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続・第十一章 緑に輝くダイオプサイト・癒②

会話を続けていると日がすっかり沈みきっていたけれど私は酒場から出る気は一切なかった

少しでも長く話していたかったから

「ねえ…智也ちなり最近いいことあった?」

「んー…最近は何もなかったな…でも最近はお前が泣いたりしてないからいいのか?」

「そこだけ聞いてると私が泣き虫みたいじゃない!?」

智也は少しニヤケながらジョッキを洗っていく

私はそれを手伝うわけでもなく智也に話しかけるわけでもなくただ洗っているところを眺めてるだけだった

「どうしたんだよそんなに俺が洗ってるところ見てて楽しいか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…なんか見てると落ち着くんだよね…」

「へー…俺も今度どっかの酒場で洗ってるところを見てみようかな…」

そうじゃないんだけどな…

でも、自分でもどうして見てたのかわからないけど理由を探すのは何か違う気がして話題を変えるために話を探した

「明日、現世に行くんだがお前は来るか?」

「現世…ねぇ」

「やっぱまだ無理か?」

きっと智也が思ってるのはこの前の女の子のこと

でも、私は…あれ以来…現世に降りるのが怖くなってしまっていた

それは、一番自分がわかっていた

気づかない方がきっとよかった…

でも自分のことは自分が一番わかるからいくら隠してもいくら嘘を自分につき続けても騙せない

「智也は…私が現世に行けると思う?」

「俺がついてるからな何かあったとしても絶対連れ帰るし、お前が辛そうな時は肩も貸すそれが昔から俺の役目だしな」

そんなことを平気で言うから…

だから…私はきっと…

「じゃあ、お願い…」

「おう、任せとけ」



現世はちょうど日が昇り始めた頃二人の妖が現世へと降りたっていた

私は智也の背中に乗って色んな酒場やさかずきを売ったりしている店をまわったりして少しずつ現世にまた慣れていった

「この盃でお酒を飲んだら美味しそうじゃない?」

「お前は何で飲んでも変わらないだろ…」

智也は呆れながら言葉を呟いた

でもその言葉に私は少なからず優しさを感じてそれがもっと欲しくて私はちょっといじわるをしてしまう

「ねえねえじゃあこれは?」

「んーそれを買うとちょっと予算オーバーだな」

「そっかあ…」

でも、そんなの気づかれたくない…

気づかれたらきっとこんな関係が終わってしまうとどこかで思っているから

だからこの気持ちは隠し通す…なんとしても

「そろそろ帰るか?」

「あそこにある木に今誰かいなかった?」

「どこの木だ?」

「だからそこの木に…」

「木なんてないぞ?」

その言葉を聞いた瞬間、私は自分が置かれている状況に気がついた

これはいつもの『アレ《仕事》』だと

「私ちょっと用ができちゃったから先帰ってて」

「おい、どこに行くんだよ!」

智也の呼び止めも聞かないことにして走っていく

それに近づいていくとそれはどんどん遠くへと消えていく

「ねえ、待って!」

それはまるで影みたいなものが集まったように黒くて恐怖そのもののような…



私は気がつくと崖から一歩飛び出していた

崖の先に小さな人の子が笑っている

『お姉ちゃんもこっちにおいでよ楽しいよ』

「…」

『私たちのお姉ちゃんになってよ』

「ひとりじゃないの?」

『私タチは独りダよ?』

もしかしてこの子は悪霊!?

でも、様子がおかしい…

ひとりしか私には見えないのにこの子は『私たち』と自分のことを呼んだ

これはきっと裏に何かある

「ねえ、もしかして他に誰かいるの?」

『いるよ…ワタシたちは独りでヒトリ…あなたも寂しいんでしょ?ワタシたちと一緒にイコ?』

ああ…この子の体を媒体として色んな感情や浮遊霊たちが全部合わさって悪霊に…

でも、私は絶対この子を助けたい…だから…

「あなたも寂しいの?」

『サミシクないよ?だって…みんなココにいるから…』

「おいで…あなたの寂しさを…うんうん…あなた達の寂しさを半分にしてあげる」

『お姉ちゃん…ワタシ…ワタシ…うわぁぁぁ』

「泣いていいんだよ…もう君たちは…独りじゃ…ないよ…」

この子達の悪の波に当てたられたのか私は崖の上での浮遊力を失ってしまった

死神といえど現世に行くために体を受肉してしまっているので死ぬ痛みは感じる…終わらない痛みが…

「死神ぃぃぃぃ!!」

崖上から聞き覚えのある優しい声が…私を心配する声が聞こえ…




「死神…」

誰かが私を呼ぶ声が聞こえる…もしかしたら幻聴かもしれない

でもその声はとても近いとこから聞こえてくる

「死神…目を覚ませよ…」

「ち……なり……?」

「気がついたか!?」

目を開けると瞼を腫らすまで泣いた智也の顔がそこにはあった

「あれ…私…確か…助けようとして…」

「……」

「ねえ、智也…あの子どこ?」

「……」

その顔は見たこともないような顔だった

絶望してるような寂しさに負けそうな…

私は視線を智也から少し逸らすと…

「なんで…」

その子はいた…いたけど…遅かった…

彼女の体は既に死んでいた…

「なんで…私を助けたの…私死神なのよ?死なないのよ…なんで…」

「お前…現世じゃ人よりも少し生きれるぐらいだろ…特に死に関しては…」

「だからこの子よりも私を優先したって言いたいの!?」

智也は掌を強く握り何かを決意したかように大きく息を吸い込んだ

「そうだ!俺はお前を優先した!!俺だって…」

「俺だって何よ…」

「俺だってな!助けようとしたんだよ…でもなその子が…『私よりもお姉ちゃんを助けてあげて…』って…」

「嘘!そんなの嘘!だってさっき会ったばっかなのよ!?自分よりも私を優先するなんて…」

私はその子の顔を見てしまった…

とても幸せそうで…とても嬉しそうで…とても楽しそうに…眠っていた

「どうして私なんかのために…」

「その子は俺が家族のもとに連れていくからお前は帰れ」

「いや…私はこの子を蘇らせるわ…」

「何を言って…」

「私は死神なのよ…人の子なら代償は私の血だけで済むわ」

「……」

私は木の枝で陣を書いていく

そして真ん中に『黄泉がえりの壺』を置きその中に自分の血が溢れるまで入れていく

「おい、それ以上は…」

「いいのよ…私の……血だけで…済むなら…」

智也の心配を今だけ…今だけは無視していく

「蘇れ…蘇れ…」

「……」

私はその壺の中に黄泉がえりの秘薬を混ぜる

すると壷の中身は液体からハートの形に固まっていく

「ハアハア…」

「おいあとは俺が…」

「ダメよ…これは私の代償なんだから支払わないと…」

「……」

壺の中のハートを取り出すとその子の胸に押し込む

「お願い…どうかこの子の命を……戻し…たま…」

「死神!」

「大丈夫…あとはこの子を家族のもとに連れていって見守るだけよ…」

「ああ…そうだな」

智也にこの子を背負ってもらい私は智也にもたれながらも自分の足で歩いていく

腕から血の雫が落ちていく…

「お前も乗るか?」

「いや…大丈夫…よ」

「そうか」



それからかわす会話もなく歩いていると家が見えてきた

「じゃあこの子を家の前に寝かせてくるから…」

「お前は休んでろ俺が寝かせてくる」

「最後まで私がやらないと」

「ひとりで溜め込むな…俺にもお前の重りを持たせてくれ一人よりも二人の方が多く持てるだろ?」

「セリフがクサイ…」

「るっせえ、、」

照れながら智也は私の代わりにドアの前へと連れていってくれた

「あれでよかったか?」

「うん、バッチリ…あとはあの子が目を覚ますまで見守るだけね」

「起きるまでの時間お前も寝てろ」

「どうして?」

「お前は現世によく行くくせにこっち側のルールを知らなさすぎないか」

「ルール…?」

「いくら妖でもな俺らは現世に来ちまうと人と同じような体になっちまうんだ」

「知らなかった…」

呆れてるように見えるけど…やっぱりどこか優しさを感じる…

智也はホントいい“人”だな…

「お、そろそろあの子が目を覚ますぞ」

「本当だ」

『あれ?どうしてここに…あ、お母さん!』

『どこに行ってたの!!心配したのよ…』

『ごめんなさいお母さん!!』

「よかったな…」

「うん…」

その子は泣いていたけれど表情はとても嬉しそうだった

「帰るぞ」

「あはは…血を使いすぎたからかわからないけど立てなくなっちゃった…」

「乗れよ…あっちに戻るまでおぶってやるよ」

「ありがとう智也」

今は…このままの関係が一番いいな

だっていつだって智也に甘えられるし優しくしてくれるし…

だからこの気持ちに私はふたをすることにしよう

それからまた明日から霊たちの世話をしていこう…

“死に向き合っていこう”そう決めた


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