうだろう。
だが、それでは面白くない。そんな終わりではスッキリしないし、物足りない。
なら、一気に決着を着けるほかない方法はないだろう。
「ッ、ハァ!ハァ!ハァ!」
「…カバル、次で最後にするが、まだ大丈夫か?」
「ハァ…ハァ…分かった…っ…ハァ…ッ!」
カバルが、フラフラの身体で震える手で剣を中段に構える。
頑張るな、こいつ。俺も応えるしかないな。
剣を腰の鞘に納め、姿勢を低く、全身に力を籠める。スペル構成も俺が一番使っている組み合わせ、『一閃』『居合』『心眼(真)』のカウンターで大体の奴は殺せる。
だが、今回は殺すわけにはいかないので、極力手加減をしてだが。
カバルの方も、『魔力撃』と『集中』を最大まで高めている。夜の暗闇を照らすほどのオーラが全身から溢れている。
「……フー…ッ!行くぞォッ!!」
「…来い…!」
カバルの全力攻撃、全身から白いオーラが溢れ出すほどの『集中』と、剣に乗った魔力が見えるくらいの『魔力撃』。カバルの今までの修練の全てが込められた一撃。
「ハァァァァァッ!!!」
「……ッ!」
カバルの攻撃に合わせて剣を当てる。後の先を取る攻撃、刃同士がぶつかり合う甲高い音と共に、剣が砕ける音が静かな森の中に響き渡る。
「………。」
「……。」
剣を真っ二つに折られたカバルの身体が、ゆっくりと前かがみに倒れ落ちていく。それに気づき、急いで『縮地』を使ってカバルの元へ飛び、腕で身体を支える。
見た感じ、腕とあばらが数本って感じか?…やっぱり加減し損ねてたか。力み過ぎたな。
「ッ…少し、つよすぎたんじゃねぇの…?」
「…悪い、加減し損ねた…。」
“リーオ、私が治しますのでカバルさんを私に触れさせてください。”
「っと、了解。」
カバルの手を取り、ヴァールに触れさせる。すると、ヴァールから溢れた白い光がカバルを包み、
悪かった顔色がだんだん良くなっていく。
「……?何か痛みが引いたんだが?」
ヴァールには、触れている者の傷を治す力があり、俺も結構お世話になっている力の一つだ。
この力は病気や怪我だけでなく精神的な疾患なども治すことが出来る万能な力である。
まぁ、発動するときに消費する魔力が大きいのが難点だが…。
「ヴァールの力だ。一応神剣だからな、こいつは。」
“一応ではありませんよ?私は女神ですからね?”
おいおい、声色は柔らかいが込められてる思念が怖いぞ?神様なんだからちょっとはお淑やかにしとけって…。
「……お前、やっぱ随分と変わったな。」
「そうか?自分では分からないんだが…。」
「変わったよ。昔とは別人みたいだ。」
確かに、昔の俺を知っている人間は、村にいたころの俺と今の俺は別人だと思うかも知れないな。
自分の大事な何かがなくなってしまってから、俺はすっかり変わった。
旅先で訪れたある村では『冷酷な死神』とか『血塗られた英雄』なんて言われたこともあるくらい冷酷で残忍な人間になってしまった。
まぁ、そんなことはどうでもいいんだが。
「変わったって言うならカバル、お前も強くなったじゃないか。」
「ハハ、これでも王国騎士団第二部隊隊長だぜ?今ならお前に勝てると思ったんだがなぁ…。」
「まぁ、俺も5年間の旅の中で成長している。お前じゃあ俺には勝てないさ。」
これでも俺は7体の竜から加護を受けているんだ。また、その内の数体とは『契約』まで結んでいる。カバルには悪いが踏んできた場数が違い過ぎるのだ。
「……お前も成長してるんだな…。」
「…お前もな。」
疲れたように地面に寝転がり上を見上げるカバルに、手を差し出す。
「……改めて、久しぶりだな。親友。」
「…そうだな、俺は待ち侘びていたぞ。親友。」
俺が差し出した手を、カバルが力強く握る。そこで俺達は、改めて5年ぶりの再会を祝い合ったのだった。
次回もお楽しみにしてください。




