【完全竜化。リーオの本気】
前回から言っていた戦闘回です。タイトル通り、リーオが完全竜化します。これが一応の区切りになるので、次の次くらいには新しい章に入れる予定です。次の章はリーオがメインではなく、インテグラル王国のカバルやアリシア、ウェントが主人公たち位置になります。
これも大事な章なので頑張って書いていきたいです。
では、私の精一杯の戦闘回、お楽しみください。
____燃え盛る荒野を、俺は一人歩いていた。耳に届くのは、ものが燃えるパチパチとした音、荒野に吹く乾ききった風…そして、もがき苦しむ人間たちの声。
焼けつくような太陽の光が注ぐ乾ききった荒野に満ちる負の気配。吐き気を催す様な臭いと、響く悲鳴が世界の終わりを告げているように聞こえる。
______あぁ、またこの夢か…。
荒野を歩く俺は、そんなことを思いながら、何かに導かれるように何処とも分からない荒れきった道を進んでいく。全身に感じる腐りきった世界の風に、吐きそうになるのを堪えるように唇をかむ。思いっ切り噛んだ筈が全く痛みすら感じないことに、もう一度ここが夢の世界だということを再確認させてくれる。
_____良かった、こんな世界が現実じゃなくて。
そう独り言ちる俺の背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。その声は『_____』に酷似していた。苦し気な悲鳴の合間に、何かをこちらに叫んでいる。
『……せいだ…お前の…お前のせいで…!』
呪言のようなその言葉を聞くだけで、頭の中で黒い何かが渦巻いていくのを感じる。その衝動に任せ、手に持っていた『_____』を逆手で持ち、後ろで呪言を紡ぎ続ける愚者の喉に突き立てる。
『ガヒュッ…ガッ…ガ……』
穴の開いた喉から空気をヒューヒューと漏れ出す音を鳴らしながら、愚者は苦悶と憎悪に満ちた顔で力尽きた。
_____夢、そうだ、これは夢なんだ。
腐りきった荒野をただ歩む。そんな悪夢よりも醜悪な、言ってしまえばどこかの劇場の題目にあった『終焉』の一幕のように思えて、小さく喉で笑う。
一頻り笑い終えた後、そのままゆっくりと天を仰ぎ、全てを焼き尽くす勢いで輝いている太陽に向かい、たった一言、こう呟いた。
「____『終焉』。」
その言葉を皮切りに、周囲の世界が漂白を掛けたかのよう真っ白に染まっていく。あんなに恨めしかった太陽も、世界と同じように漂白されていく。
真っ白に染まった世界にポツンと残った俺は、止まっていた足を動かし、再びどこかへ向かって漂白された世界を歩んでいく。
逆手に持ったままの『_____』をゆっくりとした動作で振り上げ、自らの腹部へ突き刺す。感じる筈のない痛みを、唇を噛み締めながら耐え、止めどなく噴き出す紅い血液が漂白された世界を真紅に染める。
「……いま、そっちへ行くよ…『ユイ』…。」
そう、弱弱しく呟いた『彼』が膝から地面へ崩れ落ちる。剣が深々と突き刺さった腹部からは止めどなく紅い血液が溢れ、うずくまる彼の周りを真紅に染める。
感じる筈もない痛みに顔を歪めながら、掠れた声でたった一言、こう呟く。
「………ユ、イ…。」
それが、彼の最期の言葉だった。冷たくなった彼の身体が指の先端から世界にどうかするように漂白されていく。足から胴体、腕、そして晴れやかな表情のまま彼の死体は白い世界と同化した。
「______……。」
……何か、変な夢を見ていた気がする。誰かの記憶…みたいな?俺が体験したことのない記憶だった。まるで劇場を見ている観客かのような、そんな感覚だった。
目を覚ましたリーオが、その場で周囲を見渡すが誰もいない。いつの間にか違う場所に移動されていることもあり、確実に誰かがいることは明白なのだが…。
周囲を魔力感知で探り、誰かの魔力の痕跡を探る。
「……ん?シェラン…と、ヴァールか?」
なぜあの二人がここに?何かヘマしちまったのか?まさか誰かに見られてたり…?せっかく誰もいない深夜にしたってのに、見られてたんじゃあ話しにならねぇな…。
未だにふらつく身体を何とか操り、立ち上がる。目の前の世界が嫌に回転して見えてしまうほどの疲労と、感覚すらなくなった足の関節に響く鈍痛が、錆び付いた思考回路を無理やり働かせてくれる。
早なる心臓を落ち着かせるため、大きく、一つ深呼吸…何故か唇に傷が残っているが、何かあったのか?口に残る血特有の鉄臭い味に、疑問が深まるが特に考えずに魔力感知で見つけた魔力の痕跡を辿って道のない道を進んでいく。
「……いい加減、身体を休める時間を取らないと…最後にちゃんとした宿で寝たのはぁ……いつだったっけか?」
鉛のように重い身体を引き摺るようにしながら、そんなことを呟く。ここに来てからどれだけの時間が経ったのか、どのくらいここに居るのか、そんなことすら分かっていない。
「……そういや、飯食ってないなぁ…最後って襲撃前の軽食だけだぞ?あとは、ちょこっと飲んだ水くらいか?…なんにせよ、それでも身体が動くってのが一番おかしい所なんだが…。」
普通なら水も食料も摂取していない身体であったら、その場から動けないのが当たり前である。しかし、今の俺の身体は鉛のように重くはあるが、何の障害もなく動かすことが出来る。
それどころか、重いだけでいつもより身体の調子はいいと来た。
これはいよいよ、俺も焼きが回ったか?引退を考える時期かもしれん…なんてな。
頭の中でそんなことを考えながら歩いていると、何やら話し声のようなものが、この先の岩場から聞こえてきた。声の主は、ヴァールとノヴァの様だ。
「……?二人の声が…?一体、何を喋ってるんだ?」
気配を消し、出来るだけ離れ、何とか二人の会話が聞こえるくらいの岩陰に隠れ、聞き耳を立てる。何も知らない二人は、そのまま会話を続ける。
『____……やはり、こちらも策を練るべきだろう。暴走してからでは遅い。』
“…そうかも、知れませんね…おそらくそれが最善でしょう…ですが…。”
『分かっている。そうならないようにするのが、俺達の仕事だ。後は、アイツに任せるかない。』
……話が見えないが、おそらく俺のことについて話しているのだろう。それに、アイツとは誰のことだ?この場に居ない人間となると、シェランか…そうでなければ他の誰かということになる。
……今の俺が、爆発寸前の爆弾だっていう自覚はあるが…あぁもはっきり言われてしまうと、少しクルものがあるな…。
岩に隠れて、腕を組んでいる俺の顔すれすれのところの岩に、風を切って飛んできた魔力の矢が突き刺さる。
「ッ!?」
地面を蹴って飛んでくる次の矢を避け、少し開けた場所に移動する。それを読んでいたかのように飛んできた矢を素手で叩き落そうとするが、寸でのところで手が制止し、腹部に深々と突き刺さる。
「ガッ!」
刺さった矢を抜こうと伸ばした右手が再び制止する。まるで石になってしまったかのように動かなくなってしまった手に飛んできた矢が突き刺さり、後ろの岩に刺さった手ごと突き刺さり、固定され動かせなくなる。
「…っぇ!」
弾かれたように動き出した左手が右手を岩に固定する矢を引き抜こうとするが、再び制止する。原因の分からないその現象に、リーオが苦し気な声を漏らす。そして先ほどと同じように制止した左手を飛んできた矢が貫き、岩と手を固定される。
「ぐぅ!クソッ!」
両手の自由を奪われたリーオの身体に飛んできた矢が次々と突き刺さり、全身に無数の矢が、まるで大量の白い花が咲き乱れているようだった。
「ぐぁッ!?ガァァァァァ!!」
急所を外すようにして突き刺さっている矢が、リーオの返り血で赤く染まる。関節を貫いた矢が少しの振動で悲鳴を上げたくなるくらいの激しい痛みを与えてくる。
「…クッソォッ!」
動かそうとしても動かせない状態に、リーオが怒りを滲ませた声で吠える。無理やり動かそうとすると、先程のような鋭い痛みが走りまともに動かせなくなってしまう。
苛立たし気に口に溢れた血を吐き出し、矢が飛んできたほうをにらむ。
これだけ正確に急所を外す技術、光の届かない場所でも正確に相手を撃ち抜ける目、そして俺の身体をその場に固定させられる魔法を使えるような相手を、俺は一人しか知らない。
「……シェランッ!」
口の端から垂れる血を、舌で舐めとりながらその名前を呼ぶ。すると、遠くの岩場から弓を構えたシェランが悠然と歩み出てきた。
「……ごめんね、リーオ。私も、こんなことはしたくないんだ…!」
「…………。」
「…でも、しょうがないんだよ…今こうしている間にも、自分の身体が何かに侵されているのが分かってるでしょう?……だからせめて、苦しまないように終わらせてあげるよ…!」
そう苦しそうに告げるシェランが、構えた弓の弦をゆっくりと引き魔力で矢を創り出す。
『即死』『加速』『爆発』『連鎖』など、本気で殺しに来ている魔法を矢に込める。
真っ黒に染まった魔力の矢を引き絞り、照準をゆっくりと俺の額に合わせる。
「……ごめんね…さよなら、リーオ…!」
「____…ッ!!」
苦しげな声のまま、シェランが引き絞った矢を放そうとした瞬間、全身に竜力を漲らせたリーオが身体を拘束していた魔力の矢を全て放出した竜力で砕き、飛んできた渾身の一矢を不完全に竜化させた右手で受け止める。
「なっ!?」
「ハァァァァッ!」
弾いた矢を握り砕き、目の前で驚愕のあまり立ち尽くしているシェランに向けて、掌で収束させた光の竜力をシェランの眼前で爆発させる。
凄まじい閃光が二人の間だけでなく、周囲までも真っ白に染め上げる。
「くぁっ…!?」
「セリャッ!」
閃光に目を焼かれ、一時的に盲目になったシェランに追撃をしようとさらに距離を詰めたリーオが、何かに気付き、距離を取る。
「…魔法陣か…?」
シェランの周りを直感と鑑定眼を併用し注視してみると、シェランがいる場所を中心として『感知』『固定』の魔法陣が重ねるようにして展開されていた。
何も気づかず突っ込んでいたら、今頃シェランの目の前で動けぬマネキンになっている所だった。竜の感知能力に感謝だな。全身に無数に開いた矢の穴を治癒能力で塞ぎながら思考を巡らせる。
「…(シェランが敵になっているとしたら、ヴァール、ノヴァも同じとみていいだろう。あそこまで用意周到に準備されていたら近づけるものも近づけない。それに、暴走の危険がある竜を使い続けるのもやめた方がいい。今ここで暴走何てことになったら目の当てられなくなる。ここは落ち着いて状況を観察したほうが得策だ。取り敢えず現状を理解しよう。)…よし。」
一瞬のうちにそこまでの思考を展開させ、ゆっくりと息を吐く。
何とか視界を取り戻したシェランが、落ち着いた様子のリーオを見て何やら思考し、弓を空間の中へしまう。
そして、全身に目に映るほどの魔力を漲らせ、水竜ウォーバイトの力を最初から全開で開放する。
「……行くよ、リーオッ!」
「…来いッ!」
完全竜化したシェランの一撃と、不完全に竜化したリーオの竜拳がぶつかり合う。青い竜力と赤い竜力がぶつかり合った勢いで、周囲にあった石や岩が砕け散り、発生した圧力が地面を大きく抉る。円形に陥没した地面の中心で、青い竜と赤い半竜が互いの武を競う。
「竜拳ッ!」
「くッ!」
リーオの竜拳が、竜力を込めただけのシェランの拳を傷つける。流石にスキルとただの攻撃では威力に決定的な差が生まれてしまう。
そう考えたシェランは、リーオと距離を取り、自分が今出せる全力をリーオにぶつける。
「……『吹き飛べ』ッ!」
シェランが発した言葉が、そのまま魔法となり、距離を詰めようとしていたリーオの身体を吹き飛ばす。状況が理解できず、一瞬固まったリーオに追い打ちの如く、シェランの言霊が突き刺さる。
「『燃えろ』!『凍れ』!『痺れろ』!『固まれ』!『潰れろ』ッ!!」
「ぐぅっ!ガッ!ガァァッ!ぐぁッ!ガァァァァァァッ!!!」
吹き飛ばされるリーオの身体が燃え、凍り、痺れ、固定され、大きな何かに圧し潰され地面に叩きつけられる。次々放たれる言霊がリーオの身体を打ちのめしていく。
これが、シェランが持っている『魔法創造』と『創造魔法』の真の力。自らの言霊を魔法に昇華させるユニークスキル。魔力が持つ限りならどんなことでも出来る。それこそ、世界を滅ぼすことだって出来てしまう最強の魔法だ。
「ハァ!ハァ!ハァ!…フゥー…。」
次々飛んでくる魔法を竜力で弾きながら、何とか息を整える。
…シェランの奴、本気だな。本気で俺を殺しに来てる。何故だ?何が原因なんだ?分からねぇ……そんなことも理解できない自分が情けない…情けなくて仕方がないッ!
ずっと一緒にいたくせに、シェランのことを何も理解できていなかった自分に、心の底から『何か』が湧き上がってくる。それは、今まで感じたことのないような激しい感情。
まるで、津波のような激しいそれに流されてしまいそうになってしまうほどの、強い感情。
ノヴァと戦っていた時に感じたドス黒いものじゃなく。どっちかっていうと…『紅い』?ちょっと待てよ?俺はこれを知っている……そうだ、これが『怒り』だッ!
激しい感情の奔流、人間に無くてはならない四つの感情の内の一つ。人間の原初に刻まれた最も強い感情、それが『怒り』だ。燃え上がる炎の如き激しさを持っているそれに、流されないようにするのがやっとだ。
だが、それでいい。それこそが人間の本来の姿なんだっ!
自分の中でその答えに至った瞬間、頭の奥でずっと消えずに残っていた黒い何かが晴れていくのを感じた。それと同時に、身体を覆っていたあの重い感覚と、震えが消えていく。
嵐のように降り注ぐシェランの魔法を、立ち上がったリーオの放った『紅い』竜力が弾き飛ばす。その勢いは止まることなくだいぶ距離が離れているシェランにまで届いた。
「な、なに!?熱ッ…!?」
まるで炎のように熱い竜力が、リーオから放たれる。今までリーオの放っていた竜力は『白』が大半でそのどれもが『無属性』であった。その為、いくらリーオの竜力に触れてもここまでの熱さは感じられなかった。しかし、今のリーオが放つ竜力は明らかな『火属性』であった。
「まさかリーオ…成れたの!?」
土煙が舞う中、映る影が既に人の形ではなかった。
「……熱いな。」
自分の身体から溢れる熱い竜力に、リーオが素直な感想を述べる。両の拳をゆっくりと握ったり開いたりする。今までとは全く別物になった自分の肉体を確認するように、ゆっくりと。
「……熱い…これが、これが『竜』になるってことかッ!」
完全に竜となった自分の肉体に、興奮を隠しきれない様子のリーオが声を上げる。
肉体の大半は真っ赤な鱗に包まれ、背中には一対の大きな翼、長い尻尾の先には紅い炎が主張するように燃え盛っている。頭には鋭く伸びた二本の角が生え、今まで黒一色だった髪には紅い毛が一房混じり、鋭い牙が生えそろった口が、愉快そうに吊り上げられている。
「完全竜化、なかなか良いもんじゃないか!」
リーオが、全身に力を込めて凄まじいほどの竜力を身体に漲らせる。胸に刻まれた黒い紋様の中心が一際紅く光ったと思うと、元は円の中に黒い丸のようなものが7つ刻まれていたうちの一つが鱗と同じ濃い紅に染まっていた。
「……ちょっと、手加減できないと思うが、勘弁してくれよ?」
「ッ!」
ゆっくりと、確認するように身体を動かしていたリーオの姿がシェランの目の前でフッと消える。次の瞬間、『感知』を使っていたシェランの感知を掻い潜ったリーオが背後でゆっくりと拳を振りかぶる。そのままの勢いで拳を振り抜く前に何とか気づいたシェランが弾かれたようにリーオから距離を取る。直後、的がなくなった拳が地面に突き刺さり、岩盤よりも硬いイグニート火山の地面をまるで豆腐を砕くかのように簡単に粉砕する。
「うぉッ!?」
「ひぇっ!?」
自分の拳がここまでの威力とは思わなかったのか、リーオが素っ頓狂な声を上げる。遠くではシェランが、その様子に悲鳴に近い声を上げる。
「っとぉ…これが竜の力なのか…?気を付けて使わないと、危険すぎるな…。」
「…あ、あの地面を、豆腐みたいに…?」
未だに制御しきれないじゃじゃ馬もといじゃじゃ竜のような力に、リーオが楽し気に口元を吊り上げる。自分の中に秘められた強大すぎる力に恐怖半分期待半分といった表情を浮かべる。
「……シェラン、俺には何故お前がこんなことをしたのか、分からないわけじゃない。
だが、今は俺の修練に付き合ってもらうぞ?」
「……分かった。でも、殺さないでね?」
「あぁ、善処はする。……ッ!」
ブンッと空間にブレるようにして再びリーオの姿が消え、背後に回り込もうとしたその瞬間、シェランの展開していたユニークスキル『領域』に入り込む。
この『領域』がシェランの本来の力。相手を一切寄せ付けさせない範囲の広さ。感知範囲半径1kmという驚異的なまでの広さこそが、シェランが『絶界の令嬢』と呼ばれる由縁なのだろう。
そのシェランが周囲に展開した『領域』を掻い潜り、背後に回り込むことを読んでいたシェランが既に背中で展開していた魔法『閃光』を発動させ、リーオの視界を奪う。
「くっ!?」
「…『水の息吹』ッ!」
「ぐぉあッ!!」
激しい閃光に目を焼かれ、視界を奪われたリーオの背後に回り込んだシェランの放った複合魔法が背中に命中し、その身体を前方へ吹き飛ばす。
「…ッと!」
身体を回転させ、何とか勢いを殺してシェランと距離を取りながら、空間の中を漁る。流石に竜化しただけではシェランの魔法と自分の拳ではもはや戦うどころの話ではない。
本気を出したシェランなら、今の俺を殺すことなんて容易だろう。シェランの『創造魔法』と俺の『竜拳』では、一撃の威力に決定的な差が生まれてしまう。それを覆すには…
「……これしかないんだが…!」
最近、まともに空間の中を整理していなかったせいか、目的である武器が見つからない。手に触れるのはいつも使っている日用品だけ、奥の方に行ってしまったらしい武器の類は一切見つからないでいやがる。
どうすればいい?
そんな風に悩んでいる間にも、飛んでくるシェランの魔法がその威力と勢いを増していく。
飛んでくる魔法を『心眼(真)』と『直感』を併用して何とか交わしていくが、視界を埋め尽くすほどの数の魔法を全て避けることは出来ず、数発は身体を掠めていく。
「クソッ!」
避けきれなかった魔法が身体を掠める度、身悶えするような激痛が全身を駆け巡る。恐らくあの魔法一発一発に『痛覚倍増』が掛けられているのだろう。感じる痛みが尋常ではない。
普通ならここでヴァールを呼んで戦うところだが、この状況を創り出した張本人たちがノヴァとヴァールの二人だと、俺は確信している。
こんなことを、シェラン一人が考えて実行まで移したとは考えられない。大本の計画はヴァールが立てたものだ。アイツの考えることは大体わかっている。
だからこそ、こういう時は自分だけの、俺だけの力で突破しなければ…先へは進めないっ!
「____…ッ!!」
俺の決意と同時に、伸ばした指の先に触りなれた感触があった。それに手を伸ばして掴み取り、空間の中から引っ張り出す。空間から出てきたのは、今まで見たこともないような、独特な形をした『刀』だった。
黒い刃に細やかな白い装飾、柄頭には竜のような紋様が刻まれており、剣先は斬馬刀のように平面で、斜めになったその中心には白い線が一本、鍔にまで伸びるようにして入っていた。
「……?俺、こんなの持ってたっけか?」
初めてみる形、そして色合い。こんな、まず『刀』という武器種自体俺は一本も持っていない。全く見覚えのない一振りに疑問を抱いていると、動かした腰の部分に違和感を覚えた。
視線を向けてみると、こちらも見たことのないような『鞘』が腰にいつの間にか差してあった。
「…?……!?」
黒を基調とした、重さの感覚的に金属で作ってあるそれは、今手にしている刀と同じような形状をしており、鞘の先は不自然に平面で切ったように斜めになっていた。
立て続けに不自然なことが重なり、頭の理解が追い付かなくなる。
混乱し出す頭を何とかコントロールしながら状況を把握しようとするが、シェランからの攻撃を避けながらなど到底不可能だ。
飛んでくる魔法を、翼や尻尾を使って上手く躱しながら、頭をフル稼働させるが全く理解が出来ない。
…無理だ。考えることすら難しい。なら、直感でやってみるか?
「……ヴァールと同じ使い方でいいはずだ。いつも通り、スペルを使うようにして……ッ!!」
腰の鞘を手で掴み、刀の峰を、掴んだ親指と人差し指の間に擦るようにしながら刀を鞘の中にしまう。刀をしまったままの鞘を腰から外し、そのまま腰の後ろに持って行き、柄に手を添える。姿勢を低く、いつでも縮地で飛び出せるように足に力を込める。
「その構えは…!?」
「………ふぅ…。」
初めて見せる構えにシェランが驚いているが、そんなことを気にしている暇はない。
目を瞑り、周りから自分を遮断する。自分の感知範囲を自分の半径2mの円形に収束させる。
そして、竜となった今なら出来る筈だ。今の俺が使えるスペルの組み合わせ、虚をつく必中の一撃。『縮地』、『魔力撃(火龍)』、『居合』…そして、此奴だッ!
「_____ッ!」
「…!」
シェランの眼前で先ほどまで確かに剣を構えていたリーオの姿が消える。そして気づいた時にはもう既に、自分の懐まで踏み込まれている。しかし、シェランの記憶の中にはここまで近づいた時に放てるスペルをリーオは持っていない筈だった。
しかし、腰元から抜き放たれた凶刃は明らかな殺気を混ぜ込んだ紅の炎を放ちながら綺麗な弧を描いて飛んでくる。
危険を感じたシェランは、飛んでくる刃に合わせ、腕に纏わせた水の竜力を高速で移動させながら迎え撃とうとする。しかし、その刃はシェランの腕と当たる寸前で、目に見えるほどに纏っていた筈の強い殺気を含んだ炎が一瞬で消えた。
「っ!?」
「……!」
首を狙って放たれた刃はその軌道を大きく逸らせながら、シェランの顔を刃の腹で撫でるように空を切る。そして、シェランが気付いた時には既に、黒く光るリーオの鞘が腹部に当たる直前で止められ、生じた凄まじい風圧が二人が立っている地面を大きく抉り取った。
凄まじい、目に見えるほどの殺気を乗せた刀を囮にした、本命の鞘による高威力の打撃。受ける筈だったそれを寸止めされたシェランが竜化を解き、降参の意を告げるように両手を上げた。
「……私の負け、ね…。」
「………ふぅ…いい訓練になった。ありがとう。」
初めての竜化を解き、握っていた刀を鞘に仕舞うと同時に、その刀はまるで空気に消えるように黒い小さな粒子となって消えてしまった。
見たことのないような形状をした不思議な刀。そんなもの見たことも聞いたこともなかった筈のそれには、確かに握りなれた感覚があった。何十年、何百年も振り続けた愛刀を握ったかのような安定感。それが未だに残る右手を見つめながら、一言呟く。
「……何だったんだ?」
右手を握ったり開いたりを繰り返すリーオに、シェランが近づいてくる。
「…さっきの技は?」
「技の剣、第四の技…『双憐』だ。相手の注意を刃だけに集めさせ、わざと外すことで本当の攻撃…鞘での一撃を覆い隠せる…っていう技さ。」
「…双憐…なんだか、カッコイイ名前だね?」
「名前だけなら、な。実際は相手を騙す、褒められたものじゃないスペルだ。すまなかったな、加減しようと思ったわけじゃ…」
ギュっ…
「………!?」
「………。」
いきなりの引き寄せられる感覚に、リーオは目を見開いた。顔の横に当たる柔らかな感触と、温かい感覚に、リーオは遅まきながら、自分が抱き寄せられたことを理解した。
「……どうした?」
「……ごめん、ごめんね…?痛かったよね?辛かったよね?……苦しかったよね…?」
言葉を紡いでいる内に、抱きしめた腕に込められる力が強くなってくる。それに顔は良く見えないが、紡いだ言葉の語尾が震えていることからシェランが泣いていることも察した。
震えるシェランの小さな背中に手を回し、落ち着かせるためにゆっくりと背中を撫でる。
嗚咽が混じる声で、シェランが小さく「ごめんなさい…」と繰り返す小さな震える身体を、リーオはただ抱きしめ返すことしかできなかった。
次回は7月15日までに投稿します。
次回もお楽しみに




