2
※茨の小説「癖のある男」、アマゾンで発売中
音楽で喰って行かんと手から口への生活をしてみたかったものだ。最低限度の生活が保障されてる国だ。飢え死にする事は無い。経済的な不安が無いと、退屈でしょうが無い。
抑々大学とは如何言う所か、漱石の「三四郎」を読めば分かる。勉強が嫌いな奴は、さっさと職に就くがいい。僕が良い例だ。僕は音楽をする時間が欲しかったのであり、僕みたいな夢見る輩は世の中の冷たい風に曝されるべきだったのだ。大学の無償化など途んでもない。何でバイトばかりして遊び腐ってる奴らに税金をやらなあかんのや?
その点晴れなる大学の奨学生に選ばれしK君の息子は金が掛からん孝行もんだ。彼の選んだ大学の名を恥じてはいけない。親父に似て真面目な奴だ。問題無い。
それは一瞬だった。家の下で爆弾が爆発したと思った。書棚のガラス戸が割れて散乱し、デスクトップのコンピューターがでんぐり返って床に落ちた。急いで下に降りると母親が腰を抜かして息を切らしていた。阪神淡路大震災以来の衝撃だ。震源は大阪でもウチのある地域だ。成る程年寄りはいつ迄もぐじぐじと戦争の悲惨さを話す訳だ。あんな爆弾が頻りと降って来たら堪らない。
K君は今の自分に満足しているか?コンピューターが好きでその道を真っ直ぐ進んで独立した。大企業に入るよか、自分で会社を始めるなんて、自分の足で地面を踏んで歩いて生きている様で愉快じゃないか。僕は将来の不安に負けて安定に流れ不本意な人生をだらだらと過ごして来て仕舞った。
楠木正成君―色白で整った顔立ちでヤンキーだが人の好い。大山などと高校なのに時化た修学旅行で、彼とK君と僕とで缶ビールを飲んだの覚えてるぞ。
いいじゃないか、お天道様の下での体仕事も。仕事の後の、一時実に心地を良くさせるビールのために、その日を働き、飲んだら疲れて寝る。妙に頭を使わずシンプルな生き方で良い。K君の長男の人生だ。そう言えば昔貰ったK君の年賀状の写真の子供の彼は、そういう系の面構えをしとったな。
しかし御丁寧な同棲だな。彼女の親に挨拶に行くなんて。ほんなら自分の親にも彼女を紹介せななあ。僕の母親は僕に言った。「いつ家に女の人を紹介に連れて来るかと待って居たのに」胸が痛い。
でも下手に子供を作ったらあかんぞ。近頃の奴らはすぐ離婚しよるが、それは子供にとって教育的に至極良くない。子供を産んだら子供が成人する迄は、絶対離婚してはいかん。亦馬鹿な世はシングルマザーなぞと、それが流行りの様に言って敬するが、途んでもない。子供の教育には所詮それは片端だ。子にはちゃんと父親と母親がいないかん。世の中母子家庭だらけで、貧困者に援助を援助をと人の税金を注ぎ込むが、なんで母子家庭だらけになるのかその本を糺さなあかんだろう。
ま、真面目なK君の長男や、大丈夫やな。
なぜ今又大阪に万博なのか?沢山の税金を招致に使うて落ちたらどないすんねん。まあ落ちるんが大阪に似合うてるがね。東京オリンピックも然り、なぜ今又なのか釈然とせん。敗戦から立ち直り、高度経済成長の中1970年に開かれた大阪万博は、64年の東京オリンピックと共に、開かれる意味があった。
僕は、父さんがくれた万博のガイド本の各々の国の説明が載った各ページに、固有のスタンプを押す事だけが目的だった。長い列に並んで待たなければならない人気のパビリオンは避けられ、ちっぽけな国の展示品が並んでいるだけの、がらがらの所ばかり回った。丸い5つの建物が桜の花を模して建った日本館は行った。只閉館間際で、誰もいない館内を小走りで通り抜けただけだった。―でも家族一緒なら幸せなのである。
或る日突然真っ赤な彼岸花が咲いていた。次の日は別の所にも、その次の日は又別の所にも、その群れが現れる。その内そこかしこは真っ赤な花だらけになるだろう。しかしそれはすぐ無くなってしまう。
(続く)
※茨の小説「癖のある男」、アマゾンで発売中




