第九章 緑に輝くダイオプサイト・知
────目の前に現れたのはとても大きな鳥の妖だった。
その姿は何かの本で見た鳳凰という伝説上の生き物と瓜二つ…
「高いところから見下ろしてしまい申し訳ないが私には人のサイズに戻るほどの妖力は残念ながら持ち合わせていないためこのまま話させてもらうのをまず謝りたい」
「いえいえお気になさらず…」
その大きな姿からは想像もできないような包まれるような優しいオーラに私は思わず敬語になってしまった。
「えっと…大鳥様で間違いないですよね?」
「もちろん。私が幻獣の大鳥でございます死神殿」
「げ、幻獣!?」
幻獣という言葉には聞き覚えがあった。
犬神様が確か言っていた気が…しなくもない。
というより、記憶力が悪い私が覚えているということは何か印象に残ることがあった気がするけど全く思い出せない…
「ところで死神殿。その持っている石はダイオプサイトで間違いないですね?」
「ええ。そのダイオプなんちゃらで間違いないらしいけど私はよく分かってないのこの石を欲しがる妖がいる理由とか────」
「何を仰る!!その石は我ら幻獣に選ばれた人の子しか手に入らない代物。死神殿に石を渡した人の子は本当に死神殿が気に入っていたのでしょうな…」
「出会ってすぐに別れが来たかと思うと、生前に出会っていた”あの子“のことを忘れていた私のことを気に入っていたなんて簡単には思えない!!」
むしろ、恨まれても仕方がないと思っていたのに…私は…あの子に何ををしてあげたんだろう…
それすら私は思い出せないのに…
「あの〜大鳥様。分身様はどこに?」
急に大鳥様に話しかけたのは近くにいたタヌちゃんだった。
少し雰囲気が変わった気がするけど疲れているんだろうそんな風にタヌちゃんが見えるなんて…
「おお、タヌもおったか。私の分身なら先程ここに帰ってきたがすぐに出て行ったよ」
「そうですか…」
「私の分身がそんなに心配か?」
「心配ですよ…だってほとんど妖力がない妖が分身を出すと…その…」
「分かっておる。そのために死神殿をお呼びしたのだよ」
「あのー…お取り込み中悪いんですけど…さっきから頭が痛くて…一度帰っても?」
「おお、それは申し訳ない。きっと私の妖力のせいだろう…」
何を言ったのか私には聞こえなかった。
ただ口が動いているから何か私に言っているのがかろうじて分かる。
でも、何を言っているのかやはり…わからない。
───気づくと私は自分の家のベッドに寝転がっていた。
「さっきまでは確か大鳥様のところにタヌちゃんと一緒に行って…それから…」
まるで頭にモヤがかかったように思い出せない。
無理やり思い出そうとするとモヤが強くなった気が…する。
「大丈夫ですか?」
「あなたは…誰?」
目の前にたっていたのはタヌキの耳をした女の子だった。
とてもその姿は可愛らしく守ってあげたくなるような雰囲気がある不思議な娘だった。
「私のことを覚えていませんか?」
「ごめんなさい、思い出せない…」
「そうですか…ではこれだけ渡しておきまね」
渡されたのは1枚の羽だった。
その羽はとても白く、少し温かい気持ちになれる不思議な羽だった。
「不思議…初めて会ったはずなのにあなたと楽しく話した気がするの」
「それはきっと夢ですよ死神様。私はタヌという依り代を通してあなたと話しているのですから」
「タ…ヌ…?」
その名前に頭の中のモヤが少しずつ晴れていく。
そのモヤの先に優しいタヌキの妖の姿があった。
とても笑顔が眩しくて優しそうな妖…
「私は大鳥という妖の分身に近いものです。私がいるせいで大鳥は余分に妖気を使ってしまっているのです…そこであなたに私という存在の最期をお願いしたいのです」
「それは私に…死神に依頼を指定と受け取っていいの?」
「構いません。むしろそのつもりでここまであなたを連れてきましたから」
「タヌさん…あなたが分身様だったのね…」
「大鳥様には妖力を使って気づかれないようにしましたから死神様も私の事気づいてないと思ってのにな…」
「じゃあ、始めるよ…タヌさん…」
「お願いします」
タヌちゃんは胸に手を当てて空を見上げると透明な大きい鳥がタヌさんの体から出てきていた。
これが大鳥様の分身…
大鳥様の分身なだけあってとても大きい…
「死神様…この依り代はあなたのことを覚えてはいないでしょう。しかし、その緑に輝く石は大鳥様の妖力も入っています。忘れたい時はそのダイオプサイトを強く握りしめると“嫌な記憶が消える”それが大鳥様の妖力です」
「私は覚えておこうと思う…タヌちゃんのことも大鳥様のことも」
「もし私が消えても大鳥様の妖力が戻らなかった時は大鳥様の最期…見てあげてくださいね」
「うん…もちろん」
タヌさんはそう言い残すと羽を大きく広げ空へと飛び立ち…消えた…
消えた…消えてしまった…
仲良くなれたのに…もっと仲良くしたいと思ったのに…でも私は死神だから出会ったものに終わりと不幸を与えてしまう。
私は一体なんのために現世にまで行って人や妖の最期を見届けているのだろう…
「死神様!!私はあなたと出会えて本当に良かったです。私は分身でしたがあなたと出会って話したこと…絶対忘れません…私はあなたとの時間を忘れな────」
「タヌ…さん…私だって…私だって絶対に忘れないから!!」
その声はきっと届かなくても、その声にもう意味がなくても私はそのあとも一人で叫び続けた。
私が、また新しい一歩を踏み出すために。
タヌさんのような、妖たちにまた出会えるように