【日常が壊れる。何かが俺の壊れた旅の始まり】
新作です。
前作は、様々な要因が重なり続行不可となってしまいました。
その代わりと言っては何ですが、異世界物を書いてみようと思ったので、あげてみます。
「____あさよーっ、早く起きなさーい!」
……澄み切った朝、一階から響く母さんの元気のいい声で目が覚める。
むくっとベッドから起き上がり、カーテンを開く。
朝のスッキリした光がまだ眠たかった身体を目覚めさせていく。
階段を下りて、キッチンへ向かうとテキパキと朝食を準備する母さんと
珈琲を飲みながら朝刊をボーっと眺める父さんの姿が目に入る。
その後、空腹を誘う朝食のいい香りが鼻孔を刺激する。
「ほら、ちゃっちゃと食べちゃってリーオ。ほら、アナタも。」
「…おう。」
「…はーい。」
急かされるまま椅子へ座り、準備された朝食を食べ始める。
父さんも朝刊から目を離し、準備されていた朝食へ手をつける。
当たり前の風景、当たり前の日常。これがずっと続くと、その時の俺
『リーオ=クシィ』は、そう、思っていた。
いつものように俺は学校へ、父さんは役場へ仕事に行く。それを母さんが見送る。
学校では友人である『カバル=ミュオト』と他愛のない会話をして、
授業中に眠って先生から教科書の角で頭を叩かれたりと、そんないつもの日常だった。
それが一変したのは、忘れもしない11月30日の15時。
学校が終わり、カバルと一緒に帰っていた時のことだった。
木の棒を振り回していたカバルが、意気揚々と俺に話しかけてきた。
「なぁ、リーオ。今日も剣の練習しようぜ!」
「別にいいよ。ま、カバルが俺に勝てるわけないけど。」
「なんだとぉ?やるかこいつ!」
「ふっ、かかってきなよ!」
剣の練習と言っても、そこらへんで拾った木の棒を打ち合っているだけ。
型も何もあったもんじゃない、ただの子供のお遊びだ。
そういうものだと、この頃は思っていた。林の中に少し開けた丘の様な場所があり、
そこが俺とカバルの遊び場兼秘密基地みたいな場所だった。
そこに放課後毎日通っては、木の棒を打ち合わせていた。
「明日は職業鑑定の日だからな。今日こそお前に勝って、気持ちよく明日を迎えてやるぜ!」
「意気込んでるとこ悪いけど、50勝目は俺が貰うよ。」
戦績は、俺が49戦全勝。カバルもいい線までは行くが、そこから先に行けず、負け続けている。
今日は、記念すべき50戦目。カバルも今日こそは勝つと意気込んでいた。
明日は村の決め事で、10歳を迎えた子供たちの職業、即ち持っている才能を鑑定する日なのだ。
今日の学校では、その話題で持ちきりだった。
気持ちを改めた二人、いつも使っている木の枝を削って作った手作りの粗い木刀もどきを構え、
いざ勝負と、足を踏みだした時だった。
ドガーーーーーンッ!!!
ズガガガガガッ!!
空気を裂くような巨大な爆発音と、立っていられないほどの大きな地響き。
いきなりのことで、二人共木刀を支えに立っているのがやっとだった。
「な、何だよこれっ!?」
「爆発!?村の方からだ!」
爆発音が聞こえてきた方へ視線を向けると、林の中にある丘からも見えるほど、大きな黒煙が村の方から
上がっていた。
「……なんだよこれ…村が…なんだよこれぇッ!?」
「…取り敢えず、帰ろう。母さんたちが心配だ!」
「っ!お、おう!」
未だ混乱していたカバルの肩を叩き、村へ走る。丘を駆けおり、何度か転びかけるが止まらないように
走り続ける。この時、内心俺もすごく混乱していた。
だが、ここで俺も混乱していたらダメだ。そう思い、きわめて冷静に振る舞った。
とにかく今は村で何が起きているかが知りたかった。爆発の原因、村で一体何があったのか。
考えるだけで頭が思考不能になりそうで、必死にこらえていた。
村に着くと、そこには爆発によって崩壊しかけた村の姿が広がっていた。
血と煙の臭い。見回すだけで赤い血が見えて、吐きそうになる。
でも、吐いていられる状況ではない。一刻も早く家族の無事が知りたい。頭の中にはただそれだけしか
なかった。村の惨状を見て放心しているカバルを叩き起こし、家へ向かうように言って、
自分も家への道を駆け抜ける。走る中で見た光景は、『世界の終わり』だった。
いつも挨拶していた村の人々の無残な死体。真っ赤な血と、絡みつくような臭いに酷く気分が悪くなる。
止まりかける足に力を入れなおし、家への道を走り続ける。
俺の家は、村の中心部から離れているから爆発の被害はそこまで受けていなかったが酷い状態だった。
ボロボロになった家の扉を蹴破り、中へ入る。
「ハァッ、ハァッ、母さんッ!母さんッ!!」
静まり返った家の中で俺の叫ぶ声だけが反響する。家の中を駆け巡り、片っ端から部屋を開けていく。
そして、両親の部屋を開けた時、『それ』はいた。
明らかに人間ではない漆黒の肌、大きな体に額から生える禍々しい角。
学校の図書室で読んだある図鑑に、載っていた『魔族』の姿とあまりにも酷似していた。
その化物の手には母さんの頭がぶら下がっていた。見るも無残な、頭だけの母さんが俺の方を向いていた。そんな目を疑うような光景を目にした瞬間、俺の中で何かが壊れる音が聞こえた。
気づいたのは、真っ二つに折れ先っぽだけが無くなった木刀と、頭がない母さんの死体が転がった
朱い夕陽が照らすボロボロの部屋の中だった。
そこに魔族の姿はなく、何もない虚ろな静けさだけが残っていた。
「………」
この時ほど自分が怖いと感じたことは無い。大切な家族の死体が目の前に転がっているというのに、
何も感じることが出来ない。涙すら、悲しみの欠片すら感じない自分のことが。
母さんを殺したあの魔族なんかよりずっと恐ろしかった。
ボロボロになった家から出て、村の方へ歩く。父さんのことが気になったからだ。
あの爆発に巻き込まれていたら、まず生きてはいない。あの爆発は、村の中心、
即ち村役場の付近で起こっていた。村役場の職員だった父さんは、恐らく死んでいるだろう。
だが、ただ取り敢えず安否を確認したかったのだ。
瓦礫の山となった村役場の前に、傷だらけになった村民が集まっていた。
その中心には、あの時の魔族の死骸と、その前で何やら大声で叫んでいる鎧を着た男がいた。
魔族の死骸には、俺が使っていた木刀の先っぽが突き刺さっており、あの時に自分がしたらしい行為が
何となく理解できた。
男の周りには傷だらけになった王国の兵士たちが座り込んでおり、魔族と実際に戦ったのはピカピカの鎧で何やら叫んでいる男ではなく、ボロボロになった兵士たちだとなんとなく分かった。
まぁ、そんなことはどうでもいい。取り敢えず、父さんの安否だけが気になっていた。
群がる村民を押しのけ、うるさい男の前を横切り、形すら残っていない町役場の瓦礫を掘り起こす。
何やら、うるさい男が俺に何かを言い始めたみたいだが、無視して瓦礫を退かし続ける。
その内、男の声がこちらへ近づいてくる。だが、興味がない。今は父さんの安否の確認が最優先だ。
気にせず、瓦礫に手を伸ばした時、いきなり胸倉をつかまれた。
そして、うるさい男が、さらに五月蠅い声で俺を怒鳴りつけてきた。
「おいお前っ!『勇者候補』である俺の前を許可もなく横切るだけではなく、
俺の有難い話を無視するとは何様のつもりだっ!」
「……。」
「…っ黙ってないで何か言ったらどうだ!あぁっ!?」
「……そこ、邪魔。」
「………なんだと?」
「そこ、邪魔。どいて。」
男の手を払いのけ、再び瓦礫を掘り起こす作業に戻る。
何やら怒っている男は、腰に差していた剣を抜き、俺の首元に突きつけてきた。
「……勇者候補である俺の言葉を無視し、さらにはその薄汚い手で俺の手を払いのけるなど…
万死に値する愚行だッ!!」
そのまま剣を振りかぶり、俺の首を刎ねようとする…が、それは兵士の槍に阻まれ、勇者候補と名乗る男は兵士たちに羽交い絞めにされていた。周りにいた村民も、ざわざわとし出した。
というか、村の子供が殺されかけたのに誰も止めに入らないなんて、なんて人間共だよ。
「き!貴様らぁっ!何をしているか分かっているのか!?俺は勇者候補だぞ!?」
「落ち着いてください!この少年は、この村の生き残りですよ!?
何をしているか分かっていないのは貴方様の方ですッ!!」
「何だと貴様ァッ!!俺に口答えするんじゃねぇッ!!」
「……五月蠅いなぁ、作業に集中できないだろ?黙ってろよ三下。」
自然と、そんな言葉が口から漏れた。俺の意志で言ったわけではない。ただ、自然と。
目を見開いている勇者候補と、唖然としている兵士たち、言葉を失う村人共。
その時退かした瓦礫の下に、今朝父さんが着ていた血の付いたシャツの切れ端が出てきた。
これでやっと、父さんの生死を確認できた。やっぱり、死んでいたか。
目的を終え、未だに唖然としている勇者候補と、兵士、野次馬に、こう問いかける。
「取り敢えず、この状況を理解できる人間はいるか?」
問いへの答えは無言。だが、数人の兵士と勇者候補が、顔を少し下に向けた。
「そこの兵士と勇者候補さん、何か知ってるの?君たちだけ反応が違うみたいだけど?」
始めは無言だった一人の兵士が、口を開いた。内容は、なんとなく気づいていたことだった。
「……昨日のことだ。私達王国兵士は、勇者候補であるこちらの『マティス=グラニア』様と共に
この村の近辺に出没したというそこの魔族の討伐任務に就いていた。」
「…で?」
「……昨日の夜、魔族を発見した我々は、魔族の討伐に入った。だが…」
「…何となく分かるよ。そこの勇者候補さんが出しゃばって魔族を取り逃がしたんでしょ?」
「な!何を言ってっ!」
「反応で分かったよ。勇者候補さんのせいで、この村が崩壊した。それで俺の両親が死んだ。
だからアンタ達の到着が異様に早かったんでしょ?それに勇者候補さんは戦わず、
兵士さんが倒したんだよね?そこに転がってる魔族は。」
「まさか嘘でしょ?あいつのせいでこの村が?」「ありえない!ふざけないで!」
「それに、あんな簡単に子供に刃物を向けるなんて信じられない!」
「何が勇者候補だ!威張り散らしやがって!」「私の夫を返してっ!」
おうおう、野次馬共が燃え上がってきたな。勇者候補大炎上、自業自得だがな。
だが、勇者候補ってのはこういうのしかいないのか?だったらふざけ過ぎだ。
国の、世界の命運をかける勇者、その候補様がこんなんじゃ、生きていくことに絶望しそうだ。
あぁ、ホント、馬鹿げてるよ、こんな世界。
その後、勇者候補と兵士たちは、野次馬共に石を投げられながら王都へ帰っていった。
村の方は、取り敢えず生き残っている村人を集めて残っていたテントに寝泊まりするらしい。
俺はというと、村から出る準備をしていた。家に帰り、取り敢えずあるだけの路銀とランタン、
日持ちしそうな食料、寝泊まりするための寝袋、後は丈夫そうな衣類を革製のリュックに詰めて、
林の中の開けた丘に向かう。
秘密基地となっていた小さな小屋の中にある地図と、あの爆発で逃げていなかったことに驚いた小屋で
飼っているワシに餌を与え、最後のお別れをして、小屋から出ようとしたとき、
聞きなれた声に呼び止められた。
「……そんなに荷物まとめてどこ行くつもりだよ?」
そこにいたのは、傷だらけになって体育座りで座り込んでいたカバルだった。
「…カバルか。そっちはどうだ?家族は生きていたか?」
「……あぁ、御蔭さまで、ピンピンしてたよ。……叔父さんと叔母さんのことは、残念だったな。」
「いや、良いんだ。…怖いだろ、俺。親が死んでるって言うのにさ、悲しくもないし、
涙も零れやしないんだぜ?笑えるだろ?」
「………。」
「…だからさ、いや、だからとか関係ないんだけど、村から出ようと思うんだ。」
「…何で?」
「此処は、父さんと母さんとの思い出がありすぎる。辛いんだよ、なんとなく。
……それにさ…。」
「……それに、何だよ…。」
「…こんな馬鹿げた世界を見てきたいんだよ。此処みたいに、他の権力だけ持ってる人間に滅ぼされてる
世界を、救いたいんだ。」
「……リーオ。」
「それに、俺みたいな子供を増やすのは、可哀想だろ?まだまだ前途ある少年少女を守るためにも、
もう何もない俺には、それくらいしかできないしな。」
「……だったら俺だって!」
「お前には、色々あるだろ?お前まで、失くすことないんだ。妹だってまだまだ小さいんだ。
お前が守ってやらずに誰が守ってやれんだよ。」
「…..分かった。だったら、一つ約束してくれ。」
「なんだ?」
「…手紙だ。毎年、一つは手紙を寄越せ。手紙はこのタカに持って行ってもらえ。」
そう言われ、待っていましたと言わんばかりにタカが俺の肩に飛び乗ってきた。
丁度、革リュックの背負っている部分にとまってくれたため、痛くない。優しい奴だな...。
「おっと…いいよ、分かった。絶対に手紙を書く。約束だ。」
「よし、約束だ!」
涙をこらえながら手を差し出すカバルの手を握り、しっかりと約束する。
絶対に、死なない。カバルとの約束を胸に、薄暗い森の中をランタンの灯りを頼りに進む。
あの時の勇者候補の憎たらしい顔を思い浮かべ、絶対に俺の様な子供は増やさない。
そう誓いながら、少年は新たなる道を進んでいく。その手に、親友から貰った木刀を携えて。
次回も宜しくお願いします。




