第二章 腹が立つ悪霊
「巫女さん、安心して、私が貴方の大切な人を探してくるから絶対に・・・」
私の声が届いたのか彼女の体は発光しだし、やがて消えていった。
彼女がいた場所に桜の簪が落ちていた。
その簪を拾う瞬間、彼女の記憶が頭の中に流れ込んできた。
『これ、プレゼント』
『・・・・・・・・・・・何これ…』
『それはな、簪って言ってな頭に付けるんだ』
『そ、そか・・・鼻を掃除するやつかと思った』
『・・・そんなの好きな人には渡さない』
『なにか言った?』
『・・・なにも…言ってない』
『で、でも、嬉しいな』
『・・・・・・何で?』
『〇〇君からのプレゼントって初めてだから…』
『そんなの・・・いくらでも贈ってやる』
とても・・・・・・幸せそう。
私は彼女の記憶をみて、思った。
なぜ彼女が死ななくてはいけないのか・・・・・
綺麗な簪を贈ってくれた“彼”のことを思い出せない彼女が、とても可哀想にみえた。
『今度の土曜にこの辺の神社で祭がやるんだ』
『祭?』
『ああ。一緒に行かないか?』
『いいよ』
『じゃあ、土曜の5時にこの広場で集合な』
『うん、わかった』
結果を知っていることがこんなに残酷なんて・・・
それは、叶わなかった彼女の夢・・・・・・
『遅いな〜』
『悪い、待った?』
『全然待ってないよ』
『そ、その浴衣似合ってる・・・』
『・・ありがとう…』
『じゃあ、行こうぜ』
『うん』
とても・・・・・・
彼女は、楽しそうに笑っている。
・・・・・・これから死ぬなんて…とても、思えない…
※ ※ ※
「・・・ここまでか」
陽はもう落ちきっていた。
月の明かりが神社の境内に差し、虫の鳴き声も聞こえてくる。
「今日のところは帰るか・・・・・」
結局そのまま帰ってきてしまった。
家までの帰り道で出かける時に会った悪霊がたたずんでいた。
「よぉ、ちょっといいか?」
「用件は短くね、私、今めっちゃ疲れてるから…」
一刻も早く、暖かい布団に体を委ねたかったのに・・・
「今日、ずっとここで考え事をしてたんだ」
「どんな?」
「なんかこう・・・・・・忘れていたはずの記憶が蘇ったっていうか、思い出したというか」
その一言に睡魔と疲れが消えた。
本来、悪霊は霊が現世にとどまることによって現世の負の感情などを吸収して悪霊になる。
悪霊になると生きていた時の記憶を“全て失う”
そして、記憶を思い出すことは・・・不可能。
しかし、この悪霊は思い出したのだ・・・記憶を。
「詳しく聞こうじゃない」
「なんか変なんだよ、知らない神社で知らない女が倒れてんだよ・・・・・・」
「それって・・・狛犬像の前で?」
「いや、あれは確か・・・・・・石段だ」
もしかしたら、と思った私を殴ってやりたい・・・
「そう、他に思い出したらまた言って」
「話は終わってねえぞ!!」
「えーまだ続くの?」
「でもよ、倒れててた女が花の簪を付けててよ、それがどうしても引っかかるんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「だから───」
この悪霊は私をからかっているのだろうか。
今回の巫女さんと話がほとんど一致している。
でも、食い違う点が幾つか・・・・・・
「悪霊さん、私の鎌に触れてみない?」
「なんでだよ!!」
「まあまあ、騙されたと思って・・・・・・ね?」
「・・・・・・『ね?』じゃねえんだよ!!」
「うるさ──い!!」
私は無理やり悪霊に鎌を触らせた。
すると…悪霊が“発光”しだした。
「な、なんだよコレ!!」
悪霊はそう言い残すと消えていった。
『あー…なんか変なものばっか見るな』
『ぅぅ・・・・・・』
『お前、なんで石段で寝てんだ?』
『ぅぅ・・・・・・』
『熱中症にでもなったか、血が出てるぞ』
『か・・・・ん』
『かん?』
『ざ・・・・・・し』
『ざし?なんだそれなぞなぞか?』
『ぅ・・・・』
『何が言いたいんだよお前───』
き、消えた。
石段で倒れていたのは・・・・・・巫女さん…
私はこの二人がなんならかの関係にあるのは間違いない。
しかし、悪霊を鎌に触れさせたので悪霊は霊に戻った。
生きていた時の記憶は多分あるが私との記憶はおそらくない・・・・
だから当然、『あなた、誰?』という会話が確定した。
「おい、死神俺に何をしやが・・・・・」
この悪霊、私の知っている悪霊の行動何もしないんですけどぉぉぉぉぉ!!
「悪霊、生きていた時の記憶あるの?」
「ああ。ある多分この記憶だろうな」
「言われてもこっちには伝わらん!」
「あ、確かに・・・・・」
まあ、いっか。
こんなイレギュラーな悪霊が居ても・・・・・
「悪霊は死ぬ前どこで何をしてたの?」
「教えてもいいけどさ・・・悪霊って呼び方やめてくれない?」
「じゃあ、元悪霊で」
「考える気ゼロかよ・・・・・・」
「ほら、早く教えなさいよ。時間ないんだから」
「?ああ。わかったよ」
・・・・・・・
「ってちょっと待ってえええええええええ〜〜!?」
「ん? なに?」
・・・・・・巫女さんとなにかしら繋がればいいな〜って思ってたらお前が簪渡した本人かよ…
「とりあえず明日来てもらうから」
「どこにだよ?」
「あなたを待ち続ける一途な女の子の所へよ」
「女の子?」
「ほら、桜の簪を渡した!」
「あ、あ〜・・・・・・・誰だっけ?」
「だっ・・・・・け?」
「俺まだ記憶が断片的にしか戻ってきてなくてよ・・・・・・忘れてるかも知れねえ」
めっちゃコイツ殴りたい。
私がヘトヘトになってまで彼女の悲しい記憶を見たというのに…コイツは今の今までここで悪霊になってたし、霊に戻ったと思ったら記憶が完全じゃない?もう殴ってもいいよね。
「とりあえずお前、明日ここに来い」
「お、おう」
「絶対だぞ。逃げたりしたらお前を現世に連れて行って悪霊にしてやるからな覚えとけよ」
「死神がそんなことしていいのかよ!!」
「私がルールだ、異論は認めん」
巫女さん、なんとか願い一つ目叶えれそうだよ。