【真っ白な空間。迫る勇者候補の魔の手】
最近は温かくなって過ごしやすい気候になってきましたね。春の風が吹くようになってきました。
前回、決死の思いで病魔を退けたリーオ君ですが、死病で苦しむ少女シエルをどうやって救うのでしょう?
そして、リーオに残された時間は?
余談ですが、この話の後、二回目の設定の詳細を書いていきたいと思います。
前回の設定集から変わったスキルなどがあるので、その辺も含めて書いていきたいと思います。
_________お___ーお__リーオ、リーオ。
声が聞こえた。澄んだ水のような、透明感のある声。導かれるように目を覚ますと、そこは真っ白で何もない伽藍洞な空間だった。その中心に、眩いほどの光に包まれた誰かがいた。声はそこから聞こえてくるようだ。
______...ぁあ?...えっと...ここは?
__リーオ、大丈夫?
...アンタ、誰...?
__いずれ分かるよ。今は、早く目を覚ましたほうがいいよ。あの子が悲しむからね。
あの子?一体誰の...?
__おっと、そろそろ時間みたいだ。じゃあ、私はこの辺で。
段々意識が浮上していくのを感じる。目覚めかける意識を抑え、光に包まれる人物に問いかける。
ッ...おい!お前は一体!?
俺の問いかけに光に包まれた人物が少し微笑んだように見えた。
__いつか、分かるよ。またね、リーオ。
まっ!___
そこで、意識が浮上した。弾かれたように起き上がり、周りを見るが、そこは先ほどまでいた真っ白な空間でなく、真っ暗な洞窟の中だった。
「ッ!......ここは...?」
”リーオさん!目が覚めたのですか!?良かったぁ...!心配したんですよ!?”
「あ、あぁ...悪い。洞窟の中ってことは、俺、生きてたんだな。」
”本当に...私、もう目が覚めないかもって...うぅ...。”
「悪かったって...一つ聞きたいんだが、今って俺が気を失ってからどんくらい経った?」
”えぇ?...すんっ...二日、くらいですけど...?”
「っ!こうしちゃいられない、早く村に戻るぞ!」
”な、なに言ってるんですか!そんな体で無理したら本当に...!”
ヴァールの忠告を聞かず、ボロボロの身体で立ち上がり洞窟の出口目指して走り出すが...
「あぐぁっ!」
全身に電撃が走ったような激痛で地面に倒れ落ちる。全身をよく見てみると、そこら中に穴や火傷、刺し傷に切り傷など、はたから見ても生きているのが不思議に思えるほどの負傷をしていた。
ヴァールが呆れたような声で、地面に倒れて痛みで転げ回っている俺の姿を見てこう言った。
”だから言ったんですよ。無理だって。”
「ぐぅ...!だからって...!こんなところで休んでる余裕はないんだよっ!」
ボロボロの身体を引きずりながら、必死に出口を目指そうとするが、いい加減に怒った様子のヴァールに怒鳴られる。
”......ッ!いい加減になさい!私はアナタの身体を労わっているんですっ!いくらアナタが強くても、身体が壊れてしまっては元も子もありません!”
「ッ!......分かった...。」
ヴァールの剣幕に押されて、渋々了承する。だが、流石にこのボロボロの姿のまま休むのは少し見苦しいな。空間の中から服を取り出し、着替える。その後、空間から回復ポーションとマナポーションを取り出そうとしたとき、手にこつんと何かが当たる。
「?なんだ?」
それを手に取って取り出す。それは今のこの状況、さらには村にいる少女シエル=ベレッタの命をも救える最善のアイテムだった。
「っ!そうだった!これがあったんだ。」
なら、早くしないと。少しの遅れでも、取り返しの着かない状況に成りかねない。
「行くぞヴァール!こうしちゃいられない!」
”な、なにを言って...ちょっとぉぉぉ!?”
ヴァールが小言を言い始める前に、さっさと行動に移す。
空間から取り出した回復ポーションとマナポーション、スタミナポーションを飲み切り、やっとまともに動けるようになった体で洞窟の外目指して走り出す。
死病のタイムリミットはあと4日、もう時間がない。急がなければ!
その頃、村のほうでは死病の噂を聞きつけた貴族出の勇者候補『ミルシェ=ラグエンサ』が王国兵を引き連れ、死病の間違った情報に踊らされていた。
村の中心で、勇者候補が村長と村人を集め、何やら演説のようなものをしていた。
「死病は、同じ空間にいるだけで感染するらしく、いくら布などで口を塞いでも菌はどこからでも入ってくるらしい。」
声高らかに思いっきり間違ったことをのたまっているのは、死病の噂を聞きつけた貴族出の勇者候補『ミルシェ=ラグエンサ』、最近判明した勇者候補だ。
実際、今の時代死病かかる人間はほぼ存在していない。そのため、間違った情報が研究家、専門家の中での通説になっている。本当は、死病は空気感染、飛沫感染、接触感染などは一切しない。しかし、かかった人間が『病』で死ぬと病原菌が体内から抜け出で、ほかの人間に感染してしまう。
それゆえ、死病はそう簡単に撲滅できる病ではないのだ。
「そ、そんな...では我々はどうすればいいのですか?」
と、狼狽えた声を出す初老の男性はこの村の村長だ。やはり、死病という今では名前を聞くことすらなくなった病の説明を、それも間違ったほうが伝われば、それは狼狽えるのも仕方ないだろう。
「...死病にかかった本人を殺せば、死病も消えるらしい。王国にいる研究家に聞いたことだ。間違いない。」
「ま、まだ子供なのですよ!?」
「自分の命と他人の子供の命、どちらが大事なんだ?」
「......。」
...此奴等最低だな。幼い少女の命と自分の命を比べるなんて...同じ人間として恥ずかしくなってくる...さっさと処理してぇ...。
村長が悩んでいる間に、勇者候補は兵をその場に残し、死病にかかった少女シエルが寝ている家、ベレッタの家に向かっていた。家の前には娘を守るようにマークスが立ち塞がっていた。それを見た勇者候補は、呆れたようにこう言う。
「......落ちたものだな...『剛腕』のマークスがこんな田舎で燻っていたとは...呆れてものも言えん。」
「...立ち去れミルシェ、お前を殺す気はない。」
鎧を着こみ、大きな剣を携えたマークスが、ゆっくりと剣を抜き、勇者候補に矛先を向ける。
それを見てもなお、勇者候補は余裕の姿勢を崩さない。
「娘を守ろうと必死だなぁ...もうすぐ死ぬっていうのに、早く楽にしてやったほうがいいんじゃないか?」
「......黙れ...!」
いい加減、勇者候補の発言に我慢できなくなったのか、マークスの目に闘志と殺気が宿り始める。燃えるような威圧感が放たれるマークスを見て、勇者候補が腰の剣に手を掛ける。
「...ハ、本当に、お前はつまらない男になったなぁ...マークスッ!」
「ッ!!」
勇者候補が剣を抜き放ち、飛び上がるようにしてマークスに攻撃する。マークスも、攻撃に気づき、何とか初撃を受け止める。金属同士がぶつかり合う甲高い音が周囲に響き渡る。
力量からして二人はほぼ同等、いや、まったく同じといってもいい。剣筋、技量、経験値の全てに至るまで、全く同一なのだ。
「...お前が貴族の娘と結婚して田舎に引き籠ったあの時から、俺はお前が憎くて憎くてしょうがなかった!それから俺は、訓練に訓練を積んで、勇者候補にまでなった...今の俺の気持ちが分かるか!?お前などに!!」
「ッ!...そんなこと、知ったこと、かッ!」
マークスが勇者候補の剣を押し返し、距離を取ろうと後ろへ下がるが、追いかけるように前へ踏み出した勇者候補が追い打ちのように攻撃を繰り返す。
「...しつこいなお前は!」
「お前が邪魔をするからだ!」
「娘を守るのは父親の使命だろうが!」
「その為に村の人間を危険に晒すのか!」
二人の剣がぶつかり合う。その度散った火花が薄暗くなった二人の顔を照らす。技量の同じ者同士の戦いは、終わることはない。血と汗が二人の周りを染めていく。
「ハァ、ハァ、いい加減にっ、諦めろよ!お前の一人娘の為に村人、さらには王国まで危険に晒すわけにはいかないんだよッ!」
「...ハァ!ハァ!ハァ...そんなこと、俺には関係ない!今の俺のすべきことは、自分が愛するものを守る!それだけだッ!」
再び両者の剣がぶつかる。しかし、散った火花が照らしたマークスの顔は既に疲れ切っていた。修練を積み続けた勇者候補と、田舎で斧を振るだけだったマークスではスタミナの限界が違いすぎたのだ。もう剣を振るのがやっとなマークスが、ここまで戦い続けられたのは、彼の心の強さだった。愛する娘を守る。そんな彼の、たった一つの願いが彼の身体をここまで支え続けてきたのだろう。しかし、それも限界だった。
「......もう、終わりにしよう!」
「ガハッ!」
今まで拮抗していた両者の剣は、マークスの方へ大きく傾き、一気に力を込めた勇者候補によって弾き飛ばされてしまう。まともな受け身も取れず、地面に倒れこんだマークスに勇者候補がとどめを刺そうと剣を大きく振り上げる。
「...これで、終わりだッ!」
「......クッ!」
もうだめだ。そう悟ったマークスは静かに目を閉じ、受け入れようとしていた。しかし、
「____諦めないんだろ?」
とどめの一撃は、何とか間に合った俺によって止められた。そのまま刃を逸らし、まるで剣を『受け流す』ように勇者候補の剣を逸らす。
いきなり現れた俺に、勇者候補が声を荒げて叫ぶ。
「き、貴様何者だ!」
「...ただの旅人だよ。そこのマークスさんに一晩泊めてもらってね。そのお礼みたいなもんさ。」
ボロボロになったマークスさんが俺を見上げて、か細い声で名前を呼ぶ。
「リ、リーオ君...。」
「マークスさんは少し離れててくれ。此奴の相手は俺がする。」
「...すまない。」
マークスさんが後ろへ下がったのを見届け、ゆっくりとヴァールを鞘に納める。
「......貴様、自分のしたことがどういう意味を持つか分かっているのか?」
「知らねぇよ。俺は自分のすべきことをするだけだ。」
それに、勇者候補の蛮行は俺が止めなければならない。それが、俺の使命だからだ。その為にこの数年間、旅をしながらずっと修行してきた。
剣に魔法、戦うための術は全て。生き残るための術も磨いてきた。
全ては、『誰かを護る』、その時の為に。
「さぁ、戦いを始めるとしようか...!」
次回は3月25日までに投稿したいと思います。
次回もお楽しみに




