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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
間章:忍び寄る魔物の影
29/54

【魔物の軍勢。宵闇の襲撃・前編・】

今回は少し長くなってしまったので前後編として出させていただきます。


10月中に2話は投稿したいので急ピッチで書きたいと思います。

____澄んだ空気に満たされた早朝のインテグラル王国。その正門前にこの王国が誇る王国騎士団の精鋭たちが群をなして整列していた。その列を率いている、綺麗なブロンドの髪をなびかせた少女アリシア=ガブリエールが、後ろで傅く兵たちに号令をかけていた。



「____皆っ!今日からの約2日間は、王国騎士団の騎士たちにとって最も大変な2日間となるっ!我らが王が隣国であるフローリア王国の王族たちと会合するために今年の会場国であるフローリア王国に行くまでの護衛任務だっ!我々がこれから進んでいく≪ブルクォ街道≫、≪レーワス街道≫、≪スローネ街道≫、は近頃魔物の目撃が多くなっている、という情報が入っている。各々、陣営に分かれての行動となるが、細心の注意をして事に当たってほしい。いいねっ!?」

「「「了解っ!」」」

「……うん、いい返事だ。では、王。一言挨拶をお願いします。」

「…うむ。」



一歩一歩踏み締めるように歩み出たマティス四世は、兵たちの前で立ち止まると少し考え込んだ後その重々しい口を開いた。



「………我が王国の誉れある騎士たちよ。国王という立場からではなく、君たちへの依頼主としてお願いしたい。我々の命を護ってほしい。簡単なことではないことは承知している。しかし、今は君たち王国騎士たちの力を借りなければ、この会合は成功しないだろう。何卒よろしくお願い申し上げる。」



マティス四世に続き後ろに控えていた王妃や姫まで深々と頭を下げる。すると騎士たちからどよめきと混乱の声が聞こえてくるが、それはアリシアと一声で直ぐに静まった。



「……我が王、そのようなことを言わないでください。我らは貴方様の御命を護るために存在しているのです。貴方様の御命を護り通すことが我等王国騎士団の使命なのです。」

「……すまない。では、インテグラル王国の国王、マティス四世として命じる…我等の命を護ってほしいっ!」

「「「___御意ッ!」」」



その出来事の後、王国騎士たちは国王、王妃、姫の三陣営に別れ、フローリア王国へ続くブルクォ街道、レーワス街道、スローネ街道を進んでいく。


スローネ街道にはアリシアを筆頭とした近衛兵団で国王であるマティス四世を、レーワス街道にはカバルを筆頭とした精鋭の王国騎士たちが王妃であるセーレイン妃を、ブルクォ街道には王国の勇者候補たちが第一王女であるリアナ姫を護衛している。


元々の計画では一陣営だけでブルクォ街道を突っ切っていくというものだったが、それでは近頃魔物の目撃情報が多くなってきているため危険度が高いということで三陣営に別れ、三つの街道を通って行くというものに変更された。


その頃、ウェントはリアナ姫を護衛する陣営に振り分けられ、姫を乗せた天幕の上で自分の武器の手入れをしていた。



「……うん。これでいいか…。」



綺麗に磨き終わった鉄剣を昇り切った太陽にかざして呟いた。今回持ってきた武器は腰の左右に鉄剣を一本ずつと背中に背負ったシュナイドとリッヒテンの計四つだ。防具も新調し、前から着ていたボロボロの革鎧を強靭な魔獣の革鎧に変え、その下に目の細かい鎖帷子を着込んでいる。



「……それにしても、僕みたいな村出の勇者候補なんかがこんな大事な任務に参加してよかったのかなぁ…?」



この任務のことを告げられたのはつい3日前、カバルさんと戦闘訓練をしていた時だ。

あの時、カバルさんの回答を遮って登場したアリシアさんからこの護衛任務の説明をされたのだ。



「____…護衛、任務…?」

「そう。今日から5日後に開催される毎年恒例のフローリア王国との王族会合。その道中の護衛だよ。」

「道中の?」

「あぁ、今年は会場がフローリア王国だからな。元々の計画では我が王国の門からフローリア王国へ続く街道の一つであるブルクォ街道を護衛する予定だったが、近頃魔物の目撃が多くなってきてな…。」

「なので、今回からはブルクォ街道の他に東のスローネ街道、西のレーワス街道という2つの街道を通る計画に変更したんだ。」

「…ということは3つの部隊に分けて護衛するってことですか?」

「その通りだ。」

「そして君には、スローネ街道、リアナ姫を護衛してほしい。」

「っ!リアナ姫も行くんですか!?」

「あぁ、≪王族≫会合だからな。姫だけでなくセーレイン王妃も一緒だ。」

「……。」

「…ウェント君。この任務はとても危険度が高いものだ。魔物の目撃が多くなってきていることも考慮すると、魔物たちの襲撃があってもおかしくない。君は、それでも姫を護り切れるかい?」

「………やって見せます。僕の命にかけても、リアナ姫を護って見せます。」



この任務を終えた時、必ず答えが見つかる。そんな確信を胸に、僕はこの護衛任務に就いたんだ。


武器の手入れも終わり、眩しい太陽に照らされ、馬車の天幕の上でコトコトと揺られていると不意に眠気が襲ってくる。漏れ出てくる欠伸を噛み殺しながら天幕の上からの見張りを続けていると、下の天幕の窓からリアナ姫がひょいっと顔を出し、眠そうに目を擦るウェントに声を掛けた。



「ウェントっ!」

「ん?あぁ、姫様。どうかされたのですか?」

「暇なのよ。こっちに来て、一緒にお話でもしましょう?」

「いやでも、僕一応仕事中で…。」

「何よ、私のお願いが聞けないって言うの?」

「いやぁ…そういうわけでは…。」

「じゃあいいじゃないっ!ほら、はやくっ!」

「ちょっと!姫様っ!?おぉぉぉおっとぉ!?」



天幕の窓から腕を引っ張られ、バランスを崩しそうになりながらなんとか落ちることなく天幕の中に転がり込む。突然のことで受け身が取り切れず、所々を打ち付けてしまった。



「いたたた…危ないじゃないですかリアナ姫っ!」

「ウェントなら大丈夫でしょ?仮にも勇者候補なんだし。」

「勇者候補だからって大丈夫かどうかには関係ないような…。」

「なぁに?私に意見でもあるの?」

「……そういうわけじゃないですよ。では、何をお話ししますか、姫?」

「っ!えぇ!前にね?シエルと話していた時に聞いたのだけれど……」


____数時間後…。


「____へぇ?そんなことがあったのですか?」

「そうなの!ふふっ、面白いでしょう?」

「はい。まさか国王陛下がそんなことを…ふふっ…想像したら面白いです…。」

「でしょう!?ホント、あの時私笑いがこらえきれなくて…ふふふっ、あはははっ!」

「わ、悪いですよ…そんな風に笑っては…ふっ…ふふふっ、あはははは!」



ウェントとリアナ姫が会話を楽しんでいた頃、それぞれの護衛部隊も同じように各々の街道を進んでいた。


一番重要な任務である国王マティス四世の護衛を任されたアリシアは、マティス四世を乗せた天幕の屋根から部隊の全てを見渡していた。


彼女の敷いた布陣は前衛を騎馬隊、その後ろの中衛と護衛隊全体を円形に囲うように歩兵を、後衛には魔導士部隊とそれを守護する近衛兵、そして、最も重要なマティス四世の護衛はアリシア一人という何とも前面的な布陣だった。


しかし、アリシアがこの布陣にしたのにも理由があった。それは、全面からの攻撃に対応できるようにと、奇襲を未然に防ぐためである。


アリシアの持つスキル『気配察知(けはいさっち)』は元々の察知範囲が小さい。この為アリシアは自身の持つスペル『円陣(えんじん)』を組み合わせることで察知範囲を大幅に拡大している。その最高範囲が半径18メートル、現在アリシアが敷いている布陣の少し外側までの範囲である。



「……今のところは何も感じないと…でも気を抜くわけにはいかないな…。」



そう、一人呟くアリシアの左耳に付いている黒い耳栓のようなものからカバルの声が聞こえてくる。



『___そう気を張り詰め過ぎんな?明日にもならん内にがおっちまうぞ?』

「…そうは言っても、気を抜くわけにはいかないよ。今は任務中だし、いつ敵からの襲撃があるか分かったもんじゃないでしょ?」

『魔物共の習性的に、明るいうちから仕掛けてくるとは考えにくい。奴らの目撃情報が増えてくんのは夜だ。それまでは休んでてもいいんじゃねぇの?いざって時に疲れてちゃあ目も当てらんねぇぞ?』

「…確かに、一理あるね。なら、少し休んでもいいかな?」

『おう、そうしとけそうしとけ。こっちも天幕の上で日光浴中だ。』

「……ちゃんと仕事してよ?仮にも第二部隊の隊長なんだから…。」

『分かってらぁい。ちゃんと仕事はこなすよ。んじゃ、何かあったらまた掛け直す。』

「…はぁい。そっちも頑張ってね。」

『おう、お前もな。』



そう言い終えると同時に、魔道具『通信機(レシーバー)』の通信が切れた。これはアリシアが王国の魔導技師たちに作らせた特注品で、各部隊の隊長に一つずつ渡されている。


アリシアは、カバルとの通信を終えると同時に、胸に手を当てて一つ溜息をついた。


…何時からだろう?カバル君の声を聞く度に胸が締め付けられるようなむず痒い感覚に襲われるようになったのは?きっかけは、多分些細な事だった気がする。


……でも、今は…。



「……今は、任務に集中しないと…!」




そんな風に、アリシアが自分の心と葛藤していた頃、カバルは王妃を乗せた天幕の上で座禅を組み、全身の神経を『集中(しゅうちゅう)』させていた。毛の一本すらも研ぎ澄まし、一切の油断も許さないほどに。



「……フゥー…スゥー…フゥー…。」



深呼吸を繰り返しながら、瞑った目をゆっくりと開く。その目は、溢れるような闘気で満たされた透き通るほどに澄んだ目だった。


カバルはそのまま立ち上がると、横に置かれた鞘に納めたままの大地の魔剣ジ=オを掴むと、鞘のベルトを背中から巻き、戦闘の準備を整える。


カバルは現在、集中を保ったままの状態で任務に就いている。それは常人なら数分も立たない内に倒れてしまうほど辛いものだ。集中は使い続けると体力を急速に消費してしまう為、長時間使用することは不可能に近い。しかし、今カバルはそれをやってのけている。


それは、カバルが積み重ねてきた途方もない修練の日々が実を結んだ結果でもあった。



「……よし、これで準備は完了だ。…しかし、最近太陽が沈む時間が早くなってきたな。もう秋ってことか?」



そう呟いたカバルは直ぐに気付いた。いや、集中を使っていたから気付けたと言った方がいいかもしれない。前方から迫ってくる、まるで圧し潰されてしまいそうなほどの凄まじい圧迫感を。



「…来たってことか?ヤバい奴らが、こっちに…!」



カバルがそう呟いたとほぼ同じ時、アリシアの気配察知に夥しいほどの反応があった。吐き気を催す程の醜悪さを持ったそれは、アリシア達の直ぐ目の前に現れた。


____魔物の軍勢、魔族という上位種を完全に上回るほどの力を持った魔物の大群だった。



あれから暫くリアナ姫との会話を楽しんでいる内に、どうやら結構な時間が経ってしまったようだ。窓から望む空の色が昼の青から夕暮れの朱色へと変わってしまっていた。



「……っと、少々話過ぎてしまいましたね。もう夕暮れになります。」

「あら、もうそんな時間?確かに話過ぎてしまったわね?」

「はい。ではそろそろ、僕も仕事に戻らなくては……。」

「……ちょっ…ちょっと、待って…。」



そう言って、入ってきた天幕の窓の方へ向かっていくウェントをリアナが引き留めた。



「?なんですか?まだ話し足りないのですか?」

「………。」

「……僕にも仕事があります。…これが最後ですよ?」

「っ!そ、そうね……前からね?ウェントにちょっと話したいことがあったの…。」



いきなり居住まいを正したリアナの様子に、ウェントは少し面喰ってしまう。いつもはお転婆という言葉が一番似合っていたリアナが、こんなに顔を真っ赤に染め乙女な顔をしている。

ウェントは自分の目が信じられなかった。


そうだ、驚いている場合ではない、早く答えなくては。焦りで乾いた喉から出る掠れた声で答える。



「……なん、ですか?」

「………私…私っ!」



リアナがそこまで言い終えると同時に、突然馬車が足を止めた。

何事かと天幕の窓から顔を出して周りを見渡してみると、護衛隊の方から数人が言い争う声が聞こえてきた。



「…何かあったのか?すみません姫様、僕ちょっと行ってきます。」

「え、ウェント!?ちょっ…まぁ、いいわ。行ってらっしゃい。」

「…?はい!」



何か言いたげだった姫から送り出され、ウェントは護衛隊の先頭部へ急いだ。途中で騎士たちから情報を聞きながら進んでいくと、護衛隊の先頭で言い争うこの騒動の元凶たちが見えてきた。


豪勢な装飾の施された鎧を着こんだ青年数人が、王国騎士の鎧を着た騎士たちと何やら言い争っていた。青年の中には騎士の胸元を掴んで喚き散らすものまでいて、周囲に一触即発の雰囲気が漂っていた。



「____貴様ら…!王国騎士の分際で勇者候補である俺達に口出しか!?いつから王国騎士団は勇者候補に口出しできる程偉くなったんだ?あぁっ!?」

「我々は当然のことを言ったまでです。アナタ方勇者候補の行動や言論には少々目に余るものがございます。それでは我々の士気にも関わって…」

「それがどうした!?貴様らなどいなくても俺達だけの力で姫様を護れるだけの力はある。今江たちの力など必要ないっ!」

「………勇者候補だからこっちも堪えていたが…ふざけるのも大概にしろッ!」

「____止めてくださいッ!!」



激情に駆られた騎士の一人が拳を振りかざす。それを見たウェントは二人の間に割って入り、何とか騎士の拳を受け止める。



「っ!ウェント、様…!?」

「……ウェント…!」

「何をやってるんですか!姫様を護るという大事な任務の途中に、仲間割れですか!?」

「…悪いのはそっちの騎士共だ。王国騎士風情が俺達勇者候補に楯突くから…。」

「____お前には関係のないことだ。ウェント=クリザ。」

「……また貴方ですか、ザイア=ハールゼンさん。」



他の取り巻きよりも一層豪華な装飾の施された鎧を着た青年、ザイア=ハールゼンはウェントの顔を恨めし気に睨み付けながら、ゆっくりと視線をウェントが背中に差している二本の剣へと移し、吊り上げた口を開いた。



「…あの≪リーオさん≫から剣を貰っただけで俺達より強くなったつもりか?」

「はぁ?一体何を言って…」

「ただの≪村出≫が、調子に乗るんじゃねぇッ!」



突然抜剣したザイアが目の前のウェントに向けて斬りかかる。



「ッ!」



それを間一髪で避けたウェントは、追い打ちに放たれたザイアの一撃を腰に差した鉄剣を抜き受け止める。そして、そのままザイアの剣を弾き、自分の間合いが作れるように距離を取る。



「ぐぉっ!…生意気なぁッ!」

「……フンッ!」



再度向かってくる剣を『魔力撃(まりょくげき)』を乗せた一撃で下に向けて弾き、そのまま追い打ちの攻撃でザイアの剣を地面に叩き落す。



「ぐぁぁぁッ!?」



強烈な一撃を叩き込まれ、地面を転がるザイアを一瞥しウェントは周囲の勇者候補と騎士たちに向けて叫ぶ。



「……今はこんなことしている場合ではないでしょう!?今は姫様を護る大事な任務中ですよ?協力し合わないでどうするのですかっ!」

「…そ、それは…し、しかしっ」

「しかし何ですか?本来ならば僕達勇者候補が騎士たちを先導して戦わなくてはならない筈です!それが何ですか!?聞けば自分たちの行いに口を出されたくらいで喧嘩?ふざけるのも大概にしてくださいッ!」

「っ…お、お前に何が分かる!村出の勇者候補風情に、俺達貴族のプライドが分かってたまるかッ!」

「……プライド?そんなものが一体何の役に立つって言うんだッ!」

「ひッ!?」



取り巻きの勇者候補たちの言葉に、とうとうウェントの怒りが爆発する。



「プライドで姫が護れるのか?プライドで魔物が倒せるか?自分の行いを咎められたくらいで傷つくプライドなんか、早々に捨ててしまえッ!!」

「っ…お…お前…!」



ウェントの言葉に憤った取り巻きの勇者候補がそれぞれの武器を構え、臨戦態勢を取ろうとしたその時、護衛隊の後列の騎士たちから声が上がる。



「な、なんだあれはっ!?」

「?…っ!あ、あれは…!?」



騎士たちの声に驚き、振り返ったウェントの目に≪それ≫は映った。ウェントたちの通っているスローネ街道とは別の街道、ブルクォ街道、レーワス街道のある場所から≪危険≫を知らせる赤い信号弾がそれぞれ上がっている。



「…赤い信号弾…まさか魔物がっ!?」



その答えに至った瞬間、先ほどまで煩いほど鳴いていた鳥や虫の気配がこの辺り一帯からなくなっているのをウェントはスキル『直感(ちょっかん)』で感じ取った。


そして、気づいた時には既に遅かったことを同時にウェントは理解した。


突然、前方の暗い茂みから目を焼くような≪青い炎≫の塊がウェントたち目掛けて飛んできた。



「っ!くっ!ハァッ!」



それにいち早く反応したウェントは右手に持っていた鉄剣でその炎の塊を上空へ弾くようにして受け流すと、後ろで狼狽えている騎士たちに活を入れるように声を張り上げる。



「____何やっているッ!これは魔物からの攻撃だぞ!狼狽えている場合ではないだろうっ!」



声を上げながらも尚、飛んでくる炎の塊を上空へ受け流し続ける。受け流し損ねた炎が肩を掠り、鎧を黒く焦がすが、それに構うことなく声を張り上げる。



「ぐァッ!…僕たちの使命はリアナ姫を無事フローリア王国へお送りすることだ! 」



護衛隊の後衛まで飛んでいきそうな炎を身体で受け止め、口の端から血を吐きながら尚もウェントは騎士たちを鼓舞し続ける。



「ッ…ここで戦わなくて何が王国騎士かッ!!」



ウェントの言葉に、護衛隊の騎士全員が自らの剣に手を掛ける。



「剣を抜けッ!王国騎士全員で、姫様をお守りするんだッ!!」

「「「ウォォォォォォーーーーッ!!」」」



その言葉に剣を引き抜き、隙のないように姫の天幕の周囲に王国騎士全員が陣を組む。これならそこいらの魔物程度に破られることはないだろう。


それを見たウェントは安心した笑みを浮かべ、直ぐに敵の方へ向き直り、剣を構える。



「……どこからでも来いッ!」



必死に騎士たちを鼓舞していたウェントの様子をただただ見ていた取り巻きの勇者候補が、感化されたように姫を護る陣に加わった。



「お、俺達も護衛隊の一員だものな…姫様を護らないと…!」

「あぁ、そうだな!」


「……チッ!」



しかし、ザイアはそれを無視し単身攻撃が飛んできた前方の暗がりへ突っ込んで行ってしまった。



「!?ザイアさんッ!単身で突っ込んではダメです!ザイアさんッ!!」



それをウェントも止めるが、気に掛ける様子もない。あくまでこちらの指示は聞かないつもりらしい。



「……全く、あの人は…ッ!」



それを追いかけるように暗がりへ突っ込んで行くウェントの鼻先を敵の凶刃が掠める。直感で攻撃を避けたウェントの背後から騎士たちが戦う声が聞こえてきた。


飛んでくる攻撃の合間を読んで後ろを振り向いたウェントの目に映ったのは、騎士たちよりもずっと巨大な敵の姿だった。人間に近い筋肉流々の大きな肉体、それに描かれる禍々しい紋様、そして額や頭から伸びる特徴的な太い角。


それはまさに≪鬼≫と呼ぶべき魔物たちだった。



「あれは…オーガ!?」

「_____ご名答だ、坊主ッ!」

「なッ!ぐぉぉぉァァァァーーーッ!!」



突然聞こえてきた声に驚いたウェントが振り返ると同時に、振り下ろされた巨大な剣を寸でのところで受け止める。圧倒的な力、少しでも気を抜いたりすれば一瞬で持って行かれる、そう直感させるほどの一撃だった。



「____ぐぅぅぅぅぉぉぉぉぉおおぁぁァァァァーーーッ!!!」



余りの重みに軋む身体を大声で鼓舞し、渾身の力で何とか飛び退けられるくらいの隙間をこじ開け、そこから抜け出す。と同時に地面に振り下ろされた大剣が大地を大きく抉り取りながら叩きつけられる。



「____ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァ…ハァ…なん、とか…」

「≪何とかなった≫、なんてほざくつもりか?まぁ、今の一撃を受け止めたことは褒めてやるが所詮はその程度か…少し期待外れだな…。」

「なん…だと!?」



敵からのわざと逆なでするような言葉に、ウェントが怒りを露わにする。両足で思いっ切り地面を蹴り、直情に任せるまま両手で持った鉄剣を振り上げ、渾身の力を込めた『魔力撃』と『剛斬(ごうざん)』を眼前の敵に叩きつけ、それを敵が大剣で受け止める。



「ハァァァァァーーーーッ!!」

「ククっ…ゼァァァーーーッ!!」



両者の剣がぶつかり合い、赤い火花が散る。

散った火花に照らされた敵の顔を見て、ウェントの目が驚愕に見開かれる。


火花に照らされて見えたその敵の顔は、心からの喜びに歪められた傷だらけの鬼の顔だった。



「……クハハハハハハハハッ!いいぞっ!もっと全力で来てみろォッ!」

「ぐっ…ぉぉぉぉおおオオオアァァァァーーーッ!!」



剣を持つ手に力を込める。少しでも気を抜いたらそのまま押し潰されてしまいそうなほどの重圧、プレッシャーの中、ウェントは頭をフル回転させ続けた。


『相手の先の先を読む』


前の修練の時、アリシアさんから教えてもらった戦いの極意。常に頭の回転を止めないこと、感情に流されないように、冷静に状況を理解し判断すること。考えて考えて考え抜いた答えは、絶対に成功する。


長い鍔迫り合いが続く中、答えに至ったウェントは鍔迫り合いをした体勢のまま交えた剣の刃をそのまま肩に当てるようにして受け流す。



「なにっ!?」



そして勢いそのまま相手の懐に入り込み、『連撃』と『剛斬』を組み合わせた攻撃を叩き込む。



「____ハァァァァァァアアアアーーーーーッ!!」

「ぐッ!コイツゥッ!!」



鬼はウェントの渾身の攻撃を一、二撃喰らったところで反応し、その身に似合わぬ瞬間移動のような速度でその場から離脱し、距離を取る。



「…チッ、やるじゃねぇか、坊主。結構いいもん貰っちまった…ぐぅ…!」



流石の鬼も先程の攻撃には堪えたようで、肩で息をしながら斬りつけられた部分を指でなぞり、顔をしかめている。ウェントはその隙を突かない腰抜けではなかった。



……今しかない。今しか、付け入るスキはないッ!…今の僕が出来る最大の一撃で…一気に仕留めるッ!


「…フッ!!」


…魔力撃を込めた右足で地面を蹴り、突進の勢いと魔力撃、そして今の僕にできることを…この一撃に込めて…放つッ!



____今の自分が持てる全ての力を剣に込めた時、それは光という形を持って現れた。



「____ッ!ハァァァァァァーーッ!!」

「ッ!?ぐぉぉぉぉーーッ!?」



何とか反応した鬼が咄嗟に手に持った大剣の平でウェントの一撃を受け止める。両者の剣がぶつかり合った瞬間、凄まじい金属音と共に激しい火花が散った。


微かに微光を放つウェントの剣による突きは、受け止められて尚止まることなく鬼の巨体を徐々に後退させていく。



「ぐっ…オォォォォーーーッ!!」



しかし、鬼は大剣を地面に突き刺し、押される勢いを何とか殺し切る。そして、凄まじい突きを放ったウェントへ大剣越しに話しかける。



「…いい、突きじゃねぇか…坊主…。」

「……言っておくが、僕は坊主じゃない…!」

「…じゃあ、何て名なんだ?」

「……ウェント、ウェント=クリザだ…!」



鬼はその名を聞いて口元をニヤッと歪めると、おもむろに口を開いた。



「…俺は、ヴァリアス…このオーガ部隊を纏める、オーガ・ジェネラルだッ!!」

「ッ!ぐぉっ!?」



そこまで言い終えたヴァリアスが地面に突き刺した大剣を振り抜き、それに巻き込まれたウェントはその身体を大きく吹き飛ばされる。



「ぐっ!…フッ!」



何とか空中で受け身を取り、着地し掛けたウェントとの距離をヴァリアスはその巨体から想像も出来ないほどの速さで詰め、振り上げた大剣をウェント目掛けて思いっ切り振り下ろす。



「____剛斬ッ!!」

「ッ!?グァァァァァァーーーッ!!?」



周囲の空気すら巻き込みながら放たれるヴァリアスの剛斬に怯んだウェントは、受け流そうと構えた鉄剣ごと胸を大きく切り裂かれ、装備していた革鎧と鎖帷子の合間から紅い鮮血が噴き出し、背中から地面に思い切り叩きつけられる。



「ガハッ!っ…ハァッ!ハァッ!アァっ…カハッ!ハァ、ハァ…ぐっ…ゔぅ…。」



何とか意識を失わなかったウェントは、切り裂かれた胸の熱さと背中から叩きつけられたせいで呼吸が苦しくなるが、腰に差していたもう一本の鉄剣を引き抜き、満身創痍で立ち上がる。



「ハァ、ハァ、ハァ…ぐっ…ハァ、ハァ…。」



荒い呼吸を繰り返しながら立っているのがやっとのウェントの耳に、後ろから聞こえてくる騎士たちが必死に戦っている音と、リアナ姫の声が聞こえてきた。それと同時に背後から凄まじい爆音と共に青い炎の残骸が風に乗って飛んでくる。



「____『障壁(プロテクション)』ッ!!」

「……姫…?」

「…ほう?あの姫様、魔法まで使えるのかい。なら、生かしておくわけにはいかないな…。」



ヴァリアスのその言葉に、ボロボロになったウェントの身体から光が溢れ出す。


『姫様を護る』


その言葉と共に半分潰れかけた思考回路が凄まじい速度で回転し始める。今の自分にできる最善の選択、自分の身を犠牲にしてでも、姫様を護り切る。


____それが、僕の…勇者候補であるウェント=クリザの使命だッ!!


ウェントの瞳に、光が戻った。右手に持った鉄剣を放り捨て、何かに導かれるままに両手で背中に差してある二本の剣の柄を握りしめる。ウェントの身体に溢れる光が握った柄を伝って剣全体を満たす。そして、深呼吸をした後両手に力を入れられ、二本の剣が鞘から引き抜かれた。





次回は10月中に...


次回もお楽しみに

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