一話 いつの間にか祝福されてます
ガタンッ ゴトンッ
ガタンッ ゴトンッ
つい先日まで僕の人生は平凡だったはずだ。レールの上をわずかでもズレないよう歩くはずだったんだ。
四六時中仕事のことばっか考えて、上司に怒鳴られないよう上手く回る日常が僕――冬空陸には待っているものだと思っていた。
でも、今の僕は平凡とはほど遠い。てか、離れすぎている。
昔のヴェルサイユ宮殿にいる貴族様しか着ない大層な服を身につけ、内装のいたるところまで豪華な馬車に乗って王国を歩き回っている。
まるで海外ドラマの中に入っているようだった。
『うおおおぉぉぉぉぉ!!!』
僕が現れると民衆は割れんばかりの歓声で出迎えてくれる。
「新たな英雄の誕生だあぁぁ!!」
「よくやった! よくやったぞ勇者!」
打ち合わせ通り高々と腕を掲げ、「恐怖の象徴、魔王は勇者、リク=フユゾラが討伐した!!」 と、大声でみんなに伝えた。
『リク!』『リク!』『リク!』
リクコールが始まった。
あ~~あ、もう知らぬ間に魔王が倒れていましたなんて言えない雰囲気だ。
神様、仏様。誰ですか? 僕をこんな状況にしたヤツ。早く出てこいよ! 説明なしで異世界なんて鬼畜かよ!!
ガタンッ ゴトンッ
ガタンッ ゴトンッ
民衆の歓声は鳴り止まない。耳が潰されそうだ。馬車に腰をおろし、王族とみられるお二人と対談する。二人とも美形だ。
「リク様のお言葉に民衆が湧いております。今回の魔王討伐、ご苦労様です」
「いえいえ、このような身の余る歓迎をしていただき恐縮です。自分がしたことなど大したことではありません。王国の支援があってのこと」
場の雰囲気に合わせた返事をする。ひいていれば嫌われることはないはずだ。
「ガハハハハハ、そんな改まらんでええ。大層なことを成し遂げたんじゃ。誇ってええんやぞ」
「お褒めいただきありがとうございます。しかし、僕が魔王を討伐できたのは少しばかり運が運が良かっただけのこと。誇れるようなものではありません」
「そうか、そうか。ガハハハハハ」
はぁ~~、苦しい。老後は田舎で暮らそうかと思っていたのに、このままだと貴族の窮屈な人生を過ごしそうだ。
ほんと、どうしてこうなったんだ?
――事態はリクの疑問から、約三日ほど前にさかのぼる。