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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
第三章:無限の器、竜を廻る。
23/54

【火竜と女神。シェランの葛藤】

私の住むところにもとうとう梅雨が来てしまいまして、ジメジメした日々を送っている今日この頃、皆さん如何お過ごしでしょうか?私は執筆作業と仕事に追われる忙しくも楽しい日々を過ごしています。


今回は、前回とは違い次回は戦闘回にする予定なのでそれに続くための繋ぎです。

前回の投稿の少しあと、ふとアクセス履歴を見たときに200回という数字が目に入り、震えました。

とてもありがたいです!本当にありがとうございます!

満月が彩る空の世界、そこを純白の飛膜をはためかせながら疾走する一体の竜がいた。一直線に何処かへ向かうそれに、腰に差してある銀色の直剣...ヴァールが問いかける。



”____本当に見つかったんですか!?”



その問いかけに、純白の竜と化したシェランが答える。



「うんっ!確かに感じたんだ...イグニート火山のほうで、何か強い力とぶつかり合うリーオの気配を...!」



シェランが感じたリーオの気配は、ノヴァと拳を合わせたときに生じたものだ。火山自体を揺らす程の力のぶつかり合い。強大な力同士のぶつかり合いは、火山だけでなく空や大地にまで影響を与え、覆っていた雲を払い、大きな地震を引き起こした。


そこまでの影響を与えた力のぶつかり合いを、嵐竜の力を借りたシェランが感じ取れないわけがなかった。今のシェランにはリーオが何処にいるかだけでなく同じ強大な力である火竜ノヴァヴルムの正確な位置まで把握出来ている。



「さっきの大きな力同士のぶつかり合い...あれは火竜ノヴァヴルムとリーオとの戦いだったの。そして、戦いの結末は、リーオの力が消えて...多分、負けたんだと思う...。」

”......ですが、死んではいません...!早く、行きましょうっ!”

「...うんっ!」



全身にある羽衣のような飛膜を大きくはためかせ、速度を上げる。傍目に見れば、空の上を白い閃光が走ったようにしか見えないだろう。


目指していた火山までは、あと少し。雲を超えるほどの高度を誇るイグニート火山のようやく目に映った。山頂までは、普通に登ったら3000メートルをゆうに超えている。



「...少し、辛いかもしれないけど...耐えてね...ッ!」

”は、はいっ!”



ぐっと身体を曲げて、力を貯める。そして、思いっきり身体を伸ばすと同時に空気を蹴り、空高く、山頂へ向けて飛び上がる。活火山特有の火山灰が体温を急速に下げていく。


身体が震えてしまうほどの、吐く息が凍り付くほどの寒さの中、必死に滝を昇る鯉のように、全力で身体を揺らして上へ上へと舞い上がる。


身体の所々が凍り付いていくのが分かる。視界すら凍り始め、白く染まる灰の中を微かに映る月明かりを頼りに上り続ける。



「...あと、もう少し...ッ!!」



凍る息を吐きながら、必死に光の元へ向かう。全身が寒さで軋む中、冷えすぎて感覚すらなくなってきている飛膜を、出せる全力ではためかせる。


そして、やっとのことで厚い火山灰の雲を突破した。真っ先に目に入ってきたのは、海よりも濃い濃紺の空だった。次に、煮え滾るマグマを貯めた火口と、その近くにいる空からでも分かるほどの巨大な竜。紅い鱗を生やしたその竜こそが、世界でも指折りの力を持つ火竜ノヴァヴルムなのだろう。


さらに、その近く...火竜が眠る直ぐ近くに安らかな顔をして後ろの岩に凭れているリーオの姿が目に入った。



「っ!リーオッ!!」

”リーオさんッ!”



一直線にそこへ飛んでいき、無事かどうかを確認する。眠るリーオの前に着地し、竜化を解いて胸に耳を当てて心臓の鼓動を確認する。とくん、とくん...と弱弱しいが確かな鼓動を感じて、安堵する。



「...よかった...!生きてた...!」

”____...よかった...本当に...!”



リーオの無事を喜ぶ二人の背後から今いる火山より荘厳で大地を揺らす地震よりも威圧感のある声がかかる。



『よう、お前等...リーオの知り合い...いや、仲間かい?』

「ッ!!?」

”っ...ノヴァさん、ですか?”

『おう。』



と、軽く答えたノヴァが元の大きな竜の姿から先ほどの人間体へと変わる。その様子をみた二人が驚きに目を見開く。



「え!?な!はっ?えぇっ!!??」

”な、なにが、一体!?”

『ん?あぁ、これのことか。森の嬢ちゃんは知ってたんじゃないのか?』

「わ、私!?いえ、全く...今初めて、見ました...」



竜が人間と同じ姿を持っていて、それに自由に変身できるところをみた二人が信じられないものをみる目で目の前にいる人間体のノヴァを見ている。少し恥ずかしそうに頭を掻くノヴァが、ゆっくりと口を開く。



『......それで、だ。お前たちは今のリーオの状況をどう見る?』

「...どう、とは?」

『......一応、分かってはいるんだろう?今リーオを支配しようとしている『何か』のことを...なぁ、契約の女神さんよ?』

”.........”

「っ!?ヴァールさん!何か知ってるの?」

”......私も、全部を把握しているわけではありません。でも...少し、心当たりがあります。”

「どういうこと!?」



剣の状態で、表情までは分からないがヴァールがとても苦しそうな声で弱弱しく語り出した。



”......シェランさんは、リーオさんの胸に変な紋様が浮かんでいるのを、知っていますよね?”

「う、うん...それが...?」

”...あれは、『無限(むげん)(うつわ)』となった者にのみ浮かぶ、『無限(むげん)(あかし)』と呼ばれる呪紋です。これは『大いなる竜の力を操りし物にのみ表れる無限竜の証』と、我々ハーモニクスの大系には伝わっています。”

「伝わっているってことは...ヴァールさんはよく知ってはいないってこと?」

『まず無限竜という竜のこと自体、何も分かってはいない。かく言う俺も、その無限竜と対峙したことも、姿を見たことさえない。だってそいつは、神々の戦争で死んだっていう話だからな。』



というノヴァの言葉にシェランが食い付く。



「神々の戦争!?え、だって竜種は神々の戦争に参加しなかったって...そういう話じゃなかったの!?」

”伝承では、その通りです。アナタも戦争に参加していましたが、戦場の中心、混沌とした地獄のような場所での戦いには参加していなかったでしょう?”

「っ!......そ、それはっ」

『いなかったことを責めているわけじゃない。実際、俺達竜種はあの戦争に参加し、戦争の引き金を引いた女神、アムネスティを封印した。まぁ、本当に封印したのはシオンだがな。』



シオン、という単語にシェランは聞き覚えがあった。本名『アラド=シオン』、人間の身でありながら強大な力を使い、神々の戦争を鎮めた伝説の勇者の名前。


黒い髪に白い肌、血のような赤い目が特徴的な少年だったと聞いている。

白銀に光る剣と、黒い刃に、純白の意匠が凝らされた刀と呼ばれる武器を携え、あの戦乱を齢16歳ながら駆け抜け、終息へ導いた最強の剣士。

女神ヴァールとの契約で神々にすら匹敵する力を手に入れ、あの戦神とも謳われた『戦いと力の神レギオン』の右腕を切り落とし、数多の魔物、魔族を屠り、戦争を終結へと導いた伝説の勇者だ。


しかし、戦争を終結させたその後、彼は自らの消息を絶った。


相棒でもあったヴァールを世界樹の樹上に突き刺し、仲間にも何も伝えぬまま行方不明になった。一説には世界を護るための抑止力となった、とか自分の力を制御できず暴走してしまったとか色々言われているが、真実は定かではない。


そんな彼のことを、ノヴァとヴァールは少し嬉しそうに話す。やはり彼は二人にとって、とても大切な存在だったのだろう。



”......私は、今のリーオさんにどこかシオンさんの影を探してしまうんです。それが、ダメなことだと分かってはいます...でも...”

『...分かる。リーオとシオンは、とても近い。無限の器と、ヴァール...この二つは切っても切れない関係なのかもな...。』

「.........。」

「......。」



二人の悲し気な声に、シェランは何も言うことが出来なかった。その時、三人の後ろで何かが動いた気配があった。それは、いつも感じていた冷たいような、温かいような不思議な気配...リーオのものだった。



「.........。」

「っ!リーオ!?起きて大丈夫なの!?」

”リーオさんっ!!”

『...リーオ......。』

「......ノヴァ...。」



気だるげに起き上がったリーオは、目の前に居たノヴァの名を呼びゆっくりとした足取りで向かっていく。人間体になったノヴァの肩を掴み、こう問う。



「...何故、俺が無限の器なんだ?」

『......それは、俺にも分からない。何せ、無限の器何て珍しいもん、早々記録にも残っていない。唯一知っているとすれば......『始祖竜様(しそりゅうさま)』くらいだろうなぁ...。」



『始祖竜様』、その言葉を聞いた瞬間頭の中で何かが蠢く感覚と、酷い不快感がリーオを襲う。まるで、その名前を聞くこと自体が猛毒のように、せり上がってくる吐き気に耐えながら言葉を紡ぐ。



「ッ!...わ、かった...。」

”!?どうかしたのですか!?”

「まだ休んでた方がいいんじゃ...!」

「...ッ!!......大丈夫だ。」



唇を思いっ切り噛み、その痛みで少しの間だが吐き気を抑えることが出来た。溢れてくる血を二人にばれないよう静かに舐めとりながら「大丈夫だ。」ともう一度答える。


震える身体を叱咤し、無理矢理動かす。関節が軋み、骨が悲鳴を上げているのが分かる。最近まともに休めていないのが原因であろう眩暈すら襲ってくる。


不自然に揺れるリーオの姿に堪らずシェランとヴァールが駆け寄る。



「大丈夫じゃないでしょ!?ちゃんと休まないと!」

”無理はしないでくださいと、前にも言ったでしょう!?シェランさん!”

「うん!」



両手をリーオに向けて、そこに魔法陣を展開させる。内容は『治癒(ヒール)』と『睡眠(スリープ)』、『鎮静(サデーション)』の三つだ。そこに魔力を緩い弾丸のようにして放ち、全ての魔法陣の効果を付与した『放出(ブラスト)』をリーオに当てる。『放出』が当たったリーオは、少しした後静かに寝息を立て始めた。



「...くぅ...くぅ...。」



シェランは眠らせたリーオを抱き上げ、安全な所へ運んでいく。その場に残ったヴァールが、同じく残ったノヴァに問いかける。



”......ノヴァさん、何か、私に隠していることがありますよね?”

『...何故、そう思うんだ?』



静かな憤りを込めたヴァールの声に、ノヴァはおどけたように答える。その様子にさらに怒りが募ったのか、今度は少し強めの口調で問い詰めだした。



”...ノヴァさんは、知っていたんですよね?リーオさんが、半分『堕転(だてん)』していることに。”

『......なら、アンタも知ってたんだろ?そんなこと聞くってことはさ。』



ノヴァの切り返しに、少し詰まったがヴァールは話を続ける。



”......リーオさんが堕転したのは恐らく、両親の死がきっかけなのでしょう。私と出会う前、すなわちアナタと出会う前からでしょう。”

『...あぁ、分かってはいたよ。しかしな、あれをどうにかできるほど、俺は強くねぇんだ。...リーオが使う黒い炎...あれは俺の...いや黒炎竜が扱う『終炎』と呼ばれる、触れたものを焼き尽くすまで消えない呪いの炎だ。俺には、どうすることもできない。』

”...では、少し提案があるのですが...?“

『......?』




ヴァールたちが何やら不穏な会話をしている頃、シェランは意識のないリーオを周りから見えない静かな岩場に寝かせていた。


リーオの静かな寝顔を眺めながら、シェランは一人、外した『水竜の耳飾り』を弄りながらため息をついた。



「...ハァ...ねぇ、ウォー...私、どうするべきなのかなぁ?」



シェランの呟きに、耳飾りから聞こえる声が答える。その透き通るような綺麗な声は、春になり標高の高い山から静かに流れ落ちる雪解け水を想起させた。



『...うーん...確かに、この状況で動くには難しいと私でも思うよ?でも、シェランちゃんなら動くんでしょ?』

「......うん、何もしないなんて、私にはできない...!」

『そうだよ!立ち止まるなんて、シェランちゃんらしくない!私も協力するから!』

「......うん!」



耳飾りからの声に励まされ、勢いよく立ち上がったシェランの元に、後ろから声が掛かる。



“...シェランさん。”

「...っと、ヴァールさん?」

“......少し、お話したいことがあるのですが...”

「?」



この時、シェランは知らなかった。このヴァールからの提案が、リーオの、そして彼女自身の人生を大きく左右する重要なことになろうとは。



次回は戦闘回の予定です。


次回は7月5日までに投稿したいです。

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