第六章 優しい嘘
智也が言っていた写真の中の彼女は実際に会ってみるとかなり変わっていた。
「智也があんなのが好きなんて世も末かな…」
空を見上げると赤トンボ達が悠々と飛んでいた。
「あれ?あの白いものはなに…?」
赤トンボ達が飛んでいるその少し向こうの方にまるで獣のような生き物が紅に染まった空を飛んでいる。
現世にも変わった生き物がいるものだと思いながら帰路に着いた。
「おいコラ、開店時間ぴったりに入ってくるのいい加減にやめろよ…」
「いいじゃない。別に他のお客さんには迷惑とかかけてないし」
「っ・・・」
フッ…今日の言い争いは私の勝ちね
「じゃあ、お酒お願いしようかな〜」
「あいよ」
智也がジョッキに見慣れたお酒を注いでいく。
今日のお酒は現世のではなく霊界で取れるお酒のようだった少し…かなり残念。
「そのお酒どこで取ってきたの?」
「これはなあの山に住んでる鬼たちから譲ってもらったんだ」
智也が指さす方向を見るとかなり険しいように見える山があった。
「あれを登ったの!?」
「いや、俺の体をもう少しばかり大きくして一気に山上まで飛んだ」
「ああ、そう。って…飛んだ!?」
「ちょうどお前の家からここの酒場までを全力で走ってジャンプしたら山上まで飛んだぞ」
「あんたの身体はどうなってるのか見てみたいわ…」
あまりにも信じられない言葉に嫌味がこぼれた。
でもあんな山まで飛んだって相変わらず大男の妖力って便利だなと思う。
「いや〜あそこの鬼たちめっちゃカッコよかったんだ。俺よりも力があるはずなのに腕相撲でわざと負けてくれたり…至れり尽くせりだった」
「へー、私も今度会ってみようかな〜」
「今度あの山の山上まで連れて行ってやるよ」
「いや自分の足で行くからいい!」
智也に連れてかれたりしたら途中で落ちたりして死ぬかもしれない。
死神だから死ねないけど。
「そうか…歩いて行ったら三日かかるけど」
「予定が空くまでは行けなさそう…」
智也と喋り倒しているうちにどんどんお客さんが増えてきていたり小鬼達がはしゃいだりとすっかり夜の町になってきていた。
「ねえ智也」
「なんだ?」
「私、今日会ってきたよ」
「誰に?」
「写真に映っていた人の子に」
「どうだった」
智也は目を合わせずグラスや皿を拭き取っているせいか顔色が全くうかがえない。
「あの子どこか寂しそうだった…まるでずっとひとりぼっちのような…」
「だからたまに俺が会いに行ってるんだ。でもあの子は毎回会う度に笑ってるんだ」
「笑ってるのはいいことじゃない」
「現世の人たちはころころ表情が変わるんだがあの子だけはずっと笑ってるんだ…」
「ほっとけないから好きなの?」
私は少し意地悪をしてしまった。
智也の本心が聞きたくて・・・
ちゃんと智也の口から聞きたくて・・・
「俺には好きとかは分からないけどあの子は放っておけないんだ」
「なら私が会いに行ってあげるじゃない」
「本当か!?」
「ええ…」
「なら安心だな。お前が居れば寂しさなんてないからな!!」
「それどういう意味?複雑なんですけど〜」
「気にするなよ褒められてると思えばいいだろ」
「褒めてたの!?」
私は勘違いをしていた。
智也は言葉足らずなとこがあるのは知ってたつもりだけどここまで言葉が足らないなんて…
バカにも程がある!
「なんか変に疲れたから私帰る」
「今日は帰りが早くて助かる」
「また明日ね」
「ああ、また明日」
私は自分の家のドアを開けるとそこに見覚えのある姿があった。
「おや、お帰りですか死神様」
「狗神様!?」
何故ホストがここに!?
誰から聞いたんだ!?
私はそんなヘマしてないはず…まさか追跡用の護符かなにかを知らない間に付けられていたり!?
「心の声聞こえてますよ?」
「だって、急に家に来るなんて聞いてない!」
「神はいつだって気まぐれですから」
「うぅ…」
「まあ死神様、とりあえずこのワインでも飲みながら話しませんか」
「ワイン…だと」
「ええ、なかなか会うことができない付喪神様から頂いたのですよ」
「ゆっくりして行ってください」
「ありがとうございます死神様」
私は椅子を引いて狗神様を座らせると奥の部屋からワイングラスを二つ机の上に置いた。
「座らないのですか?」
「ああ、座ります」
自分の家なのにホスト系神様がいるせいか座っていいか分からなかった…
「乾杯ィ!」
「かーんぱーい!!」
狗神様もお酒飲むと性格変わるんだな…これが現世でいうところのギャップ萌え?とかいうものなのかな
「死神様…私あるものを探しておりまして」
「あるもの?」
「はい、幻獣です」
「幻獣ってあの現世にいるとか言われている伝説上の生き物の?」
「その通りです賢いですね死神様は…」
距離が近い!距離が近すぎる!
なんでそんなに迫ってくるの!?
「あなたが気に入っているからですよ死神様」
「心の声聞かないでくーだーさーい!」
「あなたの心の声はとても正直なので聞いてると楽しいのですよ」
「何が正直よーー!!」
「ふふ、怒った顔も可愛いですね」
もうヤダこの狗神…
「ではさっきの話に戻りますね」
「幻獣がなんたら〜って話?」
「そうです。どうやらその幻獣と呼ばれる生き物は元はここに住んでいた大妖なのですよ」
「大妖って智也とか私みたいな?」
「その通りです。幻獣は現世に住み着いた」
「それなら別に放っておいても・・・」
「それだけなら良かったのですが…」
「何かあったんですか?」
狗神様の優しいホスト顔が一瞬とても悔しそうな顔になった。
「幻獣は現世で暴ばれているのです」
「え…」
「現世で大妖が暴れるということは現世に何かしらの異変が起きているはずなのです」
「異変って…そんなの起きたら現世に住んでいる人の子達はどうなるんですか?」
「間違いなく全員悪霊になるでしょう」
「そんな…」
頭によぎったのは夏のできごと
そして、まだ名前も聞いてない変わった人の子のこと。
「ですから幻獣を見つけ次第、祓うか彼の怒りを消さなくてはなりません」
「それを私にお願いするためにここに?」
「それと死神様の顔を見にあわよくば家の中に入ろうかと」
「入ってますよね!?」
「ええ、今日話せる口実ができてとても良かったです幻獣殿にはお礼をせねばなりませんね」
「それ神様が言っていいんですかね…」
「いいんですよ。幻獣殿は元々神様ですから」
え…神様が現世に降ってさらに暴れてるって現世かなりピンチじゃない?
神様クラスが暴れたら天変地異とか石でつまづいただけで起きちゃうんじゃ…
「その心配はないので大丈夫ですよ」
「はぁ〜良かった。って心読まないでくださいよ!!」
「ではそろそろお暇させていただきますね」
狗神様は去り際に幻獣が現れると思われるポイントが記された地図を私に渡して帰っていった。
元々帰ってきたら直ぐに寝る予定だったのでとても睡魔が強い。
「おやすみなさい…」
私は朝が上るのを見て、支度を済ませ地図に記された場所へと行ったがそこに居たのは幻獣ではなく写真に映っていた人の子だった。
「あら、約束守ってくれたのね」
「早起きなんだね」
「ええ、早朝だと街の中って意外と人が少ないのよ」
「へー、早朝でも人の子達が夜の時みたいに賑わってるのかと思ってた」
「人は妖たちよりも体力がないから眠らないとダメなの」
「人って不便ね…」
「ええ…本当にね」
そこで話が詰まってしまった。
彼女はここから見える湖を指さして
「あそこにねとてもお節介な妖がいるの」
「お節介な妖?」
「とてもうるさく注意してくるのよ。ここには入っちゃダメとかこんな時間まで何してるのとか」
「いい妖ね」
「でも最近その妖の姿が見えないの」
「それは心配ね」
湖のお節介な妖…私は智也を重ねてしまっていた
とてもしつこくて優しくて言い争いをすることもあるけどなくてはならない存在…
彼女にもあったんだね。
「アタシねもう少しでこの街から引っ越すの」
「遠いの?」
「とても遠いらしいわ…」
「いつ引っ越すの?」
「今日」
「今日か〜…え…今日なの!?」
「だから別れの挨拶をしに来たんだけど留守みたいで」
「昨日のまたあしたってそういうことだったんだね」
「でも、彼がいないならここにいる意味もない」
「どうするの?」
「私と死神さんがあった場所に行きましょ」
私は彼女が言う通りに昨日会ったあの場所へと
二人並んで歩いた。
少し雲の隙間からこちらを覗くような太陽の光に照らされて私達はたどり着いた。
「ねえ、ここってこんなに木があった?」
「ええ、死神さん元々この場所はこういう場所」
確かに私が昨日登っていた大きな木もあるし…
でも確かにどこかおかしかった。
まるでこの場所だけ時間が早まったような…
言葉にしにくいその場所の変化に彼女は気づいてなかった。
「ねえ、死神さん私の話していい?」
「ええ」
「私ね小さい頃から妖や霊や悪霊が視えてたの。その事を親や学校の先生に言っても誰も信じてくれなくて妖には命を狙われたりしたり」
「辛かったわね」
「ええ。本当に辛かった。誰も手を差し伸べてくれなかった。だって他の人には視えないんだもの」
「・・・・」
「それでもね私は生きようとしたの。頑張って人間関係とか築いてみたり妖達とも親しい仲になったり…それでも私を見る目は変わらなかった」
彼女はもしかして…既にいない。
彼女の足が少しずつ薄く…
「でもね私最期にお節介な妖に救われたの『どうしてそんな浮かない顔してるの?』ってまるで死神様みたいに私をちゃんと見てくれたの」
「…」
「私、とても嬉しかった。それだけで救われた気がしたの。でも少し遅かった私は既にここにはいなくてここに…今あるのは悲しみしか知らなかったはずの私。でも私は救われてしまったせっかく第二の人生を貰ったのに…」
「ねえ…私が死神と知った時に笑ったのはもしかして…」
「あなたが思ってる通りよ。ついにこの悪夢から覚めれるんだって思った。でも今になって色々思い出したのお節介な妖のことや仲の良かった友達に私に優しかったお母さんとお父さん…」
私は彼女の手を握りしめた。
理由は自分でも分からない。
私はただ、あなたを…救いたい。
「お節介な妖ってどんな妖か分かる?」
「ええ、だってお節介な妖はあなただもの」
「え…でも私はあなたと昨日あったばかりで…」
「違う。私があなたと会ったのは私が生きてた頃よ死神さん」
『ハアハア…どうして私ばかりがあんなのに追いかけられなきゃ行けないのかしら…』
『ねえあなた人の子?』
『そうだけどあなたも私を食べる気なの?』
『私?私はね人が好きだからそんな事しない。でも悪い妖や悪霊には容赦しないけどね』
『そうなの…アナタ名前は?』
『私の名前はね死神よ。名前が無いから死神にしてるの考えてもきっと忘れちゃうから』
『じゃあ死神さんね。死神さんもし私が悪霊になった時どうする?』
『そうね…きっと────』
「きっと・・・『私はあなたを助ける』って言ったくせに…」
なんで忘れてたんだろう。
人の子との出会ってしまったら私は必ず相手は…それなのにまた出会ってしまうなんて…
「でも私あなたに会えて後悔しなかった。あなたにあえて私はラッキーだった。だって辛い現実から少しでも抜け出せたのだから…」
雲が晴れていく…
だけど、私の周りだけには雨が降った。
悲しみの雨がいつまでも降り止まない…
「さあ、死神さん遊びましょ」
「うん…」
「何して遊ぼうか…あ、そうだ!かくれんぼしましょ」
「うん…」
「じゃあ私が隠れるから十秒数えたら見つけてね」
「うん…」
彼女は楽しそうに走っていく…
私はどうすればいいのだろう…
悔やんでも悔やんでもどうすることもできない自分の妖力。
私は黙って数を数える。
「もういいかーい」
『「もういいよー」』
そういえば会った時も・・・
『ねえ、かくれんぼしましょ』
『いいけどなんでかくれんぼ?』
『私一回もやったことないからやってみたくて』
『分かった。じゃあどっちが鬼をする?』
『じゃあ死神さんが先に鬼をやって』
『いいの〜?私めっちゃ上手いよ〜』
『いいのよ、どうせ一回きりなんだから…』
『何か言った?』
『いいえ、じゃあ始めましょうか』
確かあの時は彼女を狙ってた妖が…
私は走り出した今度こそ彼女を助けるために。
昔の自分に言ってやりたい。
絶対に目をはなしちゃダメだって、絶対に助けなきゃダメだって!!
「グオオオオオ!!」
「また…なのね…」
聞き覚えのある怒号が私の耳に通る。
前にも聞いた覚えのある怒りの咆哮。
今度こそ間に合わせる…私が助けれなかった彼女を今度こそ…
「人間がこんな所で何をしておるのだここは我の根城…勝手に入ることは許さぬ」
「食べたいなら食べればいいアタシには死神さんが付いてるんだから」
「ならば死神に見つかる前に貴様を喰ってしまえばよいではないか!!」
「こっちに走って!!」
「分かった!!」
獣の妖は彼女を追って物凄い速さで彼女を追いかける。
あともう少し早く!!
「もっと早く!!」
「人間ごときが我から逃れれると思うなよ!!」
獣の妖が大きな口を開く。
それは以前にも見たことがある光景…
私が忘れてしまっていた嫌な記憶。
それでもあともう少しで彼女を助け────
「そんな…」
「死神様少し離れていてください」
「でも…」
「この狗神に土地神達よ力を貸し与えたまえ」
狗神様が土の祈りを唱えると獣の妖はどこかからか生えてきた大木に体を掴まれていた。
「さあ今のうちに彼女を!」
「はい!!」
彼女は木にもたれて倒れていた。
「聞こえる!?」
「死神さん…私ねもう実は───」
「分かってるよ…あなたはあの時はまだ生きていた」
『死神さん!!』
『この獣の妖は私が祓うからあなたは逃げて!』
「でもアナタ一人じゃ…」
『私は死神よ!そんな簡単に死なないわ!!』
「あの時死神さんは私を守ってくれたよね…
でもアタシは引越しがあってアナタにお礼を言えなかった…でもアタシは死神さんにお礼を言いたくて現世に来たの…」
「じゃああなたは寿命を真っ当できたの?」
「もちろん。最期まで妖がアタシを見に来てた…お節介よね妖って…」
「皆が皆そうじゃない。あなたがきっと優しい妖を引き寄せてるのよ」
「そっか。アタシが呼んでたのか…アタシね死神さんに会えた時本当に嬉しかった。死神さんはアタシのことを覚えてなかったけど」
「・・・・」
「そんな顔させるつもりはなかったの。ただあなたにありがとうを伝えたくてそれだけが思い残してて…だからアタシは霊になった。大男の妖にも手伝ってもらってね」
智也のやつ…なんで言わないのよ…
言ってたら彼女が苦しまずに済んだのに…
私がもう少しはやく思い出せてたのに…
「帰ってもあの大男の妖さんを責めないであげてね。アタシが無理を言ってお願いしたから…」
「・・・・・」
「ありがとう…死神さん。喋り方を変えて分かりづらくしたり変な嘘ついたりしてゴメンね…でもアナタのおかげでアタシはおばあちゃんになれたよ…本当にありがと────」
彼女は消えていった。
成仏をしたのだろう。
私はもうあなたのことを忘れない。
私よりも強くて可愛い人の子の事を。
「彼女は逝ってしまわれたのですね」
「ええ…そういえば幻獣の話は本当なんですか?」
「幻獣はいますが現世で暴れてるというのは嘘ですよ」
「じゃああの口実って…」
「はい、彼女に協力しました」
「もしかして知らなかったの私だけ?」
「そうですね〜」
「そんなーー!!」
「では私は失礼しますまた会いにきますよ死神様それまでお元気で」
狗神様は髪の毛を整えながら帰っていった。
本当にホストにしか見えないその行動は私にさらに嫌な印象を強く残していった。
「たーだいまー!!」
「おかえり」
「ねえ、智也も協力してたの?」
「ああ、現世のお酒をタダ同然の値段で売ってくれるって言うからな」
「そっか〜」
「そうそう、これ彼女から」
智也が渡してきたのは少し小さな小包だった。
開けてみると中には綺麗な石が入っていた。
「何この綺麗な石は…」
「俺は石には詳しくないが確かその名前は…ダイオプサイト」
今回は長めにしてみました。
今回の話は短めにするとストーリーを忘れてしまいそうだったので少し長くなってますごめんなさい。更新が遅れたのも長めにするか短くして何話も続けるかで悩んでました。
話は変わりますが最近私のストーリーを読んでくれる人がかなり増えました!!ありがとうございます!!
話変わりますが!!と!では全然違いますので感情を込めながら読んでみてくださいね(なんで後書きで言うんだよ)
ではまた次回の話でお会いしましょう。