表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕事に戻るため、僕は敵になる  作者: トウモロコシの粒
3/3

#1-2 今日は休みのはずだった

 意識が戻っていくのが分かる。


 ああ、もう少し、あと3分……いや10分寝かしてと考えるだす毎に意識が覚醒し始める。


 もう無理か、ならば起きるしかない。今日は休みで明日も休み。とりあえず借りたままの映画を観て、それから掃除して、久しぶりに麻婆豆腐でも作って食べよう。

 

 よし、目を開けよう。さぁ、楽しい休日の始まり……って痛い。頬が痛い。


 「起きましたか」

 「あ、はい」

 「まだ寝るつもりだったらビンタするところでした」

 「起きました。バッチリ」 


 頬が痛いと思ったら抓られていた。いや、今も抓られている。さらにそこにビンタもきたらとんでもない。先程の一撃を覚えていることもあり、脊髄反射で言葉が出た。女性はベッドに腰掛け、さらに頬を抓りながらまた僕を凝視している。まるで何かを確かめるように。


 しかしこの衣装やメイクはどうなってるんだろう。目はコンタクト、耳は……なんか付けてるのかな? 少し触って確かめてみたいが、そんな行動力も無くただこの確認が終わるのを待つことにした。


 「……出てきた場所はどうあれ、どうやら成功したようですね」

 「さっきのパンチですか? あれが腰の入った拳ってやつですよね?」

 「ここの世界のこと分かりますか?」

 「ここの世界? すいません、台本とか無いとちょっと……あ、できればカット割りの資料でお願いします」

 「ん?」

 「……へ?」


 女性が眉をひそめた。あ、この表情知ってる。コイツ何言ってんだとか理解してないなコイツとかの類だ。しかしそれで何かを理解したのか、女性は部屋に入ってきた時と同じような表情になった。


 「やっぱり中途半端になりましたか……ああぁ! もう!」


 「ちょ!? やめ、やめてやめて下さい!!」


 肩を猛烈な勢いで揺らされ、乗ってもいないのに凄く激しいジェットコースターを体感できた。起きたばかりの体にこれはあまりにも辛いっすよ。その拷問は約1分程続き、危うく虹色のキラキラを吐くところだった。


 お互いが無意味にもベッドの上で息切れしていると、女性がボソッと言った。


 「アーク・ヘル」

 「うっぷ……あ、アスクル?」

 「違います。私の名前です。アーク・ヘルと申します」

 

 アーク・ヘル。この女性はそう名乗った。日本ではまずない名前であり、やはりこれは役名かと疑わずにはいられない。役者は凄い……こんなにも真剣な表情でさらっと役になり切れるのだ。ならば自分も少々の吐き気がある中ではあるが、しっかりと名乗ろう。


 「私の名前は綾辻零で……うぇ、す」

 「アヤツジレイ。その名前、私の魂に刻みました」

 「い、いえ、そこまで大それた名前ではないんですが」

 

 何か凄い大袈裟な表現だ。この作品はそこまでスケールが大きいものだというのだろうか。しかし僕は

特撮作品は体に付けた紐とかを消す作業しかしたことがない。もしかしたらとりあえずどういった作品か

体験させようと先輩方が……いや、面倒を押し付けたのだろうか。


 『おじさん達1日通しの作業辛い』


 こんなことを営業やらスケジュール管理の人に直談判してたからな。まあ今の時代1日通してやる仕事なんて本当に限られてるわけで、労基が来たら断罪される。いや本当にこの業界見直されないだろうか。


 またも思考が愚痴に走ってしまった時、アークさんの手が動いた。


 「そんな訳ありません。あなたは私の『救世主』なのだから」


 言葉と共にガッチリと頭をロックされ、目を強制的に合わせられた。その目は先ほどと変わらず真剣で、そして嘘など言っていないように思えた。


 ハイともおうとも言葉を出せないでいると、アークさんはロックを外し立ち上がった。


 「とりあえず今は現状の把握をしてもらいます。私の失敗ではありますが、知っているのと知らないでは大きな差があります」


 部屋の入口まで行きアークさんは言う。


 「なんせ、命が掛かっているのだから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ