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【無限の器の冒険譚】  作者: 荒木刑
第三章:無限の器、竜を廻る。
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【テルビューチェ公国の現状。襲撃の夜。】

春も終わって、夏のような暑さが続く日が多いですね。


今回は腐った人間の国をメインに書いていきます。


リィムの町が占拠されていると聞いた俺達は、詳しい情報を集めるために進路を変更し、テルビューチェ公国の中枢『都市ルータム』へ移動した。


他国、さらには他の大陸とも貿易が盛んなテルビューチェ公国、その中枢というだけあって様々な人間たちがごった返していた。


インテグラル王国の王都ユーリアが『白亜の都』と呼ばれているように都市ルータムも『自由の都』と呼ばれているのだ。確かに、種族はさておき様々な人間が行き交う様子は『自由』と読み取れるのかもしれない。...まぁ、俺はそう思えないが。


『種族間の差別』というのはインテグラル王国とてないわけではない。だが、ユーリアではエルフも店を開いていたし、ドワーフだって鍛冶屋を営んでいる所もあった。


この大陸にだってエルフの国『フィスィ連合国』やドワーフの国『シュミート王国』という二つの国がある。インテグラル王国は、その二国とも国交を繋いでいる。だから質の良い武具や農作物、魚類などの品揃えが良い。まぁ、だからと言ってテルビューチェ公国の品の品質が悪いとは言わないが...。


まぁ、この国では他種族の差別が多いということだ。



「...相変わらず、人間が多いな...。」

「......あと空気が悪い...。」

”早く行きましょう。私もここに長居したくないです...。”

「それには賛成だ...それに...。」



リーオが視線を向けた先、大通から少し路地に入ったところに鎖に繋がれた大きな首輪のつけられた小さい少女と、その鎖を引いて歩く中年の男性が歩いていた。


その少女に着けられた首輪には『奴隷化』の呪紋が刻み込まれていた。


それをみたリーオが苦虫を嚙み潰したような顔で、腰に差したヴァールの柄に手を添える。



「......奴隷、か...。」

「...人間は醜いものだね。あんな呪紋まで作って...攫われたエルフの子たちも、あんな風に奴隷として人間に飼われているって噂を聞いたりするし...。」

”......消しましょうか?”

「落ち着け...まぁ、早く行くぞ。ここに居たら何するか分かったもんじゃない...俺がな。」



目の前の光景を掻き消す様な速足で、その場を後にする。本当なら、ここであのオヤジを斬り殺して少女に着けられた呪紋付きの首輪を切ってやりたいところだが、こんなところで人を殺したりすればいくら勇者候補の証を持っていても捕まる可能性がある。


今捕まっては面倒だ。抜け出すのは簡単だが、『奴隷制度』が黙認されている(腐った貴族共の娯楽のせいで)この国であんな光景は日常茶飯事なのだろう。周囲の人間も特に反応を示したりはしていない。


...吐き気がしてきたな、この都市。さっさと情報を集めて出ることにしよう。


しかし、それ以前の問題があることを、今ここで思い出した...いや、思い出してしまった。



「...さてと...何処へ行けばいいんだ...?」

「情報屋とか?場所知ってる?」

「全く。俺もこの国は少し通ったくらいだし、地理も把握していない。」

「ありゃ...じゃあどうしよっか...?」

”...神殿に行きましょう。一応、こんなところでも王国です。私が今からお告げと称してアナタたちのことを神殿へ伝えますので、後は何とかしてください。”

「何!?そんなことが出来るのか?」

”えぇ、私も一応女神なので。少し待っててください。”



...まさか、だな。流石は女神、そんなことできたなんて今初めて知ったぞ。まぁ、そんなことはどうでもいい。丁度、聖水も切れてきたところだ。神殿に行くのは賛成だな。


しかし...。



「...シェランはどうする?エルフだぞ?」

「あ、そうだった...どうしよう?」



ただでさえ他種族を嫌う国だ。特に、ハーモニクス大系の神官は差別的な考えを持つものが多いだろう。そこにエルフの、それも『ハイエルフ』の女性なんて連れてきたら、何されるか分かったもんじゃない。


『ハイエルフ』とは、神秘と自然の女神ティーリアの加護を強く受け、より神々に近い力を手に入れたエルフのことで、普通のエルフ種より魔力量と身体能力が高く、永遠に近い寿命を持っていると言われる。


ハーモニクスとは違う神の力を持つシェランを連れて、神殿に入れるのだろうか?もし入れないならどこか安全なところに待機していてもらわないと。只でさえフードを被っているだけで目立つのだ。何かの拍子にエルフだとバレたら大きな騒動になりかねない。


なんて思考を巡らせる俺に、落ち着いた声のヴァールがこう告げる。



”それは問題ありません。”

「...本当か?」

”はい。私の魔法でシェランさんの容姿を人間に見せることが出来ます。それに、シェランさんを一人にしては、アナタも安心できないでしょう?”

「...流石はヴァールだ。それで行こう。」



ヴァールの言葉を信じて、神殿へと続く道を進んでいく。その間に、ヴァールはシェランに魔法をかけ準備を整える。途中、国の兵士に道を聞くついでにちょっとした魔法を仕掛けておく。


仕掛けた魔法は『隠蔽』と『広聴』だ。これを仕掛けておけば、兵士の話していることをこっちで盗み聞くことが出来る。


そうこうしている間に、都市の中心部に建った白い塔のような建物、神殿に到着できた。入り口には3人の兵士が監視の目を光らせている。やはり、隠密での潜入を選ばなくて良かったな。

無駄な火の粉を浴びずに済んだ。



「...結構デカいな。王都にあった神殿も結構デカかったが、ここはそれ以上だ。」

”えぇ、ここには人間しかいませんから。ユーリアにはティーリア様やドライグ様の神殿もあったでしょう?ここにはこの神殿しかありませんから。”

「...へぇ、不敬極まりないな。」



俺達が神殿の入り口前で話していると、中から白いローブのようなものを着た神官が出てきて、焦った様子で俺達の元へ駆け寄ってきた。


酷く驚いている様子の女性神官は、手に持った紙と俺たちの顔を見比べてこう言った。



「えぇっと...アナタ方が女神ヴァール様の言っていた旅人、ですか?」

「...あぁ?」

「......黒髪で目つきの悪い赤目の少年と、フードを目深に被った長身の女性との二人組...合ってますか?」


...おい、これはなんだヴァール?

”私に続いて言ってください。”


”合ってます”

「...あぁ、合ってる。」

「そうですか!良かった...では、こちらにどうぞ。要件は中でお伺いしますから。」

「...分かった。」



妙にテンションの高い女性神官に連れられるまま神殿の中へ入っていく。中はとても広く、見上げると天井に神々の戦争時代の壁画がはめ込んである。


荘厳な雰囲気の中、前を歩く神官が質問してきた。



「...アナタ方の旅の目的は何ですか?女神、それも契約と制約の女神ヴァールがお告げでアナタ方のことを言っていたと聞いています。そんな方があなた方のことを言うなんて、女神と何か契約でも?」

「...旅の目的は話せないが、女神と契約したってのは、まぁ、真実だな。」

「まさかっ!?一介の人間がそんなこと...。」



...此奴、失礼だな。一介の人間か...まるで自分は違うみたいに言ってくれるじゃん。明らかに俺たちを見下してやがるな。こんなのが神官に居るから都市の人間がどんどん腐っていくんだ。嘆かわしい限りだぜ。


神官のいけ好かない態度に多少の憤りを感じながら、前を歩く神官の後を付いて行く。



......そういえば、ヴァールって今剣になってるよな?お告げなんてして不自然に思われないのか?

”今の人間達は私が剣にされてここに居ることも知りませんし、ハーモニクス様がいないことも知らないのですよ。”

......もういない神様を信仰し続けてるってことか...哀れだな。



なんて、ヴァールと心の中で会話していると、神官の前に大きな両開きの扉が見えてくる。その前には俺たちを待っていたらしい壮年の男性が神妙な面持ちで立っていた。


俺達が歩いてくるのを見て、『本当に来た...。』というような表情でこちらを見てくる。


彼の服装を見る限り、彼がここの神官長なのだろう。前を歩くいけ好かない神官の服よりちょっと豪華だ。普通の神官の服は白地に青いラインが入っているだけのものだが、神官長らしき人の服は青いラインに沿うように薄い金色のラインが入っているローブを着ている。


それに神官長の首元には赤い宝石が填まった首飾りが掛けてあり、鑑定眼で見ると『紅星の首飾り』というユニークアイテムらしい。値段にすれば市場価格で50000Gくらいだったと記憶している。


神に仕えるはず神官長が、50000Gもするユニークアイテムを身に着けているなんて、ちょっとおかしいんじゃないか?アイテムの効果も『火属性への耐性上昇(小)』なんて、ここから出もしない、戦うことのない神官が戦闘用のアイテムを身に着けているのがまずありえない。


鑑定眼で見た彼のステータスははっきり言って雑魚、ユーリアの王国騎士見習いのほうが強く見えるほどの貧弱さだ。それがあんなアイテムを身に着けているなんて、ただのオシャレかなんかだろう。


はぁ...神官長が聞いて呆れるな。


その後、やはり神官長だった男性と話をして、今のリィムの町の状況と聖水の支給を約束して神殿を後にした。


神殿を出た俺たちは、進路を戻し、再度リィムの町目指して進み始めた。



「......この国、前に着た時より色々悪化してるな。」

「そうなの?」

「あぁ...前は、あんなに弱い人間ばかりじゃなかった。それに空気も、魔力の流れも歪で、いるだけで気分が悪くなるような、嫌な感じはしなかった...。」



暫く歩き、だいぶ先にリィムの町のシンボル、冒険者の宿『片翼の鳳凰亭』の煙突が見えてきた。そこで俺たちは野営の準備を整え始める。



”そういえばリーオさん、あの時国の兵士に魔法を仕掛けてましたよね?どうでした?何か分かりましたか?”

「......まぁ、端的に言って神官長の話とほぼ同じだな。一つ違う点があるとすれば...。」

「...何かあったの?」

「......この件には、この国に居る勇者候補が関わっているという話くらいだな。」

「.........。」

”......それは本当ですか?”

「あぁ、間違いない。...ったく、勇者候補ってのは何処も腐った奴しかいないのか?虫唾が走るぜ。急ぐぞ、襲撃のタイミングは今夜、俺が中に侵入、シェランが遠方からの支援で頼む。」

「...分かった。任せて。」

”......私も、協力します。シェランさん、一緒に頑張りましょう。”

「...えぇ。」



そんなこんなで段取りも終わり、夜になった。襲撃の準備を整え、黒揚羽の動作確認をする。行く前にこれをしておかないと、大事な時に『拗ねたら』大変だからだ。



「......アゲハ、起きてるか?」



俺が静かに話しかけると、黒揚羽に填められている黒い精霊石が淡い白に輝きだす。すると、その光の中から黒い蝶のような羽を生やした小さな妖精が現れた。


黒く長い髪を白く小さな手で梳きながら、鬼灯のように紅い目でこちらを睨み付ける。



《...何さ、ようやくボクの出番?随分久しぶりだと思うんだけど?》



彼女がこの魔導銃の名前にもなっている『黒揚羽』の妖精こと『アゲハ』だ。彼女の機嫌次第で、弾が出るかジャムるかが決まる。彼女の御機嫌取りは戦闘前において最大の難関となっているのだ。



「...まぁ、そのことは謝る。だから俺に力を貸してくれないか?」

《......なんか、誠意が足りない気がするなぁ...もう一回、精一杯の謝罪の気持ちを込めて、ほら。》

「ッ......」



このぉ...いや、背に腹は代えられない。精一杯の謝罪の気持ちを込めて...!



「......本当にすまなかった。後で何でもする。だから俺に力を貸してくれ。」

《......まぁ、いいか。じゃあ、貸してあげるよ。ボクの力、使って?ご主人。》



満足げなアゲハが精霊石に戻っていく。すると、精霊石に淡い光が宿り目に見えるほどの魔力が溢れ始める。今回は、上手く行ったらしい。機嫌がいいみたいだな。


さて、始めるか。冒険者としての復帰戦だ。派手に行こうじゃないかっ!




次回は5月25までに投稿いたします。


次回もお楽しみに。

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