3.繋ぎ目
なんだろう、音楽?
近くで聞こえるその音は、少しだけ眩しい光と共に聞こえてきた。
「んーっ…うるさいなあ…」
私は音が聞こえてくる方に手を伸ばし、それを掴んだ。少しだけ目を開けて見てみると携帯を握っていた。そこには朝7時を示す画面とアラームの音を切るボタンが表示されていた。
「もう朝なんだ…眠い〜…」
私はいつも寝起きが悪いらしい。お母さんがいつも7時半になると部屋に入ってきて、アラームよりも数倍騒がしい朝が始まる。
急いで顔を洗い、朝ご飯は食べずに歯を磨いて制服に着替える。最後に髪の毛を結んでカバンを持てば支度は終わり。これが毎日くる慌ただしい朝の習慣だった。
今日は4月9日の月曜日。高校3年生になって初めての授業がある日だ。
クラスに入ると私の名前を呼ぶ子がいた。
「佳奈〜!お願い!1限の英語さ、まだ春休みの課題終わってないから提出出来なそうなんだよ〜!…見せてっ!」
この子は私の中学からの友達、立花瞳。ショートカットで小学生からやってるバレーのおかげで174cmも身長があるけど、見た目とは逆に私に頼ってきてばかりの可愛い子。
「大丈夫?見せてあげるけど、間に合う?」
「大丈夫大丈夫!写す速さは光より速い自信あるよ〜!」
元気なその姿を見ていると、私まで元気になってくるようなとても明るい瞳ちゃんは、そう言って私の英語の課題を持って、急いで自分の席に座って写し始めていた。
ーーー
「あ〜!英語も生物も古典も助かったよ〜佳奈〜!お礼に瞳様特製の卵焼きをあげようじゃないか!」
「ふふふっ、ありがとう。」
昼休みになると、クラスは朝の緊迫とした空気も和らいで沢山のお話が飛び交う、お弁当の時間になっていた。
「そういえば佳奈さ、大学とかもう考えてる?」
その質問に対して、私は口をもぐもぐとさせながら少し考えていた。
考えてみると理系には進んできたものの、特にやりたい事もなく成績だけ見て理系に進んでいたので大学なんてなおさら考えてもいなかった。
「うーん…進学はするつもりだけど、大学は決めてないな〜。でもね、お母さんに言われて駅前のあの進学塾に通い始めたよ。」
「ええ!?佳奈頭いいんだし塾なんていらないでしょー!塾よりも居眠り病治す方が肝心だよ!!」
「そんな事ないよ、体験授業全然ついていけなかったし。それより居眠り病ってひどいな〜。病気にしないでよ〜。」
私はいつも、知らぬ間に寝ている癖がある。いつも先生に注意されて寝ていたんだって気付く。
いつも特に眠たいわけでもなく、知らぬ間に寝ている感覚だった。
私はそれよりも、何もした覚えがないまま時間が経ってる方が気になっていた。きっと私はボケーッとすることが多いから、ボーッと時間が過ぎてしまっているのだと思うとそっちを治したい気持ちの方が強かった。
「だって毎回授業寝るし、たまにこうやって話してるのに寝る時あるじゃん、病気だよ!よくそんなんで成績上位者になれるよね〜。いいなー、私も睡眠学習できれば身長も頭脳も伸びて一石二鳥なのに。」
そう言われて私は、佐藤君と話しながら寝てしまったことを思い出していた。
初めて話した時、なんで私が席に座るなりこっちを見てきたのかさっぱりわからなかった。
正直男子と話す機会がとても少ないから、自分から聞くのをすごく躊躇ったけど、横目で見たときにボーッとしていたのを見てつい聞いてしまった。
私がボーッとしている時も、こんな感じなのかなって思ったからだ。
話してみるとすごく気さくで、瞳ちゃんにはない話しやすさを感じた。目をキョロキョロさせながら話す姿は、見てるとなんだかおかしくて面白いなって思った。
友達になれるといいなって思って塾に通う事を決めた。でもあの日、話してる途中に寝てしまった時は、ごめんなさいの気持ちとこれから友達になりたいと思ってる人の前でさえ寝ちゃう自分に嫌気がさしてしまった。
佐藤君に合わせる顔がなくて、自習室を使う事を控えるようにした。
開講して2回授業があったけど、同じ教室で受けていたのかは人が多過ぎて確認できなかった。
「あー、美味しかった!やっぱり瞳様特製弁当は美味い!」
「自分で言っちゃうんだね…」
「って事で佳奈、午後の授業も課題提出しなきゃだから!貸して!!」
「はいはい、ちゃんとこれからはやってくるんだよ?」
「ふんっ、私は失敗をバネに成長するのだよ〜、佳奈くん〜」
そう言って瞳ちゃんはそそくさと席に戻っていった。
ボーッと時間を無駄にしちゃう癖、治さなきゃな。