【火山を発つ。次は水の都へ】
お久しぶりです。最近はまともに上げられずすみませんでした。今後もペースは一か月に一話になってしまうかもしれません。
泣いてしまったシェランを落ち着かせた後、リーオはノコノコ出てきた黒幕、ノヴァとヴァールに取り敢えず竜拳を一発ずつぶち込んでから『話し合い』に入った。
「_____…で?なんでこんなことをしたんだ…なんて聞く気はないが、何故シェランにやらせたんだ?泣いちまっただろうが!」
『……正直、すまないと思っているが…仕方ないだろ?俺じゃお前の怒りを引き出すことは出来なかっただろうし、何よりやりたいって言ったのは嬢ちゃんの方だ。』
「……ヴァールは?何か言いたいことはあるか?」
“……彼女に頼んだのは私です。本当に申し訳ないと思っています…ごめんなさい…!”
『……すまなかった…。』
申し訳なさそうに頭を下げる二人を見て、所々竜化しかけていたリーオも、納得したようだ。握りしめていた右拳を解き、横に座っているシェランの頭を少し乱暴に撫でる。
「きゃっ!?…リーオ?」
「……ハァ…まぁ、いい。お前たちの御蔭で俺も竜化できたんだから、むしろ礼を言いたいくらいだ。だが、ちゃんとシェランにも謝罪しとけよ?泣かせたんだからな。」
“…シャランさん、本当にごめんなさい。私のせいで…傷つけてしまって…!”
「…ううん、私も、悪いから。泣かないで?ヴァールさん…!」
『………すまなかったな。一番キツイ役を押し付けちまってさ。』
「……いいんです。私も、望んだことでしたから…。」
小さく震えるヴァールを抱きしめたシェランが、リーオに視線を向ける。それを受け取ったリーオが、落ち込んだ様子のノヴァの胸を拳で押した。
『ぅおっと…何だ?』
「……お前の力、確かに受け取った。まだ、使いこなせていないが…いつか、絶対に制御しきってお前の元に帰ってくる。それまで待っててくれ。」
『……あぁ…分かった…!』
リーオの言葉に、小さく涙を流すノヴァ。師弟関係のこの二人の絆は、何よりも深いものなのだろう。弟子に負担を掛けすぎた後悔と、頼もしい言葉に思わず涙を流す師匠の姿は、形は歪なれど、何よりも美しいものだった。
それから数日、リーオは竜化の制御と炎の使い方の修行を受けていた。まずは竜化の完全なコントロール、自らの意思で竜化できるようにするためだ。
『よし、やってみろ。』
「…あぁ……怒り…もっと、大きな…怒り……ッ!」
リーオは念仏のように何かを呟きながら全身に収束させた紅い竜力を一気に放出させる。しかし、土煙が晴れた時、そこに居たのはいつものリーオだった。身体のどこも竜にはなっていない。
「……あれ?」
『…やっぱな。そうだろうと思ってたよ。』
「……どういうことだ?」
『あの時、お前が竜化できたのは奇跡に近いもんだ。恐らく、シェランの放つ濃い竜力とお前の竜力が混ざり合って出来た奇跡の産物なんだろうよ。』
「……確かに、あの時どうやって竜化したのか、全然覚えてない…。」
『ほらな?…まぁ、その辺も徹底的に鍛えてやるから覚悟しとけよ?』
「……頼む。」
ノヴァの指導は的確なものだった。感情の込め方、そのコントロール方法、炎の使い方など『火竜』を使う為の方法の全てを教わった。
常に自らを律し、感情をコントロールする。というか、『怒り』という感情を取り戻す為の修練だった。感情を失った俺がすべきこと、それは感情を『思い出す』ことだ。
竜の力は基本的に感情に由来したものが多い。例えば火竜は怒り、水竜は楽しさ、と言った感じにどれも感情が大きく関わっている。
人間の基礎となる『喜怒哀楽』を思い出すためにはもっと旅をして世界をもう一度見てこいということで世界各地を回りつつ、次の竜が待つ地へ行く為、イグニート火山を発つこととなった。
以前と比べ一回り成長した様子のリーオが、少し疲れた様子のノヴァと旅立ちのあいさつ代わりに拳を合わせる。
「……世話になった。稽古をつけてくれてありがとう。御蔭で強くなれた。」
『…こっちはもう願い下げだ。見ろ、傷が増えちまったじゃねぇか。』
そういうノヴァの身体にはリーオがつけたのであろう傷があちらこちらに見えた。かなり深いようで、時折身体を動かすたびに痛そうに顔をしかめている。
『っつぇ…。』
「その節はすまない。その代わりと言っては何だが、賢竜の薬もやっただろ?」
『確かにあれは効いた。効果覿面だ。しかし、いてぇもんはいてぇっ!』
「悪かったって!」
ちょっとした喧嘩のようになっている二人を見て、後ろで待機していたヴァールが呆れた様子で、隣で荷物の確認をしていたシェランに問いかける。
“……シェランさん。アレ、止めますか?”
「はい?……あぁ、止めましょうか。」
揉める二人を見て、何やら察した様子のシェランがゆっくりと二人に近づき…
「…すぅ___ちょっとっ!もう出発の時間なんだよ!?喧嘩してる場合じゃないでしょッ!?」
「『ッ!?』」
声に魔力をのせて二人を注意すると、込められた魔力が発動し二人の口を塞ぐ。そのまま身体が強制的に動き、両者が腰から折れ仲直りの礼のような形に固まる。
「……分かった?」
「『……はい…。』」
礼の形で固まったままの首を動かし、二人は了承の言葉を小さく呟いた。
これが、シェランが修行して手に入れた『創造魔法』の新たな領域。自分の言葉に魔力を込め、発することで、言霊自体を事象に反映させる『事象への干渉』という今までの性能から一線を画する力を手に入れた。
二人の謝罪に納得したのか、魔法で固まっていた二人の身体が動くようになった。
「いってて…相変わらず強引だなぁ…。」
「何?もう一回やってほしいって?」
「何でもないです。」
『…リーオ。』
シェランと戯れていたリーオに、居住まいを正したノヴァが真剣な声で名前を呼ぶ。
それで何となく察したリーオがぞんざいに答える。
「……何だよ?」
『……分かっているかとは思うが…今のお前の竜化は持って20分もない。だから出来るだけ使うタイミングは考えろよ?』
「………分かってるよ。俺ももう、暴走だけはしたくないんでな…。」
苦虫を噛み潰したような表情で、苦しそうに呟くリーオの脳裏に浮かぶのは悲しそうな声で泣きながら謝り続けるシェランとヴァールの姿だった。
あんなこと、もう二度としない。してはいけない。頭に浮かぶ二人の声に誓って、絶対に。
『……よく分かってるみたいならいい。これを持ってさっさと行ってこいッ!』
「うぉっ!?…おい!ノ、ヴァっ……。」
背中を思いっ切り押され、よろけそうになるのを踏みとどまったリーオが投げられたものをキャッチしようと身を翻そうとした直後、柔らかいものが頭の後ろに当たる感触がした。
「おっと!……大丈夫?」
「……ッ!悪いっ!」
それがシェランだと気づいた瞬間、弾かれたように飛び上がったリーオが距離を取る。少し残念そうな顔をしたシェラン。腰に差してあるヴァールがリーオの前に飛んでいく。
“……リーオさん、イチャコラしてないで早く行きますよ。”
「…お、おう…?」
ヴァールの若干苛ついた様子の声に、静かに恐怖したリーオは迅速に出立の準備を終え、改めてノヴァに向き直る。
「…じゃ、行ってくる。」
『あぁ、行ってこいっ!』
再び、挨拶の拳合わせをし、リーオ達はイグニート火山を後にした。手の中で炎のように燃える熱く『紅い結晶』を感じながら、これまでのことを振り返る。
ここ(イグニート火山)に滞在したのは約1か月、随分長居しちまったな。次行くところもそれくらいになりそうだ。特に制限時間があるというわけではない。しかし、これは直感なのだが何となく早くした方がいい気がする…直感だが。
「リーオ、このまま山を下りるの?」
「あぁ、そのつもりだが?」
「…本当に?多分この山、下りるだけでも2日くらいかかると思うんだけど…?」
「……マジか。仕方ない、飛んでいこう。」
「え?ちょっ!きゃぁッ!?」
そういうと、リーオは肉体を竜化させた後、空間から出した火竜の外套をシェランに渡す。そのまま外套を着たシェランを抱き抱えると大きな翼をはためかせ、大空へ舞い上がる。
流石に、寒さ対策をしないと活火山の上空は地上と違って火山灰のせいで急激に温度が下がっている。そのままの格好でいては凍死してしまう可能性が高い。幸い、俺には火竜の外套があったし、火竜になればこのままでも大丈夫だと訓練中に発見できたのが大きかった。
「ちょ、ちょっと!竜化の安易な使用は危険だって、さっきノヴァに言われたばかりでしょ!?」
「2日もかけて山下りして堪るか。竜化して飛んだ方が格段に速いし、何より疲労しないだろ?お互いにさ。」
「そっ…それは、そう…だけど……ヴァールさんも何か言ってよぉ!」
“……確かに、安易な竜化の使用はいただけませんが…シェランさんもちょっと前にやっていましたし、ねぇ?お互い様じゃないですか?”
「ゔっ!?」
「それに、それの御蔭で寒くはないんだ。いいだろ?…っと、ほら、そんなこと言っている間に…。」
「あ!見えてきたっ!」
シェランとちょっとした口喧嘩をしている間に、目的としていた場所が見えてきた。
今回の目的地はイグニート火山から北へ数千キロ、エルフの王『ミスティル3世』が中心となって納めているエルフの国『フィスィ連合国』だ。
地下に眠る清らかな水を源として作られた中央都市『央都アリア』を中心に円形のようにつながった小さな国家が寄り集まって出来た珍しい国だ。
それに、ここは何と言っても……
“……綺麗、ですね…。”
「本当にな。ここは相変わらず美しい国だ。インテグラルの人工的な美とは違う、自然の美しさがあるな。」
「う~ん…!風が懐かしいーー!」
「やっぱり違うもんか?」
「うん!だいぶね!やっぱり風の匂いっていうか、風の感触が違うんだよねぇ~。」
「ふぅん、そういうもんか。」
自然の恵みで生きているエルフともなれば、風の匂いや感覚も感じ取れるんだろうな。人間の俺にはできない芸当だ。
俺がこの国、フィスィ連合に初めて立ち寄ったのは13歳の時だ。
その時に、ここの王とちょっとした付き合いがあり、フィスィ連合から出立する時に「また来てくれ」と言われたりした。
しかし、ここに来た本当の目的はそれではない。このフィスィ連合国には俺とシェランが契約している水の竜、『水竜ウォーバイト』が住んでいる洞窟があるのだ。
そう、ここへ来た目的はただ一つ、水竜ウォーバイトの力をコントロールするための修行だ。
シェランは完全にコントロールできるのだから、シェランから教わろうと思ったのだが…
「____契約した竜のコントロールは、契約した竜から教わった方が安全だし、早いよ?別の契約者から教わっても、竜化のコントロールは感覚的なものが殆どだからフワッとしか分からないと思うし?」
なんて言われて、自分でもそうだなと思った。ちゃんと竜と向き合って、自分なりのやり方で竜化をコントロールする、みたいなのをノヴァともやっていたし、そもそも竜のコントロールなんて、言葉で説明できるほど簡単なことじゃない。ほとんどが自分の感覚だ。それを誰かに言葉で教えるのは至難の業だろう。
なら、実際にウォーバイトに会って竜化のコツを教わった方が断然いいに決まってる。
しかし、その前にとても大きな問題が控えている。それは……俺がそのウォーバイトのことを少し苦手としている、ということだ。
どうにも、俺はあの手の人種、というか竜種が苦手らしい。元気ハツラツというか、騒がしいとまではいかないが元気いっぱいな感じ…うん、苦手だ。
「……ん?あ、ヤバい。竜化切れる、持たない。」
先程からずっと竜化していたからか、限界が来たらしい。しかし、タイミングが最悪だ。何故未だ飛んでいるこのタイミングで限界が来るんだ?運が悪いな。
「え!今!?もうちょっと我慢できない?」
「無理だ。墜落する。」
“致し方ありません!『転移』を使います!全員、対ショック姿勢になってください!”
「対ショック姿勢って何!?きゃぁぁぁぁ!?」
竜化が切れ、翼が消え始めたせいでバランスを崩し、きりもみ回転しながら地面へ向かって落ちていく。この高さから落ちたら流石の俺でも死ぬ可能性がある。幾ら抗おうとしてもきりもみ回転する身体をどうすることもできない。
それでも抵抗しようと消えかけている翼を必死にはためかせる。しかし、その努力もむなしく身体はどんどん地面へ向かって墜落していく。
「…無理だ。落ちる…!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
“……『転移』…いけます!”
墜ちていく途中、展開された魔法陣を通過していく。激しい光にリーオ達が目を瞑る。数秒後、リーオが目を開けるとそこは空ではなく、どこかの森の中だった。
「……森?どこのだ?」
リーオが周囲を見渡してもシェラン達は居らず、あるのは目に優しい一面緑の世界だ。そして、よくよく目を凝らすと見覚えがある場所であることが分かった。
「…『リズヴェーン大森林』……妖精たちの母『ティターニア』が治める『妖精の故郷』とも呼ばれる世界最大の森林地帯……お前の故郷だったな、アゲハ。」
いつの間にか、リーオの肩には黒揚羽に入っている妖精アゲハがその黒く美しい羽根を伸ばしていた。
≪…うん、覚えててくれたんだ。≫
「一度来たところは早々忘れねぇよ。それに、お前の故郷なんだからな。」
≪ふぇ!?……ぁ、ありがと…。≫
驚いたように飛び上がったアゲハが、俯きながら頬を染めながら小さく呟く。何やら恥ずかしいのか両手を頬に当て、熱の籠った吐息を吐いている。
「……シェラン達とも別れちまったか…ヴァールがないのは不安だな。」
≪…その場合は、ボクがご主人の剣になるよ。≫
「お前は銃だろ?まぁ、そういってくれるのは嬉しいが。」
アゲハの可愛い発言に、優しく頭を撫でるリーオと、それに嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった様子のアゲハがどう反応しようかと固まっている。
そんなアゲハの反応を楽しみながらリーオは一人、心の中で考える。
恐らく、今回はヴァールが使った『転移』に何かしらの≪邪魔≫が入ったと考えられる。それもこの場所、リズヴェーン大森林に深い関係のある人物、例えるなら『妖精女王』…とかな?
今頃、ヴァールたちは物凄く焦っているだろうし、『通信』を使おうとしても強い『魔法妨害』がこの森全体に掛かっているせいでまともに発動しない。
この場に『領域』が使えるものがいれば『魔法妨害』を拒絶して魔法が使えるのだが…悲しいことに、俺は『領域』が使えない。だから、今この状況ですべことは…
「……アゲハ、ティターニアの居場所ってどこか知ってるか?」
≪……うん、知ってはいるけど…行くの?≫
「あぁ、この場所から出なくちゃいけないし…それに、竜の力を使いこなす為の旅にも戻らなくちゃいけないからな。頼むよ。」
≪……分かった。≫
リーオの真剣な眼差しに負けたアゲハがしょうがない、といった様子で先導してくれる。
さて、と…鬼が出るか蛇が出るか、これから面白いことになりそうだ。
次回は9月中に上げたいと思います。
次回もお楽しみに




