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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
第三章:無限の器、竜を廻る。
22/54

【ノヴァとの再会。俺の拳は重いぜ?】

今回はノヴァとリーオの戦闘回です。自分でも戦闘回は書いていて楽しいのでめんどくさい文章を考えるよりも数段楽しみながら書いています。


これからも戦闘回はちょっと長くなる可能性が大きいので先に言っておきます。

____...なんだ...?異様に暑い?そういえば、俺は今どこにいるんだ?昨日の夜、当てもなく歩き続けて...朧げに光が見えたからそこに向かって...それで...それで?



「......?どこだ、ここ...?」



リーオが目を覚ましたのは、何故か彼らが目指していたイグニート火山の頂、火竜が住むと言われる人間が足を踏み入れてはいけない禁断の場所だった。


リーオが少し混乱した様子で周囲を見渡していると、後ろから声がかかる。

その声は、まるで火山の中で煮え滾るマグマのような、大地を揺らす大地震のような圧し潰されそうな威圧感を持った声だった。



『...よう、目ぇ覚ましたか?』

「ッ!!」



声に驚き、弾かれたように飛び上がり、距離を取ってから後ろを振り向く。戦闘用に、空間の中から手頃な得物を取り出し、身体の前に構える。

しかし、後ろに居た『それ』を見た瞬間、リーオの身体が硬直する。


赤銅色の鱗に、真紅の大きく鋭い角を生やした巨大な竜。肩から腕にかけて紅蓮の鱗に生え変わっていて、大きな拳からは常に煉獄にも近い炎が噴き出している。全体的に細身の肉体からは燃え上がるようなオーラが、放たれていた。


驚きのあまり、目を見開いたリーオが小さく、一言こう呟いた。



「......『ノヴァ』...!?」

『おう、久しいなぁ...元気かどうかっつうより、随分ヤバい状態じゃねぇか?お前さん?』



リーオの状態を見て楽し気に話す竜、『火竜ノヴァヴルム』はリーオの中で燃えている炎を一瞥し、ニヤリと口角を引き上げた。



『...ようやく全属性の竜と契約したと思ったら、抑えきれず暴走か?竜化もまともにコントロールできないどころか発動すら制御すらできないなんて、嘆かわしい限りだぜ...。』

「...なん、だとぉ...!?」



ノヴァの言葉にリーオがイライラした様子で答える。リーオの感情に応えるように彼の身体を包んでいた白い竜のオーラが『憤怒』の赤に変わる。


その様子を見たノヴァが、さらに口角を吊り上げる。



『......リーオ、少し手合わせしないか?』

「...いきなりなんだ...言っているだろ、今の俺はまともにスキルが使えない。」

『んなことは知ってんだよ。』

「ハァ!?」

『試させてくれよ、『無限の器』の力ってもんをよぉ...!』

「...?」



ノヴァは見た目通り、竜の中でも指折りの戦闘狂。ノヴァの戦闘スタイルは拳による打撃オンリーという超前のめりなスタイル。そのスタイルに合わせた特殊な戦闘スキルも存在する。


拳に竜力を集中させ、拳の威力を倍増させる『竜拳(りゅうけん)』という、ノヴァが創り出したエクストラスキルだ。紅い炎の如き竜力を纏わせた拳は、竜の中でも一位二位を争うほどの威力を誇る。


重い体を引きずり、ゆっくりと拳を構える。眼前に居るノヴァが思い出したように口を開く。



『...あ、そういやこの身体じゃ戦いづれぇなぁ...よっと。』



ノヴァが首元にあった鱗を一枚はがすと同時に、巨大な竜の身体がまるでピースの外れたパズルのように崩壊する。その中から、紅い髪の黒い服を身にまとった長身の男性が悠然と歩みよってくる。


挑発的に口元を吊り上げる男性からは何処かノヴァと同じ雰囲気を感じる。


......とある古文書に、こんな記述がある。



≪竜種は、もともと我々人間と同じ姿をしていたという。一番最初に竜となる力を手に入れたのは一人の女性だったらしい。彼女は後に竜たちの母『始祖竜ユイ=アルシィ』として現在もなお最強の種族と言われる竜種を生み出したと言われている。その名残ゆえか、今でも竜種は人としての姿と竜としての姿という二つの姿を持っている。普段の姿は巨大な竜だが、中には人々に紛れて生活する物好きな竜もいるという≫



この記述の通り、竜は人の姿と竜の姿の二つを持っている。ノヴァの場合は普段は竜の姿でいるが、俺のような人間と戦うときは同じ人間の姿で戦う。

俺がノヴァの元で戦いの基礎を習っていた時、聞いたことがあった。


何故ノヴァは人とは人の姿で戦うのか、と。その時ノヴァは笑いながらこう答えた。


『条件がフェアじゃなきゃ戦いを楽しめないだろ?一方的な虐殺は俺の趣味じゃないんだ。』


戦いに対しては真摯なノヴァは、竜の中でも人気がある。自分の腕に覚えのある者は、一度はノヴァに戦いを挑み、自らの無力さを思い知るらしい。



眼前でゆったりと構えるノヴァの拳が真紅に染まる。それに呼応してか、ノヴァが纏う竜力がさらに紅く燃え盛るように広がっていく。



『......フゥ...よし、そろそろ始めっか?』

「.........仕方ない...殺さないでくれよ?」



戦闘用の装備に着替え、危ないから一応と黒揚羽を空間の中に仕舞い、全身に竜力を纏わせて構える。


その様子を見たノヴァがニヤつきながらこう呟く。



『心配すんな、加減はする。』



その言葉がリーオの耳に届くや否や、目の前に居たノヴァの姿がブンッとブレるようにして消える。その瞬間、直感で危機を察知したリーオが上体を大きく後ろへ逸らす。


その直後、目の前の空間を真紅の軌跡を描きながら通り抜ける左拳を振り抜いたノヴァと目が合う。ニヤッと口角を吊り上げたノヴァが反動をつけた右拳を思いっ切り下に居るリーオ目掛け振り下ろす。



「ッ!!」



重い体を揺り起こし、震える足を叱咤し無理やり力を流し込んでの縮地でその場から、『危険範囲』の外へと逃げる。リーオが範囲から抜けた直後、振り下ろされたノヴァの拳が岩盤よりも硬いと言われるイグニート火山の地面へ叩きつけられる。


その瞬間、大地がまるで薄い飴細工を殴った時のように粉々に砕け散る。砕けた地面の隙間からイグニート火山のマグマが噴き出し、ノヴァの姿を塗りつぶす。



「......馬鹿にならない威力だなやっぱり...!」

『これでも暫く戦ってないから訛ってんだぜ?久々の闘争なんだ、退屈させないでくれよ?リーオ...!』



マグマの中を突っ切ってくるノヴァを迎え撃つように、リーオも負けじと構えた拳に竜力を集中させる。



「___...ッ!」

『吹っ飛ぶんじゃねぇぞぉッ!?』



白い竜力を纏ったリーオの拳と、紅い竜力を纏ったノヴァの拳がぶつかり合い衝撃で二人が立っている地面が円状に大きく陥没する。陥没した地面の隙間からマグマが溢れ出し、まるで自然が二人専用のステージを拵えたようだった。


そんな自然が創り出した特設ステージを撫でつつ、ノヴァが口を開く。



『......粋な演出してくれんじゃねぇの...!さぁ!闘争(たたかい)を楽しもうぜッ!』

「...相変わらずの戦闘狂だ...油断したら死ぬな(小声)...。」



先ほどより明らかに燃え上がっているノヴァの様子にリーオが静かに呟く。

気合を入れなおし、竜力を纏った拳をしっかりと構える。


その様子に、愉快そうに口角を吊り上げたノヴァが一気にリーオとの距離を詰める。



「くッ!?」

『オラァッ!!』



腹部を抉りに来た拳を両手で受け止め、続く連打を足、肩、肘を使って何とか受け止める。拳に気を取られているリーオの脇腹に、虚を突いた回し蹴りが炸裂する。



「がはっ!」

『気ぃ取られすぎだっ!』



浮き上がったリーオの腹部にノヴァの全力ストレートが突き刺さる。鋭い一撃にリーオが堪らず声を漏らす。そのままノヴァの連打の嵐が始まった。


息つく暇もないくらいの連打の嵐。リーオの防御を軽々と突破する威力を持った拳が降り注ぐ雨の如くリーオの身体を打ちのめしていく。



「ぐぁぁぁぁぁぁッ!!」

『オラオラオラァッ!!!』



竜力で固めた肉体を容易に粉砕するほどの拳の雨が、元よりボロボロだったリーオの身体をさらに粉砕していく。



『どうしたッ!そんなもんかぁッ!!』

「ガァァァァァァッ!!?」



連打を打ち込むノヴァが、楽し気に叫ぶ。その直後、渾身の力が込められた一撃がリーオの腹部に突き刺さり、背後の岩まで大きく吹き飛ばす。



「カハッ!?」



勢いよく岩に叩きつけられたリーオが口から真っ黒な血の塊を吐き出す。陥没した岩から何とか抜け出し、地面に両手をつき、荒い呼吸を繰り返すリーオに、ノヴァが多少真剣な声で語り掛ける。



『…リーオ、お前に一つ、いいことを教えてやる。』

「ハァ…ハァ…この、状況でか…!?」

『…まぁ、聞け。…俺の力、『火』の力は使用者の『怒り』によって強くなる。その怒りが強ければ強いほど、より強大な力を扱えるようになるんだ。リーオッ!もっと怒りを高めろッ!』



ノヴァの纏っている竜力が急に紅が濃くなり、その眩しさに瞬きしたリーオの前からノヴァの姿が消える。


今までより数段強い拳が消えるほどのノヴァの速さに反応できず、両手をついたままのリーオの顎を蹴り上げ、浮き上がったところに、ノヴァの全力右ストレートが腹部に深々と突き刺さり、口から大きな血の塊を吐き出す。



「ゴハッ…っ…。」



身体が地面から遠ざかり、強すぎる痛みに、身体が意識を手放そうとする。


……駄目だッ!


唇を思いっ切り噛んで、飛んでいこうとする意識の端を無理やり掴んで引き戻す。吹き飛ぶ身体を回転させ勢いを殺し、遠ざかっていた地面に着地する。



「……ッハァッ!ハァッ!ハァ、ハァ……フゥー……。」

『よく気絶しなかったな。今までで一番強いのを打ち込んだつもりだったんだが。』

「……ヤバかったよ。もうちょっと強かったらそのまま飛んで行ってたかもな…。」

『…そうか、んじゃ次はもうちょい強く行くぜ?』



そう言って拳を構えるノヴァの竜力が先ほどより紅く染まる。血よりも濃い深紅のオーラが、リーオの顔を紅く照らす。


ピリピリと肌で感じられるほどの緊張感に、心臓の鼓動が段々と早くなってくる。



「......スゥ......フゥー...。」



落ち着かせるため、大きく、一つ深呼吸...早すぎる鼓動に頭が警鐘を鳴らす。ドクドクと心臓が鼓動するたびに胸から全身に響き渡る鈍痛が、視界を白く霞ませる。


徐々に思考もまとまらなくなってくる。それと同時に頭の片隅であの黒い破壊衝動が思考を徐々に占領し始める。



「...フゥー...フゥー...フゥー...!」

『......『黒』か...!』



リーオから溢れる竜力が怒りの『赤』から憎しみの『黒』に変化している。半分意識の飛んだリーオは恐らく分かっていないが、全身を包んでいる竜力が怒りの赤から憎しみの黒に変わってきている。燃え上がるようなイメージだった紅いオーラの合間から、穢れ溢れるような黒いオーラが処々から見え隠れしている。



「…(…怒り…怒りって、どれだ?なにで代用すればいいんだ?確か喜怒哀楽のどれかだったよな?…喜?哀?それとも楽か?…分かんねぇ…怒りって、何だ?)……ッ!?」



どんと、何かが自分の意識を押し込めようとしているのを感じる。



「…なん、だ?こ…れっ!?」



リーオの意識が段々と薄くなっていく。意識が途切れる寸前、リーオは自分の心の奥底から自分ではない『何か』が這い上がってくる感覚を覚える。リーオが後ろを振り向くと、自分の姿と酷似した黒い影のようなものがリーオの肩を掴んで後ろへ引っ張ってくる。


抵抗の出来ぬまま後ろへ放り投げられるリーオが最後に見たものは、どす黒い笑みを浮かべた自分とまったく同じ顔をした『憎悪』だった。



『......?』



この感じは…憤怒…?いや違う……どちらかっつうと『憎悪』だな。だが、なぜこっちが出てくるんだ?


……まさかアイツ、憤怒を知らないのか!?こっちよりも、憎悪が表に出るってことは、そう言うことだよな。確かに近い感情ではあるが、真逆だぞ?


しかし、舐めてかかるわけにはいかない。憎悪ってことは『アイツ』の力が出てきてるってわけだ。気を引き締めていかんと、死ぬな。



『……ふッ………ッ!!』



全身に今まで以上の竜力を纏わせたノヴァが、ゆっくりと拳を構える。燃え上がるほどの竜力は、ノヴァだけでなく地面までも揺らし、ステージを囲んだマグマがぐらぐらと揺れ始める。



『......フゥー…行くぜ?』



そう呟いたノヴァの姿がブンッと消える。次の瞬間、腹部に強烈な一撃を食らいリーオの身体が空中へ大きく吹き飛ばされる。何も反応していないリーオへ追い打ちをかけるように先回りしたノヴァが、全力を込めた拳で今度は地面に向けリーオを殴り飛ばす。


地面にたたきつけられたリーオが苦悶の声を上げるがすぐに身体を起こし、攻撃してきたノヴァのほうへ向けて右の掌を上げる。そのまま、掌の中で何かが光ったと思った瞬間、ノヴァの左肩が黒く爆発する。



『なっ!?』



いきなりのことに驚き、目を離した瞬間、地面に居たリーオがノヴァの目の前まで一瞬で移動し、振りかぶった拳をノヴァの顔面目掛けて叩きつける。



「____ッ!!!」

『っ!速ぇじゃねぇの!?』



その拳をギリギリのところで受け止めたノヴァが、苦し気に呟く。先ほど爆発したノヴァの左肩は未だに黒い炎で燃えており、その炎は他へ燃え広がることもなく集中的に燃え盛っているのだ。


この黒い炎は『黒炎竜ゼオヴルム』が纏う『終炎(しゅうえん)』と呼ばれる受けたものを燃やし尽くすまで決して消えることはない死の呪いに限りなく近い炎のこと。


何故そんな危険すぎる炎を、暴走しているリーオがコントロール出来ている理由一つしかない。リーオに非はないが、しそこまでの強大な力を操る此奴をこのまま放っておく訳にはいかない。



『......もう加減は無しだ。』



受け止めた拳を掴んだそのまま身体ごと振り回し、力を込めてぶん投げる。


全身に紅い炎を展開し、肩に付いた黒い炎を吹き飛ばす。


そのまま、投げ飛ばされたリーオの腹に紅い炎を纏った拳の連打が叩き込む。

堪らず血の塊を吐き出すリーオを、容赦ないパンチの嵐が襲う。



「ッ!ッ!ッ!!」



岩盤をも容易く砕くほどの拳が嵐の如き勢いで叩き込まれる。息もできないほどの連打、口の端から血を吐きながら耐えるリーオの身体から徐々に黒いオーラが溢れ出し始める。


その様子から危険を感じ取ったノヴァが、リーオから距離を取る。



『ッ!!』



その瞬間、リーオを中心とした周囲を巻き込むほど広範囲な終炎の爆発が起こり、晴天だった空を真っ黒に染め上げる。空を飛んでいた鳥たちが黒焦げの無残な死体となって雨のように地面へ降ってくる。



『......これは本当に余裕ぶっこいてる場合じゃないな。早々に決着をつけるか...!』



終炎の爆発から出てきたリーオの姿は、今まで契約してきた竜をごちゃ混ぜにしたような醜い姿だった。意識のない瞳からは明確な殺意が見え、全身に纏う黒いオーラは周囲に満ちた竜力すらも黒く穢す程の強さになっている。


このまま放っておいては、ノヴァだけではなく世界にまで危険が及ぶ可能性が高い。


そう考えたノヴァはリーオが動き出す前に、先手を取ったと言わんばかりに熱く煮え滾る竜力を球状に収束させ、リーオへ向かって放り投げる。それを右手で払いのけたリーオの視界からノヴァの姿が消える。



『こっちだ。』

「ッ!」



声が聞こえた方へ目を向けたリーオの目に、姿勢を低く引き付けた右手に、紅蓮の炎を纏わせたノヴァの姿が映る。炎に照らされたノヴァの口元が楽し気に歪む。



『____...『剛火竜拳(ごうかりゅうけん)』...ッ!』



引き付けた右手から放たれる紅蓮の炎を纏ったコークスクリューブローが無防備なリーオの鳩尾に突き刺さる。周りの空気を巻き込むほどの回転を加えられた凄まじい威力の一撃は、爆発を起こしながらリーオの腹部を削り取り、その身体を後ろへ大きく吹き飛ばす。



「ガッ!!...っ......」



凄まじい勢いそのまま後ろの大岩へ打ち付けられたリーオの身体が動かなくなる。気を失ったようだ。


身体の竜化した部分を覆っていた鱗が、淡い光の欠片となって地面に落ちて、霧散する。


気絶したリーオを持ち上げ、なるべく安静になれる場所へ運び、スキル『(りゅう)()』でリーオの状態を確認する。


視界に映る黒い靄を確認したノヴァが頭を抱える。



『......やっぱ、な......さて、これはどうすりゃいいかなぁ...。』



そう独り言ちるノヴァの口元には、いつもの楽し気な笑みは浮かんでいなかった。




総合閲覧数1000突破ありがとうございます。これからももっと皆さんに楽しんでいただけますよう、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!


次回は6月25日までに投稿いたします。

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