第十一章 緑に輝くダイオプサイト・癒①
酒場の奥にある冷蔵庫へとケーキが入った箱をゆっくりと戻す…
「あともう少し…」
ケーキの入った箱の角を親指で音を立てないよう気をつけながら入れる
「早くはいれー…早くはいれー…」
ケーキの入った箱が急にピクリとも動かなくなった
「あれ?まだ全然入ってないのに…どうして?」
無理やり押し込んでいくと逆にケーキの入った箱は押し返され私の手元へと帰ってきていた
「え…?」
目の前に起こっていることが理解できずにいる私がふとケーキの入った箱を押した逆方向の先端を見てみると小さいサイズになった智也が怖い顔をしながらケーキの箱を支えていた
「…えええ!?」
「お前…また勝手に持っていっただろ…」
元のサイズに戻った智也は私の頭を大きな手で握りしめる
「痛い痛い…いくら私が死なないからってそこまで強くされると…」
「なんか言ったか…?」
「い、いえ…何も言っておりません…」
「よろしい、では外に出てもらおうか」
「もちろんです…」
私は握りしめられたままドアへと歩き出す
「ふふ…」
「何…笑ってんだ?」
「いや、昔にもこんなことがあったな〜って」
「どんな時だった?」
「私と智也が小さい時かな…だいたい二百年前ぐらい…かな」
「俺は…覚えてないな…」
智也は頭を掻きむしりながら二百年前のできごとを思い出そうとしてるのだろう…がこの二百年前というのは逃げ出すための口実であって本当にあったかどうかは曖昧なところ
「わからん…何も思い出せない…二百年前…二百年前…」
「覚えてないなら…いいよ」
「そうか…なんか悪いな」
智也は申し訳なさそうにするがそれよりも私はこの頭を潰そうとしている手を解いて欲しい…
「まあ、俺が覚えてないってことは…どうしようもなく退屈だったてことだろうな」
「はぁ…何も無いところ見てニヤけるのやめなさい…見てて正直引く…」
「誰がニヤけてるって?」
「ごめんなひゃい…ゆるひて…くだひゃ…い」
「よろしい」
絶対…いつか後悔させてやる吠えづらを拝んでやるからな…覚えとけよーー!?
「いま…何を考えてたか正直に言えばこの手を離してやるぞ」
「…」
「どうした?適当に…あのお花キレイだな〜とかでもいいんだぞ?」
「…」
智也は何かを察したのかそれとも気まぐれかは分からないがすっーと大きな手を私の頭から遠ざけていく
「どうして?なんで?訳分からん」
「最後の言葉はこっちのセリフな」
呆れた顔をした智也は久しぶりに見たかもしれない
その久しぶりに見た顔に胸が少しキュッとなった気がしたけどきっと…気のせいだ
「智也は優しいなぁ〜きっと優しいから私におつまみとお酒をくれるんだろうなぁ〜」
「さっき怒ってた相手に頼むってお前相当…もういいや相手するのが疲れる…」
「なにそれー!!私めんどくさくないよ普通だよ!」
「なんの話をしてんだコイツ…さっき頭を握った時の変な感触…もしかしてあのときに頭がもっと悪く…」
「なってないから!!」
「チッ…」
舌打ちされたのをあえて聞かないことにした
それについて口論すると不利な気が仕方がないと悟ってしまったから…
「で、二百年前にもあんなのがあったって言ってたがいつのことか思い出したか?」
「へ?」
もしかして本気で思い出そうとしてる!?
バカなのか…真面目なのか…分からなくなってしまうときがあるのはこういうどうでもいい事を…本気で思い出そうとする時が多いからって自分で気づいて欲しい
「あ〜、あのことなら全然思い出せないな…さっきまで覚えてたんだけど…頭を握られすぎて…」
「よしじゃあもう一度握れば思い出したり──」
「しーなーいー!!」
「そ、そうか…」
智也は考え方がバカなのか!?
そんなことをしたら本当に頭が平和な世界に旅立ってしまう