【一路王都へ。俺の職業は…】
前回の続きです。
前回は過去の回想的なものでしたが、今回から物語が始まります。
_____あの出来事から5年、旅に出ていた俺の所にとある情報が入ってきた。
俺達が住んでいた大陸最大の王国、『インテグラル王国』。そこで今、新たな勇者候補が現れたということで、急遽道を変え一路王国を目指した。
王国に戻ることを決めたのは、数年前にカバルから送られてきた手紙に書かれていた内容のことが一番大きかったと思う。
あのカバルが、王国騎士団に入り、今はそこの分隊長を任されているとのことだったのだ。
まぁ、昔から才能はあったが、まさかここまで強くなるとは…今の俺じゃ勝てないかもな。
馬車に乗って数週間、ようやく王国の中心部『王都ユーリア』に到着した。
幼い時、両親と一緒に来たことしかなかったが、王都というだけあって人々の活気のいい声が響き渡っていた。王都の中心には、白く巨大な白亜の城『インテグラル城』がそびえ立ち、国の行く先を明るい未来へ先導している。
「……すげぇとこだな。今までいろんなとこに行ってきたが、これだけデカいもんは俺が見てきた中では世界樹くらいだぞ?でっかいなぁ…。」
“それはそうでしょう。インテグラル王国は大陸の中でも最大の国です。そこの象徴であるインテグラル城が大きいのは当たり前でしょう。”
「はははー、そうですねー。『ヴァール』さんは物知りデスネー。」
今、俺が会話しているのは俺が腰に差している剣だ。名前はぁ…長いから省略するか。
ていうか、側から見ると俺って独り言喋ってるヤベェ奴じゃん!通行人に変な目で見られるのは嫌なので、腹が減ったのもあり近くにあった喫茶店に入ることにした。
少し古そうな建物だったが、中は老舗の雰囲気漂ういい感じの店だった。
此処で少し落ち着けるか、腰に差してあった剣を席の横に置き店員に珈琲と今日のサンドウィッチセットを注文する。食べられれば毒と腐ったもの以外なら何でも食べられる。
数年間にも及ぶサバイバル生活において学んだのは、この世全ての生物への感謝と自然への祈りだった。生きるために生物を喰らい、自然と一体になる。
そうすることでしかこの数年間野生の中で生き残ることは出来なかった。
そのお陰で手に入れたものもあるし、救えた命もある。その為に、多くを殺したりもしたけど、必要経費、コラテラルダメージって奴だ。仕方がない。
その時、丁度注文したサンドウィッチと珈琲を持った店員がやってきた。
まずは、珈琲の香りを楽しむ。久々に嗅ぐ芳しい香りに、涙が出そうになる。まぁ、出ないんだが。次は味、カップに注がれた黒々とした液体を少し口に含み、苦みと酸味を楽しむ。
その間にも、芳しい香りが俺の鼻を楽しませてくれる。やはり珈琲は良い。落ち着くな。
と、サンドウィッチも忘れてはいないぞ。新鮮な野菜とハムが挟まれたそれを齧ると、ソースの酸味とハムの塩味、野菜のシャキシャキとした触感が、口の中で素晴らしいハーモニーを奏でる。
「…うまいな。」
「ありがとうございます。」
「っ!?」
っと、ビックリした。まだそこにいたのか店員。どうした暇なのか?
「あ、すみません。驚かしちゃいましたか?」
「いいや、大丈夫だ。で、どうかしたのか?俺みたいな旅人に用事か?」
「い、いいえ、用事はないんですけど…」
「じゃ、何だ?」
「……貴方が、幼い頃に村にいた人に、似てる気がして…。」
「……君、名前は?」
「?『リッカ=ミュオト』です、けど…?」
……このお嬢ちゃん、カバルの妹だったのか。なら、丁度いい。妹ならカバルが何処にいるか聞けるだろう。
「…ミュオト…カバルの妹だったのか。」
「っ!お兄ちゃんを知っているんですか!?」
グイッと顔を近づけてくるリッカに、少し面食らう。こんなに無防備でいいのかカバル妹?
心配になってくるぞ?
「…近いよ、お嬢ちゃん。」
「あ!すみません!えへへ…」
警戒心皆無か…これは変な男に迫られたらヤバい。何とかしてやらないとな。
ま、それはそれとして、今知りたいのはカバルの居場所だ。妹であるリッカなら知ってるだろう。
「まぁ、いい。それより、君に聞きたいことがあるんだ。」
「何ですか?知ってることなら答えられますよ。」
「カバルが、今何処にいるかを知りたいんだ。」
「お兄ちゃんですか?お兄ちゃんだったら、もうすぐ…あ!来ました!おにーちゃーん」
「?」
リッカが、元気に外に向かって手を振る。軽装備だが、王国騎士団の鎧を身に着けている青年二人がこちらへ向かって歩いてくる。そのうちの一人には何となく見覚えがあった。
あの時、村を出る際に必ず生きて帰ってくることを約束した親友、カバル=ミュオトだ。
あれから何年もたっている為、随分と大きくなっていたが元気な笑顔は変わっていない。
『鑑定眼』で見てみたが、ステータスも随分成長している。さらに職業が『王国騎士団第二部隊隊長』とは…アイツも随分ビックになったなぁ…。
外からこちらを見たカバルが、呆然としている俺に気づいたのか一直線にこちらへ走ってくる。
店のドアを蹴り破る勢いで入ってきたカバルが、大声で叫ぶ。
「ッ!リーオッ!!」
「おう、久しぶりだな。カバル。」
「お前…帰ってくるなら手紙くらい寄越せよ!」
「あぁ、すまん。新しい勇者候補が出てきたって聞いたんで、一目見ようと思ってさ。」
「全く…お前は、本当に唐突だな!」
「ホント、あん時は悪かったって。ちゃんと毎年手紙は寄越してたし、こうして帰った来ただろ?」
「な!おまっ…はぁ、もういいよ。諦めるさ。」
何を諦めるのか分からないが、取り敢えず、数年ぶりに親友と再会することができた。
そうして数年ぶりの再会を果たした俺達は、取り敢えずと腹ごしらえしようと相成った。
カバルが慣れた様子でリッカにサンドウィッチセットを注文し、久方ぶりの会話をしようとしたとき、少し遅れて店に入ってきた青年が息を切らしながらカバルに怒鳴り散らした。
恐らく、カバルの部下だろう。公務の最中に抜け出した隊長を叱りに来たか。良い奴だな。
「ハァ、ハァ、た、隊長っ!何してるんですかッ!?仕事中ですよ!?」
「ん?見ての通り昼食だ。お前も食べろ、俺のおごりだ。」
「え、マジですかアザッスッ!!」
…前言撤回。ダメな奴だった。王国騎士がこんなんで本当に大丈夫なのか?すごく不安だ…。
落ち着くためにすっかり冷めた珈琲を飲み干し、おかわりを注文する。横にいたリッカが珈琲をポットごと持ってきたので、これからの珈琲の心配はしなくていいな。
「…で?勇者候補を見に来たって言ってたけど、その前にお前今までどこで何してたんだ?」
「……先ずは、そこだよなぁ…さて、何処から話したもんか…。」
俺は、今まで自分が体験したことを全て話した。
子供一人が旅をするのは、大変な危険が伴う事。その過程で、様々なことを学んだこと。
旅先で出会った人たちの話や、訪れた先であった不思議なことなど、色々。
カバルやリッカ、それと昼食を食べていたカバルの部下まで俺の話に聞き入っていた。
まぁ、全部を話すには大いに時間がかかるので、だいぶ端折ったがな。
「……フゥ、大体こんな感じか?」
大体の体験談を語り終え、だいぶぬるくなった珈琲で喉を潤す。俺の話を聞いていた三人は随分ぐったりした様子で、席にぐでっとしていた。
「…随分、大変な旅をしてきたんだな、お前…。」
「隊長のご友人、凄い人ですね…まさか10歳で世界を巡る旅に出るとは…。」
「お兄ちゃんが時々読んでいた手紙は、リーオさんからの手紙だったんですね!納得です!」
各々それぞれの反応を見せていた時、何やら気づいた様子のカバルが俺の横に置いてあった剣を指さしてこう、聞いてきた。
「…そういやお前、そこに置いてある剣、結構高そうなもんだが、何処で手に入れたんだ?」
「あ?これか?これはぁ……えっとぉ……世界樹?だったかなぁ…?」
「世界樹!?お前そんなところまで行ってきたのか!?」
世界樹とは、この世界の果てと言われている最果ての地『ヘルヘイム』の中心にそびえ立つ
世界最大の樹木『ユグドラシル』のことだ。世界を支えていると言われるほど巨大で、その根元には、凶悪な世界蛇『ニドヘッグル』がユグドラシルの巨大な根を齧っているとされている。
そんなところに俺は13の時に立ち寄ったのだ。伝承通り、ユグドラシルの根元には根を齧り続けるニドヘッグルがいたが、こちらへ興味も示さず根を齧っていたので無視して進むことにした。
見上げればひっくり返りそうになるほど巨大なユグドラシル。そこに、当時13歳だった俺は登ってみようと、思ってしまったらしいのだ。村の林の木ぐらいにしか登ったこともないただの子供が、随分無謀なことだが、当時の俺は、よく分からない自信に満ち溢れており、勇み足で登って行った。
だが、別段大変というわけではなかった。むしろ、導かれているんじゃないかという気さえするほど、あっさり頂上の茎頂部まで辿り着いてしまったのだ。
そこには、木の茎頂部に突き刺さった一振りの直剣があった。まぁ、その時の剣がこの剣なのだが、まぁ、そこでこの剣を手に入れたのだ。
そこまで話すと、カバルの顔が曇った。どうしたカバル?
「…ってことなんだけど、カバル、お前なんでそんな眉間にしわ寄せてんの?」
「……世界樹の頂上に刺さっている剣…?お前それって初代勇者が使っていたっつう
『聖魔剣ヴァール』じゃないのか?『勇者選定の剣』の。」
「……聖魔剣?なんだよそれ?」
え、お前って『契約の神剣』じゃないのか?前にもそう言ってたし…。
“…少々、間違った伝わり方をしてしまったようですね。ですが、聖魔剣とは…少し変な感覚ですね…。”
「え、知らないんですか?」
「知らん。」
聖魔剣なんて代物はな。
「…聖魔剣ヴァールは、初代勇者『アラド=シオン』が持っていたとされる勇者選定の剣だ。
他の勇者選定の剣とは違い、存在が確認されてなかったがユグドラシルにあるとされていたんだ。」
「……その勇者選定の剣ってのは何だ?」
ヴァールの能力にそんなものはなかったぞ?どんな伝承だよ、それ。
「お前、それも知らないのかよ…勇者選定の剣ってのは、この世界に存在した4人の勇者が持っていたとされる伝説の剣のことだ。その内の一振りはこの国にもある。」
「へぇ…」
「その内の3本、二代目勇者『ヴェイア=ダレクス』の『王剣ヴァル=ロード』、
三代目勇者『イレアス=モンド』の『聖剣エルシオン』、最後は四代目『レラオ=クーフィ』の
『霊剣アロンダイト』、こいつが王国にある。ってな感じだな。」
「…フゥーン…。」
「…興味なさげだな。」
「でも、聖魔剣ヴァールはユグドラシルにあるらしいって言う噂しかなかったんじゃ…?」
「え?そうなのか?」
「聖魔剣ヴァール、というか初代勇者アラド=シオンの最期は消息不明で存在自体していなかったかもしれないと言われる人なんだ。」
「へぇ…そんな奴が…」
……まぁ、このくらいのこと知ってはいたんだが、どうしたヴァール、何か静かじゃないか?
“まぁまぁ、私も色々ありますので…こういうところで喋る訳にはいかないんですよ…”
へぇ、大変なこって…
「まぁ、こいつのことはどうでもいい。カバル、今回の勇者候補はどんな奴だ?ゴミクズか
消しカスか、どっちだ?」
「どっちでもねぇよ。まぁ、まともに訓練もしないごく潰しではあるがな。」
「やっぱゴミカスじゃねぇか。」
「リ、リーオさん、言い過ぎですよ…!勇者候補は人類の希望、それを悪く言うのは少し…」
「良いんだよ。勇者候補の一人や二人、どうにでも出来るさ。」
実際、今の俺なら勇者候補くらい相手が鉄剣で自分が木の棒でも負ける気はしない。
それくらいの修練は、旅路の中で積んできたからだ。それに俺にはヴァールがいるからな。
「どうにでもって…お前どんな旅してきたんだ?」
「人並だよ。人並。」
「…人並の旅でそこまで強くなれるのかよ…。」
「さぁ?」
取り敢えず、聞きたかった情報は聞けた。んじゃ、勇者候補様の顔でも拝んできますか。
「よし、腹ごしらえも出来たし、行くか。」
「ん?なんだ、何処か行く場所でもあったのか?」
「いや、特には…取り敢えず王都を観光していこうかと。」
「まだ時間はあるんだろ?じゃ、俺からの選別でも受け取ってくれ。」
「あ?選別?」
俺が問いかけた時、カバルがリッカに何かを言うと、リッカは店の奥から水晶玉を持ってきた。
「水晶玉?なんだ、占いでもやるつもりか?」
「その通りだ。」
「マジか…。」
「だってお前、10歳になったらやるはずの職業鑑定の前に旅立っちまったから、
未だに職業ねぇだろ?」
「…そういやそうだった…。」
この世界では、10歳になったら必ず鑑定士による職業鑑定を受ける決まりになっている。
俺が旅に出たのは職業鑑定の数日前、だから俺に職業はなかったのだ。
「私には占いと鑑定スキルがあるんです。結構当たるってこの辺では有名なんですよっ」
「へぇ…でも今更必要か?」
確かに職業があった方が色々便利ではあるが、今更職を得たところで意味はあるのか?
ここまで流浪人で通してきたからか、職業にはそれほど執着を持っていなかったのだ。
「でも、職業があった方が色々便利ですよ?検問とか楽に通れますし。」
「……それは魅力的だなぁ…。」
今までも旅の途中で関所や検問を突破するのに随分苦労していたからなぁ…それがなくなるのはすごく嬉しいって言うかそっちの方がよくない?
「…よし、お願いしようかな。」
「分かりました!では、少し手を貸していただけますか?」
「手?」
言われた通り右手を差し出すと、リッカがその手に自分の手を重ねる。それと同時に、テーブルの上にあった水晶玉が、白く光を放ち始めた。
「おぉ…!?」
「ここからがリッカの本領だ。」
カバルがそうつぶやくと、リッカが俺の手を少し強く握る。その間ずっと水晶玉からは白い光が溢れ続ける。
「…鑑定…開始…」
リッカがそうつぶやくと同時に、水晶玉から溢れていた光がひとりでに文字を書き始める。
なるほど、これが占いスキルと鑑定術を組み合わせた職業鑑定の方法か。分かりやすいな。
光がどんどん文字の形になっていくが、途中からリッカの表情が変わった。
「…?…!!???」
「どうかしたのか?」
リッカの顔が驚愕の表情に染まった時、水晶の文字が霧のように掻き消え、あんなに眩しい程出ていた光が一瞬にして消えてしまった。
光が消えると同時に、リッカの身体がふらりと横にいたカバルに倒れ掛かってしまう。ひどく疲れているようだ。
「リッカ!?どうしたんだ?」
「…ッ…大丈夫、だよ…ゴメン、お兄ちゃん…」
「いや、俺は大丈夫だが…職業鑑定は成功したのか?」
カバルからの問いかけに、リッカはゆっくりと首を横に振った。
「……分からなかった…」
「分からなかった?お前の鑑定術スキルでか!?」
「…うん…」
…俺の鑑定眼でみたリッカの鑑定術スキルと占いスキルは共にC。この世界では、スキルと呼ばれる特殊能力があり、A~Eのランク分けがしてある。
上からAが最高値でEが最低値というものだ。基本的、一般人が頑張って習得できるスキルの最大値はBが限度で、Aにいくにはそれ相応の修練を積まなければ到達することは出来ない。
例え、50年修練を積んでもAに至れなかった人も多く、努力だけでなく才能も必要になってくるのだ。因みに俺の鑑定眼はB+、大体のステータスくらいは見ることが出来る。
……鑑定術Cは、一般では最大値に近い。その為、ランクCで見抜けない職業の人間は…
「……リーオ、お前、『勇者候補』だったのか?」
「………」
…『勇者候補』と呼ばれているのだ。
次回をお楽しみに




